ポストコロナの健康経営
(画像=JackF/stock.adobe.com)

(本記事は、西城 由之氏の著書『ポストコロナの健康経営』=東峰書房、2020年10月28日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

三.健康経営のメリット

①生産性の向上

仕事をするにあたり、心身ともに健康な状態で臨む場合と、ストレスフルな状態で臨む場合では、その発揮できるパフォーマンスは大きく異なります。

従業員が心身ともに健康であれば集中力が増し、良好なパフォーマンスが期待できますが、身体やメンタル面で何らかの不調を抱えている状態では、単純なミスを繰り返してしまったり、作業速度が低下したりすることによりパフォーマンスが低下します。健康経営によって従業員の健康管理を積極的に行なうことにより、従業員の心身のストレスが軽減し、仕事に対するモチベーションが上がるため、結果的に企業の生産性が上がることが期待できます。

②リスクマネジメント

従業員の健康不安は、企業にとって様々な面でリスクとなります。

従業員が急性心筋梗塞やくも膜下出血、あるいは今回の新型コロナウイルス感染症などに罹患した場合、その従業員は当面現場を離れざるを得なくなり、企業としては新たな人材確保が必要となり、求人募集から研修といった金銭的・時間的コストがかかります。

また、従業員が心身に問題を抱えていれば集中力が低下し、結果として通勤中や業務中の事故や不祥事が起こりやすくなります。通勤中や業務中に起こった事故で怪我をした場合は労災が適用され、その費用は企業が負担することになります。

従業員の病気や怪我の経緯が業務内容と関連していた場合、労働法に抵触する可能性があります。違反に問われた場合には行政指導や懲罰の対象になる可能性もあり、企業にとってコスト面のみならずイメージの面でもマイナスポイントとなります。

こういった金銭的・時間的コストやマイナスイメージの定着を防止するという点において、健康経営は重要であるといえます。

③医療費負担の軽減

従業員が病気になった場合の医療費は、自己負担分以外は企業が加入し保険料を支払っている健康保険組合や協会けんぽから支払われますが、重病に罹患する人が増えれば保険料率が上昇し、その分企業の金銭的負担は増えることになります。健康経営によって従業員全体の健康状態を維持できれば、最終的に保険料率の上昇を防ぎ、企業の金銭的負担を抑制することが期待できます。

④企業イメージの向上

近年、「ブラック企業」という言葉が話題になり、労働者の長時間残業や、それに伴う過労死・自殺などの問題が社会的関心を集めています。こういった背景から、求職者も「企業の従業員に対する配慮」に注目しているため、健康経営に取り組み従業員の健康に配慮することは社会的評価につながり、企業イメージの向上に貢献します。実際、2016年度に経済産業省が行なった調査では、就活生の4割以上が「従業員の健康や働き方へ配慮している企業に就職したい」と回答しています(図4)。

また、経済産業省が、健康経営に取り組む優良な企業を「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人」として顕彰しており、この認定を受けることができれば企業価値の向上が期待できます

ポストコロナの健康経営
(画像=『ポストコロナの健康経営』より)

⑤従業員の定着・離職率の改善

従業員の健康へ配慮することは、従業員の疾病への罹患による不可抗力的な離職を防ぐのに加え、前項④で述べたような企業イメージの向上により従業員のモチベーションを高く保つことが可能となるため、従業員の満足度が向上し従業員の定着率が上昇することが期待できます。

四.健康経営銘柄と健康経営優良法人

前述のように、企業の健康経営を後押しする取り組みとして、経済産業省が認定する健康経営銘柄や健康経営優良法人といった制度があります。

健康経営銘柄

健康経営銘柄は、経済産業省と東京証券取引所が共同で行なっている企業の認定制度で、健康経営に戦略的に取り組んでいる企業を選定し、公表するシステムです。東証一部上場企業の中から原則1業種1社が選ばれるのが特徴です。選定の基準は、①上場企業でかつ健康経営度調査に回答し、上位20%以内に入っていること、②重大な法令違反がないこと、③直近3年間の自己資本利益率(ROE)が平均0%以上であること、の三つを満たすこととされています。健康経営銘柄の選定要件を図5に示します。

健康経営優良法人

健康経営銘柄は東証一部上場企業が対象ですが、上場企業に限らず、未上場の企業や、医療法人等の法人を対象とするのが健康経営優良法人という制度です。これには大規模法人部門と中小規模法人部門があり、大規模法人部門認定法人の中で、健康経営度調査結果の上位500法人を特に「ホワイト500」として認定します。なお、中小企業の場合、健康経営度調査に回答する必要はありません。健康経営優良法人の認定要件を図6に示します。

健康経営銘柄や健康経営優良法人に認定されることによって、企業としてはイメージ向上による採用応募数の増加や顧客満足度の向上などの効果が期待できます。また、従業員としても、個々人の健康意識が高まり健康行動が誘発されるといったメリットがあります。これらはいずれも図1に示した好循環サイクルを促進し、企業の健康経営をさらに後押しする効果があります

ポストコロナの健康経営
西城 由之
医学博士。こまごめ内科・循環器内科クリニック院長。1978年、岩手県生まれ。2004年、日本医科大学卒業。初期研修の後、2006年に日本医科大学付属病院第一内科(現循環器内科)入局。主に心臓カテーテル治療を中心とした循環器診療に従事する傍ら、産業医、公衆衛生研究員としての活動も行なう。2019年に「こまごめ内科・循環器内科クリニック」開業。医学博士、日本医科大学非常勤講師、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会認定医、日本高血圧学会専門医、日本糖尿病協会療養指導医、日本医師会認定産業医、日本循環器病予防学会評議員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

※画像をクリックするとAmazonに飛びます