揉めない相続,遺産確認,訴訟
(写真=ベンチャーサポート法律事務所編集部)

近親者が亡くなって相続が開始した場合、最初に行わなければならないことの一つに、相続の対象となる財産として何があるかを確認することが挙げられます。

この記事では、相続財産の確認が必要な理由、実際に問題となり得る場合、その解決方法について、見ていきます。

相続財産確認の必要性

(1)相続する財産への影響

相続が開始した場合、各相続人の相続分は、相続財産全体に対する割合として民法が定めています。

したがって、相続財産としてどのような財産があるか、その価値がいくらかは、各相続人にとって非常に重要な問題となります。

(2)相続税への影響

相続財産として何があるかは、相続税についても大きな問題となります。

相続税は、相続財産の評価額が基礎控除額を超えた場合に課税され、しかも、その税率は相続財産の額が大きいほど高くなります。

そのため、相続財産として何があって評価額がいくらかは、相続税が課せられるか否か、その税率が何パーセントかという問題に直結する問題といえます。

相続財産が問題となる場合

相続財産の範囲が問題となる場合の例としては、以下のような場合が挙げられます。

(1)被相続人が相続人名義で預金をしていた場合

贈与は「契約」ですので、被相続人から相続人への贈与が有効となるためには、贈与者が贈与するという意思を有していただけではだめで、贈与を受ける者も贈与を受ける旨の意思表示をしていることが必要です。

そのため、被相続人が勝手に相続人名義で預金をしていた場合には贈与は成立していたのか否か、その預金が相続財産に含まれるのか、すでに贈与によって特定の相続人に移転しているのかが争われる場合があります。

(2)被相続人名義の預貯金が相続財産ではないと争われる場合

被相続人名義の預貯金について、相続人の一人が、自己の財産であると主張する場合があります。

例えば、相続人の一人が税金逃れや強制執行を免れる等の目的のため、被相続人の名義を借りていたと主張するような場合です。

(3)被相続人名義の財産について既に贈与を受けていると主張される場合

相続開始時に被相続人名義であった不動産について、相続人の一人が、被相続人の生前に既に有効に贈与等を受けていたと主張する場合です。

権利は移転したが、登録免許税節約のため登記だけ移転していなかったと主張するような場合です。

解決方法

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相続財産の範囲が定まらなければ、遺産分割協議もできません。

したがって、遺産分割するためには、相続財産の範囲を確定させる必要があります。

また、遺産分割協議がまとまらなければ、相続税の申告等もできないことになってしまいます。

(1)遺産分割協議における話し合い

最も基本的な解決方法は、遺産分割協議の場で相続人間で話し合いをして相続財産の範囲を決定する方法です。

ここで合意できれば、特別な手続を経ることもなく解決できます。

例えば、争いとなっている財産も相続財産に含まれるとしたうえで、実際の遺産分割においては、当該財産の贈与を主張する相続人が実際に取得する相続財産を多くするといった形で調整することが考えられるでしょう。

(2)遺産分割調停

遺産分割について当事者間で協議が整わない場合には、家庭裁判所に調停を求めることができます。

この制度は本来遺産分割について調停委員の助言によって合意に導く制度で、相続財産の範囲確定を本来の目的とはしていません。

ただ、遺産分割を決定する中で相続財産の範囲も合意できれば当事者間の合意による解決に導くことが可能です。

ただ、あくまでも、調停は当事者の合意が必要ですので、合意に至らない場合には、他の制度を利用するしかありません。

(3)遺産分割審判

遺産分割方法調停で合意が成立しなかった場合には、審判に移行します。

審判では、家庭裁判所は遺産分割方法を決定する際に、相続財産の範囲についても判断できるとされています。

ただ、その場合でも、家庭裁判所の相続財産の範囲についての判断に異論がある当事者は、相続財産とされた財産の権利について、別途の訴訟で争うことができるとされています(最高裁判決昭和41年3月2日民集第20巻3号360頁)。

(4)遺産確認の訴え(遺産確認訴訟)

相続財産の範囲についての最終的な解決方法としては、遺産確認の訴えによって、相続財産の権利関係を裁判所に確認してもらう方法です。

これは、遺産分割についての調停や審判などとは異なり、通常の裁判として、地方裁判所で審理されます。

①訴訟当事者
 遺産確認訴訟は、相続財産として共同相続人の共有に属する財産を確定するものですので、「固有必要的共同訴訟」に該当し、自分以外の共同相続人全員を被告として訴訟を提起する必要があります。
 共同相続人全員が訴訟に関与する必要があるのです(最高裁判決平成元年3月28日民集第43巻3号167頁)。

②既判力
 遺産確認訴訟の判決で相続財産の範囲が確定された場合、もはや改めて相続財産の権利を争うことはできません。

まとめ

相続財産の範囲を巡る争いは結構生じています。

ただ、通常は遺産分割協議の中で相続人間の合意で決着しているのが一般的です。

ただ、その金額が馬鹿にならない場合などには、これ自体が相続争いの重大な原因となりかねないということを理解しておく必要があります。

また、終活を行う際には、生前贈与の手続が中途半端になっていないかも含めて、確認しておくなどの配慮をするべきでしょう。(提供:ベンチャーサポート法律事務所