お酒を120%楽しむ!
(画像=kai/stock.adobe.com)

(本記事は、田村 隆明氏の著書『お酒を120%楽しむ!』=東京化学同人、2020年4月6日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

本格焼酎の種類と特徴

本格焼酎はいろいろな原料から造られ,原料特有の風味と味わいもまちまちで,それが本格焼酎の楽しみにもなっています。以下でおもな焼酎について,その特徴などを簡単に説明しましょう。

米焼酎

米を主原料にした焼酎で,熊本県の球磨(くま)焼酎が有名です。白麹を使いますが,常圧蒸留では濃醇で丸い味になり,減圧蒸留では香り高く軽快な味になります。

麦焼酎

長崎県の壱岐(いき)のように麹に米を使う場合と,一般的に行われるように大麦を使う場合があります。ガツンとした麦の香りのする,どっしりとした焼酎ができる常圧蒸留法に対し,最近は減圧蒸留法とイオン交換精製法を組合わせてつくった軽快で飲みやすいものが増えています。

芋焼酎

おもにサツマイモ生産の多い鹿児島県で造られますが,最近は宮崎県も伸びていて,両県でトップを争っています。芋焼酎はサツマイモ特有の甘み,蒸したときに生じる芳醇な香り,原料中の物質が麹の酵素で変化して生じる柑橘(かんきつ)系,マスカット系芳香の成分を含むことが特徴ですが,使うサツマイモの種類によって味と香りが微妙に変わります。ちなみに,香り成分のもとはイモのメインに食べる部分ではなく,皮やシッポの部分に多いそうです。芋麹を使った芋100% 焼酎や,主原料に焼き芋を使った焼き芋焼酎というものもあります。

そば焼酎

宮崎県高千穂地方がおもな生産地で,ソバの実を主原料にします。軽快な味とそばの香りをもつ焼酎です。

黒糖焼酎

鹿児島県奄美諸島の特産で,黒糖特有の甘い香りをもつ焼酎です。製麹にはおもにタイ米と黒麹が使われ,主原料はサトウキビのしぼり汁を濃縮した黒糖です。米麹で一次もろみを仕込み,そこに溶かした黒糖液を加えて二次もろみにします。黒糖は糖の混合物なので麹がなくとも発酵は進むのですが,麹を使うことにより酵母の栄養分が豊富につくられ,発酵が健全に進むとともに製品の香味が豊かになります。考えると「なるほど!」なのですが,黒糖焼酎を麹を使わないで造ると,できるお酒は実質的にも税法上もラム酒になってしまうそうです。黒糖は奄美群島の重要な産品なのですが,奄美群島では昔は米,粟,ソテツの実などで焼酎を造っていました。しかし第二次世界大戦中や戦後に黒糖の輸送手段が途絶えたため,やむなく焼酎の原料を黒糖に切替えたそうです。奄美群島は戦後しばらくアメリカに統治され,1953年返還されました。本土復帰当時には酒税法の縛りがあって黒糖焼酎は焼酎と認定されなかったのですが,のちに焼酎造りの努力と実績が認められて焼酎の地位を与えられたという歴史があります。

『お酒を120%楽しむ!』より
(画像=『お酒を120%楽しむ!』より)

粕取り焼酎

酒粕焼酎ともいい,福岡が伝統的産地で,清酒粕を蒸留して造ります。伝統的製法で造ったものは強烈な風味をもちますが,水を加えて再発酵させたものを減圧蒸留したものは香気に富んだソフトな味わいになります。

泡盛(あわもり)

沖縄県のみで造られる米焼酎で,タイ米に黒麹と泡盛酵母を加えて一次もろみを仕込み,長めに発酵させます。二次もろみはつくらず,一次もろみをじかに蒸留します。このため,味は他の焼酎と一線を画し,濃厚な香味をもちます。アルコール濃度45% 以下の原酒をかめで3年熟成したものは古酒(クース)といい,黒麹の作用で生じるバニラ香のような甘い特有の風味があるため珍重されます。

その他の原料を使った本格焼酎

使用される原料(栗,ごま,ゆずなど)のデンプン含有量が低いため,麦などの穀類をかなりの割合(50~90% 以上)加え,一緒に発酵させて焼酎を造ります。でも以前からスッキリしていないことがあります。その他の原料が半分以上あれば“焼酎”でも良いのですが,単に風味づけのため少ししか使わないのであれば“◯◯焼酎”といって良いのでしょうか? 後で出てくる「スピリッツに入るのでは?」と思います。酒類分類に適当なものがないので,とりあえず“焼酎”とされているような気がします。

お酒を120%楽しむ!
田村 隆明
1952年秋田県生まれ。1974年北里大学衛生学部卒。1976年香川大学大学院農学研究科修了(農学修士)。医学博士(慶應義塾大学)。慶應大学医学部助手、フランスストラスブール第一大学博士研究員、基礎生物学研究所助手、埼玉医科大学助教授などを経て、1993年から2017年まで千葉大学理学部教授。専門は分子生物学、遺伝子科学、遺伝子工学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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