インタビュー|中村シバン(SivanSグループ 代表取締役社長)
海外移住には様々な課題がつきものです。文化、言語、人々・・・すべてがこれまで暮らしてきた国とは違います。
時に「違い」は大きな障壁となりますが、広告代理店SivanS株式会社の代表取締役であり、ISRAERU創刊者である中村シバンは、この「違い」を武器に変え、ここまで前進してきました。「絶対あきらめない」精神と共に、遠く離れたイスラエルから日本へやってきた彼女。野心的な若いイスラエル人女性が日本で経験したこととは。日本でどのようにして自分の夢を見つけ、どのようにしてそれを追い求めたのか。
本インタビューは、各分野で活躍するイスラエル人女性に焦点を当てた、ISRAERUウェブマガジンのプロジェクト「female lead」の一環として、中村シバンにこれまでの道のり、そして今後の目標について話を伺います。
全てを変えたオーストラリアでの出会い
イスラエルで生まれ育った中村シバンは、東南アジアやオーストラリアを旅していました。そこで後に夫となる日本人男性と出逢い、この出会いが彼女の人生の軌跡に変化を与えることになります。
「軍に入り、大学に通い、就職する・・・そんな普通のイスラエル人の道を歩むだろうと思っていました。しかし、時に人生は思いがけない方向へ進みます。私は元々リスクを恐れるタイプではなく、日本に移住することにも躊躇はなかったのですが、日本に来て初めて、全てをゼロから始めなければならないことに気が付きました。」
英語が母国語ではなく日本語もわからない、頼れる繋がりもなかった彼女にとって、日本への移住はチャレンジだったと語ります。
「まず日本語を学ぶ必要があると感じました。家でたくさん勉強してから、就職活動を始めましたが、たくさんの”NO”をもらいましたね。履歴書に書かれた限られた情報ではなく、直接自分自身を紹介する機会さえあれば、納得させられると思っていました。」
そして諦めることなく就職活動を続けていたある日、出版社から電話があり、面接の機会を得ることになった中村シバン。これが彼女にとって女性リーダーから得た最初のターニングポイントとなります。
「電話を受けたときは衝撃でしたね。興奮してスーツを買いに行ったことを覚えています。面接の日には、何があっても遅れないようにと、面接の1時間前から会社の前で待っていました。
そして面接の際には、”私にとって最初の仕事になります。しっかりとしたビジネススキルもなく、日本語もよくわかりません。ただやる気に満ち溢れています”と正直に女性社長に伝えました。すると社長から”私があなたにチャンスをあげるべき理由は?”と問われ、”トップの営業担当になるからです”と答えました。」
そして採用が決定。入社6か月後には、公言通り会社でトップの営業担当となったのです。
そこから、彼女の選択肢は広がりを見せるようになりました。国内の金融会社から仕事のオファーを受けたことで、投資家向けセミナーを企画したりコンテンツを管理したりする、マーケティング部署で働くようになります。ここで彼女はマーケティングや日本のビジネスマナーだけでなく、古風な日本企業でたった一人の外国人として働くことが何を意味するのかを学ぶことになります。
「その会社では、大勢の中の一人にならなくてはなりませんでした。マニュキアも香水もつけられず、髪の毛も結わかないといけない。これは簡単ではありませんでしたね。明らかに私は異端児でした。しかし自分は経験を積む必要があることを理解していたので、とにかく自分のキャリアを築くことに集中していました。私はいつも自分自身に挑戦しているのです。どんなに困難であっても、自分が信じるもの、固執するものが必要だと思います。」
偶然の出会いから10年来のパートナーへ
そして再びチャンスが舞い込みます。
仕事で付き合いのある投資家の一人から、自身が経営する広告代理店へのオファーを受けたのです。
「代理店で働き始め、自分はマーケティングとコミュニケーションが大好きであることに気付きました。アドレナリンに溢れていましたね。自分が担当する商品への情熱と、ブランドを一緒に創り上げたいという思いは、お客さんにも伝わっていました。文化や言語の壁があったので、挑戦ではありましたが、私は日本人のマナーとイスラエル人の大胆さの両方を持ち合わせていたので、その違いをむしろ強みにしたのです。」
代理店での仕事をとても気に入っていた彼女ですが、さらに多くを求めていました。
「若い頃から常に数歩先を見据えていた私は、どこで働いていたとしても、自分の会社であるかのようにプロモーションしたいと考えていました。」
昔ながらの階級社会が障害となり、会社に限界を感じた彼女は、自身の起業精神に従い、独自のプロジェクトに取り組むことにしたのです。
溢れ出る情熱と共に、中村シバンは夢を追いかけていました。そしてチャンスを見つけるため、女性向けの起業イベントに参加していたところ、フィアットグループジャパンの女性マーケティング部長、ティツィアナ・アランプレセ氏と出逢う機会に巡り合います。
「何度も何度もアランプレセさんに連絡をし、小さなプロジェクトでもいいから私に挑戦してくれるようお願いしました。当時、私はまだフリーランスとしての歴は浅かったのですが、私の大胆さと情熱、そして前向きな考え方をアランプレセさんは評価してくれました。そしてチャンスを与えてくれたのです。
