当期利益は、損益計算書において計算される。この一方で、法人税申告書は課税所得を計算するものであるため、当期利益をスタートとして調整計算を行う。また、キャッシュ・フロー計算書などの現金収支は、当期利益と異なるため、当期利益に対して加算減算の計算を行う。本稿では、損益計算書、法人税申告書、キャッシュ・フロー計算書における当期利益の取扱いについて説明したい。
目次
当期利益を表示する損益計算書とは
損益計算書の中に記載されている数値が何を指しているか、当期利益とどのような関係があるかを解説する。
当期利益を計算する損益計算書とは何か
損益計算書は、企業の事業年度の経営成績を明らかにするため、1年間の全ての取引のうち、収益と費用をまとめて当期利益を計算するものである。つまり、1年間でいくら儲けたのか、【収益-費用=利益】という計算式によって明らかにする。
開業してすぐの年度や決算期変更を行った年度では、1年未満(例えば、6ヵ月など)で決算を行うこともあるが、それが過ぎれば基本的に事業年度は1年間となる。個人事業主はすべて12月決算であり、3月に当期利益が確定する。これに対して、法人(会社)は決算月が決まっていない。
大企業である法人は3月決算とすることが多いため、3月に当期利益が確定する。しかし、中小企業である法人の決算期はバラバラであり、当期利益の確定する時期は定まっていない。これは、顧問税理士が決算作業の集中を避けるために、手が空いている月を決算期とするのである。したがって、当期利益が確定する時期は企業によって異なる。
営業利益から当期利益までの計算
営業利益は損益計算書において、当期利益にいたる計算の途中で算出される利益である。この利益は、売上総利益から経費である「販売費及び一般管理費(販管費)」を差し引いて計算されたものである。販管費には、役員報酬、給与手当、広告宣伝費、交際費、地代家賃などが含まれる。
営業利益に対して、配当金や受取利息などの営業外収益を加算し、支払利息・割引料などの営業外費用を減算すれば、税引前の当期利益が算出される。税引前の当期利益から法人税等を減算すれば、税引き後の当期利益が算出される。一般的に「当期利益」と称される利益の金額は、税引前の当期利益ではなく、税引き後の当期利益を意味している。
理論的には、当期利益ではなく、営業利益が本業の儲けを示すものだと言われている。しかし、中小企業の営業利益を見ると、一般的に営業外費用の支払利息・割引料を賄う程度にわずかにプラスになる程度の利益が計上されていることが多い。営業利益が恣意的に算出されているのだ。
当期利益と法人の節税
当期利益を多く計上することは、法人税等を多く納めければならないということだ。しかし、企業の経営者は、節税したいと考え、可能なかぎり経費を増やして当期利益を減らそうとする。
例えば、法人契約の生命保険に加入することで支払保険料という費用を計上して(税務上も損金算入)、当期利益を意図的に減らそうとするまた、法人(会社)が儲かっているときには、交際費や会議費(1人あたり5,000円以下の飲食費)の支出を増やすことで、当期利益を減らすことができる。
当期利益と収益性の評価
会社の収益性、すなわち、儲けを稼ぎ出す能力を測定する指標は利益率である。本業の取引そのものから生み出される売上総利益(=粗利)を測定するものが「売上総利益率」(=粗利率)である。また、
本業を営むために必要となる間接経費(販売費および一般管理費)を売上総利益から差し引いて営業利益を計算するが、この段階での収益性を測定するものが「営業利益率」である。
そして、財務取引から発生する収益および費用と法人税等を営業利益から加算減算して当期利益を計算するが、当期利益を使って収益性を測定するものが、「当期利益率」である。また、当期利益の総資産に対する割合を総資産利益率、当期利益の自己資本に対する割合を自己資本利益率という。
当期利益が、収益性を測定する指標として利用されるケースは少ない。これが利用されるのは、ROEすなわち自己資本利益率を分解して分析するケースである。ROEは、当期利益を自己資本で除して計算するが、これを2つに分解すると、当期利益率(=当期利益/総資産)と自己資本利益率の逆数(=総資産/自己資本)になる。この際、当期利益率が分析の対象となることがある。
法人税申告書における当期利益とは
法人税法上の所得金額は、損益計算書の当期利益と全く別に計算するものではなく、確定した決算(株主総会の承認を受けた決算)に基づく当期利益に一定の調整を加えて計算する。損益計算書の当期利益は、収益から費用を差し引いて計算するが、法人税の課税所得は、「益金」から「損金」を控除して計算する。課税所得と当期利益は一致するものではない。
