グロービス経営大学院教員が2022年の注目トピックを取り上げるシリーズ。今回は「テクノベート」編vol.1です。2021年は働き方においても日常生活においてもこれまで以上にテクノロジーによる変化が訪れた年でした。2022年に訪れるであろう更なる変化はどんなものになるのでしょうか。
テクノベート時代の問題解決手法を学ぶ「テクノベート・シンキング」はじめ、テクノベート系科目の科目開発、授業を担当するほか、グロービスAI経営教育研究所(GAiMERi)の所長を務める鈴木健一に、2022年を紐解くテーマを聞きました。
ブロックチェーンとクリエイティブAIが大きく羽ばたく日
2022年はブロックチェーンやクリエイティブAI(生成系AI)の利用が、社会的に本格化する元年になるのではないか、そんな予感がする。
フェイスブックのメタへの社名変更に象徴されるように、デジタルな世界へのシフトは、加速することはあっても逆走することはもはやないだろう。2021年を2022年への助走期間と捉えると、いくつか2022年に起こりそうなことを予感させる出来事がすでに起こっている。
ブロックチェーン技術活用の浸透
例えば、アートに代表されるデジタルプロダクトにいわば鑑定書を付けることができるNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)への関心が高まり、3月にはデジタルアーティストのBeepleの作品がなんと約75億円で取引されるなど、あたかもバブルといった状況が生まれている。NFTは、利用した取引価格の高騰ばかりが注目されがちだが、ブロックチェーンを利用することで、画像、動画、テキストなどのあらゆるデジタルプロダクト(あるいはスタートバーン社の取り組みのように、デジタルに紐づけることで絵画などのアナログな作品も)が所有権を改ざんできない形で1次流通、2次流通できる可能性が出てきた。このメリットとして、例えば後述するスマートコントラクトを利用すると、取引の都度、オリジナルの作者に利益が還元される仕組みも実現できる。
実はNFTはブロックチェーンのプラットフォーム上で動いている。ブロックチェーンというと、仮想通貨、暗号資産、なかでもビットコインがどうしても話題になりがちであるが、NFTではスマートコントラクト(1)機能を持ったプラットフォーム、中でもイーサリアムというプラットフォーム上での利用が中心だ。このスマートコントラクトの機能は、NFTブームに先立ち、DeFi(2)で幅広く活用されてきている。
*1 スマートコントラクト:契約の自動化のこと。決済や所有権の移転等の仕組みを事前にプログラム化することで実現。
*2 DeFi:中央管理者を必要としない分散型金融アプリケーションのこと。Decentralized Financeの略で、暗号資産の取引、貸借などをアルゴリズムで実施する。例えば、Uniswap、PancakeSwapなど。
ところがイーサリアムでは、取引集中による取引費用の高騰が目下の問題になっている。これに関しては、イーサリアムの次のバージョンであるイーサリアム2.0で、台帳への記帳アルゴリズムが、大量の計算により電力を多消費するPoW(Proof of Work)から省エネルギー的なPoS(Proof of Stake)へ移行することが2022年に予定されている。これには取引費用の低減と処理能力の向上が期待されており、大きな追い風になるだろう。
また、NFTの決済には同じブロックチェーンプラットフォーム上で動く仮想通貨が当然のように相性がいい。ただ、ビットコインやイーサ(*3)など、従来の仮想通貨は価格変動が激しく、本来、決済などに向かない面がある。ところがこれについても、実は仮想通貨の取引高を見ると、トップはテザー(USDT)、2位がビットコイン、3位がイーサだが、4位はバイナンスUSD(BUSD)、5位はUSDコイン(USDC)となっていて(2021年12月13日時点、coinmarketcapによる)、上位5通貨のうち、3つ(USDT、BUSD、USDC)は価格が1ドルに安定するようコントロールされた、いわゆるステーブルコインだ。中央銀行デジタル通貨(CDBC)といった形で法定通貨そのものをデジタル化する動き、あるいはエルサルバドルのように仮想通貨を法定通貨にするといった動きが話題になっているが、仮想通貨の世界ではすでにステーブルコインが法定通貨的とも言える扱いで決済に活用されている。
*3 イーサ:イーサリアム上の仮想通貨のこと。なお、日本ではこれもイーサリアムと呼ぶ場合が多い。
<参考記事>「危険な実験場」は本当か? ビットコイン、法定通貨へ エルサルバドルの目算
さらに、2021年後半から急速に関心が高まってきているWeb 3.0(*4)も、ブロックチェーン技術がベースになっている。 2022年は、ブロックチェーン技術の活用にさらに大きな弾みがつく年になりそうな気がしてならない。
*4 Web 3.0:現在提唱されている新しいwebの概念。概ね、ホームページなどの情報をユーザーが一方向的に消費していたWeb 1.0(90年代)、さらにSNSに代表される双方向コミュニケーションのWeb 2.0(2000年代、ただし、フェイスブックなど特定企業に個人のプライバシー情報が集中)、に対し、分散型でプライバシー等の問題を解決することが期待されている。
クリエイティブ系AIの精度の高まり
また、流通や決済に加え、生成系、クリエイティブ系とよばれる一群の人工知能の精度が高まることで、そもそもAI自体が画像や動画、テキストといったデジタルなプロダクトや新しいアイデアを創る、あるいは人の創造的な活動を支援するといった環境が整いつつある。こちらも従来はディープフェイクをはじめとして、メディアではどちらかというとキワモノ的にセンセーショナルに取り上げられてきた。
AIのユースケースにはAIの精度に対していくつかのパターンがあり、精度の向上に応じてビジネス的なリターンが見込めるレコメンデーションのようなアプリケーションに対し、精度がある期待レベル(閾値)を超えないと、面白がられてもビジネス的には価値がなく利用されない、例えば翻訳のようなアプリケーションがある。生成系のAIは後者のタイプだと考えられるが、2021年はいわゆる画像を中心とするGAN(5)系のアルゴリズムに加え、GPT-3などに代表される言語モデル(6)が、ある意味でオモチャの域を超え、本格的なビジネスユース、例えば、GitHubのCopilotのようにプログラミング支援といった形での利用が広がってきた。クリエイティブAIについても、DeepLに代表されるAI翻訳同様、精度が閾値を超えたと考えていいのではないだろうか。
*5 GAN:敵対的生成ネットワークのこと。Generative Adversarial Networkの略で、生成AIと真贋分類のAIを競わせることで本物そっくりの画像を生成する。
*6 言語モデル:大量の言語データから単語の前後関係を学習し、次単語を予測するAI
ちなみにガートナー社では、2025年には全データの10%は生成系のAIによって生成されると予測している。さらに2021年7月にはDABUSと名付けられたクリエイティブAIそのものを特許の発明者とする初の特許が南アフリカで成立しており、2022年はこういったクリエイティブAIの動きからも目が離せない。
デジタルがデジタルを創り、さらにデジタルに流通してデジタルに取引される。ブロックチェーンとクリエイティブAIの普及によって、2022年はそんな近未来を垣間見る年になるのではないか。
(執筆者:鈴木 健一)GLOBIS知見録はこちら