買収
(画像=pasuwan/Shutterstock.com)
岸田康雄
岸田 康雄(きしだ・やすお)
国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定アナリスト)、一級ファイナンシャル・プランニング技能士、公認会計士、税理士、中小企業診断士。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、金融機関に在籍し、中小企業オーナーの相続対策から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継と財産承継の実務に従事した。平成29年経済産業省中小企業庁「事業承継ガイドライン改訂小委員会」委員、日本公認会計士協会中小企業施策調査会「事業承継専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。

目次

  1. 敵対的買収とは?
  2. 防衛策を必要になるほどの敵対的買収の実態は?
  3. 敵対的買収に対して防衛策は本当に必要なのか
  4. 経営者は勝手に買収防衛策を講じてもいいのか
  5. 買収防衛策の導入に関する指針
    1. 【原則1】企業価値・株主共同の利益の確保向上の原則
    2. 【原則2】事前開示・株主意思の原則
    3. 【原則3】必要性・相当性確保の原則
  6. 様々な買収防衛策の方法
    1. ライツプラン
    2. ゴールデン・パラシュート(Golden Parachute)
    3. 非上場化
    4. ホワイトナイト

敵対的買収とは?

敵対的買収とは、対象会社の取締役会の同意を得ないで、買収を仕掛けることをいう。買い手は、対象会社の経営権を支配できる議決権を取得するために、発行済議決権株式の過半数の取得を目指すことが多い。

金融商品取引法では、上場企業の株式に対して、市場外または市場内と市場外の組み合わせなどによる買付けで、発行済株式の3分の1を超える株式を取得する場合は、原則として公開買付けによって取得しなければならないとしている。上場企業のM&Aでは、買い手はTOBによって市場外の株式取得を仕掛けることが多い。

敵対的買収を行う団体として有名なのが、いわゆる「アクティビスト」と呼ばれる投資ファンドだ。彼らは、対象会社の解散価値に注目して投資を行う。株式を取得する資金よりも、解散したときに分配される現金が多い会社が、敵対的買収のターゲットになる。

これまで敵対的買収と言えば、アクティビストによって行われるのが一般的だった。しかし、近年は買い手自身が営む事業とのシナジー効果によってもたらされる企業価値の増大を目的とする、ストラテジック・バイヤーが現れるようになった。

防衛策を必要になるほどの敵対的買収の実態は?

敵対的買収において敵対するのは、買収対象となる企業の経営陣と買収側の会社だ。つまり、対象企業の経営陣が、他社の支配下に入ることを反対している状態である。

ポイントは、敵対的な立場を取るのが対象企業の経営者であって、対象企業の株主ではないことである。

株主にとっては、株式を保有していても株価上昇が期待できないなら、今すぐ買い取ってくれる人に株式を売りたいかもしれない。これまでの経営陣が非効率的な経営を行い、結果として企業価値が低迷していたとしたら、敵対的買収によって経営者が交代することを望む人もいるだろう。

買収後に不動産などの事業用資産を切り売りして、投機的に儲けようとするパターンもある。IRが不十分だと、本来の企業価値が株価に反映されていないことがある。そのような場合、経営権を握って事業用資産を売却することで、本来の企業価値を取り戻すことができる。しかし従業員の雇用は維持されないため、本来あるべき企業経営の形は崩れてしまう。

実際は買収するつもりはないのに買収すると見せかけて、単に買った株式の買い取りを要求する「グリーンメイラー」もいる。彼らは、目先の短期的利益を追求するために株式を投機的に購入するため、株価の乱高下をもたらす。結果として、企業価値を損なってしまうことになったり、他の敵対的買収を招いてしまったりすることがある。グリーンメイラーの対応は、慎重に行わなければならない。

敵対的買収は、買収に成功したところで、その後の企業経営が成功する確率が低い。その理由は、従業員の賛同を得ることが難しいからだ。労働組合が反対すれば、買収側の人間が新たな経営者となっても、誰も仕事をしなくなってしまう。

実際、日本では敵対的買収の成功事例は少ない。TOBに成功しても、その後の経営が失敗に終わることが多いのだ。結局のところ、敵対的買収を成功させるには、不動産などの事業用資産を切り売りして儲けるしかないだろう。

敵対的買収に対して防衛策は本当に必要なのか

証券市場が効率的で、M&Aによる経営権の移動が頻繁に行われるアメリカでは、企業価値を守るための買収防衛策は一定の範囲で認められている。

日本の経済産業省では、買収防衛策の導入に関して注意喚起している。経済産業省は企業に対し、株主への情報提供を正しく行うことや、経営者の保身のために濫用的に買収防衛策を儲けることを防ぐための第三者チェックや株主総会決議を勧めている。

