ベンチャー企業,ワンマン経営者
(写真=Jirsak/Shutterstock.com)
黒坂 岳央
黒坂 岳央(くろさか・たけお)
水菓子肥後庵代表。フルーツビジネスジャーナリスト。シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、東京で会社員を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。ビジネス雑誌やニュースサイトでビジネス記事を書いている。著書に『年収1億円超の起業家・投資家・自由業そしてサラリーマンが大切にしている習慣 “億超えマインド"で人生は劇的に変わる!』など。

勢いのあるベンチャー企業の経営者は、ワンマン社長が多いというイメージを持っている人もいるだろう。実際、そのイメージ通りにワンマン社長は多い傾向だ。なぜこのようなことが起きるのか?その理由を解説する。

「結果」としてワンマン社長になる理由

ワンマン社長には、あまりよいイメージがない。「オレは誰の言うことも聞かないぜ。みんなオレの言う通り黙って従え!」というのは単なる感覚であって、実際にそういう気質の人がワンマン社長になるのではなく、ワンマン社長にならざるを得ずにワンマン社長という役柄を演じているに過ぎない。

会社という組織は、プレーヤー全員がセルフスターターで自発的に動く人ばかりではない。比率で言えば、8割、場合によっては9割以上が誰かにつられて動くという「他燃型」のビジネスマンであろう。だから会社という組織に人が集まるだけでは、何も始まらない。

誰かが全員を引きずって、大きな波を作り出す必要がある。最も多いパターンとして、一番権限を持っていて起業して会社を立ち上げてしまうようなセルフスターター気質の社長がもっとも適任ということになる。従業員はその背中を後追いしているに過ぎないのだ。

ワンマン社長はガバナンスがゆるいベンチャーならでは

筆者は昔、ベンチャー企業で働いた経験があるし、現在はベンチャー企業を経営している。

過去に働いていたベンチャー企業では、まさに社長はワンマンであった。あまり良い表現ではないが、役員、本部長はすべて彼の犬のようであった。朝令暮改は当たり前、朝は白と言っていても、夜には黒だと言って従業員が振り回されていた感覚だ。

まさにワンマン社長である。その後、筆者は従業員が2万人、売上高1兆円以上の外資系上場企業に転職したが、こちらはワンマン社長はおらず、いたのは典型的なサラリーマン社長だ。

ベンチャー企業と上場企業の違いはいくつかあるが、ひとつに「ガバナンスの強度」が挙げられる。上場企業は意思決定プロセスに多くの人の手を経る。社長も従業員の中では権限を持っていても、株主には逆らえない。

また、筆者のいた会社は外資系企業だったので、日本支社の社長といえども出世の通過点に過ぎなかった。外国人の社長は何年か働いた後、アジアパシフィックのシンガポール支社の社長などになっていた。同じ社長業と言っても、創業者でもない。一人で会社を作り、大きくしたベンチャー企業の創業社長とはまったく気質が異なるのだ。

ワンマン社長も役割に過ぎない

人が社長になるのではなく、社長という役割が人を社長にする。ベンチャー企業のように、スピーディーで激しい変化に対応しなければならない環境下においては、ワンマン社長のような役割が求められている。従業員の意見をすべて聞き取り、全員を納得させるような悠長なことをしていると、次々と意思決定をして行動しなければいけない環境で生き残ることは出来ないだろう。

世の中の多くはセルフスターターではないため、否応なしにワンマン社長のような役割が求められているのである。結果として、ベンチャー企業にはワンマン社長が残るということなのだ。

ワンマン社長は人の言うことを聞かず、ブラック企業で社員を搾取しているイメージがあるがそんなことはない。筆者はワンマン社長から随分たくさんのことを学ばせてもらった。

確かに、朝令暮改に振り回された苦しい経験もあったものの、エネルギッシュに大勢を牽引するパワーや、プレゼンで輝く未来を示して、全員をそこに向かわせるコミュニケーション能力には感動させられ、今でも彼から受け取った哲学は自分の中に息づいている。ワンマン社長は付き合いにくいものなどではなく、憎まれやすい必要な役割を演じている他の人と同じ人間なのだ。それを理解すると、少しは心を寄せることができるかもしれない。

文・黒坂岳央(水菓子 肥後庵 代表・フルーツビジネスジャーナリスト)