給付金
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世の中には様々な給付金が存在する。政策として何かを推進するためや、特定の個人や法人の救済のため等の目的で給付されることが主である。ここでは、給付金を受給する際の具体的な会計処理の例や注意点を説明する。

目次

  1. 給付金とは?
    1. 給付金とはどのようなものか
    2. 補助金、助成金との違い
    3. 返済は必要か?
  2. 給付金を得たときの会計処理
    1. 給付金を受給したときの勘定科目
    2. 会計処理をするのはいつのタイミングか
    3. 具体的な仕訳例
  3. 給付金の処理をするときの注意点
    1. 決算期をまたいで計上することがある
    2. 会計上の処理と税務上の処理は違う
    3. 消費税は不課税
    4. 人件費の補填として給与から差し引く処理は認められない
  4. 正しく会計処理しよう

給付金とは?

給付金とは、一定の要件を満たした場合に金銭が支給されるものである。

給付金とはどのようなものか

給付金自体に根拠法があるのではなく、それぞれの給付金ごとに、根拠法令やルールがある。法人が受け取る給付金はたとえば以下である。

  • 持続化給付金
  • 家賃支援給付金
  • 特例給付金
  • 入院給付金
  • 先進医療給付金

おもに、事業者に帰属するものと、事業者の従業員に帰属するものを事業者が代理で受け取るものがある。

補助金、助成金との違い

補助金は、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」や「地方自治法」といった法令を根拠とするものである。助成金は、それ自体の根拠法はないが、ほぼ補助金と同等と考えてよい。いずれも税金や、国が徴収した雇用保険料などを財源としている。
給付金と、補助金や助成金の違いであるが、結論から言うと名称や財源以外に大きな差はないと考えてよい。それぞれ支給者が定める要件を満たした場合、ある財源から支給されるもので、〇〇補助金、〇〇助成金、〇〇給付金、という名称がつけられるものである。給付金の場合は、保険会社など民間企業から給付されることもある。

返済は必要か?

給付金については、原則として返済の必要がないと考えてよい。返済が必要なのは、給付金でなく「借入金」である場合や、給付を申請した内容に誤りがあるなどして返還が求められた場合である。

給付金を得たときの会計処理

給付金は、原則返還が不要である。特別な決まりがなければ、すべてが一時の収益となると考えられる。

給付金を受給したときの勘定科目

使用する勘定科目は、「雑収入」や、重要性が高い場合はすぐに分かるように「給付金収入」等の勘定科目で計上するのがよい。勘定科目は自由に設定してよいものとされている。金融庁が公開している、上場企業等に向けた「勘定科目リスト」には、助成金に関する勘定科目はない。もしこのリストに沿うのであれば、勘定科目は「補助金収入」又は「助成金収入」を用いればよい。

金融庁ホームページ

なお補足として、事業者ではなく従業員に帰属する給付金を企業が代理で受け取る場合の勘定科目は、収益ではなく「預り金」など負債科目を用いる。従業員に支給する際に、預り金がゼロになればよい。

会計処理をするのはいつのタイミングか

では、給付金はどのタイミングで会計処理すべきなのであろうか。
まず、事業者ではなく従業員に帰属する給付金を企業が代理で受け取る場合の会計処理のタイミングは、入金時となる。
これ以後は、事業者に帰属する給付金に絞り、説明をしていく。

給付金を受給するには、申請、(もしあれば)審査、受給決定、入金、という流れをとる。特別な決まりがない限りは会計の「実現主義」に基づき、給付金が受給できることが確定し、その金額が決定した時に、計上することになる。一般的には、支給者から決定通知書等の証票が送付されると考えられるので、その決定があった日が計上すべき日となる。
特別な決まりがある場合は、その決まりに従う。たとえば、法人税基本通達2-1-42については以下の決まりがある。
「法人の支出する休業手当、賃金、職業訓練費等の経費を補填するために雇用保険法、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律、障害者の雇用の促進等に関する法律等の法令の規定等に基づき交付を受ける給付金等については、その給付の原因となった休業、就業、職業訓練等の事実があった日の属する事業年度終了の日においてその交付を受けるべき金額が具体的に確定していない場合であっても、その金額を見積り、当該事業年度の益金の額に算入するものとする。」

国税庁ホームページ

つまり、特定の助成金について、申請日から決定日の間に決算期末がある場合は、その決定を待たず、見積額を申請した期の収益として計上することになる。特定の助成金とは、雇用調整助成金などの経費を補填するため該当する助成金や、障がい者を雇用した際の特例給付金などである。これはあくまで税法上のルールであるが、発生した経費の補填という側面からみても、見積額を経費が発生した期に収益計上することも可能だと考えられる。

