麻生大臣が10万円再給付を意地でもしたくない理由
(画像=taa22/stock.adobe.com)

新型コロナウイルスのワクチン接種が国内でも始まったが、終息にはまだ時間がかかる。収入減で苦しんでいる国民も多く、定額給付金の再給付を求める声も出ているが、麻生太郎財務大臣は否定的だ。その背景には過去の「苦い思い出」があるとみる有識者もいる。

麻生大臣「後世の人たちに借金を増やすのか」と否定的な考え

日本政府は、2020年4月に決定した「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」の一環として、国民1人当たり10万円を「特別定額給付金」として配布した。家計に対する支援や消費需要の喚起を目的としたものだ。

しかし、現在にかけてまだ新型コロナウイルスは終息しておらず、国民からは2度目の特別定額給付金の配布を求める声も少なくない。日本政府は、特別定額給付金の再給付には慎重な姿勢だが、2021年2月9日には自民党の有志議員約70人が生活困窮者への再給付を検討するよう声を挙げるなど、与党内でも意見が分かれている状態だ。

特別定額給付金を再給付するかしないかは、財務大臣の意向によるところが大きい。だが、現在の財務大臣である麻生氏は、再給付に関する報道機関の質問に対して「後世の人たちに借金を増やすのか」と答えるなど、否定的な考えを示している。

Twitterやオンライン署名サイトで再給付を求める国民

事実上、特別定額給付金の再支給に向けて麻生大臣が「大きなハードル」と化している中、Twitterなどでは麻生大臣に向けた「ネット一揆」が起きている。「#麻生さんそろそろ給付金出してください」「#給付金出さないなら麻生さんも辞任して」というハッシュタグでネット一揆は広がりを見せ、いまもその状況は収まっていない。

Twitter上だけではなく、オンライン署名サイト「Change.org」においても再給付を求める署名運動が行われ、すでに8万人以上が賛同している。賛同とともに「毎月20万円を」「コロナの影響で仕事無いです」といったコメントまで寄せられている状況だ。

しかしこのような状況の中でも、麻生大臣は頑なに特別定額給付金の再給付はしないという姿勢を崩していない。なぜだろうか。

再給付に否定的なのは「過去の苦い思い出」が影響している?

麻生大臣が再給付を拒んでいる理由は、麻生大臣のコメントからある程度、推測することができる。

麻生大臣は特別定額給付金の給付が国債の発行を通じて行われることを指摘し、「国の借金」が増えることに懸念を示している。国家予算の国債への依存度は年々高まっていることもあり、麻生大臣的には「バラマキ」を極力控えたい考えだ。

そして、ここで冒頭触れた点に話を戻すが、麻生大臣がこのような考え方に至った背景には、過去の「苦い思い出」があると推察する有識者もいる。

2008年に起きたリーマンショック時、麻生氏は首相だった。そして麻生内閣はこの経済危機における家計支援などを目的として、1人当たり原則1万2,000円を給付する支援策を実施した。しかし、この給付金がマスコミから大バッシングを受けた。

給付金の予算が2兆円規模に上ったこともあり、具体的にはマスコミや有識者から「選挙目的のバラマキだ」「使い道はほかにもいくらでもある」などと批判された。これらのバッシングを受け、当時の麻生首相が心穏やかにいられたとは思えない。

本当に困窮している人への再給付は必要なのではないか

このような「苦い思い出」によって、麻生大臣が特別定額給付金の再給付に踏み切れないのでは、という見方はあくまで推察でしかない。そのため、これ以上この点について考察するのは避けるが、海外では日本以上に多くの金額を国民に給付している国もある。

例えばアメリカは、2020年3月に国民1人当たり最大1,200ドル(約12万6,000円)、12月にはさらに最大600ドル(約6万3,000円)の給付を決めているほか、バイデン政権下で最大1,400ドル(約14万7,000円)が追加給付される見通しとなっている。

ただし、ここからはあくまで予想だが、2021年2月後半に入って日本では新型コロナウイルスの「第3波」が落ち着きつつあり、ワクチン接種も順調に進んでいけば、政府は2度目の特別定額給付金の給付に、より消極的な姿勢になっていくのではないか。

しかし、本当に困窮している人に限って、定額給付金を再給付するという枠組みは必要だ。コロナ禍においては、収入が変わっていない人もいれば、解雇によって収入が無くなってしまった人もいる。支給対象を限定すれば、「国の借金」への影響も最低限にとどまる。

日本政府の方針や麻生大臣の発言を注視

現時点で、特別定額給付金の再給付が行われるかどうかは、誰にも分からない。日本政府の方針や麻生大臣の発言が今後どう変わっていくのか、または全く変わらないのか、動向を注視していきたいところだ。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

無料会員登録はこちら