未来をつくるグロースマーケティング
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(本記事は、櫻庭 誠司氏の著書『未来をつくるグロースマーケティング』=クロスメディア・パブリッシング、2022年10月28日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

マーケティングへの投資を妨げる、経営者のリテラシー不足

私が相談を受ける中で、中小企業の経営者にとってマーケティングという言葉は身近でも、概念はまだまだ身近ではないと感じることがよくあります。

確かに以前までは、マーケティングといえば資本力のある大企業の専売特許といった印象があったかもしれません。

データの収集方法がアンケート調査を始めとした人力であった時代には、それらを集めて加工し、分析するだけでも大変な時間と労力を要しました。効果的なマーケティングを行うために、データ分析担当者を1万人も雇っていた企業もあるほどで、マーケティングは一部の大企業でしか行えないものでした。

1990年代に入ってからは、さまざまな部門のデータを集約して一括管理するシステムである「ERP(総合基幹業務システム)」を導入し、自社マーケティングを行う企業が日本でも増えてきましたが、それには膨大なコストがかかりました。当時、ERP自体が安くても数千万円もしたのに加え、それを動かすためには自社で専用の大型サーバーを用意する必要がありました。さらにはそのサーバーに対し、各人が持ってきたデータを一つひとつ入力して蓄積する人海戦術によって、ようやくマーケティングの指標となりそうなデータが集まり、それを高度な知識を持つ専門家が分析して、やっと使えるようになるというようなイメージでした。

ERPの導入や活用にも結局はコストと手間がかかったため、一部の大企業でしか行われてきませんでした。そんな過去のイメージが、マーケティングを縁遠いものにしてしまったのかもしれません。

ただ、2010年あたりから、当時のERP機能を部分的に代替するクラウドサービスが増えてきました。これらのサービスをうまく組み合わせることによって、低コストで課題解決ができるようになったのです。クラウド化により費用対効果が向上し、中小企業のマーケティングに対するハードルがぐっと下がりました。

近年はクラウドERPが登場し、オンプレミス(サーバーやソフトウェアなどの情報システムを、使用者が管理している施設の構内に機器を設置して運用すること)の環境を用意する必要がなくなったことで、さらに低コストにERPを導入できるようになっています。それに加え、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)により、ソフトウェア同士の連携も容易になり、それらを使いこなせばERPを導入せずともかなりのレベルのマーケティングができるところまできています。

こうした流れを逆からみれば、大企業は早くからマーケティングの重要性を理解し、それに対する投資を行ってきた結果、大きな成果を挙げてきたともいえます。その専売特許が、現在では中小企業にとっても身近な存在になってきているのですから、やらない手はないはずです。

それなのになぜ、未だに中小企業の経営者でマーケティングへの投資に消極的な人がいるのかというと、結局は知識不足が根底にあるのだと思います。日本においては、世界と比べると経営者のITリテラシーが高いとはいえず、新しい技術やソリューションが目の前にあるにもかかわらず、それを理解できずに、導入に踏み切れません。

マーケティングにおいても、技術革新により以前よりはるかに打つ手が多くなっていることを知らず、「マーケティングなど、うちのような小さな企業には関係ない」と思い込んでいる経営者が多いのです。

しかし、それではいけないと私は考えます。

企業間競争は、自由市場の中で日々激しく行われています。

経営者にとっては、起業した瞬間にその競争に巻き込まれているのです。吹けば飛ぶような小さな会社が強者ばかりの競争に勝っていくためには、スピード感を武器にするくらいしかありません。大企業が分析だけで1日かかるところも、データが少ないスタートアップであれば数分で意思決定する事も可能になるのです。

くわえて小規模企業は資金量も乏しいので、一つのミスが致命傷になる確率は大企業に比べて高いです。だからこそ意思決定の精度もできる限り上げながら、スピーディに勝負していく必要があるのです。

ここまでマーケティングの導入障壁が下がっている時代に、やらない理由は何もないはずです。必要なのは少しの勉強と経営者の覚悟だけです。

私は中小企業こそマーケティング投資を最優先事項にするべきだと考えます。

未来をつくるグロースマーケティング
著者:櫻庭 誠司
株式会社ソルブレイン 代表取締役。2008年に仙台で株式会社ソルブレインを創業。当初はマーケティングの一部分に特化したサービスを提供していたが、時代の変化とともに価値提供の形を柔軟に変えながら一貫して企業のマーケティングの課題解決を手がけてきた。2014年よりグロースマーケティング事業を立ち上げ、企業の持続的な成長の実現に取り組む。

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