今それはアウトです!
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(本記事は、菊間 千乃氏の著書『今それはアウトです!〜社会人のための身近なコンプライアンス入門〜』=アスコム、2020年9月26日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

異性の部下の肩を叩く

今それはアウトです!〜社会人のための身近なコンプライアンス入門〜
(画像=「今それはアウトです!〜社会人のための身近なコンプライアンス入門〜」より)

肩に触れなくても職場のコミュニケーションは十分できるはず

肩に触れる程度の身体的接触はセクシャルハラスメント(セクハラ)ではない、という安易な線引きには注意が必要です。

職場においてどのような行動がセクハラに該当するのか、明確な定義はありませんが、前提として、「職場において労働者の意に反する性的な言動をすること」はセクハラに該当する可能性があります。例えば、不用意に身体に接触すれば触られた労働者が苦痛に感じ、就業意欲が低下することはあり得ます。その場合は、労働者の意に反する性的な言動により就業環境を害したとして、環境型セクハラと判断されても仕方ありません

腰や胸と異なり、肩に触れる程度であれば問題ないと考える方もいらっしゃるでしょう。けれども触れられた側は、肩であっても不快に思うかもしれません。そもそも、肩に触れなくても、適切な言葉をかけるなどして、はげましたり感謝の気持ちを伝えることはできますよね。必要がないにもかかわらず肩に触れるのは、セクハラと扱われるリスクがあり、控えるべきです。

上司であるあなたへの、会社の対応

また会社は、セクハラに関し、労働者からの相談に応じ、適切に対応することとされています。そのための体制整備をはじめ、雇用管理上必要な措置を講ずる必要もあります(男女雇用機会均等法11条)。このため、仮にセクハラに相当する事実が認定された場合には、会社はあなたに対し懲戒処分をする可能性があります。加えて、セクハラをした相手から損害賠償請求などを受けることも考えられます

身体的な接触がコミュニケーションの一環などと思っている方がいらっしゃったら、認識を改めてくださいね。

「どうして結婚しないのか」「子どもはまだか」と聞く

今それはアウトです!〜社会人のための身近なコンプライアンス入門〜
(画像=「今それはアウトです!〜社会人のための身近なコンプライアンス入門〜」より)

相手のプライベートに立ち入る言動は、慎重にするべき

自分の人生経験から得たアドバイスが、部下や後輩にとって有意義なものになりうることを否定はしません。しかしそれが、押し付けであってはいけません。また、時代の流れや時々の常識を踏まえた発言をする必要があります。

2020年6月1日からいわゆるパワハラ防止法が施行されました。同法施行に合わせ、厚労省が告示した職場におけるハラスメント関係指針では、職場におけるパワハラとは、職場において行われる①優越的な関係を背景とし、②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、③労働者の就業環境が害される言動であり、①から③までの要素を全て満たすものと定義されています。

同指針では、パワハラ6類型が例示されていますが、「結婚は本当にいいよ」「子どもはまだ?」といった発言は、私的なことに過度に立ち入るものであり、「個の侵害」としてパワハラに該当する可能性があるといえます。また、上記発言によって労働環境が悪化したとその女性職員が感じた場合、パワハラのみならずセクハラに該当することも考えられます

「単なる質問」の域を出ると

さらに、「結婚していない部下は信用できない」「子どもを持たないうちは社会人として一人前といえない」などの発言になると、個人の選択を一方的に否定するものであり、パワハラにあたる可能性が高くなる上に、部下への侮辱罪(刑法231条)が成立する可能性もあります。侮辱的要素を含む発言については、職場内外を問わず、同罪が成立し得ます。

業務上のやり取りだけの職場は味気ないものですが、自分の感覚で相手のプライベートに入り込む言動は、控えたほうが賢明です。

今それはアウトです!〜社会人のための身近なコンプライアンス入門〜
菊間 千乃
弁護士法人松尾綜合法律事務所弁護士。早稲田大学法学部卒業。1995年、フジテレビ入社。アナウンサーとしてバラエティーや情報・スポーツなど数多くの番組を担当。2005年、大宮法科大学院大学(夜間主)入学。07年、フジテレビ退社。11年、弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。19年、早稲田大学大学院法学研究科先端法学専攻知的財産法LL.M.コース修了(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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