客席を持たない複数の飲食店が入居する施設、クラウドキッチンの運営を手掛けるSENTOEN(セントウエン)。展開するクラウドキッチン「KitchenBASE(キッチンベース)」は中目黒や浅草、神楽坂、2021年4月に新設した中野で4カ所を運営している。コロナ禍での意識の変化などでデリバリーの需要は高まるとの考えから今後も展開を広げる。山口大介代表に聞いた。
――取り組みを開始した理由は。
立ち上げ自体は2019年です。今ではゴーストレストランのような席のない業態もありますが、当時はなかなか受け入れてもらえず、どうすれば良いか模索していました。ただ、客席があったらなかなか受けられない量のオーダーが入ったこともありました。その時に、もし需要を捉えられれば面白いモデルになると改めて感じました。2021年に入り、新たな拠点を2つ設置するなど、順調に推移できています。
――デリバリーの需要が伸びた要因は。
オーダー数の伸長にはコロナの影響もありましたが、食に対する意識の変化も追い風になったと思います。ご飯を食べに行く、コンビニに行く、行列に並ぶなどの時間を、宅配サービスを使えば短縮できる。時間の使い方が変化していて、お金を払ってでも自分の時間を確保できるほうが良いと考える方も増えてきたのではないでしょうか。一度便利さを体験したらなかなか抜け出せない。また、フードデリバリーは家から歩いてすぐの店だけでなく、遠くの飲食店も楽しめるという状況を作れたのではと思います。
――ゴーストレストランに参入するメリットは。
飲食店を立ち上げたいけど予算が足りないという人でも、この施設の場合は機材など最低限必要な設備を初期費用含めて、新規で飲食店を立ち上げるよりも圧倒的に安く済みます。コストの回収も比較的容易なため、個人の飲食店だけでなく大手企業にとっても魅力的だと思います。また、飲食店の場合、3年続けることが今後も続けていく上での分岐点になりますが、このモデルは3カ月で結果が見えてくるため、軌道修正なども行いやすい点もメリットだと思います。
――注文につなげるための取り組みは。
アプリ関連の会社に勤めていた時、どうやってアプリをダウンロードしてもらうか、ということに取り組んでいました。アプリの場合、いかに魅力的なアプリかを写真などを駆使してダウンロードにつなげていました。これは、フードデリバリーでどうやって注文してもらうか、というのも似たところがあります。写真やメニューなどを作り込まなくては、なかなか最初の利用にはつながりにくいです。
ただ、継続的に使ってもらうとなると、それだけではうまくいかない。普通の飲食店とは異なるところで、レビューの数字がリピーターや次の新規利用の獲得につながります。味が良くても、写真などが良くなければ使ってもらえない。写真ばかり良くても味が悪ければ次につながりにくい。ある意味でシビアな世界だと思います。
ただこのモデルは、看板などを見て利用するのではなく、料理の味に魅力を感じてもらうところなども入口になると思います。利用した方のコメントがあればそれも参考になります。
街を歩いていて目につく看板は、大手チェーン店のものが多く、地元の店はどうしても目立ちにくいです。しかし、このビジネスは大企業でも個人店も画面上に表示されるサイズは同じです。そこに勝てる余地があると感じています。
――自社ブランドを立ち上げている。動向は。
展開している「NY屋台メシ!!チキンオーバーライス」の場合、多い時で月商は約450万円を達成しました。プライシングや見せ方、調理パッケージなどの経験を蓄積できており、フランチャイズとしても展開しています。また、ここで得た経験は入居している他の店舗にも共有できればと思います。
――良い店舗も多いが、質の悪い店舗も少なくない。どう感じるか。
個人的には心配していません。淘汰されると思います。美味しい料理はリピートされている。過渡期だから良い点も悪い点も出てきていますが、良い店が残り、小手先だけのところはいずれ立ち行かなくなるのではないでしょうか。
――今後の市場の見込みと展開は。
落ち込むとは思ってないですね。伸びるとは思います。Amazonや楽天が落ちなかったように、このビジネスも成長を続けると思います。
今後の取り組みで、新たな拠点は今後いくつか設置予定です。また、施設の方でテークアウトも実験的に開始する予定です。
今までデリバリーは特別な日に使うものでしたが、「Uber Eats」や「出前館」などのおかげで日常的に使われるようになり始めています。今後は離乳食やペット食など新カテゴリーも出てくるのではないでしょうか。
〈冷食日報2021年9月1日付〉