一度は耳にしたことがある「印象派」という言葉。長い美術史の中でも人気が高く、最近は展覧会のタイトルでも見かけることが多い。しかし、結局「印象派」って何なんだろう?と思ったことはないだろうか。本記事では知ってるようで知らなかった印象派絵画の魅力を5分でわかりやすく解説。

印象派って何?

印象派(Impressionism)とは、1860年代に起きた芸術運動のことである。現実をそのままキャンバスに写すことを重視したのがポイントで鮮やかで明るい色彩の風景画が多く描かれた。写実主義やバルビゾン派(写実主義グループのひとつ)の延長ともいわれている。印象派の作品が登場し始めたのはフランス革命後間もなく。人々の気持ちや文化的、政治的にも混乱している最中だった。パリを中心とした科学技術や鉄道蒸気船の発達に伴い、画家たちの制作スタイルもアトリエから屋外へと変化し、印象派が誕生した。

今でこそ価値があり高額で取引されている印象派の作品だが、登場した当時は全く世間に受け入れられなかった。なぜなら、当時の美術界で最も力があったのがフランスの王立絵画彫刻アカデミーと呼ばれる団体だったからだ。団体が主催する年1回のサロン・ド・パリというイベントで入賞することが画家の登竜門とされていた。しかし、印象派の画家たちはことごとくサロンに落選してしまったのだ。

なぜ受け入れられなかったのだろう?当時アカデミーには、新古典主義の考え方が浸透しており、神話や重厚な歴史がテーマ、きめ細かな仕上げ、画家の出身や出身校、師匠など経歴が重要視された。それは印象派が掲げる技法や構図とは正反対のものだったのである。アカデミーが好んだ絵画は《ヴィーナスの誕生》のような神格化された絵画であり、実際にナポレオン3世が購入している。

印象派絵画の特徴

では、印象派の絵画の特徴はどのようなものだったのか。比較しながら表現の特徴をまとめてみよう。

印象派 アカデミー
仕上げ 仕上げが荒い。大胆に絵の具を塗り重ねる手法 写真のようにつるつるな表面
(筆触を感じさせないほど綺麗に仕上げるのが主流だった当時、印象派のタッチは描きかけの絵に見えた)
光と影 影に用いる色は黒か灰色
制作方法 野外で描く戸外制作 アトリエにこもって制作
テーマ 自然や風景や街の人々の生活 神話や歴史的英雄

違いがお分かりいただけただろうか。ルノワールがパリの人々が余暇を過ごす風景を描いた《ムーラン・ド・ラ・ギャレット》や刻一刻と変化する風景の一瞬を捉えようとした結果連作となったモネの《睡蓮》は印象派の特徴がよくわかる代表作である。

ルノワール《ムーラン・ド・ラ・ギャレット》
(画像=ルノワール《ムーラン・ド・ラ・ギャレット》)

画像引用;https://www.musee-orsay.fr/

印象派という名前の由来は?
印象派が人気になるまでの道のり

上記のように印象派とは異なる評価基準を持つアカデミーであったが、1863年、その偏った審査内容についに画家たちの不満が爆発する。そこでなんとナポレオン3世がとった対策は、落選者展の開催をするというものだった。落選者展には多くの印象派の絵画も展示されたが、ここで話題になったのがマネが出品した《草上の昼食》。裸体が描かれた作品を目の当たりにした鑑賞者たちから酷評を浴びせられスキャンダルとなった。

1870年代に入り、普仏戦争が勃発。1873年にはヨーロッパ全体が大不況となる中、1874年に印象派の画家たちが集まり第一回印象派展を開催した。印象派という名前は版画家のルイ・ルロワが名付けたとされており、その時に出品されていたモネの《印象、日の出》と言うタイトルから引用したといわれている。

その後、自身も画家であるギュスターヴ・カイユボットの経済的な援助もあり、印象派展は12年の間に第8回まで開催される。しかし、やはり批評家からの評判は悪いままだった。当時印刷技術の発達に伴い、新聞記事に掲載される批評家の言葉の力も大きくなっていたことも影響し、印象派の作品へのイメージは下降の一途を辿ったのである。

ここで行動を起こすのが画商デュラン・リュエル。印象派の画家を評価し作品を購入し続けた唯一の人物だ。彼は自分が所蔵していた絵画を片手に最後の望みをかけ新興国アメリカに挑戦する。この行動が奇跡を起こした。酷評されていた絵画たちがニューヨークで受け入れられたのだ。他国で大成功をおさめたことをきっかけに、パリでも印象派が少しずつ日の目を浴びはじめる。1891年、モネが発表した連作《積み藁》が評価され、1892年にはルノワールの個展、1895年にはセザンヌの個展も開催されいずれも大盛況となった。その後、印象派の価値は少しづつ高まり、世間に受け入れられていった。そして更なる進化をとげ、ポスト印象派、新印象派の時代へと突入していくーー。

