2030年の定置用蓄電池(ESS)世界出荷容量を101,662MWhと予測
~既存発電設備の稼働中止や再エネ発電設備増加を背景に、電力需給安定化のための定置用蓄電池導入が更に加速化する見通し~
株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、2021年の定置用蓄電池(ESS)世界市場を調査し、設置先別及び需要分野別、電池種別の動向、参入企業動向、将来展望を明らかにした。
定置用蓄電池(ESS)の設置先別世界市場規模推移・予測
1.市場概況
2020年の定置用蓄電池(Energy Storage System、以下ESS)世界市場規模は、メーカー出荷容量ベースで前年比142.7%で33,692MWh、同年のメーカー世界出荷金額は同133.7%の121億6,800万USドルになると推計する。
2019年末から新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により、世界各地で感染対策としてさまざまな活動自粛が広がり経済が停滞するなかでも、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入拡大や電力供給の安定化・高効率化を進める各国政府の政策は続けられており、ESSは成長を続ける数少ない産業として注目を浴びている。
設置(需要)先別に市場をみると、家庭用ESSはFIT買取期間の終了した家庭での導入が進んだ日本や、電気料金削減を目的に太陽光発電の設置増加と連動して導入された欧州地域を中心に需要が増加した。
電力系統用においては電力網の老朽化や再エネの導入拡大に伴う電力需給不安定の対策として、北米や欧州、中国向けの導入が市場を牽引した。また、通信規格の世代交代により5G(第5世代移動体通信システム)基地局向けにESSの導入が本格化しており、特に中国での需要増が目覚ましい。
一方で、COVID-19の影響で企業における在宅勤務化が進んだことや、生産現場における工場稼働率の低下を背景に、企業・業務用ESSにおいては導入が減少した。
2.注目トピック
コロナ禍でも電力系統用ESSの需要は拡大基調
世界各国では脱原発・脱石炭による低炭素社会構築に向けて、太陽光や風力といった再エネの発電設備が急増している。太陽光及び風力発電は時間帯や季節、気象条件によって出力が大きく変動するため、 出力変動抑制や電力品質向上、電力安定化などのためにESSの導入が増加している。
当初、2020年はCOVID-19の影響で海外への渡航が制限され、ESS導入への影響が大きくなるとの声もあったが、一部地域においてスケジュールの遅延などが多少発生してはいるものの、電力網の老朽化に伴う停電や既存発電設備の稼働中止を背景に、電力系統用ESSの導入は拡大している。ESSは従来の非常用電源の意味合いから、エネルギーマネージメントのためのツールとしてのニーズが強くなりつつあり、特に北米や欧州、中国を中心に市場が拡大していく見通しである。
3.将来展望
地域別に2021年の市場をみると、日本では景気悪化による家庭用需要が減少しているものの、その他の地域(米国、欧州、中国)においては前年同様に導入が増加しており、微増になる見通しである。
設置(需要)先別では、携帯電話基地局・UPS用において定置用LiBの導入は増加しているものの、定置用鉛蓄電池の需要は既存基地局向け交換需要を含めて減少している。その他、電力系統用や企業・業務用においては前年と同様に増加傾向にあり、電力系統用においては特に米国で発生した異常気象や電力網の老朽化などによる停電により、電力安定供給に向けたESSの導入拡大を見込む。2021年の定置用蓄電池(ESS)世界市場規模は前年比109.0%の36,735MWhになる見込みである。
今後、COVID-19の収束が進むにつれて、太陽光発電や風力発電といった再エネ設備の導入に対する投資が更に拡大する見通しで、再エネ設備の電力安定化のためにESSの導入が増加する見込みである。また、蓄電池メーカー各社では、材料変更や設計方式の改善などによる蓄電池の価格削減に向けた努力が図られており、蓄電池価格の下落が一層進む事が期待される。なお、バッテリーマネジメント技術の進展やシステム効率の改善なども、ESSの価格削減に貢献するものと思われる。
上述のことなどから市場は拡大基調にあり、2030年の定置用蓄電池(ESS)世界市場規模は101,662MWhまで成長すると予測する。
調査要綱
1.調査期間: 2021年3月~8月 2.調査対象: 日本及び海外の定置用蓄電池(ESS)関連メーカー 3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談取材、ならびに文献調査併用 |
<定置用蓄電池(ESS)とは> 本調査における定置用蓄電池(ESS:Energy Storage System)とは、リチウムイオン電池(LiB)、鉛蓄電池、ニッケル水素電池、レドックスフォロー電池(RF電池)、NAS電池といった化学的エネルギー貯蔵システムをさす。 設置(需要)先別では、家庭用(戸建住宅やマンション、集合住宅向け)や、電力系統用には系統安定用途(発電所・変電所設置、再生可能エネルギー電源併設)向け、マイクログリッドシステム向け、企業・業務用はBCP対策(医療・福祉・介護施設等設置)、大口需要家向け(工場、ビル等)向け、携帯電話基地局・UPS用の定置用蓄電地を対象とした。 ① 家庭用ESS 家庭用ESSは、充電方式によって太陽光発電連携型と非連携型に区分される。太陽光発電連携型は家庭の太陽光発電や電力会社の電力からの充電が可能で、非連携型は電力会社の電気からのみ充電が可能なタイプである。現状は太陽光発電連携型が市場の多くを占めている。 太陽光発電で発電した電力又は電力会社の電力をESSに貯め、災害時や停電時など電力需給が不安定な時や電気料金が高い時間帯などに自家消費することでエネルギーの自給自足率を高め、電力の安定受給や電気代の削減を図ることができる。また、余剰電力の売電により収益を確保する事ができる。 ② 業務・産業用 企業・業務用ESSは、業務用又は、産業用、商業用などとも定義され、医療・福祉・介護施設やオフィス、工場などの物流倉庫など、電力の安定供給が必要な様々な場面において設置される。家庭用と同様に、太陽光発電と連携する方式とESSのみ設置して電力会社の系統電力で充電する方式がある。非常用電源として導入され、電力の安定受給を目的とする。 ③ 電力系統用 電力系統用ESSは、火力発電や原子力発電などの従来の発電所、配送電所、変電所、再エネ発電所などに設置され、電力供給網の安定性を確保すると共に、周波数の調整や負荷調整など、電力品質の向上を目的に導入される。 |
<市場に含まれる商品・サービス> ESS(定置用蓄電システム)、定置用リチウムイオン電池、定置用鉛蓄電池、定置用ニッケル水素電池、定置用レドックスフロー電池、定置用ナトリウム二次電池 |
出典資料について
資料名 | 2021年版 定置用蓄電池(ESS)市場の現状と将来展望 |
発刊日 | 2021年08月30日 |
体裁 | A4 287ページ |
定価 | 220,000円 (本体価格 200,000円) |
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