日本企業でCFOを導入している企業は珍しくない。CFOは、会社における財務会計の統括として、資金繰りなどを左右する重要な存在である。この記事では、CFOの役割や日本に導入された理由、CFOと取締役や社長・副社長といった他の役職との違い、CFOへのキャリアパスについて解説する。
目次
CFOとは
CFO(Chief Financial Officer)は、アメリカ型のコーポレート・ガバナンスとともに導入された会社内部の役職名である。日本語訳は「最高財務責任者」だ。財務部門のトップであるだけでなく、財務面からCEO(最高経営責任者)等とともに会社経営をマネジメントする経営者としての役割が求められる。
CEOやCOO(最高執行責任者)といった役職と同様に、日本企業でCFOを導入している会社は珍しくないが、会社法上の役員ではなく各社の判断で導入、運用されている。
CFOの導入経緯
1990年代の日本企業を取り巻く経営環境の変化に伴い、アメリカ型のコーポレート・ガバナンスにならった執行役員制度が導入されるようになった。執行役員制度とは、会社の業務執行を担う「執行役員」を選任することによって、経営から業務執行を分離し、外部の取締役を含む取締役会が業務執行の監督に集中できるようにするための制度である。
透明性の高い企業統治の方法を導入するには、再び国際競争力を高める契機とすることや、海外の投資家等へのアピールなどが目的にあったと考えられる。この流れで、アメリカの職名であるCEOやCOO、そしてCFOといった役職が導入されるようになった。
CFOがなぜ日本企業に求められるのか
CFOは、資金調達の方法に変化が起こったことによって必要とされるようになったと考えられている。これには、1990年代初頭に発生したバブル崩壊によって、企業が銀行から資金を調達しづらくなった事情がある。
バブル経済期は不動産の価値が高く、不動産を担保にすることで融資を受けることが容易であった。しかし、バブル崩壊後は不動産の価値が下がり、担保となるものがなくなった結果、銀行から融資を受けることが難しくなった。そこで、投資家から出資を受ける必要性が生じるが、融資と投資では根本的にしくみが違う。
融資は、貸主が資金回収できるか否かが重視されるが、投資は企業の将来性が重視される。投資家から出資を受けるには、財務の専門知識だけでは足りず、会社の将来性や自社の市場における優位性、事業戦略を踏まえた成長性を、経営者の視点から投資家に説明する必要がある。
そこで求められるようになったのが、財務の専門知識と経営の視点の両方を持ち合わせた、CFOという人材だ。
近年は、企業のグローバル化に伴い、国際基準での財務情報の開示や、その基盤となる透明性の高い経営体制が求められる。
例えば、透明かつ公正な経営に基づく財務情報を投資家にわかりやすく提供し、対話をして、企業の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を図ることは、2015年に策定されたコーポレートガバナンス・コードの期待するところである。上場を目指す多くの企業が目指すべきものだ。
CFOには、時代が求める企業の在り方に対応しながら、財務や会計の専門知識を企業の経営戦略に落とし込み、企業価値の向上を追求することが求められている。
CFOに求められる3つのスキル
CFOが、これまでに述べたような役割を果たすため、以下のようなスキルが必要とされる。
1.財務等に関する知識
CFOはCEO等とともに経営計画を策定し、財務の専門知識に基づき企業価値を向上させることが求められる。よって財務会計、経理、税務の知識が不可欠である。
2.マネジメント能力
CFOには、財務面から経営にアプローチするマネジメント能力も求められる。財務会計や税務関係のコンプライアンスに配慮した計画を提案し、会社に貢献しなければならない。
コミュニケーション能力
CFOからの提案は、財務部以外の部門の理解と協力が欠かせないことが多い。そのため、CFOの役割を果たすには社内で円滑な関係を築くことのできるコミュニケーション能力も必要だ。また社外では、金融機関や株主等に適切な説明責任を果たすことが求められる。
CFOの6つの役割
CFOは、財務部長や経理部長が果たす役割に加えて、経営視点で財務に関する活動を統括し、財務を通じて企業価値を向上させる施策を行わなければならない。
