(本記事は、ポーポー・ポロダクションの著書『ゼロからわかる知らないと損する行動経済学』=日本文芸社、2022年3月9日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
代替報酬
ナッジの活用法❶「代替報酬」で人を動かす
◉何気ないことを楽しく変える
自動車メーカーのフォルクス・ワーゲン社は「人はどうしたら動くか」を考え、ファンセオリーというプロジェクトを実施してきました。
たとえば、スウェーデンのストックホルムにある地下鉄の階段。多くの人は階段に併設したエスカレーターを使っていました。そこで階段をピアノの盤面のようなデザインに変え、一段ごとに音が出るしくみにしました。すると、階段を使用する人が66%も増えたのです。「楽しい」という感情は、人の行動を変えるのです。
これは「代替報酬」という考え方です。階段を上がるという大変な行動に、楽しいという報酬をつけたのです。強制ではなく自発的に望ましい行動を選択することを促す考え方・手法であり、ナッジの応用例ともいえます。
◉代替報酬で行動を「楽しい」に変える
ファンセオリーには公園のゴミ箱にゴミを入れると「ヒュー」という落下音がして、「ボーン」と音が鳴る、まるでゴミ箱が地下深くまで続いて最下部で爆発するようなしくみをつくった例もあります。これによって約2倍のゴミが集まりました。楽しい「音」が報酬になったのです。
ほかにも、ショッピングカートにスケートボードをつけたところ、ショッピングカートを操作しながら買い物をより楽しそうにする人たちが増えました。10年以上前から海外ではこうした取り組みが進んでいます。
ゲーミフィケーション
ナッジの活用法❷「ゲーム」で人を動かす
◉ジム運営企業の代替報酬
ポーポー・ポロダクションもナッジ、代替報酬を活用した例があります。ある大手のスポーツジム運営会社が、インストラクターを除く社員の慢性的な運動不足を懸念していました。たしかに、運動の素晴らしさを伝える社員が、内勤とはいえ運動不足では問題があります。
そこでポーポーは社内でしか閲覧できないネット環境で、ウォーキングのおすすめルートを紹介するコンテンツをつくりました。ポイントはゲーム感覚でできる「非日常の提案」です。マイナスイオンを浴びて川の中を歩くシャワークライミング、七福神を巡るツアーなど普段歩かないようなところを歩くとどうなるか、すべてをコンプリートする楽しみを加えて、紹介したところ「楽しそう」と参加してくれる人が増えたといいます。これも運動を「楽しい」に変えた代替報酬の例であり、強制ではなく自発的に望ましい行動を選択することを促すナッジの例といえます。
◉ゲーム化して売上を伸ばす
ある回転寿司チェーンでは5皿で1回ガチャガチャに挑戦できるゲーム的な要素を入れています。
4皿注文している人に、あと1皿の販売促進が見込めます。どんな報酬があるか、途中の達成度がお皿の枚数という形でわかるのも秀逸です。
デフォルト効果
ナッジの活用法❸「初期設定」で人を動かす
◉ 人は初期設定をおすすめと思う
人はすでに設定をされたデフォルト(初期設定)をおすすめと錯覚をすることがあります。
たとえば、臓器提供の意思のある人の割合は、国によって大きく異なります。オランダは臓器提供者を増やすために、様々な施策を講じても意思表示は28%しか上がりませんでした。ところがベルギーは98%の人が意思表示をしています。
デューク大学のアリエリー教授によると、じつはこれは「参加を希望する人はチェックをしてください」もしくは「希望しない人はチェックをしてください」という意思表示カードのデフォルトに差があったのです。
日本の臓器提供意思表示カードにも、意思を表明する番号を上に書いて選択してもらいやすくする方法に加え、「提供したくない臓器を聞く」などの工夫を進めています。
◉ ビジネスへの応用
初期設定をおすすめと思う性質を利用して、セットを組むことで選んでもらいやすくなります。
居酒屋でいえば焼き鳥のおまかせセットがこれにあたります。最初に多くの売りたいものをセットにしておいて、「いらないものを減らしてください」と聞くほうが、「いるものを増やしてください」よりも多くのものが選ばれる傾向にあります。
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