会社が自社株を売却するのはどんな時? その理由や注意点
(画像=BluePlanetStudio/stock.adobe.com)

自社株の売却は、中小企業のM&Aスキームとしてよく用いられている。今回は自社株を売却する理由やデメリット、手続きなどについて解説する。事業承継で自社株を売却する場合の注意点や自社株の評価方法も紹介するので、売却を考えている経営者はぜひ参考にしてほしい。

目次

  1. 自社株を売却する理由2つ
    1. 理由1.後継者に事業を承継できる
    2. 理由2.売却益で資金を調達できる
  2. 自社株を売却するデメリット3つ
    1. デメリット1.売却益への課税
    2. デメリット2.自社株の分散
    3. デメリット3.株価の下落
  3. M&Aで自社株を売却するメリット・デメリット
    1. M&Aにおける自社株売却のメリット
    2. M&Aにおける自社株売却のデメリット
  4. 自社株を売却するときの注意点3つ
    1. 注意点1.譲渡制限や株券発行の有無を確認する
    2. 注意点2.株主総会や取締役会を実施する
    3. 注意点3.買取資金や連帯保証の認識を共有する
  5. 自社株(非上場の譲渡制限株式)の売却手続き
  6. 自社株の譲渡価格を算定する方法
  7. 自社株の売却では専門家のサポートを検討
  8. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ

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自社株を売却する理由2つ

中小企業の場合、経営者が株主を兼ねていることがほとんどだ。オーナー経営者から見た自社の株式を自社株と呼ぶ。上場企業では、自社が発行した株式を自社株または自己株式と呼ぶ。

はじめに自社株を売却する理由から解説していく。

理由1.後継者に事業を承継できる

中小企業の事業承継は、オーナー経営者が自社株を後継者に引き継ぎ、社長の地位を譲り渡すことで完了する。自社株を引き継ぐ方法としては、贈与や相続、売却がある。

親族内の事業承継では、贈与や相続が選ばれることが多い。その一方で従業員への承継やM&Aなど、親族外への事業承継では一般的に売却が選ばれる。

自社株を売却すれば、株主の立場を後継者に承継できる。オーナー経営者は、株式の売却益も得られるので、勇退後の生活にゆとりが生まれるだろう。

理由2.売却益で資金を調達できる

上場企業の場合、資金調達を目的とした自社株の売却が行われやすい。購入時よりも株価が上がれば売却益を得られる。

反対に株価が下がれば、売却損が発生するリスクもあり、タイミングの見極めが重要だ。

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自社株を売却するデメリット3つ

自社株を売却するデメリットについて解説する。

デメリット1.売却益への課税

事業承継や資金調達では、自社株を売却して売却益が生じると、税金が課される。

個人が自社株を売却した場合、売却益は譲渡所得となり、一律20%(所得税15%、住民税5%)の税金が発生する。さらに2037年までは、復興特別所得税として所得税の2.1%が上乗せされる。復興特別所得税を加味した税率は20.315%だ。

株式等を譲渡した場合の譲渡所得は、原則として申告分離課税である。給与所得や事業所得などほかの所得と合算して課税される心配はない。

ただし、会社が自社の株式を取得するときは、株主が配当金を受け取ったとみなされて総合課税となる。総合課税になると、給与所得や事業所得などほかの所得と合算して課税される。

総合課税では、所得が大きくなるほど税率が上がる累進課税のルールが採用されており、所得税の最高税率は45%だ。住民税とあわせると約55%になる。

デメリット2.自社株の分散

中業企業のオーナー経営者が、事業承継を目的として後継者に自社株を売却するのは問題ない。

しかし、事業承継とは異なるタイミングで、資金調達等を目的として安易に自社株を売却すると、自社株が分散してしまうリスクがある。最悪の場合、オーナー経営者の経営権が奪われかねない。

事業承継の際に分散した自社株の取り扱いに関する問題も生じる。オーナー経営者に自社株を集約して後継者に引き継ぐ方法もあるが、株主が事業承継に同意しないとトラブルになりかねない。

デメリット3.株価の下落

上場企業が大量の自社株を売却すると、市場に出回る株式が増えて需給のバランスが崩れ、株価下落の可能性が生じる。

2021年11月には、テスラ社CEOのイーロン・マスク氏が多額の自社株を売却し、同社の株価が大きく下落してメディアを騒がせた。

テスラ社の株価はその後回復したが、一般的に株価は必ずしもすぐに回復するとは限らない。自社株の売却には慎重な判断が求められるといえよう。

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M&Aで自社株を売却するメリット・デメリット

中小企業がM&Aで自社株を売却するメリット・デメリットを解説する。

M&Aにおける自社株売却のメリット

自社株の売却は、事業譲渡などのM&Aスキームと比較すると、手続きがシンプルだ。そのため、多くの中小企業のM&Aスキームとして用いられている。

自社株の売却であれば、会社を独立させたまま後継者に承継できる。現場の混乱も少なく、顧客や従業員を守りやすいだろう。

一般的に事業承継ができなければ、いずれは廃業するしかない。廃業すると、不動産の売却や建物・設備の取り壊しなどで、数百万円単位のコストが生じるケースも少なくない。M&Aで廃業を免れることで、廃業にともなう金銭的・時間的コストも削減できる。

