(本記事は、櫻庭 誠司氏の著書『未来をつくるグロースマーケティング』=クロスメディア・パブリッシング、2022年10月28日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
持続的な成長を実現する「グロースマーケティング」
第一章では、マーケティングという言葉の定義と、その本質的な役割について述べてきました。そこでも述べた通り、「モノを売るための仕組みづくり」という本質はいつの時代も変わりませんが、その一方でマーケティングにおいて用いられる手法は時代とともに変化してきました。
「マーケティング5.0」といわれている昨今、DXの奔流に対応し、最新技術を活用した新たなマーケティング手法が、世に求められていると感じます。
結論からいうと、「グロースマーケティング」こそが、これからの時代に求められる、マーケティングの新たな形であると、私は考えています。
では、グロースマーケティングとはどんなものか。
一言で表すなら「事業の持続的な成長を実現するための概念、及び諸活動」です。グロースマーケティングが従来のマーケティング手法ともっとも異なる点は、事業全体を見て最適化を行うところにあり、そして持続的な成長を目指す点です。
DX時代の技術を活用し、事業全体を横断的に見ながら各所を最適化し、持続的成長へとつなげていく。それこそがグロースマーケティングの真骨頂です。
ただ、「持続的な成長の実現」という定義はある意味で抽象的で、それに対するアプローチもさまざまです。
本書では、あくまで私の実践するグロースマーケティングについて提唱していきたいと思います。
グロースマーケティングにおいて、私がもっとも重要視する指標があります。
それは、利益です。
当たり前の話ですが、事業活動を継続していくには、資金が必要になります。成長を目指すなら、利益として得たキャッシュを投資に回さねばなりません。
すなわち事業とは、利益を土台として持続、成長させていくものにほかなりません。
したがってソルブレインでは、利益を出すことを持続的な成長を遂げるための手段であるととらえ、グロースマーケティングの目標としています。
個人的には、利益を出せないマーケティング手法など意味がないと考えています。徹底的に利益にフォーカスし、利益から逆算してバリューチェーン全体を最適化することで、持続的な成長を実現していくというのが、本書でいうグロースマーケティングなのです。
なぜグロースマーケティングという考え方が生まれたのか
グロースマーケティングの起源をたどれば、「グロースハック」というマーケティング手法に行き着きます。
2010年、アメリカの実業家であるショーン・エリス氏によって提唱されたものであり、ウェブマーケティングの領域から生まれた考え方です。
従来のウェブマーケティングは、まず製品やサービスを作り上げ、そこからユーザーテスト、プロモーション、SEO対策、アクセス解析といったマーケティング活動に入っていきました。
ある家電メーカーを例にとると、新製品であるプリンターを毎年3万人に買ってもらい、3年間で45億円という売上目標を立てました。そしてその実現のためのマーケティング戦略を組むという流れが一般的でした。しかし、現在のように市場が飽和し、プリンターもコモディティ化している状態では、性能や価格といった製品の力だけで他と差別化するのが難しくなっています。そんな中、従来のプロダクト中心のマーケティングを行っても、なかなか成果が挙がらなくなりました。
そこで求められた新たな仕組みが、グロースハックです。
グロースハックでは、製品やサービスの開発と並行してマーケティング活動に取り組んでいきます。その分析結果を生かし、製品やサービス自体に、成長の仕組みを埋め込んでいくというのが最大の特徴といえます。
では、製品やサービス自体に成長の仕組みを埋め込むとは、どのようなことか。
事例としてわかりやすいのは、オンラインストレージサービス「Dropbox」が導入したグロースハックでしょう。
Dropbox では、友人や知人に紹介することで、その容量を増やせるという仕組みがあります。これにより、広告や販促活動を行わずとも、ユーザー自身の行動によってサービスが拡大していくのです。
こうしたグロースハックの手法を、企業のバリューチェーン全体に適応し、事業の中に成長の仕組みを組み込もうという試みが、グロースマーケティングです。
グロースハックが対象とするのがあくまで特定の製品やサービスであるのに対し、グロースマーケティングでは、製品やサービスの持続的な成長はもちろん、企業自体の持続的な成長を目指し、そのための仕組みづくりを行っていきます。
グロースハックが局所的、戦術的なノウハウであるのに対し、グロースマーケティングはその上位に位置づけられる、戦略的概念といえるでしょう。