最初のプロジェクトが次のプロジェクトへ繋がり、すぐにより大きなリクエストを頂くようになりました。そして最終的に、フィアットグループのブランドエージェンシーとなったのです。アランプレセさんがくれたチャンスから、現在ではすべてのFCAブランドを担当するまでになりました。」
中村シバンにとってティツィアナ氏は、尊敬そして憧れの存在であると語ります。
「ティツィアナさんは、私がもっと良くできるよう、もっと多くのことができるよう、常に私に挑戦します。間違いなく、私にとって最も素晴らしいメンターです。」
さらなる夢を実現させる2020年
2011年、SivanS株式会社を設立、以降ビジネスを成長させ続けている中村シバン。今日SivanSグループは、FCAグループ、マセラティ、ヒルトン、サンペレグリノ、コールハーン、オーカムなど、幅広い実績とクライアントを抱えています。
SivanSグループには、親会社であるSivanS株式会社、子会社のSivanS DigitaL株式会社、SivanS Israelで構成されています。マーケティング戦略、PR、クリエイティブ、デジタル、ブランディング、オンライン&オフラインイベント、メディアバイイングと、プランニングから実行に至るまで360度のコミュニケーションを提供しています。
また中村シバンは、常に新しい事業を創り出すことを考えています。最近の例としては、新規事業としてウェブマガジン「SHOP ITALIA」を創刊。イタリア企業がコンテンツマーケティングとネイティブ広告を通して、日本でブランドを構築するためのプラットフォームを提供しています。
「私たちが仕事をしている海外ブランドのライフスタイル、アート、文化、ビジネスの情報を発信することができれば、メディアやコンテンツを販売するビジネスモデルを構築できるのではないかといつも思っていました。」
そして2020年、イスラエルに焦点を当てた「ISRAERU」を創刊。COVID-19の影響により、一度は止まりかけましたが、中村シバンはプロジェクトを進めることにしました。
「創刊を決めたのは、今が良いタイミングだと判断したからです。イスラエル人として、イスラエルを身近に感じられる事業を提供することはとても重要です。イスラエルで育ち、両親や家族がイスラエルに住む私にとって、イスラエルは感情的にも精神的にも近い存在です。」と、ウェブマガジンの未来に大きな期待を寄せる中村シバンは述べています。
「日本での20年間では、夢を実現できるということを教えてくれました。ISRAERUウェブマガジンを通じて、イスラエルの素晴らしさやユニークさを日本の読者やマーケットに知ってもらいたいです。人々が思っている以上のものが、イスラエルにはたくさんあるということを伝えるアンバサダーになりたいですね。また、今後は他の国や文化に焦点を当てたウェブマガジンも、チームと一緒に作っていきたいです。」
100%の情熱でできたワークカルチャー
中村シバンは、チームにどんな人が欲しいかよく理解しています。人々の目に映る情熱を見たり、自分を100%捧げる人と働くのが大好きな彼女は、それを支える環境を作りたかったのです。
日本国内企業での経験を通して、「肉体的」にも「精神的」にも「違う」感覚を体験した彼女は、それをSivanS株式会社のスローガン「Because we are different」へと変えました。同スローガンのもと、年齢、性別、地位、経験に関係なく、従業員が自分の考えやアイデアを表現するよう奨励しています。
特にジェンダーの壁を打破し、職場における男女平等の模範を示すことに情熱を注いでいます。
「私自身フェミニストであり、女性のエンパワーメントをサポートしています。女性が男性と同等であることを、女性に理解してもらいたいと思っています。SivanS株式会社には、リーダーポジションで働く、成功している女性がたくさんいることを誇りに思いますよ。」
常に限界に挑戦
これまで多くの功績を残してきた中村シバンですが、今なお追い求めている夢がまだ多くあると、未来への思いを語ります。
「マーケティング、広告の分野で発展と成長を続け、ビジネス分野でも前進したいと考えています。例えば、アドテック企業に投資し、広告業界にテクノロジーソリューションを提供したいと考えています。現在イスラエルにオフィスを構えていますが、より国際的な活動を拡大させるため、今後はアジア太平洋地域、ヨーロッパやアメリカにもオフィスを開設したいですね。現在の常識を超えて挑戦したい、自分自身を表現したいという人のために、この勢い増していきたいです。会社のスローガンである”Because we are different”は、限界を越えられるということを社員全員が理解するための信条です。成長を続け、これまで築き上げた文化が想像力を刺激し、未来のリーダーに力を与えることを願っています。」
SivanS株式会社
https://sivans.jp/
<撮影協力> KEI OGATA フォトグラファー。1977年渡米。アルバート・ワトソンスタジ オ助手を経て、1980年独立。フリーランスとしてVogue、GQ、Harper’s BAZAARなどエディトリアルを中心にニューヨーク、イタリア、フランスなどで活動後、1990年帰国。現在、広告・雑誌を中心に、写真集や動画など多岐にわたり活動している。 WEBSITE |