パレート最適という言葉を聞いたことがあっても、その状態がわからない人も多いのではないだろうか?この記事では、パレート最適の意味をケーキやソファなどの具体例とともに解説する。パレート最適の考え方を生かして経営資源を効率化してみてほしい。
目次
パレート最適とは?
パレート最適とは、資源が無駄なく配分された状態を指す言葉だ。正確には、資源を配分するときに誰かの効用(満足)を犠牲にしないと、他者の効用を高められない状態のこと。イタリアの経済学者であるヴィルフレド・パレートが提唱した。
パレート最適は、パレート効率、パレート効率性と呼ばれることもある。政府統計の総合窓口「e-Stat」では、パレート効率(性)は次のように説明されている。
パレート効率(性) : PARETO EFFICIENCY
引用:政府統計の総合窓口「e-Stat」日英統計用語集の金融統計より
割当効率ともいうパレート効率は、誰かが良くなると他の誰かが悪くなるということが起きないように資源を割り当てた場合に起きる。
なお、ヴィルフレド・パレートはパレートの法則(8:2の法則)も提唱しているが、両者はまったく違う概念である。パレートの法則とは、全体数値の8割は、構成する2割が生み出すという考え方だ。
たとえば、パレートの法則を示す事例は下記の通りである。
・売上の8割を構成するのは2割の優良顧客だった
・売上の8割を構成するのは2割の優秀な社員だった
つまり、2割にアプローチすれば、全体の8割に効果を及ぼせることを示している。
パレート最適とパレートの法則は、世界中で広く活用されている考え方だ。
パレート最適は経営に生かせる
働き方改革によって、会社は生産性の向上を求められている。
しかし、生産性を向上したいと考えても、無駄が生じている部分や、理想の状態を見極めるのは難しい。そこで、パレート最適の考え方が役立つ。
パレート最適の考え方によって、現場に生じている無駄を発見しやすくなるだろう。無駄を発見できれば、現場を改善する対策も自然と見えてくるはずだ。このようにパレート最適の考え方をもとに無駄を省くことを「パレート改善」と呼ぶこともある。
ただし、パレート最適を目指すとき、無駄をひと目で判断できないこともある。
判断に迷ったときは、経営理念を思い返すようにしたい。経営理念は、事業を通じて社会に与えたい影響や、自分が成し遂げたいことだからだ。
経営理念を定めていない場合は、改めて経営理念を定めるとよい。また、創業時や承継時の初心を思い返してみるのも効果的である。
パレート最適の具体例2つ
パレート最適の考え方は難しく、定義だけで理解するのは簡単ではない。そこで、パレート最適の状態をケーキやソファなどの具体例からみていこう。
パレート最適の具体例1.ケーキの切り分け
たとえば、ホールケーキを半分に切り分け、AさんとBさんが食べたとする。この状態がパレート最適だ。
Aさんに3分の2のケーキを取り分けると、Aさんの満足度は上がるが、Bさんの満足度が犠牲になる。
一方、ケーキを3分割して両者が3分の1ずつを食べた状態は、パレート最適ではない。この場合、残った3分の1のケーキをAさんが食べても、Bさんの食べる量が現実的に減るわけではない。心情的な不公平感は生まれるかもしれないが、Bさんの満足が犠牲になるとはいえないだろう。
パレート最適の具体例2.ソファの利用状況
2人掛けのソファにAさんとBさんが座っている状態は、パレート最適だ。
Cさんが現れてソファに座ろうとすると、すでに座っているAさんかBさんのうち、どちらかの満足が犠牲になる。つまり、パレート最適が実現している。
一方、2人掛けのソファにAさんだけが1人で座っている状態は、パレート最適ではない。Bさんが現れてソファに座っても、Aさんの満足が犠牲にならないからだ。
つまり、Aさんが1人で座っている状態は、ソファの使用に無駄が生じているとわかる。
パレート最適による経営資源の効率化
経営資源の配分は、生産性の向上と増収の達成を左右するため、経営者の腕の見せ所だ。
一般的に経営資源は、ヒト・モノ・カネなどに分けられる。ここからは、無駄が生じやすい人材・設備・資金に焦点を当て、パレート最適の考え方を参考に経営資源の効率化を考察していく。
人材の効率化
