現代の社会やビジネスにおいて、ジェンダー不平等は重要なテーマのひとつだ。SDGsの目標にもあることから、世界各国ではさまざまな取り組みがされている。今回は日本におけるジェンダー不平等の現状を、課題や問題点、事例などを交えながら解説する。

目次

  1. ジェンダー不平等とは?
    1. ジェンダー不平等に関する国際団体
  2. 日本のジェンダーギャップの現状
  3. ジェンダー不平等によって起こる問題
    1. 暴力による被害
    2. 子どもの権利侵害
    3. 教育格差による社会での不平等
  4. 日本におけるジェンダー不平等の事例
    1. 【事例1】コロナ禍で女性の失業者や貧困者が増加
    2. 【事例2】政治家による性差別発言
    3. 【事例3】女性によるワンオペ育児
    4. 【事例4】職場での各種ハラスメント
    5. 【事例5】男女間の賃金格差
  5. ジェンダー不平等を解決するための対策やアイデア
    1. 1.社員の意識改革に取り組む
    2. 2.コミュニケーションやスローガンを見直す
    3. 3.ダイバーシティまで見据えた採用環境・教育環境を整える
    4. 4.男性にとってのジェンダー不平等を考える
  6. ジェンダー不平等のよくある質問集
    1. Q1.日本のダイバーシティランキングは?
    2. Q2.「ジェンダー平等を実現しよう」の問題点は?
    3. Q3.ジェンダー不平等はなぜ起こる?
    4. Q4.ダイバーシティ&インクルージョンとは?
    5. Q5.ジェンダー平等の目的や重要性は?
  7. 国や自治体と足並みをそろえた施策が重要
  8. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ
日本のジェンダーギャップは世界○位!? 日本の課題はどこにある?
(画像=west_photo/stock.adobe.com)

ジェンダー不平等とは?

ジェンダー不平等とは、性別の違いによって差別や不平等が生じることである。日本では主に社会的な性差別がフォーカスされているが、世界では以下のようにさまざまなジェンダー不平等が存在している。

○ジェンダー不平等の例
・女性に対する暴力
・身体を傷つける慣習や文化
・強制的または早期の結婚 など

ジェンダー不平等は古くから問題視されており、2015年の国連サミットではSDGsの目標に「ジェンダー平等を実現しよう」が加えられた。その影響で、近年では多くの地域でジェンダー平等に関する法律や政策が生まれている。

ジェンダー不平等に関する国際団体

ジェンダー不平等は世界的に注目される社会問題であり、すでに以下のような国際団体が存在している。

○ジェンダー不平等に関する国際団体
・国連開発計画:貧困や格差などを是正するために、170ヵ国に対して支援を行う国際団体。
・UN WOMEN:ジェンダー平等と女性のエンパワーメントに取り組む国連女性機関。
・国連ウィメン日本協会:女性と少女の社会課題に取り組む、UN WOMERの日本国内委員会。
・国際婦人年連絡会:ジェンダー平等を目指すために結成された、34団体による委員会。
・JOICEF:女性の命と健康のために活動する、日本生まれの国際協力型NGO。

これらの国際団体に目を向けると、重点的に是正すべき課題を見極めやすくなる。また、活動実績や取り組み例に目を通せば、施策を考える際のヒントもつかめるはずだ。

ほかにも世界にはさまざまな国際団体があるため、ジェンダー平等に注力したい中小企業はぜひ確認しておきたい。

日本のジェンダーギャップの現状

そもそも、日本のジェンダーギャップ(男女格差)は大きいと言えるのだろうか。ここからは世界経済フォーラムが公表した「The Global Gender Gap Report 2022」から、ジェンダー・ギャップ指数(※)のランキングを紹介しよう。

(※)「経済・教育・健康・政治」の4分野から作成された指数。1が完全平等、0が完全不平等の状態を表す。

上位3ヵ国は北欧が占めており、10位までは欧米が中心となっている。しかし、アジアの国々はTOP10にランクインしておらず、日本のジェンダー・ギャップ指数は0.650の116位となった。

