今それはアウトです!
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(本記事は、菊間 千乃氏の著書『今それはアウトです!〜社会人のための身近なコンプライアンス入門〜』=アスコム、2020年9月26日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

部下をみんなの前でどなりつける

今それはアウトです!〜社会人のための身近なコンプライアンス入門〜
(画像=「今それはアウトです!〜社会人のための身近なコンプライアンス入門〜」より)

コンプライアンス徹底の流れが加速パワハラにならない指導法を

「こいつは何度言ってもミスが直らん!」「ついに得意先を失ってしまった!」。このケースは、そんな怒りがこみあげてきて、つい強く叱責(しっせき)したくなったのでしょう。しかし、正当な指導のための発言であっても、行き過ぎればパワーハラスメント(パワハラ)になることがあります。

パワハラとは、①優越的な関係を背景とし、②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、③労働者の就業環境を害することをいいます。

都道府県労働局における「いじめ・嫌がらせ」の相談件数が2018年に8万件を超えるなど、パワハラ対策が深刻な課題となっていることを受け、2019年、労働施策総合推進法が改正されました。これにより企業は、パワハラで就業環境が悪化するのを防ぐため、相談窓口の設置などの雇用管理上必要な措置を取ることとされました(同法30条の2。ただし中小事業主は、令和4 年3月31日までは努力義務)。そのため、パワハラに該当する言動をすれば、社内規定に則り懲戒(ちょうかい)処分の対象になる可能性が高まっています

また、昨今は、部下がパワハラをした上司や会社を相手に損害賠償請求の訴訟を起こすこともあります。

怒りにまかせる以外の方策を

このケースは、部下の教育が目的だったかもしれません。しかし、同僚の前でそんなふうに言われてしまった部下は、ひどく落ち込んで職場に来るのが嫌になってしまうかもしれません。別室で注意する、再発防止策を一緒に考えるなど、他の方法も考えられます。今回のような言動はパワハラと認定されるおそれがあり、今後は控えたほうがいいでしょう。

部下の指導で、机を叩く、椅子を蹴る

今それはアウトです!〜社会人のための身近なコンプライアンス入門〜
(画像=「今それはアウトです!〜社会人のための身近なコンプライアンス入門〜」より)

適正な指導は上司の役目。でも「脅迫」や「暴行」はアウト!

本人に直接暴力を振るっていないのだから、机を叩いたり椅子を蹴ったりするくらいはパワーハラスメント(パワハラ)にあたらない――そんな認識で、本当に大丈夫でしょうか。

パワハラの典型例は厚生労働大臣が制定した指針に示されています。その中には、①身体的な攻撃(暴行など)や、②精神的な攻撃(脅迫など)をはじめ6つの類型があげられています。

部下が使用していない机であっても、故意に叩くなどして部下を威嚇するような態度をとれば、それは②精神的な攻撃としてパワハラと評価されることもあり得ます

接触しなくても「身体的な攻撃」

また、仮に部下が座っている椅子を蹴ったとしたら、部下の身体に直接接触していなくても、人の身体に向けられている以上、①身体的な攻撃の一種としてパワハラと評価される可能性があります

これらのパワハラにあたる行為をすれば、会社から懲戒処分を受けたり、相手から損害賠償請求を受けたりする可能性があります。①身体的な攻撃の場合、具体的な状況次第で、暴行罪(刑法208条)に該当するおそれもあります(2 年以下の懲役または30 万円以下の罰金などの対象)。

部下を脅したところで、部下が成長するでしょうか。なぜ指示を聞かないといけないのかを理解させ、実行させるのが上司であるあなたの役目です。感情をぶつけたくなる気持ちもわからなくはないですが、そのためにあなたがパワハラ認定されるなんてことがあってはなりません。手を焼く部下にも、手を上げてしまったらアウトなのです。

今それはアウトです!〜社会人のための身近なコンプライアンス入門〜
菊間 千乃
弁護士法人松尾綜合法律事務所弁護士。早稲田大学法学部卒業。1995年、フジテレビ入社。アナウンサーとしてバラエティーや情報・スポーツなど数多くの番組を担当。2005年、大宮法科大学院大学(夜間主)入学。07年、フジテレビ退社。11年、弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。19年、早稲田大学大学院法学研究科先端法学専攻知的財産法LL.M.コース修了(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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