ある会社で、A部門の人員不足を解消するために、B部門の人員を異動させたとしよう。これで問題が起きなかったとしたら、B部門には余剰人員が発生していたということだ。つまり、パレート最適ではない状態だったとわかる。
異動後、各部門で人員が1人でも減ると現場がまわらない状況になったら、パレート最適が実現したと考えられる。
もちろん、突発的な事態に対応したり、繁忙期を乗り切ったりする必要もあるため、現実的には完璧なパレート最適を目指す必要はない。しかし、パレート最適の考え方を取り入れることで、現場の無駄に気づきやすくなるのは確かだろう。
現場から人員不足の声が上がったとき、採用の必要性を慎重に考えなくてはならない。
設備の効率化
余剰が発生するのは、人材に限った話ではない。経営者なら、設備の余剰にも気を配る必要がある。職場の広さについて考えてみよう。
繁忙期に大量の派遣社員を雇ったとき、各社員がストレスなく働ける状況なら、パレート最適とはいえない。繁忙期以外の時期は、スペースや設備に余剰が発生しているからだ。
繁忙期の頻度や期間にもよるが、省スペースなオフィスに移転した方が、家賃が減って経営効率は上がるかもしれない。
繁忙期のときは、在宅ワーカーを活用したり、社員に交代で在宅ワークをしてもらったりするとよい。
資金の効率化
増益によって内部留保(会社のお金)がたまってくると、経営者としては安心できる。しかし、資金が余っている状態が、必ずしもよい状態とは言えない。
気づかないところで過重労働が発生し、社員に不満がたまっている可能性もある。状況を見過ごすと、数年後に複数の社員が離職し、現場が機能しなくなるかもしれない。
また、設備投資や広告宣伝費、接待交際費を増やすことで、数年後に事業を拡大できるチャンスが舞い込む可能性もある。
このような点を踏まえると、お金を余らせることは経営においてマイナス要素になりうる。
もちろん、会社経営にリスクはつきものなので、資金を使い切ってしまうのが正解というわけではない。しかし、人員や設備と違い、資金は貯めこみすぎてしまう面がある。
そのため、パレート最適の考え方をもとに、資金効率にもしっかりと目を向けることが大切だ。
パレート改善にもつながる企業の生産性向上の成功事例
続いては、中小企業が生産性向上を実現した成功事例を厚生労働省の「生産性向上のヒント集」「生産性向上の事例集」より3つピックアップして紹介する。パレート改善を進める上で参考にしてほしい。
1.設備投資と業務効率化で人員や作業時間の削減に成功した事例
建築物清掃業を営むA社では、手作業による床の洗浄に多くの作業時間がかかっていた。また、事務部門で作業ミスや連絡ミスがなかなかなくならないという悩みを抱えていた。
A社は設備投資によって清掃業務を機械化することにし、業務用吸水掃除機を導入した。その結果、床洗浄作業の人員と作業時間が3分の1になった。
また、業務改善コンサルティングを受け、ITを活用することで、日程調整や書類作成、取引先とのコミュニケーションを効率化することができた。
結果的に、清掃業務と事務作業を効率化できたことから、生産性が向上し、22人の従業員の時間給を30円引き上げることができた。
この事例では、まず資金を設備投資に回すことで、経営の最適化を図った。機械化やIT活用による作業時間の短縮、業務効率化を実現したことで、パレート最適に近づいたといえるだろう。
2.設備投資で負担軽減や製造の平準化に成功した事例
食料品製造・販売業を営むB社では、フォークリフト免許を持つ特定の社員にもやし投入作業の業務負担がかたよっているという課題があった。そこで、設備投資によるもやし洗浄槽へのもやし投入の自動化を目指すことにした。
もやし栽培枠反転リフターを導入したことで、フォークリフト免許を所有していない社員ももやし投入作業ができるようになり、免許所有者の作業負担が軽減された。また、免許保有者の出勤状況によって作業工程が左右されることがなくなり、製造業務の平準化を実現できた。
この事例でも、まずは資金を必要な設備投資に回すことで経営の最適化を目指した。結果的に、設備投資によって作業負担の偏りを解消でき、業務も平準化され、パレート最適に近づいたといえるだろう。
3.設備投資とオールマイティ化で作業時間や燃料使用の削減に成功した事例
