農業の6次産業化で「農の入口(新規就農)と出口(販路)をつくる」――。
日本農業(大阪府箕面市)は、農家直営スープ専門店「たんとスープ」を展開し、野菜の栄養とおいしさがつまったスープなどを販売している。「自然とのバランスがとれた経済のあり方」の実現へまい進する大西千晶社長は、国連主催の「世界食料デー24時間グローバルリレー」(2020年10月16日)において、サステナビリティをテーマにした日本セッションに登壇するなど、SDGsの若きリーダーとしても期待されている。「農地を耕し、店舗で出口をつくり、未来を耕す」信念で走り続ける。
※SDGs=エスディージーズ、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)
大西さんが農業ベンチャーを起業したのは、神戸大学在学中の2010年、20歳のこと。環境問題などの社会課題や、限界を迎えている資本主義経済・・・。未来への憂いがあった中、18歳のときにボランティア活動で農業に出会ったのがきっかけだった。里山資源を生かし、「自然とのバランスがとれた経済のあり方」を実現したいと起業し、環境保全型の農業を始めた。
農薬を使わずに栽培し、野菜や米を最初はマルシェなどで販売していたが、「売れるのは産地ブランド化されたもので、そうでないものは売るのが難しく、ロスが出る。流通に乗せると利益が上がらない」。壁にぶつかる中で、農家が付加価値をつけ、直接消費者に窓口をもつことができる6次産業化に注目した。そうして2017年1月、業務用冷蔵庫などを製造販売する福島工業(現フクシマガリレイ)などの上場企業や、農業を応援したいという若者からの共同出資により、日本農業を設立した。
まず、野菜100%のコールドプレス「ファーマシージュース」からスタート。続いて、“食べるだけで、きれいに健康に”をコンセプトとした日本初の農家直営のスープ専門店「たんとスープ」を2019年に立ち上げた。店名には、体にやさしい野菜をたくさんとってほしいという思いを込めた。「スープのベースとなるだし『ベジブロス』は、規格外の野菜や皮やへたなど、野菜を丸ごと使っている。これと鶏骨を一緒に煮込んだ『ベジボーンブロス』などをベースにしているので、無添加でもおいしく深みのある味になる。野菜の栄養とおいしさを余すことなく摂れる」。
スープのメニューは人気の「クラムチャウダー」など10種で、このうち4種を日替わりで提供。具材は、季節に応じた野菜を使っているため、変化を楽しめる。
店舗は、「無印良品 京都山科店」(京都市)と、2020年9月に出店した「大丸梅田店」(大阪市)の2店。コロナ禍にあっても、出店オファーは多数あり、首都圏からも声がかかっている。直営店を基本としながら、他社とのコラボも検討している。
農地は、京都府南丹市、大阪府箕面市の自社農場のほか、西日本を中心に提携農場がある。近く、大阪府北部の里山に農地を確保する見込みで、この土地を「テーマパークのようにしたい」と夢がふくらむ。
「昨今のSDGsへの関心の高まりやコロナを契機として、自分たちの考え方が浸透しやすい環境になった。テレワークなどで働き方が変わったのをきっかけに、農業体験への参加相談も増えている。『期間限定農家』を増やし、“半農半X”のような形でも農業に関わる人が増えれば」。スープを入口とした、新規就農モデルの実現を目指す。