(本記事は、西城 由之氏の著書『ポストコロナの健康経営』=東峰書房、2020年10月28日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
三.仕事とメンタルヘルス
職域でのメンタルヘルス対策
前述の通り、職場要因によるメンタルヘルス不調は重症化しやすいため、近年では職域でのメンタルヘルス対策が課題になっています。
厚生労働省の平成30年版「労働安全衛生調査」によると、現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安、悩み、ストレスになっている感じる事柄がある労働者は全体の58・0%という結果が得られました。実に6割近い労働者が、仕事に対して強いストレスを感じているというのです。このような状況から、国は働く人のメンタルヘルス不調の防止対策を推進しており、様々な指針やガイドラインを打ち出しています。厚生労働省は2006年に「労働者の心の健康の保持増進のための指針(メンタルヘルス指針)」を策定し、定期的に改訂を行ないながら事業者が行なう労働者のメンタルヘルス対策の強化を進めています。2015年より義務化された「ストレスチェック制度」もメンタルヘルス対策の一環であり、また2018年に打ち出された「働き方改革」もメンタルヘルス対策としての側面があります。
四.厚生労働省が提唱するメンタルヘルス対策
4つのケア
厚生労働省は「労働者の心の健康の保持増進のための指針」の中で、事業場におけるメンタルヘルスケアの実施にあたり、「4つのケア」が重要であるとしています。「4つのケア」とは具体的には、①セルフケア、②ラインによるケア、③事業場内産業保健スタッフ等によるケア、④事業場外資源によるケアになります。
①セルフケア(個人レベル)
セルフケアは、労働者が自分自身で行なうことができるケアのことで、具体的な内容としては、労働者がストレスやメンタルヘルスに対して正しく理解し、自らストレスに気付き、予防、対処できるようにすることです。事業者としては、労働者がセルフケアを行なえるように支援することが重要になります。
②ラインケア(部署レベル)
ラインケアは、日常的に労働者に接する職場の管理監督者が部下に対して行なうケアのことで、具体的な内容としては、職場環境等の把握と改善、労働者からの相談対応、職場復帰における支援などになります。
③事業場内産業保健スタッフ等によるケア(企業全体レベル)
事業場内産業保健スタッフ等によるケアとは、産業医や衛生管理者、保健師、人事・労務担当者などが労働者および管理監督者に対し、セルフケアおよびラインケアが効果的に行なえるように支援することをいいます。具体的な内容としては、メンタルヘルスケアの実施に関する企画立案、個人の健康情報の取扱い、事業場外資源とのネットワークの形成やその窓口、職場復帰における支援などになります。
④事業場外資源によるケア(企業外レベル)
事業場外資源によるケアは、事業場の外部の専門的な機関や専門家を活用して、自社のメンタルヘルス対策を効果的にするための支援を受けることをいいます。具体的な内容としては、情報提供や助言を受ける、ネットワークの形成、職場復帰における支援などになります。
さらに、これら「4つのケア」が適切に実施されるよう、事業場内の関係者が相互に連携し、メンタルヘルスケアの教育研修・情報提供、職場環境等の把握と改善、メンタルヘルス不調への気付きと対応、職場復帰における支援といった取り組みを積極的に推進することが求められています(図24・25)。
「4つのケア」の実際
「4つのケア」は、もちろんすべて行なうことができるのが望ましいですが、特に③や④に関して、大企業はともかく中小規模の企業では資金、人材などの面から実施が難しいケースもあり、実際のデータでも、企業規模が小さくなるほどメンタルヘルス対策が不十分になる傾向があります。先にも引用した平成30年版「労働安全衛生調査」によると、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は全体の59・2%ですが、事業所規模別にみると、従業員が1000人以上の事業所では99・7%であるのに対し、10~29人の事業所では51・6%と顕著な差がみられるのが現状です。この状況を改善させるためには、中小規模の企業においては、まず担当者に「4つのケア」の考え方を浸透させ、比較的実施しやすいセルフケアやラインケアから始めるのが有効です。実際に、管理職に対するメンタルヘルス研修を実施・継続することが社員のメンタルヘルス不調の抑制に有効であった例もみられます。
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