租税条約とは?目的や適用例、届出書の手続きなどをわかりやすく解説
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風間 啓哉
風間 啓哉(かざま・けいや)
監査法人にて監査業務を経験後、上場会社オーナー及び富裕層向けのサービスを得意とする会計事務所にて、各種税務会計コンサル業務及びM&Aアドバイザリー業務等に従事。その後、事業会社㈱デジタルハーツ(現 ㈱デジタルハーツホールディングス:東証一部)へ参画。主に管理部門のマネジメント及び子会社マネジメントを中心に、ホールディングス化、M&Aなど幅広くグループ規模拡大に関与。同社取締役CFOを経て、会計事務所の本格的立ち上げに至る。公認会計士協会東京会中小企業支援対応委員、東京税理士会世田谷支部幹事、㈱デジタルハーツホールディングス監査役(非常勤)。

会社から海外赴任の辞令が下ったときや、外国人の社員を雇うことになったときなど、租税条約が関係する場面がある。そこで今回は、租税条約の概要をはじめ目的や適用例などを取り上げてる。

届出書の手続きにも触れているので、ぜひ参考にしてほしい。

目次

  1. 租税条約とは?
  2. 租税条約の3つの目的
    1. 目的1.国際的二重課税の対策
    2. 目的2.国際的な租税回避等の防止
    3. 目的3.各国税務当局間の協力体制の構築
  3. 租税条約の国際的なモデル
    1. OECDモデル租税条約の内容
  4. 租税条約の適用を受ける3つの事例
    1. 事例1.海外子会社へ赴任する従業員
    2. 事例2.海外企業とのライセンス契約がある
    3. 事例3.海外タレントが日本国で芸能活動する場合
  5. 租税条約の適用を受けるためには?
    1. 租税条約の適用を不当に受ける企業
    2. 届出書に係る具体的な手続き
  6. 租税条約の適用を忘れたときの対処

租税条約とは?

租税条約の正式名称は「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国と相手国との間の条約」という。名称が長すぎるため、通常は租税条約という略称が使用されている。

なお、租税条約の正式名称に記載されている所得は、日本の所得税のみではなく法人税も該当する。相手国によっては住民税が含まれる場合もあるので知っておきたい。

ちなみに2021年4月1日において、日本が締結している租税条約のネットワークは143か国・地域に及んでいる。

租税条約の3つの目的

租税条約には、大きく3つの目的がある。「国際的二重課税の対策」「国際的な租税回避等の防止」「各国税務当局間の協力体制の構築」だ。

目的1.国際的二重課税の対策

租税条約の一番の目的といってもよいだろう。

経済活動がグローバル化している状況では、国を越えた取引が日常的に発生している。その場合、各国で所得が発生する可能性があるが、同じ所得に対して各国で課税を受けるケースが出てくる。

このように、1つの取引において2つの国で課税されることを国際的二重課税という。二重課税が解消されなければ、国際的経済活動に消極的な企業も多くなってしまう。

そのため、国際的二重課税を排除して積極的な国際的活動を促す役目を租税条約が担っている。

目的2.国際的な租税回避等の防止

課税を行う国から見た場合、国際的な租税回避等のスキームに対しては、一つの国のみで対処することは難しい。各国が協力して国際的な租税回避に対処していくために、租税条約が土台となっている。

目的3.各国税務当局間の協力体制の構築

国際的な事案では、各国税務当局が法人や取引の情報共有も含めて連携していくことが必要不可欠だ。そのために租税条約が重要な役割を果たしている。

租税条約の国際的なモデル

租税条約には国際的なモデルが存在する。OECD加盟国を中心に租税条約を締結する際のモデルだ。OECD加盟国である日本も概ねモデルに沿った規定を採用している。

ちなみにOECDは、国際経済について協議する国際機関だ。「Organisation for Economic Co-operation and Development」 の略称であり、日本では経済協力開発機構と呼ばれる。

OECDモデル租税条約の内容

OECDモデル租税条約の主な内容は、課税関係の安定と二重課税の除去、脱税および租税回避などへの対応である。

【課税関係の安定と二重課税の除去】

・所得が生じる源泉地国が課税できる所得範囲の確定

租税条約とは?目的や適用例、届出書の手続きなどをわかりやすく解説

 

・居住地国における二重課税の除去方式

  1. 国外所得免除方式
  2. 外国税額控除方式

・税務当局間の協議による条約に適合しない課税の解消

【脱税および租税回避などへの対応】

・税務当局間の納税者情報の交換
・滞納租税に関係する徴収の支援

租税条約の適用を受ける3つの事例

租税条約の適用を受ける事例を3つみていこう。

事例1.海外子会社へ赴任する従業員

日本企業の従業員が、海外の子会社へ赴任するケースを考えてみたい。

日本の本社から給与が支払われ、海外赴任先である子会社からも一部給与が支払われるとしよう。原則として日本での給与所得に課税されるほか、海外赴任先で支給される給与にも現地国の所得税が発生する。