日本ではどの分野における評価が低いのか、ジェンダー・ギャップ指数の内訳も見ていこう。

教育・健康の2分野については、欧米に比べても高い水準でジェンダー平等を実現している。経済分野も世界の平均と同レベルだが、政治分野のスコアが極端に低い。

つまり、日本のジェンダー・ギャップ指数を引き上げるには、以下のような取り組みが必要になる。

○日本が抱える政治分野での課題
・女性国会議員の増加
・閣僚の男女比の是正
・在任年数の長い行政府における女性長の増加 など

女性の国会議員や知事が活躍する場面も増えてきたが、欧米諸国に比べると日本の男女格差は大きい。ジェンダー平等を実現する政策を打ち出すためにも、女性の政治参加が喫緊の課題と言える。

ジェンダー不平等によって起こる問題

ジェンダー不平等が大きい社会になると、実際にどのような問題が起こるのだろうか。重要性を認識するために、ここからは具体的なリスクを確認していこう。

暴力による被害

男性と女性には身体的な違いがあり、分かりやすい例としては「力の差」が挙げられる。この力の差を利用するような社会になると、性暴力や虐待などで被害を受ける女性が増えてしまう。

日本は無縁のように感じるかもしれないが、実は国内でも7人に1人(既婚者の女性)は身体的暴力の被害者と言われている。世界では人身売買や強姦など、深刻な犯罪につながるケースも珍しくないため、暴力による女性支配は排除しなければならない。

子どもの権利侵害

東南アジアやアフリカでは、18歳未満の女児を早期結婚・強制結婚させるケースが多く見られる。

一般的に、児童婚(18歳未満の結婚)は成長面に悪い影響を及ぼし、子どもの権利を侵害する行為として認識されている。また、成熟していない身体で妊娠・出産をすると、妊産婦の死亡リスクも高まるだろう。

さらに女性の権利が若いうちに侵害されると、社会進出や活躍のきっかけも失われてしまう。

教育格差による社会での不平等

日本の教育面は完全平等に近いが、世界には女性が十分な教育を受けられない地域も多い。

例えば、2015年に紛争が始まったイエメンは、200万人強の子どもが学校に通えない状況にある。なかでも女児への影響は大きく、男女の成人識字率には約2倍の差が生じている(男性が76%、女性が39%)。

このような教育面の男女格差は、雇用機会や賃金、政治面でのジェンダー不平等につながってしまう。

日本におけるジェンダー不平等の事例

では、日本においてはどのようなジェンダー不平等が存在しているのだろうか。ここからはジェンダー・ギャップ指数のスコアが低い「経済分野・政治分野」に絞って、日本が抱えている課題や事例を解説する。

【事例1】コロナ禍で女性の失業者や貧困者が増加

現在では国内にも、ダイバーシティ&インクルージョンに取り組んでいる企業は多い。目標値を設定して女性管理職を増やす企業なども見られるが、コスト面の問題でこのような取り組みが難しいケースもある。

例えば、コロナ禍が始まった2019年末からは、サービス業などの接触型産業が大きなダメージを受けた。特に2020年には多くの企業が人員削減をした影響で、女性の労働力人口が前年比で14万人ほど減少している。

新型コロナのような災害や経済ショックが発生すると、企業は採用コストが大きい人材から削減する傾向にある。実際に「管理職や正規ではないから」「結婚などで退職する可能性があるから」といった理由で、コロナ禍に解雇された女性も多いだろう。

仮に新型コロナが落ち着いたとしても、現在の社会構造に変化がない限りは、有事の際に同様の問題が顕在化すると考えられる。

【事例2】政治家による性差別発言

日本の政治界は男性社会が形成されており、衆議院における国会議員の女性比率は9.7%に留まっている(※2022年3月時点)。働き方改革や女性活躍推進法なども打ち出されているが、本当の意味でジェンダーレスの政治が行われているとは言い難い。

