
大小問わず、近年さまざまな企業から実施されているMBO(マネジメント・バイアウト)。今回は企業がMBOを実施する目的やメリット、実際の進め方などを解説する。新たな経営戦略を増やすために、本記事でMBOの基礎知識やポイントを学んでいこう。
目次
MBOとは?使うシーンによって意味が変わる用語
経営戦略の策定時やM&Aなど、「MBO」はさまざまなビジネスシーンで登場する用語だ。実はこのMBOには2つの意味があり、使用されるシーンによって意味合いが変わってくる。
経営戦略としてのMBO
経営戦略におけるMBOとは、「目標管理制度(Management By Objective)」のことである。
具体的には、それぞれの社員・グループが自律的に目標を設定する体制を指し、最近では現代社会に合った組織マネジメントとして注目されている。
もともと目標管理制度は、経営学者P.F.ドラッガーによって1954年に提唱されたものだが、年功序列制度が浸透していた当時の日本では受け入れられなかった。しかし、近年では成果主義を導入する国内企業が増えてきたため、従来のトップダウン型の目標制度から脱却する企業も多く見られるようになった。
M&AにおけるMBO
M&AにおけるMBOとは、企業の経営陣が既存株主から株式を買い取る戦略のことだ。訳さない場合は「マネジメント・バイアウト(Management Buyout)」と称されており、最近では中小企業が後継者不足を解決する方法として注目されている。
マネジメント・バイアウトを実施すると、特定の人物に自社株式を集中させられるので、会社の経営権をスムーズに移せる。ただし、株主からの反感や資金調達などのリスクも潜んでいるため、実施前には綿密な計画を立てておく必要がある。
MBOとTOBの違い
M&AにおいてMBOという用語を使う場合は、「TOB」との違いに注意しておきたい。
TOBは「株式公開買付」のことであり、主に上場企業を買収する手法として用いられる。証券取引所を介さない点が特徴的であり、実施前には買付期間や価格、買付予定株数などが公開される。
つまり、TOBはMBOの一種と言い換えられるが、買収対象に中小企業が含まれないためMBOと区別されている。
MBOを実施する主な目的
ここからはM&AにおけるMBO(マネジメント・バイアウト)に絞って、解説を進めていこう。
企業がMBOを実施する目的としては、主に以下の4つが挙げられる。

上記の通り、MBOを実施する目的は企業によってさまざまである。最近では後継者不足の解決策として注目されているが、ほかにも複数の活用方法があるため、経営戦略のひとつとしてしっかりと覚えておきたい。
MBOを実施する方法とプロセス
MBOを成功させるためには、綿密な計画を立てた上で適切なプロセスを踏むことが重要になる。
ここからは、MBOの一般的な実施方法を解説していく。
【STEP1】企業価値(買取価格)を算出する
まずは株式の買取にあたって、企業価値を算出する必要がある。細かく見るとさまざまな算出方法があるものの、大別すると以下の3つに分けられる。

適正な企業価値を算出することは難しいため、実際の算出では複数の方法が用いられるケースも多い。
【STEP2】受け皿となる新会社の設立
MBOによって事業の一部を移転させたい場合は、受け皿となる新会社を事前に設立しておく。このときの創業者は買収する経営陣であり、買収した株式を新会社に移すことでMBOを進めていく。
なお、子会社の分割によってMBOを進める場合は、その子会社を独立させれば手続きが完了するため、新たに会社を設立する必要はない。
【STEP3】買収資金の調達
経営陣の買収資金が不足している場合は、MBOの実施までに資金を調達しなければならない。一般的には銀行や関係会社などから借り入れることが多いものの、資金調達には以下のような手段もある。
・投資ファンドからの出資
・証券会社からの出資
・日本政策金融公庫からの融資
・ビジネスローンの利用 など
必要資金を調達できればどの方法でも問題はないが、資金調達があまりにも遅れるとタイミングを逃してしまう恐れがある。
例えば、資金の調達中に対象企業の時価総額が変動すると、当初の想定よりも多額の資金が必要になる可能性もあるので、基本的にはスムーズな調達方法を選ぶことが望ましい。
中小企業がMBOを実施するメリット・デメリット
MBOはさまざまな経営課題を解決できるが、その反面で注意すべきデメリットも潜んでいる。具体的にどのようなメリット・デメリットがあるのか、自社の状況を意識しながらチェックしていこう。
MBOのメリット
中小企業がMBOを実施すると、主に以下のようなメリットが生じる。
・情報漏えいや風評リスクを回避できる
・経営環境に大きな変化が生じにくい
・従業員からの理解を得やすい
・オーナーの手元に売却益が残る
