カンブリア宮殿,サイボウズ
(画像=© テレビ東京)

テレワークほぼ100%~情報共有ソフトのIT企業

新型コロナをきっかけに変わった働き方。中でもテレワークは広く導入されたと言われている。これまでカンブリア宮殿に登場してもらった企業40社にアンケートを実施すると、トヨタ、ヤマハ、キユーピーなど回答のあった29社のおよそ8割がテレワークを導入していた。企業からは「気軽に雑談ができない」「ハンコを押すのに出社が必要」といった課題も挙がった。

一方で製造現場や対面の必要なスーパーなどは導入が難しい。スプラウトメーカーのサラダコスモからは「テレワークは導入の予定なし」と返ってきた。

そんな中、10年も前からテレワークを実施し、業績を伸ばしているサイボウズ。従業員900人以上、売上高134億円という大企業だが、そのオフィスには今誰もいない(取材時)。緊急事態宣言前の2月末からほぼ100%テレワークだと言う。広報・大川将司は「会社にいる時とあまり変わらないレベルでできていると思われます」と言う。

サイボウズは新聞にこんなコピーの広告を打って話題を呼んだ。「労働時間削減、結局現場にムチャぶりですか?」「ノー残業、楽勝!予算達成しなくていいならね。」……世のビジネスマンの留飲を下げさせた。10年以上前から働き方改革の先頭を走り続けている。

サイボウズは企業向けのソフトウエアを開発しているIT企業。代表製品は「キントーン」というクラウドサービスのソフト。企業内で情報を共有するための「グループウエア」と呼ばれるソフトだ。

仕事に応じて機能をスマホのアプリのように追加。日報や交通費申請、タイムカードなど、組織の情報をこのソフト1つで管理でき、メンバーみんなで閲覧、つまり共有できる。また、プログラミングの専門知識がなくても、使い勝手がいいようにカスタマイズできる。

その便利さから大ヒット。現在1万5000社が「キントーン」を導入している。

新型コロナに突出した対応を見せ、沈静化につなげた大阪。しかし3月までは、保健所は感染者への電話対応でパンク寸前だったと言う。大阪・四條畷市・四條畷保健所の保健師・島田果歩さんは「体温や体調の変化などを、保健師が『こんな症状はないですか』と、お電話で聞き取りチェックしていました。聞き取るだけでもかなり大変でした」と言う。

電話で聞き取った内容はさらにエクセルに手入力。量も膨大なため、管理自体が難しくなっていた。

しかし4月、「キントーン」を導入すると状況は劇的に変わる。こちらは感染者自身がスマホで自分の症状を入力。すると瞬時にそのデータがシステムにアップされる。データは保健所と同時に大阪府も共有。最小限の手間で正確な状況を把握できるようになった。

「大阪モデルの指標を作るために最も大事だったのは、それぞれの保健所できちんと状況を把握していただくこと。そのデータを早く一元化して管理できたのは、大変役に立ったと思います」(大阪府健康医療部長・藤井睦子さん)

カンブリア宮殿,サイボウズ
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営業も新人も出社ゼロ~サイボウズ流テレワークの極意

いち早くテレワークを導入したサイボウズには、それを円滑に進めるための極意がある。まずはテレワークを快適にすること。4月、在宅勤務の補助金として3万円が支給された。使い道は自由。これを機に引っ越しした社員までいる。

営業もテレワークで。営業部の佐藤太嗣は、以前は対面で商談していたが、2月以降は完全にリモートとなった。

この日の相手は、ゴミの焼却炉のメンテナンスなどを行う矢吹炉研 総務・人事の熊谷和久さん。60人の職人をあちこちに派遣するのだが、それぞれの単価も稼働日数も違う。その細かなデータを入力し給与明細を作ってきたが、膨大な手間が掛かった。

そこで佐藤はキントーンを売り込んだ。現場で職人の稼働状況をスマホに入力すれば、そのまま給与明細ができ上がるシステム作りをサポートしたのだ。

「(リモート営業は)初めてでしたが、全く不便さは感じませんでした。移動時間を考えるとリモートのほうが都合をつけやすく、円滑にできたと思います」(熊谷さん)

サイボウズのこの春の新入社員37人は実はまだ1回も会社に来ていない(取材時)。ずっと2ヵ月間オンライン研修だ。製品の宣伝を担当する新人3人は、毎日、オンラインで会社の製品情報などを学び、夕方からは部署の先輩たちとミーティング。

「『歓迎されていない』『距離がある』という思いを抱くことなくできています」(川平朋花)

「今のところ問題点は思い浮かびません。このまま在宅でやっていけるのではないかと思い始めています」(岡本健太))

サイボウズ社長の青野慶久(49)はこの状況をポジティブに捉えていた。

「直接会えないからネットを使わないといけない。そういう環境が偶然できた。ぜひいいきっかけにしたいと思います」

テレワークのメリットを再認識し今後も推し進めると決意したという。

在宅勤務だけでなくさまざまな改革を行い、調査機関による「働きがいのある会社」2位(2020年、中規模部門)になるなど、働きがいのある会社として認められた。組織の中には感動課なる部署もある。

「社員が『働いて良かった』『仕事に誇りが持てる』ということを、感動というレベルにまで高める。そんな活動をやっている部署です」(感動課長・福西隆宏)

2ヵ月に1度は全社的なイベントを開催し、感動を生み出すのが仕事。この春、新人研修が終わった時には、オンラインの「新人研修お疲れさま会」でサプライズのプレゼントを仕掛けた。祝いのケーキを自宅に宅配。しかも、似顔絵デコレーション付きだ。