それを象徴する出来事が、政治家による性差別発言である。2007年には当時の厚生労働大臣が「女性は産む機械」、2019年にはオリンピック大臣が「子どもを3人くらい産むようお願いしてもらいたい」と発言し、世間やマスコミから大きな批判を浴びた。いずれも、経済的に子どもを産めない女性や、身体的な問題を抱える女性を軽視した発言である。

著名人による性差別発言は広く報道されるため、世間にインパクトを与えやすい。

【事例3】女性によるワンオペ育児

2017年のユーキャン新語・流行語大賞では、「ワンオペ育児」というワードがノミネートされている。これは、1人で仕事・家事・育児をこなすことであり、日本では女性の状況を表すケースが多い。

育児・介護休業法が実施されてはいるものの、家事・育児のほとんどを女性に任せている家庭は多く存在する。仮に専業主婦であったとしても、「家事や育児は女性がやるもの」といった考え方は、深刻なジェンダー不平等につながるだろう。

このような状況を是正するために、女性が進出・活躍しやすい社会や、男性が家事・育児に参加しやすい環境づくりが求められている。

【事例4】職場での各種ハラスメント

性差によるセクシュアルハラスメントやパワーハラスメントも、日本ではよく見られる事例だ。例えば仕事でミスをしたときに、「女性だからミスをした」「もう女性には任せない」のように怒られた人も多いだろう。

そのほか、年齢によって呼び方を変えたり、プライベートな質問(過去の恋愛歴など)をしたりすることもハラスメントにつながる。特に男性社会が形成された企業では、本人に自覚がないハラスメント行為も少なくない。

「女性だから」という理由でお茶くみをさせるなど、ジェンダー不平等につながる慣習が残っているケースも多いため、中小経営者は企業文化まで見直す必要がある。

【事例5】男女間の賃金格差

先進国や主要国の中でも、日本は男女による賃金差が特に大きいとされている。以下のデータは、経済協力開発機構(OECD)が公表した「男女間賃金格差」の国別のグラフである。

2020年時点での調査によれば、男性の賃金(中央値)を100とした場合、女性の賃金は77.5%に留まる。仮に男性の年収を500万円と考えると、女性の年収は387.5万円になる計算だ。

日本では男性社員と同じ業務をこなしていても、「なかなか昇進できない」「昇給幅が少ない」のように悩む女性が存在する。やむを得ない賃金差もあるが(労働時間の問題など)、明確なジェンダー不平等については是正する必要があるだろう。

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ジェンダー不平等を解決するための対策やアイデア

では、上記のようなジェンダー不平等を解決するには、どのような施策に取り組めば良いだろうか。ここからは、中小企業が考えたい対策やアイデアを紹介する。

1.社員の意識改革に取り組む

上層部がいくらジェンダー不平等に取り組んでも、従業員にその意識がなければ細かい男女差別が生まれてしまう。そのため、まずは以下のような方法で、社員の意識改革に取り組むことが必要だ。

○社員の意識改革につながる取り組み
・各管理職に対して研修や指導を行う
・セミナーや講演会などに社員を参加させる
・上層部が常にジェンダーレスを意識する

会社全体の意識を変えるには、「なぜジェンダー平等が必要なのか?」といった基礎から学ぶ必要がある。大まかな施策を打ち出すだけでは浸透が難しいため、意識改革につながる取り組みは中長期的に取り組まなくてはならない。

2.コミュニケーションやスローガンを見直す

社員の意識改革としては、コミュニケーションやスローガンの見直しも効果的だ。例えば、ジェンダー・ギャップ指数が高いスウェーデンでは、「he(彼)」や「she(彼女)」の代わりに「hen」という代名詞が浸透しつつある。

細かい言葉遣いや会社のスローガンを見直すだけで、男性社員はジェンダーレスを意識し、女性社員は快適に過ごしやすくなる。ハラスメント防止にもつながるため、性差をイメージさせる言葉は徹底的に排除したい。

