英国農業・園芸開発委員会(AHDB)は9月16日、東京都港区のザ・プリンスパークタワー東京で業界関係者向けオンラインセミナーと現地企業10社とのオンラインマッチングを開いた。
日本市場での英国産肉(牛肉、羊肉、豚肉)のプロモーション・マーケティング活動の一環で、今回の催しを皮切りに、外食業界向けコモディティ商品の商談サポートや展示会(Foodex Japan 2022)出展、ソーシャルメディアを通じた情報発信などの活動を展開していく。日本市場では2024年まで1億2700万ポンドの活動費を組んでいるという。
2019年1月に輸入再開された英国産牛肉・ラム(豚肉は2013年に解禁)だが、この日のセミナーは輸入業者を中心に外食、小売関係者ら76人が集まったほか、セミナー後のオンラインマッチングにも十数社が参加するなど関心の高さが伺えた。
セミナーでは、AHDBのジョナサン・エックリー氏とスーザン・スチュワート氏がAHDBの活動を紹介。前述の活動プログラムを通じて、日本のサプライチェーンに携わる企業との関係を構築し、ビジネスチャンスを模索し高品質な英国産肉を普及させていくとの方針を示した。
〈豊かな牧草環境による牧草肥育牛肉、羊肉は世界第3位の生産国〉
インターナショナル・ディレクターのフィル・ハドリー博士は、英国畜産業の特徴を説明した。ハドリー氏の説明によると、英国は温暖な気候で年間降雨量も多いため、とくに南西部は通年で良質な牧草が育つなど畜産業に適した環境だという。
そのため、牛肉はアンガスやヘレフォードなどの在来種による牧草飼育であり、「グラスフェッドが英国の牛肉生産の屋台骨であり、差別化ポイントでもある。牧草を中心に飼育された赤身肉には不飽和脂肪酸が多く含まれ、健康メリットが多い」(ハドリー氏)という。年間の牛肉生産量は93.2万tで、トレーサビリティ制度が確立され、成長ホルモンの使用が禁止されている。
羊肉は年間生産が29.6万tと世界第3位の羊肉生産国で、総生産量の35%以上が輸出されている。家族経営によって丘陵地と低地を利用した牧草地で放牧。英国は世界市場から高品質なラムの生産国として認知されており、国内外でプレミアム製品としてニーズがあるという。また、豚肉生産量は98.4万tで、東海岸と中央部を中心に養豚業が盛んで、繁殖用母豚の40%以上が屋外飼育という。
アニマルウエルフェア、品質、トレービリティなど厳格な品質基準が定められ、それを満たした豚肉製品には「レッドトラクター」と呼ばれる品質保証マークが付されるという(牛肉・羊肉には品質基準マークによる品質保証スキームがある)。前述のスチュワート氏によると、英国の豚枝肉重量は他国産のものよりも軽く、リーンが強いという。
〈環境に配慮した畜産業〉
このほか、ハドリー氏の説明によると、英国の畜産業の特徴として、アニマルウエルフェア、厳格な投薬管理(EUで最も抗生物質の使用量が少ない国のひとつ)、成長ホルモンの使用禁止、完全な追跡可能なサプライチェーンなど数多くの要素があるという。とくに、英国の農地の65%が牧草の栽培に最も適しているといわれ、生産される牛肉の87%が牧草や干し草をベースとした飼料で育てられるため、森林破壊の要因となっておらず、「英国産牛肉の温室効果ガスの排出量は世界平均の半分」(ハドリー氏)という。
さらに、牛肉生産に必要な水の量も、農場の段階では大半が雨水や牧草から摂取するため、牛肉1kg当たりわずか49Lしか使用しないなど(ハドリー氏によると牛肉1kgを生産するのに必要な水量は1万7657L)、英国畜産業はカーボンフットプリントを低く抑え、環境への影響を最小限に抑えていることを強調した。
〈畜産日報2021年9月21日付〉