withコロナ時代、ビジネスはどのように変わるのでしょうか。テーマごとにグロービス経営大学院の教員がオピニオンを紹介します。本記事のテーマは、事業戦略・マーケティングです。
不可逆・不可欠な領域で、変化適応をリードするEnablerたれ!
筆者:今野 穣(グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー 最高執行責任者)
今回のコロナショック(感染症リスク)は、実体経済に対して直接的な影響を与え、かつ「見えない敵」との戦いである点で、中長期戦であり、かつ変化への適応力が試される。
不要不急で本質的ではないビジネスは残念ながら一旦淘汰されるものの、業種という粗い単位ではなく、セグメントや提供形態では風を掴むことも可能だ。現状でも、テレワーク・家庭内需要(コンテンツ・ゲーム・デリバリー)・eコマースなどはむしろ追い風だ。
従来から「変化があるところに機会あり」とも言われているとおり、変化適応という意味では、医療・教育・金融・建設などを中心として、全ての産業に新たなサービスの種があるだろう。短期的な影響が大きい飲食や観光・スポーツなどにしても、人間の根源的欲求が抑圧されている分、新たなサービス形態の到来が待ち望まれる。
具体的には、テクノロジーを用いたDX(デジタライゼーション)やオンライン化を前提として、「職住一体」「サイバー居住」「公衆衛生」「リアルKYC(know your customer)」「保証・保障・補償」「会員制」と言ったキーワードが思い浮かぶ。
「会社」という形態の組み換えという視点では、社員の安心安全の確保や新しい働き方による生産性向上を実現できた会社が結果的に企業価値を高めるだろう。また、資本力のある会社がコア事業に集中すると同時に、本質的な価値はありながらも短期的な影響を受けている会社に対して、M&Aを活発化させることも想定される。
我々の世代は震災や感染症など、100年に一度と言われる出来事に見舞われている。この数十年のテクノロジーの進化も、未来の歴史の教科書には産業革命として書かれる時が来るだろう。過去にもダウントレンドには筋肉質で骨太なベンチャー企業が生まれてきた。短期的な変化を機会として捉えつつも、こういう時こそ中長期的な視野を忘れずに、そんな我々の世代だからできる、大切な未来を創る仕事に取り組んで行きたい。
戦略思考でこれからのビジネス機会を見る
筆者:西口 敦(グロービス経営大学院 教員)
私はクリシンはじめとする思考系と、戦略やマーケのモノ系の両方に軸足を置く講師である。なので、ここではコロナ禍における「戦略思考」という文脈で考えたい。
コロナと共存する、あるいは伸びる業種は何か。業種別の株価の下落度合いは、だいたいイメージ通り。ネット通販、エッセンシャルな業態、デジタルシフトが進んでのGAFAやMS、Netflixも好調である。外出せず飲み会にも行かず懐具合が温まっている人も多い。余裕資金で「株でも買ってみるか」と、ネット証券の稼働口座数は過去最高のレベルだという。
だが、一見よさそうでも実はキツい業種もある。たとえば医療機器は底堅そうに見えるが、病床が埋まって大掛かりな外科手術ができないので需要がなくなっている。
もう一段、見えにくいところに視野を広げるという思考法もある。通信インフラの増設需要やデータセンターの増強に伴って通信系の半導体需要が強まっている。宅配増加に伴って段ボール各社は設備投資を急いでいる。西部開拓のゴールドラッシュ時のリーバイスジーンズのようなものである。
などなど、短期的な予測だけでもいい頭の体操になる。これだけだと短期的な株の売買にはいいが、中長期のビジネスの判断には物足りない。
リモートワークや「開疎化」はどこまで常態化するのか、そうすると都心のオフィス不動産や住宅価格は暴落するのか?ホテルやエアライン、鉄道などの旅行業は二度と戻らないのか?インバウンド需要は終焉を迎えるのか?
コロナを抑え込むことに成功する国々と、共存することを選ぶ国々。国境の越え方はどう変わるのか。抑え込んだ国同士で自由な行き来が起きるとすると、どんなビジネスチャンスがありうるのか?
こうした判断をするとき、私が拠り所にするのは、人間の本能レベルの欲求である。「人と触れ合いたい」「つながりを感じたい」「知らないところに行きたい」「五感の刺激を感じたい」……
大航海時代、長距離の船旅のリスクはコロナの比ではなかった。遭難や疫病などのリスクを考えると、普通は生きて戻れない。それをよくわかっていながらも冒険家たちは出航していった。そのくらい、人間の未知のものへの探求心は強いわけである。
目まぐるしく状況が変わる環境だからこそ、戦略策定のためにはより深い人間理解が求められる。それっぽい言説に惑わされることなく、自分のアタマで考えないといけない。それこそが、戦略思考である。本質を見極め、変化をチャンスにしていきましょう。
(執筆者:今野 穣・西口 敦)GLOBIS知見録はこちら