3.ダイバーシティまで見据えた採用環境・教育環境を整える

ダイバーシティとは、性別や人種、国籍、言語など、企業があらゆる多様性を受け入れることである。ジェンダー不平等と同じく、現代ビジネスでは重要なテーマであるため、最終的にはダイバーシティまで見据えた施策を考えたい。

具体的な施策としては、多様性に捉われない管理職・リーダー職の登用や、人材教育に差をつけない仕組みなどが挙げられる。また、近年では消費者に目を向けて、あらゆるユーザー(妊婦や外国人など)を想定したテストを行う企業も増えてきた。

ダイバーシティの実現は、外部からの評価や優秀な人材の獲得につながるため、ジェンダー不平等とセットで施策を考えることが重要だ。

4.男性にとってのジェンダー不平等を考える

ジェンダー平等を実現しようとすると、多くの企業は女性中心の施策に偏ってしまう。ジェンダー平等はあくまで「男女を平等に扱うこと」を意味するため、男性の立場で施策を考えることも重要である。

例えば、男性社員に集中していた残業を分担する、育児休業を取得しやすい環境をつくるなど、男性本位の施策にも効果的なものはある。うまく工夫をすれば、女性が働きやすく稼ぎやすい仕組みづくりにもつながるはずだ。

ジェンダー平等は女性を優遇することではないため、その点に留意して施策を考えたい。

ジェンダー不平等のよくある質問集

以下では、ここまでの内容も含めてジェンダー不平等のよくある質問をまとめた。施策を考える前に、まずは基本的な知識をしっかりと押さえていこう。

Q1.日本のダイバーシティランキングは?

世界経済フォーラムの「The Global Gender Gap Report 2021」において、日本のジェンダー・ギャップ指数は156ヵ国中120位であった。総合スコアは0.656であり、先進国としては最低レベル、アジアでは中国や韓国よりも低い結果になっている。

中でも経済分野・政治分野はスコアが低いため、国や自治体、企業による施策が重要視されている。

Q2.「ジェンダー平等を実現しよう」の問題点は?

ジェンダー平等を実現するには、以下の問題・課題を解決する必要がある。

・早期結婚や強制結婚の慣習
・人身取引
・女性の性的搾取
・発言力や雇用機会の平等性
・妊娠を希望しない女性への配慮

日本ではあまり見られない問題・課題もあるが、国内にも経済分野・政治分野での性差別が多く存在している。

Q3.ジェンダー不平等はなぜ起こる?

日本におけるジェンダー不平等の原因は、男女間の職階差と言われている。男性に比べると、女性は昇進スピードが遅く管理職も少ない風潮があるため、勤続年数も短い傾向にある。

一方で、労働時間や学歴については、男女間の格差が少なくなってきている。

Q4.ダイバーシティ&インクルージョンとは?

ダイバーシティ&インクルージョンとは、企業が人材のあらゆる多様性を受け入れ、個々人の特性を十分に活かすことである。ダイバーシティは「多様性」や「相違」、インクルージョンは「包括性」や「一体性」のように訳される。

ジェンダー不平等と同じく、ダイバーシティ&インクルージョンも現代ビジネスの重要テーマとして多方面で扱われている。

Q5.ジェンダー平等の目的や重要性は?

ジェンダー平等の目的は、性差別をなくして男女が対等になる社会をつくることである。基本的には女性や女児が「自身で選択すること」「生きる力をつけること」を目標とするケースが多く、日本でも女性の社会進出や活躍を推進する施策が増えてきている。

国や自治体と足並みをそろえた施策が重要

ジェンダー不平等の観点では、日本は先進国やアジア諸国から遅れを取っている。特に経済分野・政治分野の格差は深刻であるため、国や自治体、企業が同じ方向性で施策を考えることが重要だ。

世界の動向にも着目しながら、引き続きジェンダー平等を目指してさまざまな施策を打ち出していこう。

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文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)

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