財務会計の知識が必要であることはもちろん、経営視点で戦略を考える能力と、社内外に対する高いコミュニケーション能力が求められる。このことから、一般的にイメージされる財務部長や経理部長よりも、職責の範囲は広いといえる。
具体的には、下記のような場面でCFOの力が求められる。
1.財務戦略の策定
CFOは、経営と財務の視点から、企業価値を最も効果的に高めるための戦略をCEOとともに策定し、それを着実に執行することが求められる。
2.資金調達
資金調達の際には、自社の状況を正しく把握し、いつまでにどのくらいの資金調達を行うか、資金調達を融資で進めるのか、出資を募るのかを判断して実現のための活動を統括する。投資家から出資を募る際は、自社の成長性や市場の優位性を投資家に自ら説明することも求められる。
3.M&A戦略策定
事業を連続的に成長させるには、既存の事業を買収するM&Aを選択することもある。効果的に企業価値を向上させるためには、どのタイミングでM&Aを活用するかをCEOとともに描きながら、そのための資金調達やM&Aに絡むリスクの問題解決も統括していくこととなる。
4.財務管理
集めた資金に対して、日々の予実管理やKPI管理をしながら、企業価値を最も効果的に高める戦略を打ち出し、次のステージに導かなければならない。
5.上場準備
上場を見据える時期には、証券会社や監査法人といった関係者との渉外や内部統制の整備、資本政策をCFOがリーダーとなって計画的に進めなければならない。
6.適切な情報開示
上場企業や上場を目指す企業にとって、株主や投資家に対する適切な情報開示は、法律上の要請のみならず、市場の信頼性確保には欠かせない。
補充原則においても、取締役会や監査役会は、外部会計監査人からCEOやCFOなど経営陣幹部へのアクセスを確保すべきとされており、CFOには、財務情報、非財務情報にかかる会社の情報開示をわかりやすく行うことが求められる。(補充原則3-2②)
CFOと他の役職の違い
CFOとそれ以外の役職は、会社においてどのような違いがあるのだろうか。ここでは、CFOとそれ以外の代表的な役職との違いを解説する。
CFOと代表取締役や取締役との違い
CFOと代表取締役や取締役は、会社法上の機関や役職であるかないかの点で異なる。また、代表取締役や取締役が会社の業務執行を担うのに対し、CFOは財務活動の統括を担うことから、職務の範囲も異なる。
ただし、CFOを導入している会社では、代表取締役兼CFOや取締役兼CFOのように、取締役とCFOを兼務している場合が多い。もちろん、そのどちらでもない者がCFOに就任している場合もある。所感としては、取締役兼CFOが多い。
CFOと社長や副社長との違い
社長や副社長は、会社のトップとナンバー2の意味合いで用いられる肩書きである。法律上の職制ではない点においてはCFOと共通するが、社長や副社長の業務も財務に限らないことから、職務の範囲に違いがあるといえる。
ただし、CFOを導入している会社では、社長や副社長がCFOを兼任することもある。
CFOと執行役員の違い
「執行役員」とは、執行役員制度を導入する会社が運用する役職のことで、会社法上の役員ではなく会社内部の職制である。
通常、複数名が取締役会によって選任され、個別に担当する業務が多いことから、CFOのように財務に限らない点や業務を統括する立場に限らない点に違いがある。なお、執行役員がCFOを兼務することもある。
CFOとCEOの違い
CFOは「最高財務責任者」として、会社の財務に関する活動を統括する役職であるが、CEO(Chief Executive Officer)は、「最高経営責任者」として、財務を含む会社全体の業務執行を統括する役職である。
CFOは職務範囲が限定されているとはいえ、財務は企業活動の要であり、CEOと同様に会社にとって重要な役割であることは変わりない。そのため、社長CEO、副社長CFOの体制を築いている会社や、CEOとCFOの二名を代表取締役とする会社もある。中には、CEOがCFOを兼務しているケースもある。
CFOとCOOの違い
COO(Chief Operating Officer)は、「最高執行責任者」として、営業活動に関する業務執行を統括する役職であり、CFOとは統括する対象に違いがある。
アメリカの会社では会長をCEO、社長をCOOとするスタイルがあり、日本でも同様の内部統制が見られる。そのため、「COO=ナンバー2」のイメージを持ちやすいかもしれないが、実際はCFOを副社長とする企業も多く、COOとCFOの間に職務上の優劣は特にない。