ホテル業を営むC社では、調理や配膳作業に時間がかかって非効率が生じ、温かい料理を一度に提供できないという課題があった。
そこで、スチームコンベクションオーブン(多機能加熱調理機器)を導入し、専門性に頼らない従業員のオールマイティ化を推し進めた。結果として、温かい料理を一度に提供できるようになり、調理時間や配膳作業時間を短縮でき、料理を保温するための固形燃料の使用を50%削減することにも成功した。
生産性が向上した結果、2人の従業員の時間給を60円引き上げることができた。
この事例でも、設備投資による経営の最適化が最初の一歩となった。また、他部署の作業にも柔軟に対応できるよう従業員を育成することで、非効率な作業がなくなり、作業時間の短縮に成功した。燃料使用を削減でき、資源や経営コストの面でも最適化を実現できたといえるだろう。さまざまな側面から経営資源の配分をパレート最適に近づけられた成功事例だ。
パレート最適と競争の関係
競争原理が働くなかで生まれる均衡は、自然とパレート最適にいたるという考え方がある。
有名なミクロ経済学の考え方に、需要曲線と供給曲線がある。消費者の需要量と生産者の供給量が一致する点に市場価格が落ち着くという考え方だ。
一般に、ある商品の需要量は価格が上昇すると減少する。逆に供給量は価格が上昇すると増加する。そして、ある商品の需要量が供給量よりも大きい場合には価格は上昇し、供給量が需要量より大きい場合には価格は下落する。
引用:金融広報中央委員会「需要・供給とは」より
市場経済においては、価格の上がり下がりによって需要量と供給量が調整される。
需要量と供給量が一致するところを均衡点といい、そのときの価格を均衡価格という。自由競争の結果として到達した均衡点では、資源が必要なところに必要なだけ配分されるため、不足や無駄が生じない。これを資源の効率的配分という。
あくまで理論上ではあるが、競争原理が働くなかで生まれる均衡点は、自然とパレート最適が実現した状態ともいえるだろう。
会社経営に置き換えると、適度な競争状態を保てば、自然とパレート最適に近づけられる。
たとえば、社員の評価制度を整えて競争原理が働くようにすれば、仕事の無駄が減って現場の生産性は向上するかもしれない。また、事業部ごとの経費をグラフ化して部長に共有すれば、コストの削減意識が高まる可能性もある。
ただし、競争原理によってすべてがうまくいくわけではない。現実でも、価格は需要量と供給量だけで決まるわけではなく、必要に応じて中央銀行である日本銀行が物価の安定のため金融政策を嫉視している。
金融政策とは
引用:金融広報中央委員会「金融政策とは」より
日本銀行が、金融面から物価の安定や経済の安定のために行う政策。
インフレーション(物価が上昇する現象)が発生すると、お金に対する信認が低下し、様々な弊害が起こる。このような場合、日本銀行では物価上昇を抑えるため、金融機関に国債等を売却する資金吸収オペレーションなどを通じて、市中の過剰な資金を吸収し、市場金利の上昇を促したりする(金融引き締め)。
逆に、デフレーション(物価が下落する現象)が発生し、経済活動が停滞し企業や個人の収入を圧迫するような時には、日本銀行は経済活動を下支えするため金融機関から国債等を買い入れる資金供給オペレーションを通じて市中の資金量を増加させ、金利を引き下げるなどの政策をとる。
会社経営で競争原理を取り入れる際にも、経営者が現場の影響を正しく把握し、必要に応じて微調整することが大切だ。
パレート最適の考え方は臨機応変に活用
パレート最適は、あくまで無駄のない状態をあらわす経済学における理論上の概念だ。パレート最適が正解というわけではないし、最善とも限らない。
生産性向上を目指しつつも、社員の満足度や会社のリスク耐性なども慎重に考慮する必要がある。パレート最適の考え方を参考にしつつも、現場がうまく回るよう臨機応変に経営判断をしてほしい。
パレート最適に関するQ&A
Q.パレート不効率な状態とは?
A.パレート不効率な状態とは、誰かの効用(満足)を犠牲にすることなく、他者の効用を高められる状態を指す。改善の余地があるということは、現状は資源の配分に無駄があり、パレート最適ではないということだ。「パレート非効率」と呼ばれることもある。
Q.パレート最適の反対は?