中小企業のMBOでは、株式のやり取りが企業内部のみで発生するため、情報漏えいを懸念する必要がない。また、一般的には「経営者を交代する手法」といったイメージが強いので、企業買収のような風評リスクも発生しづらいだろう。
そのほか、信頼できる経営陣に会社を譲渡することで、従業員の待遇や企業風土などを維持できる点も大きなメリットだ。企業買収に比べると従業員の不安が少ないため、MBOによって組織の一体感を構築したようなケースも存在する。
MBOのデメリット
一方で、中小企業のMBOには以下のようなデメリットも潜んでいる。
・既存株主との対立
・新会社に多額の債務が残る
・経営体質(上層部)を変えにくい
MBOを成立させるには、経営陣だけではなく既存株主からの同意も必要になる。既存株主が応じないと、そもそもMBOの実行が不可能になってしまうため、企業価値の算定には細心の注意を払わなくてはならない。
また、MBO実施に向けて資金調達をする場合は、多額の債務が新会社に残ってしまう。この債務が重荷になると、将来的に経営が破綻する可能性も考えられるので、経営陣は早いうちからできる限りの資金を貯めておくことがポイントになる。
事例から学ぶMBOを成功させるポイント
実際にMBOを行うと、当初想定していなかったリスクが生じることもある。状況に応じて細かく対処をすることが求められるので、MBOを検討している方は以下のような事例にも目を通しておきたい。
【事例1】MBOの実施直後に経営者が解任
業績悪化に苦しんでいた『すかいらーく』は、上場廃止を目的として2006年にMBOを計画した。『野村ホールディングス』のTOBによってMBO自体は完了するが、後にすかいらーくには以下のような弊害が生じている。
・上場廃止直後に経営者が解任された
・2,200億円の莫大な負債(借入金)が残った
・収益の大部分を返済とのれん代償却に充てることになった
同社は2014年に再上場を果たしているが、MBO実施後の弊害を見てみると成功例とは言い切れない。特に、解任された経営者にとっては大きなダメージであり、将来的に受け取れるはずだった利益をすべて失う結果になっている。
MBOを実施すると、新たな経営陣に経営権を譲渡することになるので、当初想定していた結果につながらないこともある。そのため、新たに経営権を握る人物やその後の経営方針については、実施前に細かく確認しておく必要があるだろう。
【事例2】最終的な判断を株主に委ねたMBO
次は、国内でも大きく取り扱われた『CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)』の事例を紹介しよう。同社は経営権の強化や事業の再構築を目的として、2011年にMBOを実施した。
上場企業のMBOでは通常、取締役会による応募推奨(買付を推奨すること)が行われるが、同社は応募推奨をせずにTOBの実施を発表。MBOは無事に成立したものの、最終的な判断を株主に委ねたことで、前例がないMBOとして多くの注目を浴びた。
基本的に株主は利益を求める存在なので、上場廃止につながるMBOの判断をすべて委ねる行動はリスクが高い。この事例においても株主の大部分が反発をすれば、同社のMBOは非常に厳しくなったはずだ。
自社株式を多くの株主が保有している場合は、MBOがそもそも成立しない可能性も考えられる。
したがって、MBOの実施前には社内の関係者だけではなく、各株主の意思もできる範囲で確認しておきたい。
専門家からのアドバイスも効果的!MBOの主な相談先
MBOは実施後の状況が読みづらく、ケースによってはさまざまなリスクが顕在化する。そのため、実施にあたって不安を感じている場合は、以下のような専門家の活用も考えたい。
・MBOアドバイザリー
・M&A仲介会社
・公認会計士
・弁護士
・銀行などの金融機関
上記の中でもMBOアドバイザリーやM&A仲介会社は、MBOにおけるさまざまなプロセスをサポートしてくれる。金融機関やその他専門家と連携している相談先を選べば、さらに包括的なサポートを受けられるはずだ。
ただし、専門家によって得意とする分野や規模、料金などは異なるので、相談先を選ぶ際には入念に情報収集することを意識しよう。
リスクを抑えるために早めの準備を
MBOはさまざまなメリットがあるものの、今回紹介した事例のように失敗するケースも多い。特に借入金による莫大な負債は、新たな経営者にとって深刻な負担となり得る。
このようなリスクを少しでも抑えるために、MBOを検討している経営者は早めに万全の準備を整えておこう。
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文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)