CFOへのキャリアパス
CFOは、具体的に会社においてどのような活躍をして、どういったキャリアパスを描いた結果としてなれるのだろうか。さまざまな企業のCFOの経歴を確認すると、下記のような経験を積んでいるケースが多いようである。
財務や経営管理の担当者
CFOには、自社や他社において、経理や財務、経営管理、経営企画などの経験者が多い。また、執行役員制度を導入している会社では、執行役員を経て取締役CFOになるケースも見られる。
金融機関や証券会社、監査法人に勤務
金融機関や証券会社への勤務や、公認会計士として監査法人への勤務を経て、転職先の企業の取締役CFOに就任したりするケースもある。このようなキャリアパスを持つCFOがいれば、融資やIPOなどの会社を大きくするために欠かせないノウハウを外部から獲得できるメリットがある。
CFOの業務に関係する5つの資格や検定
CFOには、財務に関する専門な知識が必要だ。ここでは、CFOの業務に関連する資格や検定を5つ紹介する。
1.CFO資格試験
日本CFO協会による、CFOとしての知識と資質を身につけていることを認定するための資格試験である。CFO資格は難易度やジャンルに応じて下記の4つに分かれる。
・MBAコース ジェネラルCFO
MBAのファイナンスコースのコア知識を持っていることを証明する資格だ。
・国際コース グローバルCFO
グローバル企業の企業財務に必要な知識を幅広く身につけていることを証明する資格である。
・上級コース プロフェッショナルCFO
企業財務のさまざまな課題を解決できる専門知識を身につけていることを証明する資格だ。
・基本コース スタンダードCFO
経済産業省「経理・財務サービス・スキルスタンダード」に完全準拠した資格である。
2.FASS検定
日本CFO協会が、経済産業省の委託事業として開発した検定試験である。
試験は、資産分野、決算分野、税務分野、資金分野の4つから構成され、年2回受検できる。財務管理、決算や申告書作成など、経理や財務に関する実務の習熟度を測る。評価はA~Eの5段階に分けられ、最も高いA評価は「業務全体を正確に把握し、自信を持って遂行できる」と評される。
(参考)FASS 経済産業省 経理・財務人材育成事業 公式サイト
3.日商簿記検定
日本商工会議所が実施する、業界を問わず知名度の高い検定だ。年に3回(1級は年2回)実施されている。1級は、商業簿記と工業簿記、原価計算からの出題となり、合格率は高くない。レベルは大学の会計学の知識程度だ。
(参考)日本商工会議所HP:簿記
4.MBA (Master of Business Administration)
MBAとは、大学院(ビジネススクール)が授与する経営学の学位であり、資格や検定とは異なる。日本の大学院ではMBAと名の付く学位はなく、修士課程での学位は「修士(経営学)」、専門職学位課程での学位は一般的に「経営管理修士(専門職)」だ。
なお、修士課程と専門職学位課程の一般的な違いは、文部科学省の「専門職大学院制度の概要」で説明されている。
(参考)文部科学省HP:専門職大学院
5.公認会計士
日本の三大国家資格の一つで、財務会計に関する専門資格である。
短答式試験(4科目)と論文試験(5科目)の両方を突破しなければならない。会計分野だけでなく監査論や企業法(会社法や金融商品取引法などの総称)もあり、難関資格として位置づけられている。
CFOを目指すための試験と考えるとハードだが、公認会計士として監査法人等で活躍したキャリアのある人物が、企業の取締役CFO等として活躍している会社もある。
(参考)金融庁HP:公認会計士試験
CFOは財務会計の統括として会社の財政を守る立場
CFOの役割や、日本に導入された理由、CFOと取締役や社長、副社長といった他の役職との違い、CFOへのキャリアパスについて解説した。CFOは、会社における財務会計業務の統括として、会社の財政上の課題解決やトラブル発生の未然防止など、その責任は重い。
財務や経理担当からCFOに就任することもあるが、専門知識のさらなる研鑽のために各種資格や検定の取得も視野に入れるといいだろう。
資金調達やM&Aの手法は進化し続けており、企業がCFOに求める役割は、非常に専門性の高いものとなっているといえる。
CFOに関するQ&A
Q:CFOの意味は?