敵対的買収といっても、対象企業の株主にとってはチャンスになる可能性もあるので、敵対的買収を100%拒絶するような買収防衛策は認められない。買収防衛策は、経営者が買収提案にどのように対応すべきか考える時間や交渉する時間を与えるためのものであり、買収提案を跳ね返すものであってはならないとしているのだ。

敵対的買収は最終的に株主によって決められるべきものであって、経営者が勝手に決めるのではなく、株主の意向に従うべきなのだ。

経営者は勝手に買収防衛策を講じてもいいのか

経営者にとって防衛すべき買収提案が、株主にとっては防衛すべきでない買収提案(高値売りの絶好のチャンス)であるケースがあるので、敵対的買収に対する防衛策を経営者が勝手に講じることは許されない。株主利益を害するおそれがあるからだ。

敵対的買収においては、対象企業の経営者が解任される可能性が高い。よって、企業価値を向上することで株主利益を最大化するという取締役の義務と保身が併存し、株主との間に利益相反が生じることがある。 このように、敵対的買収は構造的に利益相反を生みやすい。対象企業の株主は、「自社にとって買収提案を防衛する合理性がないにもかかわらず防衛を行っているのではないか」「提案を受けた買収価格が現状の企業価値よりも高いにもかかわらず、取締役がそれを不当に防衛することで株主が獲得できるかもしれない利益を阻害しているのではないか」という疑念を抱くかもしれない。

これについては、現状の企業価値よりも高い株価での買収提案であるか否かがポイントとなるとともに、敵対的買収の防衛策が公正な手続きよって行われ、株主が受けるべき利益が損なわれることのないように配慮されるべきである。

一言で言えば、現経営者が経営を続けることで、提案を受けた買収価格よりも高い株価を実現できるのであれば防衛策を講じるべきであり、実現できないのであれば防衛策を講じるべきではない。

買収防衛策の導入に関する指針

企業価値研究会は、「企業価値報告書2006~企業社会における公正なルールの定着に向けて~」で、公正な防衛策のあり方に関する考え方をまとめている。その中で、「企業価値を高める買収は実現し、企業価値を損ねる買収は実現しない」という企業価値基準の考え方に基づく企業買収に関する公正なルールの形成・定着に向けて、①買収防衛策の開示・上場ルール、②公開買付け制度など買収ルールの見直し、③経営者と株主・投資家の対話の充実の3つのテーマについて検討を行っている。

また、経済産業省は「企業価値・株主共同の利益の確保・向上のための買収防衛策に関する指針について」(平成17年6月)で、買収防衛策は企業価値(会社の財産、収益力、成長力など)および株主共同の利益を確保し、または向上させるものであるべきとして、以下の3原則を示している。

【原則1】企業価値・株主共同の利益の確保向上の原則

これは、買収防衛策の導入、発動及び廃止は、企業価値、株主共同の利益を確保し、または向上させる目的をもって行うべきであるとする原則だ。

企業価値を明らかに損なう買収提案には、グリーンメイラーによる提案、焦土化目的の提案、LBOによって事業用資産を切り売りすること、高値転売すること、配当金の吸い上げを前提とする提案などがある。このような買収提案に対する防衛策は、株主利益に資するものとして認められている。

【原則2】事前開示・株主意思の原則

これは、買収防衛策の導入は目的、内容等が具体的に事前に開示され、かつ株主の合理的な意思決定に依拠すべきであるとする原則である。

買収防衛策は株主の利益を害するおそれがあることから、その導入に際しては目的、内容、効果(議決権制限や変更、株主にとっての利益・不利益)を、金融商品取引法や証券取引所の適時開示規則に基づいて開示しなければならない。

買収防衛策の導入を決定するには、株主の同意を必要とする。つまり、株主総会の決議によって導入を決定しなければならない。取締役会決議によって導入する場合でも、防衛策の導入後に株主の意思決定によって防衛策を廃止できる手段を設ける場合に限り、導入が認められる。

【原則3】必要性・相当性確保の原則

これは、買収防衛策は買収を防止するために必要かつ相当なものとすべきであるとする原則である。つまり、法令に違反するような防衛策であってはならないということだ。

一方、取締役が保身のために防衛策を講じることは許されない。取締役会は、企業価値を毀損するような脅威が存在すると合理的に認識した場合、その敵対的買収に対して過剰にならない範囲で相当の防衛策を実行できるとしている。

