矢野経済研究所
(画像=rockstarpictures/stock.adobe.com)

2030年のBEV市場は世界自動車販売台数構成比で最大約25%を予測

~脱炭素化は環境問題から経済問題へ BEV(電気自動車)はキャズムをいつ超えるか~

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、脱炭素化で影響を受ける自動車産業の調査を実施し、主要市場の概況、主要参入メーカーの脱炭素化戦略を明らかにした。ここでは、2035年までの世界自動車販売台数におけるBEV(電気自動車)の構成比予測を公表する。

世界自動車販売台数全体におけるBEV比率予測

矢野経済研究所
(画像=矢野経済研究所)

1.市場概況

世界的な情勢や持続可能な社会への関心の高まりにより、エネルギー消費に大きく依存した従来型の経済発展を捨て、経済と環境のデカップリング(decoupling;分断、分離)を成長戦略として多くの国・地域が位置付けている。この変化においては炭素からの脱却は新たな競争軸として注目されている。

現下、脱炭素化は気候変動を念頭においた長期的なリスクマネジメント、企業経営のサステナビリティへの評価が投資家に根付き始めたことで企業価値の重要な判断基準となっており、環境だけでなく経済にも大きな影響を与え始めている。

こうした脱炭素化において槍玉に上げられるのが自動車である。IEA※1によると、世界のCO2排出量の約20%が輸送機器から排出され、その45%は乗用車に由来するものとされる。自動車に対する高まりつつあった脱炭素ニーズと新型コロナウイルス蔓延による経済への打撃、各国の思惑と利害が交錯したことで自動車産業は脱炭素化に向けて急速に進み始めた。

※1. Source: IEA Greenhouse Gas Emissions from Energy, https://www.iea.org/data-and-statistics/data-product/co2-emissions-from-fuel-combustion. All rights reserved.
※1. Source: IEA Transport sector CO2 emissions by mode in the Sustainable Development Scenario, 2000-2030, https://www.iea.org/data-and-statistics/charts/transport-sector-co2-emissions-by-mode-in-the-sustainable-development-scenario-2000-2030. All rights reserved.

2.注目トピック

脱炭素化はDXがカギ

DX(Digital Transformation)とは、インターネットやクラウドコンピューティング、人工知能(AI)、IoTなど最新デジタル技術の活用を前提として、社会システムやビジネスモデルなど従来の枠組みを再定義し、新たな価値創出や効率向上を目指す取り組みである。目には見えないCO2を削減、取引するためには、デジタルインフラの構築、強化は大前提となる。

これをBEV(電気自動車)の視点で考察する。BEVの中核を構成する車載電池はエネルギーの観点からDR(デマンドレスポンス)やVPP(バーチャルパワープラント;仮想電力発電所)のノード(端末)となることから、BEVはDXが集結された社会的基盤となる。

DXによってBEV(電気自動車の蓄電池を想定)が太陽光発電や住宅設備などとまとめてVPPで管理されるようになると、BEVは現実世界におけるハードウェアとしての価値(車両としてのモビリティ)に加えて、デジタル空間でのノードとしての価値(VPP、スマートグリッド)を新たに備えることになる。つまり、BEVが「動く蓄電池・つながる蓄電池」となることで、重厚長大なエネルギービジネスは、柔軟なビジネスに転換できる可能性を持つ。しばしば、ICE(内燃機関)と比較されると、BEVの航続距離や充電時間といった課題ばかりが着目され、BEV普及に懸念が示される向きもあるが、これは一面的な意見と考える。BEVのモビリティとしての性能が、ICEに及ばない点が多々あるのは指摘されることではあるが、デジタル空間での価値創出やCO2を基軸とした取引にICEは適さない。カリフォルニアのZEV規制、中国のNEV規制のような技術的強制型規制を敷いて積極的なシフトをみせるBEVだが、現実世界における車載電池、充電器などの生産とアフターメンテナンスで生まれる関連した人材雇用、デジタル世界でのエネルギーシステムとしての役割を考慮すればBEVが生み出す経済効果は非常に大きいものとみる。BEVをクルマとしてのみ評価すると大事な側面を見落とすこととなり、むしろ脱炭素化という社会的な要請の下で普及したBEVはDXによってモビリティ以外の価値を有するものとみる。

3.将来展望

2021年の世界自動車販売台数は7,680万台で、このうちBEVは465万台と6.1%を占めた。コロナ禍による半導体不足の影響で自動車販売台数全体が低迷する一方、BEVの販売台数は前年より2.3倍の規模に拡大しており、BEVの好調さが浮き彫りとなっている。

2022年は自動車メーカーはBEV生産を優先する戦略をとるとみられ、世界の自動車販売台数全体の縮小とは対照的に、BEVの販売台数は引き続き増加すると予測する。しかし、2030~2035年までの中長期予測については、イノベーター理論でいうキャズム(16%以上)※2を超える時点を仮定し、Aggressive予測で2025年に16.1%でキャズムを超え、2030年には24.7%までBEVのシェアが拡大すると予測した。

一方で、自動車メーカーを悩ませる問題として、BEVの収益性の低さがある。稼ぎ頭の量販車(ボリュームゾーン)から低価格な小型車へのシフトが近年顕著となってきていることで、販売台数は増加しても単価が下落するため、収益力低下が問題となっている。2022年は資源価格高騰によって、自動車メーカー各社は大きなコスト圧力に晒されるのは必至とみられ、特にコバルトやニッケルなど希少金属などの価格急騰による電池コストの大幅上昇が車両の販売価格にどこまで影響するのか気掛かりである。また、米中デカップリングでサプライチェーンの分断によるコスト増といった課題も一層顕在化してくるものとみる。

※2. イノベーター理論とは米国の社会学者であるエベレット・M・ロジャース氏により提唱されたマーケティング理論で、市場に新たな商品・サービスが普及する過程で、初期段階と普及期段階の間に大きな溝(キャズム)がある旨を提言している。本調査ではこのキャズムという概念を軸に将来予測を行っている。

調査要綱

1.調査期間: 2022年4月~6月
2.調査対象: 自動車メーカー、サプライヤー、関連企業等
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、電話取材、ならびに文献調査併用
<脱炭素化が変える自動車産業とは>
本調査では、自動車産業において脱炭素化に向けて変革を迫られる自動車産業の参入プレーヤーおよび脱炭素化に寄与する技術として、電気自動車(BEV)、EV充電インフラ、バイオ燃料、E-Fuel、リサイクルバッテリーを対象としている。


BEVについては乗用車を対象とし、商用車や二輪車については対象外、EV充電インフラは急速充電規格(DC充電)を対象とし、普通充電規格(AC充電)は対象外としている。
<市場に含まれる商品・サービス>
BEV、EV充電インフラ、バイオ燃料、E-Fuel、リサイクルバッテリー

出典資料について

資料名2022 脱炭素化が変える自動車産業
発刊日2022年06月29日
体裁A4 209ページ
価格(税込)165,000円 (本体価格 150,000円)

お問い合わせ先

部署マーケティング本部 広報チーム
住所〒164-8620 東京都中野区本町2-46-2
電話番号03-5371-6912
メールアドレスpress@yano.co.jp

©2022 Yano Research Institute Ltd. All Rights Reserved.
本資料における著作権やその他本資料にかかる一切の権利は、株式会社矢野経済研究所に帰属します。
報道目的以外での引用・転載については上記広報チームまでお問い合わせください。
利用目的によっては事前に文章内容を確認させていただく場合がございます。