M&Aにおける自社株売却のデメリット

自社株売却のデメリットとして、デューデリジェンスの負担が挙げられる。

M&Aで自社株を売却する場合、M&A後に重大な法務・税務リスクが発覚するのを防ぐため、一般的には最終譲渡契約の締結前にデューデリジェンス(買収監査)が行われる。

デューデリジェンスでは、買い手の依頼を受けた弁護士や税理士などの専門家が、資料をチェックしたり、オーナー経営者に聞き取りを実施したりする。

買い手のリスクを低減するために必要なステップだが、売り手の負担は大きい。M&A仲介会社などの支援を受けながら事前に準備や心構えをしておくとよいだろう。

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自社株を売却するときの注意点3つ

自社株の売却に関する手続きの注意点を解説する。

注意点1.譲渡制限や株券発行の有無を確認する

譲渡制限や株券発行の有無によって、自社株を売却する手続きは違ってくる。

株式は本来、株主が自由に売買できるが、中小企業の株式では、株式の分散を防ぐ目的で譲渡制限が付いていることが多い。譲渡制限株式の場合、株主総会もしくは取締役会の決議が必要だ。

また、株式会社は原則として株券の発行が必要だったが、2006年の会社法施行によって原則として株券の発行が不要になった。

株券がある場合、自社株を売却した場合に効力が発生するタイミングが異なってくる。登記事項証明書を取得し、株券発行の定めを確認しておくようにしたい。

注意点2.株主総会や取締役会を実施する

株主や取締役が親族だけの中小企業では、株主総会や取締役会を開かず、簡便的に議事録を作成しているケースも少なくない。

しかし、自社株の売却は金銭が絡むデリケートな問題だ。日頃はオーナー経営者に異議を唱えない親族も、自社株の売却に関しては意見を主張するかもしれない。

トラブルを防ぐために株主総会や取締役会を開き、実際の議論に沿って議事録を作成するのが無難だろう。

注意点3.買取資金や連帯保証の認識を共有する

事業承継は、自社株を従業員や役員に売却し、社長の地位を交代すると完了する。しかし、株式の買取資金が不足している場面も少なくない。後継者に自社株を売却するには、後継者が借り入れをしたり、事業承継ファンドからの出資を検討したりしなければならない。

オーナー経営者であれば、個人の資産を担保として提供したり、会社の債務に関して連帯保証人になっていたりするケースも多い。しかし、従業員や役員の精神的な重荷となり、後継者の立場を辞退されるリスクもある。

従業員や役員への事業承継では、買取資金や連帯保証の認識を共有しておくようにしたい。

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自社株(非上場の譲渡制限株式)の売却手続き

自社株(非上場の譲渡制限株式)の売却手続きは次の通りだ。

①株式譲渡の基本合意を締結する
➁株主による譲渡承認の請求をする
➂株主総会もしくは取締役会で株式譲渡の決議をする
④株式譲渡契約を締結する
⑤売買代金の決済や役員の選任などクロージング手続きをする

クロージング手続きでは、株主名簿書き換え、役員交代、代表者選任、登記などの手続きが必要だ。M&Aの場合、基本合意に至るまでにM&A仲介会社との仲介契約の締結や、買い手候補探しといった手順を踏む。

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自社株の譲渡価格を算定する方法

自社株の譲渡価格を算定する方法には、コストアプローチ・インカムアプローチ・マーケットアプローチなどがある。このうち、中小企業の事業承継でよく用いられるのは、コストアプローチだ。

コストアプローチとは、決算書の貸借対照表をもとに会社の価値を算定する方法だ。決算書の純資産を活用して簡便的に計算する簿価純資産法と、会社が保有する資産・負債をすべて時価に置き換えて計算する時価純資産法がある。

会社の価値を把握したいときは簿価純資産法が便利だが、実際のM&Aでは現状に応じて評価できる時価純資産法を用いる場面が多い。

収益性や特定の技術力、従業員の能力など、視認できない会社の価値を分析し、譲渡価格の算定に含めることも大切だ。

税務上の時価よりも低い価額で自社株を売却すると、買い手が贈与を受けたとみなされ、贈与税が課税されるケースもある。実際に自社株を売却するときは、専門家に評価を依頼したうえで、課税リスクのない適正価格で売却してほしい。

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自社株の売却では専門家のサポートを検討

自社株の売却は、従業員や役員への承継、M&Aなど、中小企業の事業承継で広く用いられる手法だ。ほかのM&Aスキームと比較すると手続きが簡便で、会社を独立した状態で引き継げる。

しかし、簡便とはいえ手続きには専門性が求められる。確認を怠るとM&Aが無効となりかねない。また、デューデリジェンスの準備や自社株の譲渡価格の算定など、専門家に依頼しなければ難しい項目もある。

自社株を売却するなら、信頼できる専門家を探して適切なサポートを受けるようにしてほしい。

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文・木崎涼(フィナンシャルプランナー・M&Aシニアエキスパート)

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