カレーハウスCoCo壱番屋創業者 宗次 德二 氏
(画像=ビジネスチャンス)

ライトアップ
宗次 德二 社長

新型コロナウイルスの影響で混乱をする外食業界。店舗に依存していたビジネスモデルを見直し、テイクアウトやデリバリーサービスに活路を見出す飲食店も多いが、果たしてこの流れはいつまで続くのか。カレーハウス「CoCo壱番屋」の創業者で同店を日本一のカレーチェーンに育て上げた宗次德二氏は今の状況をどう見ているのか。
(※2020年10月号「The Founder」より)

宗次 德二
宗次 德二
むねつぐ・とくじ
昭和42年、愛知県立小牧高等学校商業科を卒業後、不動産業の八洲開発に入社。昭和45年、大和ハウス工業名古屋支店に転職し、同僚だった直美さんと結婚。2年後に不動産仲介業で独立し、さらに2年後に喫茶店「バックス」を開業。昭和53年、「カレーハウスCoCo壱番屋」を創業。現在はNPO法人イエロー・エンジェルの理事長を務める。

── 新型コロナウイルスの流行で、飲食業界は大きな転機を迎えようとしています。店舗だけに依存したビジネスモデルに限界を感じた飲食店が、次々にテイクアウトやデリバリーなどに参入しています。

宗次 新型コロナがこの先どうなるか分からないという不安があるため、今はお客様もテイクアウトやデリバリーを盛んに利用されていますね。しかし、この状況が長く続くとは思いません。急には戻らなくとも、徐々に戻るはずです。というのも、やっぱり料理はお店で出来立てを食べるのが一番美味しい。何人かでご飯を食べるのも、やっぱりお店でないとできませんからね。だから結局は、大事なのは「どう売るか」や「どう商売するか」ではなく、商売やお客様に対する姿勢なのだと思います。

好調な時にこそ新しいことにチャレンジするべき
▲好調な時にこそ新しいことにチャレンジするべき(画像=ビジネスチャンス)

──「CoCo壱番屋」は以前からテイクアウトや宅配に取り組んでいらっしゃいます。

宗次 宅配に関しては、始めてからもう、かれこれ35年になります。当時はちょうど宅配ピザが流行り出した頃で、好調な業績をさらに伸ばそうと思って採り入れました。私からすれば、新しい取り組みは会社の調子が良い時にやるべきであって、困ったときにすることではない。だから今の業界の流れには少し違和感があります。             

   

──新しいことに次々にチャレンジしてこそ、社内のモチベーションも上がりますし、競争意識も生まれます。

宗次 現状維持は結局、衰退でしかない。会社を経営する以上、適正な拡大志向というものがなければいけないのですが、飲食業界に限らずそうした意識のない経営者は意外と多い。仲間で群れてバカ騒ぎして、それはしてはいけないとは言いませんが、やはりまずはやるべきことをやらないとね。経営者には社員やアルバイト、取引先など、多くの人の生活を担う責任があるということを自覚しないといけません。

──飲食業界では今後、コロナ倒産が増えるというような報道があります。

宗次 売上が減って大変なのは分かりますが、それですぐに「店をたたむ」とか「家賃が払えない」「スタッフを解雇しないといけない」となるのは、おかしいのではないでしょうか。オープンしてまだ2、3カ月の飲食店が言うのなら分かりますが、3年、5年、10年続けている飲食店が3月の段階でこんなことを言ってはいけません。この1、2ヶ月で実際にそういうことを言っておられる経営者に何人かお会いしましたが、「それは今までのやり方に問題があったのではないですか」とはっきり言いました。今回はたまたまコロナでしたが、いつ病気や自然災害などで休業しなければならなくなるか分からないのに、いざというときへの備えを何もしてないというのは、僕からすれば経営者失格だと思います。結局、いつまでも自転車操業を続けてきたツケが回ってきただけなのではないでしょうか。

──とはいえ、実際に経営に行き詰まる飲食店は増えています。

宗次 何とか急場をしのぐことができたのであれば、今回のことを糧に、180度心を入れ替えて経営に取り組んでもらえれば良いのではないでしょうか。ただ、テイクアウトにしろデリバリーにしろ、コロナが収束するまでの“繋ぎ”のつもりでやってしまうと、一時的に売上は上がるかもしれませんが、将来にはつながらないと思います。実はつい先日、うち(宗次ホール)の近くにある居酒屋がお弁当を始めたというので、一度買いに行ったのですが、ご飯が冷えていてがっかりしました。お店で売っているのに、なぜ暖かいご飯を入れてあげないのかと思いましたね。結局、お客様目線ではないんですよ。お客様に喜んでもらいたいと考えれば、自然にそういう発想になるはずなのに、お店の売上をどうしようかということしか考えていないんですよ。これではせっかく来てくれたお客様をガッカリさせて帰らせてしまうだけです。出迎え方一つとってもそう。お客様は「ようこそ」という気持ちがあるかないかを、こちらが思っている以上に敏感に感じ取るものです。たまに、威勢よく声を張り上げて出迎えるお店がありますが、あれは気持ちを込めるというのとは違いますよね。