近い概念だが異なる存在
収益と益金、費用と損金はそれぞれ近い概念であるが、計算目的が異なるために一致しない。それゆえ、損益計算書の当期利益から法人税の課税所得へ修正する必要が生じる。この計算過程を表示したものが法人税申告書の「別表四」である。
一般的に、別表四は当期利益から計算がスタートし、当期利益にプラスすることを「加算」、当期純利益からマイナスすることを「減算」という。当期利益に加算される項目として、一つは、会計上の収益ではないが、税務上の益金に算入されるもの(益金算入)がある。
もう一つは、会計上の原価・費用・損失だが、税務上は損金に算入されないもの(損金不算入)がある。代表的なものが、損益計算書に法人税等として費用計上したものである。また、交際費で損金不算入とされたものもここに記載される。
これに対して、当期利益から減算される項目として、一つは、会計上は収益だが、税務上は益金に算入されないもの(益金不算入)がある。例えば、受取配当金、法人税や所得税の還付金がある。もう一つは、会計上の原価・費用・損失ではないが、税務上の損金に算入されるもの(損金算入)がある。
キャッシュ・フロー計算書における当期利益とは
決算書に記載の数字と現金の流れは必ずしも一致しない。それをどのように判断したらよいだろうか。
当期利益と現金収支の違いは?
中小企業の決算書では、損益計算書において当期利益を報告するが、通常は現金収支(キャッシュ・フロー)の状況まで報告しない。それゆえ、現金収支については、当期利益とは別に計算し、管理する必要がある。これを資金繰りと言う。
資金繰りとは、現金の収入と支出をチェックし、現金が枯渇することのないように管理することである。会社の現金の残高がゼロとなれば、会社は倒産する。また、資金繰りを誤れば、業績が好調であっても「黒字倒産」することがある。それゆえ、当期利益だけでなく、将来的な現金収支を事前に予測し、倒産を防ぐことが不可欠である。
一般的に、現金収支の状況を把握することによって、適切な資金繰りを継続することが重要であると言われる。理論的には、当期利益が黒字になると現金が増え、当期利益が赤字になると現金が減るはずであろう。
しかし、既述のように中小企業の場合は、利益が意図的に操作されているため、儲かっても当期利益は増えず、当期利益が実質的にマイナス(損失)であっても、簡単には当期利益が赤字にならない。
資金繰りが悪化すればオーナー経営者からの借入金で対応するため、単純に現金が減ったからといって資金が枯渇することはない。中小企業の当期利益と現金収支との関係性が乏しく、資金繰りの状況を把握することが容易ではない。
当期利益と現金収支はなぜ一致しないのか
当期利益は、収益から費用を差し引いて計算する。現金収入と支出だけであれば、現金の増減が当期利益に一致するため、計算は簡単だろう。しかし、通常の商品売買やサービス提供においては、信用取引が行われることが一般的であるため、計算が複雑になる。
例えば、「末締め、翌月末払い」という取引条件であれば、それは、当月に販売した商品の売上代金は、当月末に合計額を集計されて、その金額が翌月末に決済される。すなわち、当期利益が増加する売上高と、当期利益が減少する売上原価の記帳のタイミングと、売上代金の入金を記帳するタイミングがずれるのである。
つまり、会計上の当期損益と現金収支は一致しないのだ。このような期間的なズレは、資産または負債として貸借対照表に記録される。
当期利益と現金収支が異なる取引の具体例は?
月末に未入金額としての売上債権(売掛金)が計上されることになる。したがって、資産として計上されると、当期利益の増加要因となっていても、現金収支には含まれていない。当期利益のうち資産の計上額は現金を伴っていないのである。
それと同時に、前期末に計上されていた売上債権(売掛金)は、当期に入金となっているはずだ。したがって、資産が減少すると、当期利益の増加要因とはならないが、現金収入が発生する。つまり、当期利益の金額よりも資産の減少額だけ現金収入は多いのである。
各計算書や申告書から正しく自社の状態を把握しよう
損益計算書、法人税申告書、CF計算書はそれぞれ目的が異なるため、出てくる数字にも違いが生じる。そのことを理解し、決算書や申告書から自社の利益や現金の流れを正しく把握して、経営戦略に活かしていただきたい。
文・岸田康雄(公認会計士・税理士)