CFO(Chief Financial Officer)とは会社内部の役職名であり、日本語では「最高財務責任者」と訳される。透明性の高い企業統治を行い、再び国際競争力を高めるために、アメリカ型のコーポレート・ガバナンスにならった執行役員制度が日本企業に導入される際に、CEOやCOOなどの役職とともに導入された経緯がある。
CFOを財務部長などの役職と同等と見る傾向もあるが、財務のトップであるとともに経営陣の一員として執行責任を負い、財務の専門知識や経験から企業価値を最大化するための企業経営を企画、実行していかなければならない。
法律上の役職ではないため、登記は行われない。導入するかどうかは会社の自由であり、導入した場合の代表権の有無等も会社によって異なる。
Q:CFOの職務内容は?
CFOの役割は、財務会計等の専門知識を企業の経営戦略に落とし込み企業価値の向上を追求することにあり、その職務内容は、財務部門のトップとしての役割から会社経営にまで及ぶ。
具体的には、会社の財務戦略の策定、企業戦略に合わせた資金調達の計画と実行、企業価値の向上を含む効果的なM&A戦略の策定、会社の財務管理、上場準備、投資家や株主に対する適切な情報開示などがあげられる。
対外的な説明責任を果たすことが求められるため、内部統制やコンプライアンスに対する理解が必要であると同時に、企画力やコミュニケーション能力も求められる。
Q:CFOとCEOはどちらが偉い?
CEO(Chief Executive Officer:日本語訳は「最高経営責任者」)は会社経営のトップであり、CFO(Chief Financial Officer:日本語訳は「最高財務責任者」)は財務責任者の立場から会社の意思決定に関与する。そのためCFOは、CEOへのステップとして扱われるなどCEOに次ぐ役割として運用されるケースが多いようである。
例えば、代表取締役CEOと取締役CFO、社長がCEOで副社長がCFOなどとして運用しているケースがある。ただし、CFOは法律上で定められた役職ではなく、導入するかどうかは会社の自由だ。そのため、どのように運用するかも会社の自由である。
Q:CFOはどうやったらなれるのか?
CFOになるには、財務会計や経理の知識が不可欠だ。このことから、公認会計士などとして活躍した人材をCFOに選任する企業も少なくない。しかし、そのような人材でなくてもCFOとして活躍できる可能性はある。
CFOになるため絶対に必要な資格や経歴はなく、むしろマネジメントスキルや社内外と円滑な関係を築くコミュニケーション能力も財務等の専門知識と同様に重視される。
日本CFO協会もホームページ上で「営業畑、管理畑、システム畑といったさまざまなジャンルで成功を収めたビジネスマンが、CEOへのステップとしてCFOで活躍するケースも少なくありません」としており、多様な経営人材が活躍できる職種と考えてよいだろう。
CFOになるための手続きについては、社内で取り決めた手続きで選任すればよい。もちろん、取締役CFOであれば、取締役になるための会社法上の選任手続きが必要だ。
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文・中村太郎(税理士)