シダックスは11月18日、取引先企業との会合「シダックス アライアンス パートナーズ会」を開催し、特別企画として、シダックスの志太勤一代表取締役会長兼社長とオイシックス・ラ・大地の髙島宏平代表取締役社長との対談を行った。さる10月25日、オイシックス・ラ・大地はシダックスへのTOBが成立したことを発表。大株主の投資ファンド「ユニゾン・キャピタル」が保有していた全株式を含むシダックス株の約28%を取得、筆頭株主となった。今後、フードサービス分野でどのような協業が進められていくのか。対談では、協業に向けた熱い想いを互いに語り合った。
社会課題解決への志が一致
――TOB成立を受けて、今の率直なお気持ちをどうぞ。
志太 3年間、ユニゾン・キャピタルさんには大変お世話になったが、事業会社と協業していくのがあるべき姿と考えた。TOBについていろいろな報道があったが、会社は分裂しているわけではない。当社が社会課題解決企業であることや、現場の仕事を大事にすることは何ら変わらない。この度のTOBでは、いろいろな会社から申し出を受けたが、最善の形に落ち着いた。今後、シダックスとオイシックス・ラ・大地で志を1つに、1足す1が2ではなく、3倍、4倍になるよう協業を検討していく。今以上に発展し、更なる社会課題を解決していきたい。
髙島 当社も企業理念に、食に関する社会課題をビジネスの力で解決することを掲げている。この思いはシダックスの考えと合致している。いろいろあったが、この日が迎えられて嬉しい。
――おふたりの出会いは。
髙島 オイシックスは2000年に創業。当時の売上は7,000万円で、創業2ヶ月で資金調達に苦労した。そのとき志太社長と出会い、事業会社として初めて出資いただいた。当時もし会えなかったら、事業は続かなかっただろう。その時お世話になり、20年を経て、出資できることが嬉しい。
志太 初めて会った時から、髙島社長は企業理念に社会課題解決を掲げられていた。今ではそれが当たり前に言われる時代になったが、当時はそこまで強い思いを持つ方はほとんどいなかった。1人の同志が現れたと強く思ったことを覚えている。
――互いの会社の魅力を教えてください。
髙島 シダックスの魅力は3つある。1番すごいと思うのは、現場の方々の人材力である。現場の方々は皆、社会的使命感を強く持っており、病院給食提供など緊張感のあるお仕事を正確かつ高いモチベーションで行われている。2つ目は、合理的経営力である。そうした繊細で知識・技術が求められるお仕事を自社の強みを活かして合理的に遂行されている。3つ目は、合理的だけでない、文化的なところだ。対話や集会で語り合うことを大事にされている点やスポーツイベントに関心を持たれ様々な支援を実施されている。
志太 たくさんあるが、オイシックス・ラ・大地の一番の魅力は社会課題解決への想いだ。一緒に未来を考えられる嬉しさがある。当社はBtoB、オイシックスさんはBtoCの事業領域だが、協業することでBtoBtoCが可能になり、これまで日本になかったビジネスモデルが作れる。協業による新たな社会課題解決ができるのが楽しみだ。
生活者の視点から設計し直して新たなサービスを作り出す
――食における一番の社会課題は。
髙島 志太さんの話を引き継ぐ形になるが、両社で一緒に追いかけていきたいテーマの1つは、BtoBとBtoCの融合である。我々食品業者からすると、BtoB、BtoCと区別して、それぞれに頑張っているが、生活者の視点で見ると、その区分に意味はない。分類することで、全体的なソリューションが提供できていない現状がある。
例えば、患者が食べる食事でいえば、入院時に病院で食べる食事と退院後家庭で食べる食事は違う。病院では、治療のための食事として様々な工夫がされているが、家庭ではその工夫を真似ようと思ってもすぐに続けられなくなってしまう。その結果、患者のための健康的な食事がある程度明らかになっているにもかかわらず、病状の悪化や再入院の事態が起こってしまっている。それならば、退院後も入院時と同じような食事を食べられるようにすればいい。これまでBtoB、BtoCと区切っていたものを、生活者の視点から設計し直して、新たなサービスを作り出す必要がある。
志太 髙島さんが言うように業態が分離されていることで、お客様の需要に応えられていない状況がある。BtoBtoCで1つのかたちになることで、病院・介護施設から家庭へスムーズな食事提供が可能になり、お客様にとって効率的で効果的な食事が提供できる。特に、疾病の方の食事は内容を最適化し、それを継続できるようにすれば、病状が良くなり健康的な食生活を支援できる。
また、福利厚生の一環である企業社員食堂での食事サービスでいうと、働き方改革が進む中、在宅ワークの浸透や育児休暇取得もあり、従来は社員食堂に来てくれた方のための食事から脱却し、その方の家庭への食事の宅配やその方の家族にも食事を提供するなど、福利厚生を広げるニーズが高まっている。シダックスとオイシックス・ラ・大地は別の業態でも、提供先は同じ場合がある。1つにつながることで、不効率性を無くす仕組みづくりをしたい。
サプライチェーンの日本モデルを構築したい
――理想のサプライチェーンは。
髙島 食品サプライチェーンが大量の温室効果ガスを排出している。この状態で我々が商売を続けていくことを世界は許さないだろう。これを世界・地球と両立させなければ我々のビジネスが認められないという危機感を強く抱いている。将来像を考えると、日本には強みと弱みが両方ある。強みは、日本人の典型的な食生活が排出している温室効果ガスは世界的に見てもかなり少ないことだ。我々の食文化は健康にも良く、地球にもやさしい。一方、弱みは、生活者の環境への関心の低さだ。地球にやさしい商品だからといって売れないのは日本の食品業界の課題である。アメリカやイギリスなど欧米の大学では、学生食堂はビーガンが選択肢として当たり前になっている。強い同調圧力があり友人の前ではとてもお肉は食べられないといった若い世代の動きがある。この欧米の動きに合わせて、韓国や中国でも似たような動きが出てきているが、日本ではほとんどない。日本の食文化の強みがあるからといって、生活者が敏感になるまで待っていると、その強みが弱みにもなりうるだろう。いずれにしても、この強みを生かし弱みを克服することでサプライチェーンの日本モデルをしっかり作ることが我々のチャレンジではないだろうか。
また、円安とは別に、海外の商品がそこまで安くなくなってきた点や輸送コストをかける必要もないことから、今後は国産回帰が一層進むと考える。
志太 野菜を余すことなく使うため、無駄なく加工するフードプロセスセンターを作ることが期待される。協業により、提供方法も提供先も多様になる。このキャパシティーを強みに、正しいサプライチェーンのノウハウを作り上げていきたい。
両社は現在、フード領域における協業として、〈1〉完全調理済み食品や業務上ミールキット等による給食現場の生産性向上・高付加価値の創出〈2〉サステナブル領域での付加価値強化〈3〉食材の共同配達・配送〈4〉病院患者や施設利用者向け家庭用サービスなどBtoBtoC領域への展開――の4つの方向性を模索している。
2023年1月末を目標に、取り組みが具体化したものから、順次協業案を取りまとめる考えだ。