── 何をやるかというよりも、日頃からどういうスタンスで取り組んでいるのかが大切だということでしょうか。

宗次 よく「行列のできる○○」というのがありますが、私にとってはこれもありえない。もちろん、中には並ぶことも含めて楽しんでいるというお客様もいらっしゃるとは思いますが、大半はそうじゃない。だから並ばせているお店を見ると「なんで待たせるのか」と思ってしまうんです。しかも大雨や夏の暑い日に外で待たせたりなんかしていたら、もう許せませんよね。私だったら近隣にもう一軒別の店舗を出すか、もしくは営業時間を少し延ばすなどして対応します。 

── 人気のお店だと、ときには並んでもらわなければならないこともあるかと思います。

宗次 以前、秋葉原に立て続けに3店舗を出したことがあったのですが、あのときも最初に作った店舗にお客様が並んでしまったため、それを解消したい一心でした。ビジネスなので赤字にならないことが前提ですが、行列ができて繁盛している様子をアピールするよりも、お客様のことを第一に考えて待たせないようにする、これがサービスの基本だと思います。

── 「CoCo 壱番屋」では、経営に行き詰まるということはなかったのでしょうか。

宗次 一度たりともありませんでした。もちろん最初の頃は自転車操業で資金繰りもそれなりに大変でしたが、運営上で行き詰まることはありませんでしたね。三流経営者がやった割には、奇跡的にうまくいったと思っています。

── 宗次さんの話を伺っていると、経営者にも謙虚さのようなものが必要なのだなと感じます。

宗次 一流だと勘違いしてしまうのが良くない。一人だけ良いものを身に付けて「今日は○○でパーティーだ」とか、そういう方はよくいます。それで会社が潰れてもご自分で蒔いた種だから同情の余地もありませんよね。でも社員はそれで仕事を失ってしまうんですからかわいそうですよね。ちゃんと普段から色々なことを考えて、社員教育や改装などを行って計画通りに発展してきた会社なら、金融機関だってちゃんと支援してくれます。運転資金もない、融資も受けられない、そんな状態で1年食いつないでいかなければならないところは悲惨です。逆に思ったとおりに経営が伸びていけば、これほど面白いことはないと思います。

「CoCo壱番館」時代は、いかに並ばずに済むかに腐心
▲「CoCo壱番館」時代は、いかに並ばずに済むかに腐心(画像=ビジネスチャンス)

── 休業日であることを知らずにお客様が来てしまったときなどはどうすれば良いのでしょうか。

宗次 もちろん、そういうこともあるでしょう。私にも経験があります。まだ正月は休みが当たり前だった頃のことですが、うちも元旦、2日とお店を休んでいました。当時は店舗付き住宅で営業した2階の窓から何気なく外を見ているとお客様が車で駐車場に入っていくのが見えたんです。わざわざ来てくれたのにお店は休み。ガッカリして帰っていく姿を見たときに、心の底から申し訳ないという気持ちになりました。だから私は翌年から正月の休みは元旦だけにして、2日から店を開けるようにしました。チェーン展開して以降もこの方針は守り、一部を除いて、ほぼ全店が無休にしていました。

── すでに「CoCo壱番屋」の株を手放され、経営からは完全に退かれています。外食業に未練はないのですか。

宗次 今はもうコンサートホールの経営のことで頭がいっぱいですから。とはいえ、いろいろなところから講演の依頼は来ますし、講演会終りの雑談の中で新しい飲食店の話などを聞くこともあります。そういえばこの間、京都で1日100食限定のお店をやっているという方と話をする機会があったのですが、あのビジネスモデルは私にはどうにも理解できませんでしたね。1日100食しか売らないということは、おのずと月の売上の上限が決まってしまう。すると売上が増えないのだからスタッフの給料を上げることができません。これではどこかのタイミングで働いている方のモチベーションは下がってしまいますよね。

── 去年あたり、メディアで頻繁に取り上げられていましたね。

宗次 2時間前に整理券を配るというのだけれど、そうなると2時間後にまた行かなければならない。遠方から来たのに100番以内に入れなかった方はどうするのか、考えれば考えるほど不思議なビジネスモデルだと思いました。

── 会社を成長させていくためには、そこで働くスタッフがモチベーションを高めるための刺激を与えてあげる必要があります。

宗次 こういう時代ですから、過重労働に気を付けたり大変ですが、社長はその分がんばらないといけない。経営にはそれだけの価値があるのですから。私のように休みはいらないという人はそういないと思いますが、週に1回も休めば十分じゃないかと思ってしまいますね。

── これから外食業界はどうなると思いますか。

宗次 コンビニを見ていると、ここにきて店舗によっては24時間営業をやめるなど、柔軟性が出てきました。この流れは非常に良いことで、例えばドミナントで同じ屋号のお店が集中しているようなエリアであれば、24時間やるのは1軒とかで十分なんじゃないかと私は思っています。やる気のあるオーナーはロイヤリティ面を優遇するなど、やりようはいくらでもあるはずです。外食チェーンも同じで、画一的なモデルにこだわらずに、時代に合わせてもっと柔軟に対応するようにしていけば良い。いずれにせよ大切なのは、経営に対するスタンス。社長自身が経営に責任をもち、ちゃんとお客様の立場になってサービスを提供していかないと生き残ることはできないと思います。一生懸命に目標を追い続けて、現場とお客様第一主義を貫いていたら、必ずそこから色々なヒントが見つかるものです。そうすれば技術革新やIT、通販など、もともと飲食業と関係ないものを心配しなくてもちゃんとうまくいく。飲食ビジネスとはそういうものなんです。