様々な買収防衛策の方法

敵対的な買収に対する日頃の防衛策には、企業価値を高める経営を実践するとともに、投資家向けIR(Investors Relationship)などを通じて株主にそれを伝達することなどがある。株主に企業価値を理解してもらうことができれば、株価の上昇をもたらし、敵対的買収を防ぐことができる。適正な株価であれば、アクティビストが買収しても利益を得ることができないからである。

また内部留保を現預金として貯めていると、その収益性がほぼ望めないので企業価値が向上しない。すると株価が上昇しないので、敵対的買収のターゲットになってしまう。よって、内部留保を設備投資や新事業進出、他社の買収に活用することが求められる。投資機会がなければ、配当金や自社株買いで株主に還元することを求められる。このような企業価値向上に資する経営を行うことで株主の支持を得ることができ、敵対的買収を防衛することができる。

これ以外にも経営者が行うべき予防策があり、また敵対的買収を仕掛けられた場合の緊急防衛策もある。いずれにしても、株主にとってチャンスとなる敵対的買収を妨害するものであってはならない(最悪の場合、株主代表訴訟を起こされるリスクもある)。

ライツプラン

これは、一定割合の議決権を取得した買収者が現れた場合、既存株主が市場株価(時価)よりも低い価格で新株を引き受けることができる新株予約権のことだ。新株発行によって買収者の持株比率を下げ、支配権の移転を防衛する。ポイズンピルと呼ばれることもある。

この防衛策は、新株予約権のみ発行すれば足り株式自体は発行しないことから、配当などの負担、議決権割合の変動が生じず、低コストで導入することができるものである。

ゴールデン・パラシュート(Golden Parachute)

これは、買収後に役員や従業員が解任された場合、莫大な退職金を支払う社内規定を予め設けておき、買収後の企業価値を意図的に毀損させるものだ。買収後の企業価値が激減することがわかっていれば、買収者は買収をためらうだろう。しかしゴールデン・パラシュートの導入は、経営者の保身の手段となり、株主の利益を害する危険性があるため慎重に検討すべきである。

非上場化

これは、上場廃止することによって、株式の市場取引を止めてしまう手段だ。敵対的買収は、買収しようとする者が自由に株式を取得することができる状態にあるから生じるため、上場を廃止してしまえば誰からも買収されることはなくなる。

このため、MBO(Management Buy Out)を目的とし、非上場化のためのTOB(Take Over Bid)が実施されることがある。MBOを目的とした非上場化とは、現経営者が出資し、借入金によって対象企業の株式すべてを購入することをいう。ただし、現在の経営者以外の出資者として投資ファンドが関与するケースも多い。非上場化した後も現経営者がオーナー経営者として経営を行うケースや、保有株式を売却して引退するケース(事業承継型M&Aに多い)もある。

これによって敵対的買収の可能性を排除し、経営者が自由に経営する状態を維持するのだ。投資ファンドが経営支援をすることで、企業価値向上を目指すケースも多い。

まずTOBによって議決権割合3分の2超の株式を取得し、次にTOBに応募しなかった株主が保有する株式を、スクイーズ・アウトによって買い集める。具体的には、特別支配株主の株式等売渡請求や株式併合、全部取得条項付種類株式または組織再編の手法を使う。このようなスキームを二段階買収という。

ホワイトナイト

これは、敵対的買収を仕掛けられた対象企業の経営者が、友好的な第三者に、敵対的買収者より有利な条件で買収してもらい、敵対的買収者を退けることで自社を守る方法だ。白馬に乗った騎士が企業を助けるイメージから、「ホワイトナイト=White Knight」と呼ばれるようになった。

ホワイトナイトとして買収者に対抗するためには、敵対的な買収者よりも高い株価を提案しなければならない。したがって、ホワイトナイトは敵対的買収者よりも規模が大きく、資金力のある会社である必要がある。対象企業の第三者割当増資を引受けること場合も同じだ。

ただし、この方法だと最終的にホワイトナイトが経営権を握ることになり、現経営者は経営権を失う。取締役の椅子を用意してもらえるかもしれないが、他社に買収されることに変わりはない。ホワイトナイトを使う際は、自社を売却する覚悟が必要だ。ただし、身売りを意思表示することで、新たな買収者を誘引してしまい、買収合戦が発生する可能性もある。

文・岸田康雄(公認会計士・税理士)

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