印象派の代表画家と親交関係

クロード・モネ(1840年11月14日〜1926年12月5日)
18歳の時、風刺画を描いてお小遣い稼ぎをしていたモネは、ウジェーヌ・ブーダンに風景画に取り組むように説得される。ブーダンが乗り気でないモネを屋外へ連れ出し外で絵を描く楽しさを教えたことで、モネの有名な絵画たちが誕生することとなる。1899年から制作を始めた代表的な近代絵画の連作「睡蓮」は生涯を費やして取り組んだ大作で、晩年にはオランジュリー美術館を飾る「大装飾画」を完成させた。その影響はアート界だけにとどまらず、モネらの絵画にインスピレーションを受けたクロード・ドビュッシーらは印象主義音楽と呼ばれるピアノ音楽の様式を構築した。

エドゥアール・マネ(1832年1月23日-1883年4月30日)
19世紀パリのモダンな生活風景を描いた最初の画家で、写実主義から印象派への流れを作った人物といわれている。上流階級の家庭で育ったマネだが、裕福な生活を捨て絵画の世界に夢中になる。1863年に落選展で展示した《草上の昼食》や、1865年に発表した《オランピア》は、パリの娼婦の裸体を描いたもの。これらの作品をきっかけに近代美術の父とも呼ばれる。マネのモデルとして知られるベルト・モリゾは印象派で最も人気のある女性アーティストといわれている。

エドゥアール・マネ《オランピア》
(画像=エドゥアール・マネ《オランピア》)

画像引用:https://www.mtholyoke.edu/

ポール・セザンヌ(1839年1月19日-1906年10月22日)
当初は印象派として活動し印象派展にも出展していたが、1880年代からグループを離れ伝統的な技法に囚われない独自の絵画様式を探求した。ポール・ゴーギャン、フィンセント・ファン・ゴッホとならんで3大後期印象派の1人とされている。彼の技法は後の芸術様式であるキュビスムの基礎となった。

ピエール=オーギュスト・ルノワール(1841年2月25日-1919年12月3日)
印象派の発展においてリーダー的な役割だった。初期には新古典主義のアングルや、ロマン主義ドラクロワなどの影響を受け、創作活動を行っていた。その後、印象派のグループに加わる。晩年は女性の美を追求し肖像画で独自の境地を拓いた。

カミーユ・ピサロ(1830年7月10日-1903年11月13日)
1874年から1886年の間に8度開催された印象派展すべてに参加した唯一の画家。ギュスターヴ・クールベやジャン=バティスト・カミーユ・コローなどに影響を受け、ジョルジュ・スーラやポール・シニャックらとともに印象派の発展に貢献する。アルフレッド・シスレーやポール・ゴーギャンもピサロを兄と慕っていたという。彼ががモチーフとして描いたものは、農村の自然と人物。グループで最年長だっただけでなく、親切で温かい人格の持ち主といわれている。

エドガー・ドガ(1834年7月19日-1917年9月27日)
フランスの画家、彫刻家、版画家。印象派の創設者のひとりとみなされており、グループに携わっていたが、ドガ自身は印象派ではなく写実主義であると主張していた。バレエを主題とした作品で知られており、作品の半分以上はバレエの絵。デッサン力に優れ、バレエダンサーや競馬場の馬や騎手などの「動き」を描写するのが得意だった。幼少の頃は古典芸術の熱心な研究をしていたが、30代前半からマネの影響を受けて、スタイルを変更。モダニズム生活の古典画家と呼ばれるようになった。女性のアメリカ人画家であるメアリー・カサットと親交が深かった。

日本の影響を受けている!? 西洋絵画に影響を与えたジャポニズム文化

西洋美術である印象派は実は日本の絵画にも影響を受けている。日本の絵画がはじめて紹介されたのは、1867年にフランス・パリで開催された万国博覧会でのこと。そこで大ブームを起こしたのが日本の浮世絵だった。後に印象派と呼ばれる、パリの若い芸術家たちに多大な影響を与えた。

それまで西洋での絵画といえば、戦争画や宗教画、貴族の肖像画であったが、庶民の日常を描く浮世絵の自由な画風や明るい色彩、大胆な構図は驚きと新しい表現の扉となった。浮世絵ファンで知られるゴッホは熱心な収集家でもあり、現在ゴッホ美術館にはゴッホが所有していた計477点の浮世絵が収蔵されている。

クロード・モネ« ラ・ジャポネーズ »
(画像=クロード・モネ« ラ・ジャポネーズ »)

画像引用;https://www.claude-monet.com/

文化や芸術に目まぐるしい変化があった19世紀パリでの芸術運動。印象派の作品は、光と影、一瞬の変化を逃さずキャンバスにとどめようとした画家の思い、色彩で溢れている。今もなお私たちの心を掴み続けるのは、画家たちの歩んできた道が色濃く投影されているからかもしれない。印象派の歴史を知り、絵画をみることで新しい発見をしていただけたら嬉しい。

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文:ANDART編集部