ドライバー,物流業界,ビジネスモデル
(画像=PIXTA)

今、物流市場に注目が集まっている。ネット通販の普及によるBtoC市場の拡大に加え、ハード面からの物流の変化と異業種サービスを交えたCASE(Connected、Autonomous、Shared & Services、Electric)の発展、ドローンの試験飛行等、今後、日本および世界の物流システムが大きく変わっていくことは間違いない。一方で、いま現在、物流業界でもっとも大きな課題がドライバー不足と物流費の問題である。

2014年4月の消費税増税に伴う駆け込み需要の発生が、短期的な貨物量の急増を引き起こしたことで、物流業界のドライバー不足問題が社会問題として表面化した。その後も、通販市場が活況となる中で、宅配便の荷物量の拡大によって、更に問題が深刻化している。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、様々な物資の供給量が大会期間中に集中・急増することで、都心部の道路混雑も予想されているなか、ドライバー不足を背景として、緊急便輸送などの対応ができないため、小売、外食チェーン等に供給される商品流通網が滞ることが懸念されている。

ドライバー不足への対応を目的のひとつとして、2017年3月から「准中型免許制度」が導入され、宅配便や小売店などで多く使用されている中型車の免許を普通車両の運転歴がない人間でも免許取得ができるようになった。この免許制度がどれだけドライバー不足解消に効果をもたらすのかはまだわからない。「そもそも18歳以上で運転免許が早くとりたくて仕方がないという人が減ったので、あまり期待はできない」とみる物流事業者もいる。

また、商品の荷捌きをする倉庫荷役でも同様に人材不足となっているが、マテハン(自動ピッキング装置、ソーター)や、一部では自動倉庫やロボットの投入が進むなど、昨今めざましい進歩がある。それでも繁忙期となると人手不足といった状況に陥るため、IoT・AI・ビッグデータなどの活用が迫られている。倉庫業務において、完全無人化といった施設が登場するのも、そう遠くはないかもしれない。

今後も市場の拡大が予想される低温物流分野では、車載コンテナに冷凍機を装着してコンテナ内を冷却して配送していたものが、保冷ボックス等のレベルが向上したため、常温車に保冷コンテナを直接載せて運ぶことでも温度管理ができるレベルになっている。宅配便のクール便や生協のパルシステムなどの低温輸送はこの仕組みを導入している。したがって、専門的な技術やノウハウが必要ではあるが、低温物流は従来のコールドチェーンの枠をはみ出し、新たなフェーズに入ってきたということができる。

今後懸念されているのは、働き方改革による影響である。2019年4月から労働基準法が改正され、年720時間を上限とした時間外労働の規制がスタートした。ドライバーに対する上限規制は5年間の猶予が与えられ、2024年4月から年960時間を上限とした規制が始まる。つまり、月々の残業は60時間までという規制がかかる。現在、中小の物流事業者は120時間まで残業が可能であり、今回の規制でその時間が半分に減れば、ドライバーが残業代として支給されている金額が半分に減ることになる。おおよそ一人当たり6万円前後は手取りで減る計算になるのではないかと言われている。ただし、ドライバーの収入のために原資を確保したくとも、一人当たり6万円前後となると、自社努力だけでは到底不可能である。このことから、ドライバーの人件費の更なる高騰が考えられ、2024年までに物流費が上がってくることは間違いないだろう。置き配やシェアリングエコノミーの活用等を含め、物流費についての考え方を、社会全体で見直す時期にきている。

2020年1月
理事研究員 上野 雅史