新型コロナウイルスによるダメージが大きな業種の1つに「百貨店」があり、三越伊勢丹ホールディングス(HD)も窮地に陥っている。今期は、最終的に450億円の赤字を計上する見通しだ。不動産事業の売却などで赤字額の縮小に努めるが、黒字化には至らない。三越伊勢丹の今後が気に掛かる。
三越伊勢丹HDが2021年3月期第2四半期の連結業績を発表
三越伊勢丹ホールディングスは2020年11月11日、2021年3月期第2四半期の連結業績(2020年4~9月)を発表した。
売上高は前年同期比41.8%減の3,357億100万円で、前年同期に黒字だった営業利益・経常利益・最終損益はいずれも赤字に転落した。営業利益は178億1,200万円のマイナス、経常利益は170億9,200万円のマイナス、最終損益は367億8,700万円のマイナスとなっている。
2021年3月期の通期の連結業績(2020年4月~2021年3月)については、売上高が前期比27.2%減の8,150億円、営業利益が330億円のマイナス、経常利益が340億円のマイナス、そして最終損益は450億円のマイナスとなる見通しだという。
しかし、この通期見通しについては、2020年7月時点の予想では最終損益が600億円の赤字となる見通しだったが、150億円ほど見込み赤字額が縮小している。その理由は、不動産部門である三越伊勢丹不動産の売却益を考慮するなどしたからだ。同社は決算発表日と同日、三越伊勢丹不動産を米大手投資ファンド「ブラックストーン・グループ」に売却することを発表した。売却額は明らかにされていないが、報道などによると300億円弱とみられている。
三越伊勢丹ホールディングスはこれまでに高級スーパー「クイーンズ伊勢丹」の運営会社の株式を売却するなど、保有資産の整理を進めてきた経緯がある。
三越伊勢丹不動産の売却の狙いは?オンライン施策をさらに強化へ
三越伊勢丹不動産の売却は、結果的に手元資金を手厚くすることにつながる。しかし、狙いはそれだけではない。「選択と集中」を進めることで、より成長分野に力を入れていきたい考えもあるようだ。例えば具体的には、オンライン施策を強化するとみられる。
三越伊勢丹ホールディングスは、新型コロナウイルスによる経営環境の変化を考慮し、2021年度を最終年度とする「現3ヶ年計画」を取り下げ、2021年5月に「次期3ヶ年計画」を発表するとしているが、現3ヶ年計画の進捗をみると、三越伊勢丹ホールディングスが確実にオンライン施策を前進させてきていることが分かる。
2020年4~9月にかけては、6月にウェブサイトの統合と新アプリの立ち上げを行い、デジタル会員の大量獲得に向けて本格的に動き出した。新アプリでは顧客一人ひとりに対してオンライン接客を展開するなど、百貨店ならではの対応のきめ細かさを強みとしている。例えば、新アプリではアプリ会員が婦人化粧品のビデオ接客を受けたい場合、あらかじめ接客時間帯を予約すると、店舗担当者が実際に画面を通じて対応してくれるという。
EC(電子商取引)の売上計画も上方修正し、実際にEC部門の売上も拡大傾向にある。2018年度のオンライン売上高は168億円、2019年度は210億円で、いずれも当初の計画値を上回った。2020年度は売上高が310億円まで伸びる見通しだという。
百貨店の厳しい状況はいつまで続くのか?
このように、三越伊勢丹ホールディングスは新型コロナウイルスによる影響を受ける中でも、保有資産の整理やオンライン施策の強化などを通じ、百貨店事業の維持・拡大に向けて歩を止めていない。何はともあれ、いま三越伊勢丹ホールディングスの経営陣の最大の関心事は、いつ新型コロナウイルスの感染拡大が日本国内で収束するのか、ということだろう。
最近では、アメリカの製薬大手であるファイザーやモバイオテクノロジー企業のデルナのワクチン開発のニュースが話題となり、その有効性の高さなどから新型コロナウイルスの早期収束への期待感が高まっている。コロナ禍が収束すれば、反動による「リベンジ消費」にも期待がかかる。さらに言えば、日本国内で新型コロナウイルスの感染拡大が収束したあと、いつインバウンド需要が復活するのかも気になっているはずだ。
観光地にある百貨店は、近年国内客だけではなくインバウンド客からの売上比率も高まっていたため、世界的に感染が収束ムードとなり、渡航が自由に可能な時期がいつになるかも、百貨店の運営会社にとっては大きな関心事であるわけだ。
まだ当面難しい舵取りを迫られる
日本国内では第3波が起き、Go Toトラベルでは札幌市と大阪市を割引対象から除外することも発表された。ワクチン開発に関する明るいニュースが増えているとはいえ、まだまだ新型コロナウイルスに関しては予断を許さない状況が続いている。
百貨店業界の厳しい状況は今後も続き、各社の経営陣もまだ当面は難しい舵取りを迫られる。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)