自販機でさまざまな商品を販売する、“自動販売機のセレクトショップ”「ピッポン」(東京・中延)
(画像=自販機でさまざまな商品を販売する、“自動販売機のセレクトショップ”「ピッポン」(東京・中延))

新型コロナウイルスの流行から2年経った。外食の売上は依然としてコロナ以前の水準からは下回る状態が続いている。その中で、ECサイトや冷凍自販機を使い、自分たちの味を届けようと冷凍商品を販売する飲食店が着実に増えている。最近では小売店での販売を強化する企業や、小売店と商品を共同で開発を進めている企業もある。

外食企業が冷凍食品を販売するという動きはコロナ以前から見られた。外食や中食などの垣根が薄れるとの見通しから、ロイヤルホールディングスは2019年12月に冷凍食品ブランド「ロイヤルデリ」を立ち上げ、提案を強めてきた。販売は順調に推移しているとのことで、21年度の売上は20年度比で2.5倍になったようだ。「ロイヤルデリ」を同社の食品事業の中で最も注力すべき商品に位置付けている。近年ではイオングループのプライベートブランド「トップバリュ」向けにも商品を開発している。

自社商品を自店以外で販売する傾向が活発になり始めたのは、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大後だ。フードデリバリーやテイクアウトが注目を集めたが、冷凍商品の開発に着手したところも少なくなかったようだ。

冷凍商品の販売が本格的に広がる契機となったのは、2021年初頭に登場した冷凍自販機「ど冷(ひ)えもん」だろう。非対面非接触というコロナ禍に求められていた価値に加え、閉店後などに売上を作れるなどのメリットから、時短営業を余儀なくされていた飲食店などから引き合いが増えたという。今年7月末時点で出荷台数は4,000台に達したようだ。また、高付加価値商品をそろえたECサイトや、瞬間凍結機を活用した冷凍商品のみを扱う冷凍食品専門店なども、この頃から目立ち始めた。

最近では、大手小売りのイオンが冷凍食品の品ぞろえを大きく増やした新業態を立ち上げたほか、百貨店の松屋銀座では高級な冷凍食品をそろえた売場を新設している。

〈自社価値を活かした商品を投入 自店以外の販売先獲得も〉
飲食店でも冷凍食品の開発に力を注ぎつつあるようだ。中華料理店「銀座アスター」を運営する銀座アスター食品もコロナ禍に冷凍食品の販売を開始した。これまで冷蔵で販売していたメニューを、冷凍食品向けに改良して発売したところ、「冷蔵と比べて売上は大幅に伸びた」(同社担当者)という。現在は「海老のチリソース」や「ふかひれのスープ」などを販売しており、メニューを増やしながら更なる拡販を目指す。

松屋銀座運営の冷食売場「ギンザ フローズン グルメ」で販売されている外食店の冷凍商品
(画像=松屋銀座運営の冷食売場「ギンザ フローズン グルメ」で販売されている外食店の冷凍商品)

吉野家でも冷凍食品の販売を強めている。7月には冷凍品では2例目となる特定保健用食品の許可を得た冷凍牛丼の具「トク牛サラシアプレミアム」を発売した。食事から摂取した糖の吸収を減らし、食後の血糖値上昇が緩やかとなる有効性と安全性が認められている商品だ。

大手ファミレスチェーンでも、冷凍食品の販売を本格化させる考えだ。すかいらーくホールディングスでは、同社グループのブランドを活かした冷凍食品の展開を本格化させ、新たな売上の確保を図る。バーミヤンの餃子やガストのチーズインハンバーグなど、16品を展開しており、将来的には小売店との留め型商品の開発も視野に入れている。商品本部HMDグループディレクターの奥井浩司氏は「スーパーで支持されるような商品を展開できればと思う。ニーズを把握して、商品開発を進めていく」と語る。

セブン&アイフードサービスでも、「デニーズ」ブランドを活用した冷凍食品を発売した。今後はデニーズ店頭での販売と共に、セブン&アイグループ内外での取り扱いの拡大も目指す。外販事業推進部長の堀川順子氏は「スーパーやコンビニなどでは冷凍食品の売場を拡大する動きは強まっていたため、チャンスがあると思い、本格的に取り組むことにした」と話す。ただし、「価格で勝負するのは難しいと感じており、その中で一般家庭では調理が大変な洋食にフォーカスを当てて開発を進めた。私たちはレストランで長年洋食を手掛けており、強みを活かせるとも感じている」と語る。

〈消費者の行動変化や今後の高齢化なども視野に 新たな市場となるか〉
新型コロナの流行以降、生活者の行動は大きく変化した。特に夜間については、飲酒関連の業態を筆頭に売上が依然として戻っていない。そのため、関係者からは「この時間帯の売上は、もう戻らないのでは」との声もある。そのため、新たな売上を得るために、冷凍食品など新たな施策に取り組む必要があるところもあるようだ。別の関係者は「テイクアウトやデリバリーは、コロナ初期ほどは伸びてはおらず、別の取り組みも必要だった」と話す。

また、吉野家ホールディングスグループ商品本部素材開発部の梶原伸子氏は「人口が減り、単身世帯も増える。しかし、家の近くですぐに外食できる世帯ばかりでもないと考えると、家庭に外食の味を、手軽ですぐに食べられるものを用意することは増えていくのでは」と予想する。また「お店に来てもらいながらも、食事サービスを通じてこちらから味を届けていく必要もあるのでは」と力を込める。銀座アスターの担当者は「私たちの店舗は主に関東圏にあるため、九州などにはアプローチできていなかった。こうした商品で今まで食べたことのない方にも商品を届けたい」と話す。

市販用冷凍食品の市場は伸び続けている。冷凍食品協会によると、2021年の家庭用冷凍食品の国内生産額は前年比5.2%増の3,919億円で、1981年の調査開始以来、過去最高となった。2台目の冷凍庫を導入する家庭も増えている。しかし、付加価値品はまだ広く知られているとは言いがたい状況で、今後の推移は未知数だ。一過性のブームと見る業界関係者もいる。それでも、商品は着実に増えており、店舗に行けない人の利用も増えている。新しい可能性も感じさせる。