A.ゲーム理論の代表ともいえる「囚人のジレンマ」では、パレート最適とナッシュ均衡が対比されている。ナッシュ均衡とは、それぞれが自分の利益を最大化しようとしたときの均衡状態のことだ。
たとえば、2人の囚人がそれぞれ尋問を受け、どちらも自白すれば懲役5年、相手だけが自白すれば自分だけ懲役10年、どちらも自白しなければ懲役2年とする。相手が自白しないと信じてお互いに自白しなければ懲役2年ですむが、相手が自白して自分が懲役10年になるのを恐れ、お互いに自白してしまい、結局は懲役5年になる。
これはナッシュ均衡であり、パレート最適ではない状態といえる。お互いに自白しなければ懲役2年ですみ、相手の満足を犠牲にすることなく自分の満足も高められる状態といえるからだ。
Q.パレート効率的な結果とは?
A.パレート効率的な結果とは、誰かの効用(満足)を犠牲にすることなく他者の効用を高められない状態であり、資源が無駄なく配分された状態のことだ。
たとえば、2人掛けのソファにAさんとBさんが座ると、パレート効率的な結果になる。Cさんが現れてソファに座ろうとすると、すでに座っているAさんかBさんのうち、どちらかの満足が犠牲になる。つまり、パレート効率的な結果といえる。
一方、2人掛けのソファにAさんだけが1人で座る状態は、パレート効率的な結果になっていない。Bさんが現れてソファに座っても、Aさんの満足が犠牲にならないからだ。つまり、Aさんが1人で座っている状態では、ソファの使用に無駄が生じていることになる。
Q.パレート効率的な配分とは?
A.パレート効率的な配分とは、誰かの効用(満足)を犠牲にすることなく他者の効用を高められない配分、つまり一切の無駄のない資源の配分のことだ。
たとえば、ホールケーキを半分に切り分け、AさんとBさんが2人で分けるのはパレート効率的な配分だ。どちらかが3分の2のケーキをもらうと、多くもらったほうの満足度は上がるが、もう一方の満足度が犠牲になる。
一方、ケーキを3分割して両者が3分の1ずつを食べた状態は、パレート効率的な配分とはいえない。どちらかが残りの3分の1のケーキをもらっても、もう一方の満足度が犠牲になることはないからだ。
Q.パレート最適原理とは?
A.パレート最適原理とは、資源を配分するときに誰かの効用(満足)を犠牲にしないと、他者の効用を高められない状態こそが、資源が無駄なく配分された状態とする理論のことだ。この原理は、イタリアの経済学者であるヴィルフレド・パレートが提唱した。
Q.パレート最適の言い換えは?
A.言い換えとは異なるが、「厚生経済学の基本定理」のうち第一基本定理では、パレート効率性について述べられている。厚生経済学の第一基本定理では、競争原理が働くなかで生まれる均衡は、自然とパレート最適にいたると考える。
Q.パレート改善とは?
A.パレート改善とは、パレート最適の考え方をもとに、現場に生じている無駄を発見し、経営改革によって無駄をなくしていくことを指すことが多い。誰かの効用(満足)を犠牲にすることなく、他者の効用(満足)を高められれば、パレート最適に近づいたといえるだろう。
Q.パレートの主な著書は?
A.パレート最適を提唱したイタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートの著作には、「経済学講義」「経済学提要」「社会学概論」などの著作がある。
Q.8/2ルールとは?
A.パレートの法則のことで「8:2の法則」とも呼ばれる。全体数値の8割は、構成する2割が生み出すという考え方だ。つまり、2割にアプローチすれば、全体の8割に効果を及ぼせることを指す。パレートの法則は、経営分析や経営改善で広く用いられている。
Q.パレートの法則の例えは?
A.パレートの法則とは、全体数値の8割は構成する2割が生み出すという考え方で、たとえば「売上の8割を構成するのは2割の優良顧客だった」「売上の8割を生み出しているのは2割の優秀な社員だった」といった事例がある。
パレートの法則にしたがえば、2割にアプローチすれば、全体の8割に効果を及ぼせることになる。パレートの法則は経営分析や経営改善で広く用いられている。
Q.262の法則とは?
A.「262の法則」とは、どんな集団でも、パフォーマンスが素晴らしい人が2割、中程度の人が6割、良くない人が2割になるという考え方だ。「2:6:2の法則」「2-6-2の法則」と呼ばれることもある。また、働きアリの集団でも同じような結果が観察されるといわれており、「働きアリの法則」とも呼ばれる。