具体的な仕訳例

給付金を申請してから受給するまでの流れを仕訳でみていこう。

1.特例給付金を申請した場合
仕訳なし。この時点では受給可否が未定であるため。

2-1.申請と同じ事業年度に決定通知が届き、特例給付金100を受給できることが判明した。

借方貸方
未収入金100雑収入100

2-2.特例給付金の決定がされないまま期末を過ぎた。給付金額は90と見積もっている。

借方貸方
未収入金90雑収入90

その後、決定通知が届き、特例給付金100を受給できることが判明した。

借方貸方
未収入金10雑収入10

90を見積もった際の計算が合理的であれば、差額は決定時に追加で処理すればよい。

3.特例給付金100を受給した。

借方貸方
預金100未収入金100

給付金の処理をするときの注意点

さきほど仕訳例で見たように、給付金を計上するタイミングや金額について注意が必要である。

決算期をまたいで計上することがある

受給申請をした、あるいは受給が決定した助成金について、その収益計上が受給決定時なのか、法令で特別な決まりがあるかを把握する必要がある。入金時まで会計処理をしなかったり、見積額で計上すべきところをしなかったりした場合、税務調査で指摘されれば間違いなく税務申告の修正が必要になるであろう。そうなると、追徴課税と、それに付帯した延滞税などを納付しなければならなくなる可能性が高い。

会計上の処理と税務上の処理は違う

日本の場合、税務申告は会社法に基づいて確定した決算をベースにおこなう。会計上の決算における最終利益から、税務上扱いが異なるものを調整して、法人税を申告する。これを「確定決算主義」という。利益を増やすものは益金(税金計算上の収益)、減らすものは損金(税金計算上の費用)と呼ばれる。たとえば、接待交際費を損金にするには制限があり、認められない部分は会計上の利益に足した上で税金を計算しなければならない。極端な場合、会計上は赤字であるが、税金計算上は黒字で、納税が必要になるケースもある。

給付金については、確定した時点、又は法令で特別に決められた時点で会計処理をし、税務と差がないため、特に調整は必要ないと考えられる。しかし、会計上は収益としないが、税務上は前倒しで益金とするケースや、会計上は収益とするが、税務上は収益としなくてすむ定めがある場合は、決まりに沿って処理することが必要である。

つまり、給付金の会計上及び税務上の扱いについて確認し、ルールに沿って処理することに注意が必要である。

消費税は不課税

給付金は、一般に消費税がかからないとされる。消費税がかかるのは以下の要件をすべて満たす取引である。

(1) 事業者が事業として行う取引
「事業者」とは、個人事業者(事業を行う個人)と法人をさす。
「事業として」とは、対価を得て行われる資産の譲渡等を繰り返し、継続、かつ、独立して行うことをいう。
個人がたまたま自分の自家用車を手放す行為は、事業として行う売買とはならない。法人は事業を行う目的をもって設立されたものであるため、その活動はすべて事業となる。

(2) 対価を得て行う取引
「対価を得て行う」とは、物品の販売などをして、その対価を受け取る取引をいう。
寄附金や補助金、無償の取引や宝くじの賞金などは原則として課税の対象にならない。

(3) 資産の譲渡等
「資産の譲渡等」とは、事業として有償で行われる商品や製品などの販売、資産の貸付け及びサービスの提供をいう。

国税庁ホームページ 

国税庁ホームページには、補助金は対価を得て行う取引ではなく、課税対象にならないと明記されている。また、資産の譲渡等でもないと考えられる。よって、消費税は不課税である。「雑収入」などの勘定科目を使用する場合、会計ソフトによっては消費税が課される取引という初期設定になっている可能性があるため、会計処理をする際は不課税とするように注意が必要である。

人件費の補填として給与から差し引く処理は認められない

給付金の要件が人件費の補填である場合でも、人件費から給付金を差し引いて集計することは望ましくないとされている。
企業会計原則の損益計算書原則に、「損益計算書の本質」として以下の記載がある。
「損益計算書は、企業の経営成績を明らかにするため、一会計期間に属するすべての収益とこれに対応するすべての費用とを記載して経常利益を表示し、これに特別損益に属する項目を加減して当期純利益を表示しなければならない。」
そして、その1つの定めとして「総額主義の原則」というものがある。
「費用及び収益は、総額によって記載することを原則とし、費用の項目と収益の項目とを直接に相殺することによってその全部又は一部を損益計算書から除去してはならない。」

関連する収益と費用だからといって、それを相殺して表示してしまうと、その企業の取引の規模や、本当の費用の額などを利害関係者が把握できなくなってしまう。人件費の発生と、その補填の給付金は、確かに関連するかもしれないが、取引としては別である。よって、給付金は収益としてすべてを、人件費は費用としてすべてを、損益計算書に表示する必要があることに注意が必要である。

正しく会計処理しよう

給付金は、名称等は違うがおおむね補助金や助成金と同じものと考えても会計処理上は差し支えない。処理を誤ると利害関係者への報告が不適切になったり、税務上のリスクを負ったりすることになるため、使用する勘定科目や計上するタイミング、注意点を理解し、正しく会計処理していただきたい。

文・新井良平(バックオフィスLABO代表)

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