租税条約がある場合、以下の要件を満たせば、現地国での課税が免除されるケースもある。

【要件の例】
➀相手国での滞在が183日以下であること
➁相手国の居住者でない雇用者等が報酬を支払っていること
➂相手国内に存在する支店等が報酬を支払っていないこと

短期的な海外出張の場合には、出張先が租税条約締結国であれば概ね該当する。半年以内の海外出張であれば、海外での課税を回避しやすいだろう。

しかし、今回のケースは海外子会社への赴任であり、さらに海外子会社を通じて給与支払がなされている。現地国の課税を解消するためには、日本国で確定申告が必要となるだろう。

事例2.海外企業とのライセンス契約がある

日本企業と海外企業がライセンス契約を締結しているケースを考えてみたい。

日本企業は海外企業へライセンス料を支払う場合、ライセンス料については日本の税法にもとづき源泉徴収される。

このとき、日本と相手国で租税条約を締結している場合、源泉徴収額が少なくてよいケースがある。ライセンス契約先の立場からは租税条約を適用してもらいたいと感じるだろう。

事例3.海外タレントが日本国で芸能活動する場合

海外の芸能プロダクションに所属する海外タレントが日本で芸能活動をした場合、海外の芸能プロダクション企業にその対価を支払う日本企業のケースを取り上げてみたい。

外国法人に対する支払いについて源泉徴収の有無を確認する際には、まず国内法における源泉徴収の取り扱いを確認し、次に租税条約における源泉徴収の取り扱いを確認する。

その場合、次の表から外国法人へ支払う対価に応じて源泉徴収の有無を判断するとよいだろう。

この表から、日本国内に拠点等がない海外法人に支払う芸能活動の対価は「人的役務提供事業の対価」に該当し、対価の支払いの際に20.42%の源泉徴収を行う必要があると読み取る。

次に、芸能プロダクションの拠点がある外国との租税条約を確認し、日本における源泉徴収の必要性を判断する。必要であれば源泉徴収を行った上で対価を支払い、必要でなければ源泉徴収をせずに額面通りの対価を支払う。

租税条約の適用を受けるためには?

租税条約の適用を受けるには、支払いを受ける外国企業が、源泉徴収を行う日本の支払者を通じて、届出書や申請書を支払日の前日までに提出する。提出先は支払者の所轄税務署等だ。

例えば米国の企業がライセンス料を受け取る際、受け取る日の前日までに、支払者である日本企業を通じて、日本企業の所轄税務署に届出書等を提出する必要がある。

租税条約の適用を不当に受ける企業

租税条約締結相手国に実態のないペーパーカンパニーを設立し、その会社を通じた取引によって、租税条約の特典である税の減免を不当に受けようとする企業もある。

対策として特典制限条項(Limitation on Benefits)という一定の要件を要求する場合があるので、租税条約を確認する際に合わせて把握しておきたい。

届出書に係る具体的な手続き

外国法人へライセンス料を支払う場合を例に、租税条約に必要な届出書に関する実際の手続きの流れをみていきたい。

フロー図で示すと次のようになる。

租税条約とは?目的や適用例、届出書の手続きなどをわかりやすく解説

・ステップ1.租税条約届出書の作成

外国企業の拠点の租税条約を確認し、租税条約届出書の作成を行う。日本の会社が主体となって作成するのが一般的といえる。

・ステップ2.租税条約届出書に署名

作成した租税条約届出書に外国企業の署名をしてもらう。

・ステップ3.租税条約届出書の提出

署名した租税条約届出書を日本企業の所轄税務署に提出する。

・ステップ4.源泉所得税の確認

支払い先の源泉税率を事前に確認しておく。租税条約国によって税率が異なるからだ。

・ステップ5.ライセンス料の支払い

確認した源泉所得税を控除し、ライセンス料を外国企業に支払う。

・ステップ6.源泉所得税の納付

控除した源泉所得税を税務署に納付する。

租税条約の適用を忘れたときの対処

租税条約の適用を受けていれば、源泉徴収額が少なくてよかったことが、後から発覚するケースもあるだろう。

提出できていなかった租税条約届出書に加え、還付請求書を提出することで源泉された税額を還付できる場合がある。

反対に、源泉すべき金額があったのに源泉徴収していなかったケースもあるだろう。海外法人への支払額が多すぎたことになるので、返還を求めることになる。

しかし、実際に源泉徴収を失念してしまった場合、日本企業が源泉分を負担せざるを得ない事態も発生してしまう。

外国法人との取引が多い会社は特に、支払時に源泉所得税の要否を改めてチェックする体制を構築しておきたい。

文・風間啓哉(公認会計士・税理士)

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