今それはアウトです!
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(本記事は、菊間 千乃氏の著書『今それはアウトです!〜社会人のための身近なコンプライアンス入門〜』=アスコム、2020年9月26日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

相手の配偶者の悪口を言う

今それはアウトです!〜社会人のための身近なコンプライアンス入門〜
(画像=「今それはアウトです!〜社会人のための身近なコンプライアンス入門〜」より)

本人を褒めているから問題ない?それも一種のパワハラです

仕事で成果をあげた部下を褒めてやる気を出させることは、上司に求められる役割の1つでしょう。しかし、褒める方法や言い回しを間違えると、自分は褒めたつもりでも、部下には全く伝わらず、むしろ不快にさせることにもなりかねません。

今回のケースでは、部下の女性に対して、その夫を引合いに出した発言が問題となっています。「稼ぎの悪い亭主」という発言は、業務と何ら関係なく私的なことに過度に立ち入る発言です。いわゆるパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)の施行に向けて厚生労働省が発表した指針では、パワハラを6類型にまとめていますが、このケースはそのうちの1つである「個の侵害」にあたる可能性があります。パワハラと判断されれば、会社から懲戒処分を受けたり、相手から損害賠償を請求される可能性があります

「亭主」への侮辱は

なお、「稼ぎの悪い亭主に比べて君は優秀」という発言は、夫本人に対する侮辱罪(刑法231条)または名誉毀損(きそん)罪(同法230条)にあたる可能性があります。この発言は、夫は能力が低いゆえに稼ぎが悪いと言っているに等しいとして、夫の社会的評価を害する発言ととらえることができるからです。名誉毀損罪の法定刑は、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金です。

ただしこの発言は、女性本人の社会的評価を下げるおそれがあると断定するのは難しそうです。部下本人に対しては、侮辱罪や名誉毀損罪が成立する可能性は低いでしょう。

部下を褒める際には、余計なことは言わずに、仕事ぶりや成果について端的に褒めることを心がけましょう。

「パワハラとは何か」をまず理解しましょう

「不快にさせる」「尊厳を傷つける」かどうか

パワハラ、セクハラ、マタハラ、カスハラ……ハラスメントのニュースを目にしない日はないというくらい、様々なハラスメントが問題となっています。パワハラやセクハラを理由とした懲戒解雇も散見されますので、「生きづらくなったなぁ」などと、ボヤいている場合ではありません。一見難しそうなハラスメント問題も、概念をきちんと押さえれば、自分が取るべき行動が見えてきます!

まず、ハラスメントとは何か、です。ハラスメント(英語)を辞書でひくと、「嫌がらせ」「迷惑行為」とあります。日本語では、「他者に対する発言・行動で、相手を不快にさせる、尊厳を傷つける」「嫌がらせ」などの意味で使われています。上下関係、性差、妊娠といったことを理由としたハラスメントが職場で良しとされないことは明らかです。上下関係をなくしなさいというのではなく、上下関係を根拠に、相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけたりする行動はダメですよということなのです。

即アウトになる6類型とは

いけないとわかっているはずなのに、ハラスメント関連の労働紛争はむしろ増加の一途です。そこで国は、労働施策総合推進法を改正し、パワハラの行為類型や事業主が取るべき措置などについて規定しました。同法で、パワハラは、①優越関係を背景とした、②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、③就業環境を害すること(身体的もしくは精神的苦痛を与えること)と定義されました。相手がパワハラだと思えばパワハラ、と間違った理解をしている方がいらっしゃるので、ここは重要です。つまり、客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワハラには該当しないということです。

そして、この業務上必要かつ相当な範囲を超えた行為類型として、以下の6つが挙げられています。①暴行などの「身体的な攻撃」、②暴言、必要以上の長時間の叱責などの「精神的な攻撃」、③別室に隔離、無視などの「人間関係からの切り離し」、④明らかに実現不可能なノルマを課すなどの「過大な要求」、⑤能力やこれまでのキャリアとはかけ離れた難易度の低い仕事を命じるなどの「過小な要求」、⑥性的志向や病歴などを本人の同意を得ずに暴露するなどの「個の侵害」

この6類型に該当すれば即アウトです。しかし職場で問題となる事例は、微妙なケースのほうが多いかもしれません。そんなときは原則に戻ってください。相手の尊厳を傷つけるような言動になっているかどうか、と。「叱責」といっても、部下の成長のための叱責なのか、自分の感情のはけ口としての叱責なのか、どちらが業務の適正な範囲で、どちらがパワハラに傾倒していくかはわかりますよね。

パワハラが怖くて部下指導ができない?

生の感情をそのままぶつけてよいことは、まずありません。感情が高ぶったら、1回深呼吸をして、相手に発する言葉をセリフのように考え、俳優になったつもりで発してみましょう。

パワハラが怖くて部下の指導を放棄する管理職が増えているという話も聞きますが、適切な指導は部下にとっても、企業にとっても必要です。パワハラの何たるかを理解した上で、良い人間関係を築いてくださいね。

今それはアウトです!〜社会人のための身近なコンプライアンス入門〜
菊間 千乃
弁護士法人松尾綜合法律事務所弁護士。早稲田大学法学部卒業。1995年、フジテレビ入社。アナウンサーとしてバラエティーや情報・スポーツなど数多くの番組を担当。2005年、大宮法科大学院大学(夜間主)入学。07年、フジテレビ退社。11年、弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。19年、早稲田大学大学院法学研究科先端法学専攻知的財産法LL.M.コース修了(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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