6月、緊急事態宣言も解除され、福西が出社した。向かった先は、造花の桜が飾られたエントランス・ホールだ。例年、ここで社員がそろって花見の宴を開いていたのだが、今年は断念した。その代りに、福西はオンラインで一緒に盛り上がる「エアお花見」を企画。200人とその家族が参加し、大盛況となった。

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100人100通りの働き方~ブラック企業からの脱却

カンブリア宮殿,サイボウズ
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サイボウズでは自由な働き方が許されている。社内で閲覧できるプロフィールでは一人一人が働き方を宣言している。

カープ女子の女性社員は、試合観戦がある日は早く出社して17時上がり。「遅刻王」の異名を持つ女性社員は、朝が弱いので、勤務は13時-22時。松山オフィスの伊藤佑介は副業でテレビのリポーターもやっていて、月に数回はロケで休むと宣言している。

逆に、何か本業を持ち、空き時間にサイボウズで働く人材もわざわざ募集している。その一人が新潟県の竹内義晴(49)。実家は代々続く農家で、米作りを手伝っているが、本業はコミュニケーション術の講師。ビジネスマン向けのセミナーを開き、ハウツー本も出版している。サイボウズでの副業を始めたのは3年前から。しかも新潟からのテレワークで週2日働いている。

「『あなたが関われる分だけ関わってみませんか?』とサイトに書いてあり、100%共感できたんです。専門性を生かせるなら関わってみたいと思いました」(竹内)

このように別の仕事を持つ社員は全体の3割に。今は自由で風通しのいい会社だが、かつては暗黒の時代もあった。

青野は大阪大学の工学部出身。最初は松下電工に入社した。1997年、26歳で仲間と共に故郷の愛媛県でサイボウズを創業。情報共有を円滑にする「グループウエア」と呼ばれるソフトで世界一を目指した。2005年には社長に就任。2006年には東証1部上場も果たし、まさに順風満帆だった。

しかし、その頃の青野の働き方は今とはまったく違っていた。例えば、夕方に始めた会議が延々と続き、深夜3時になってもまだ終わらない。また、社員の成績をランク付けするなど、無慈悲な成果主義を貫いた。

「ITベンチャーなんだから当たり前という気持ちがあったと思います。競争相手はマイクロソフトやグーグルですから、それは必死に働くだろうという感覚でした」(青野)

執行役員の林田保は「めちゃめちゃブラックでした。朝7時に来て会社を出るのは夜11時。できる限り仕事する、みたいな」と、当時を振り返った。

その頃、「グループウエア」の事業が頭打ちになり、青野は会社の成長を求め、買収戦略に打って出る。それも人材派遣やホテルの予約サービスなど、本業とは関係のない相手ばかり。やがて業績は悪化し、株価も暴落した。

追い詰められた青野は出勤の途中、「信号待ちで車を見ながら、『1台こっちに向かって来てくれないかな。はねてくれたら楽になるのに』と頭をよぎったことがあります。『俺は今死にたいと思っている』と、びっくりしました」ということもあったという。

自問自答した青野は原点に戻ろうと決断。9社買収したうちの8社を売り、「グループウエア」一本に専念することにした。しかし、そのブラックぶりから会社を去る者が続出。離職率は28%に達した。

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育休6年、副業大歓迎~「わがまま全部聞きます」

当時、人事を担当していた現副社長の山田理が青野に訴えた。

「事業をうまくやることができるどうかは分からないけれども、せっかく入ってくれた社員に『この会社に入ってよかった』『いい会社だ』と言われるようにすることはまだできそうな気がする。『一緒にいい会社にしていきませんか』と」(山田)

「引き留め工作をやってみたんです。『もう少し給料を出すから残ってくれ』と言ったりしていたのですが、全然うまくいかずにどんどん辞めていく。途中で諦めて、どうやら皆の考えと僕の考えが違う。ちゃんと意見を聞いてみようと思いました」(青野)

青野は山田と組み、全社員と月に1回、30分の雑談を始める。すると「子供が小さくてフルタイムは厳しい」「親の介護で週2日は家で仕事を」「年俸1億円欲しい」と、さまざまな声が聞こえてきた。

「いるんですよ、年棒1億円欲しいと言う人が。『はあ?』と思っても聞く。向き合う。そうすれば『給料を増やしたかったらこうすればスキルが上がる』とか、相談ができる。(本音が)見えなかったら、いきなり辞めていきますから」(青野)

わがままに聞こえることにも耳を傾け、青野は社員の希望に沿った制度を作ってゆく。最初は育児と介護の休暇。2006年に最長6年も休める制度を導入。在宅勤務の制度は10年前から。だからテレワークに抵抗がない。

「再入社パスポート」は留学や転職にチャレンジしたいという声に応えたもの。一度会社を辞めても、6年以内なら復職可能だ。

このようにして「100人100通りの働き方」を実現しているのだ。産休と育休を合わせて2年とった開発本部・大石真己子は「働きやすいですね。すぐ在宅に切り替えられるし、自分の裁量でできることも多いので」と言う。

働き方の見直しで離職率は劇的に改善。一時は28%だったのが4%に減り、業績も右肩上がりに転じた。

実は、一連の改革で最も変わったのは青野自身だ。長男が生まれた際、仕事人間だった青野が2週間の育休を取得。社長の育休は珍しく、本人は「マスコミ受けを狙った」というが、やってみて子育ての大変さを痛感。次男が生まれた時は、半年間・週4日勤務に。さらに長女が生まれた時は、毎日午後4時に上がる時短勤務を選んだ。

その変化を、青野はスタジオで次のように語っている。

「驚いたのは育児の大変さです。離乳食を一口食べさせるのに何十分もかかった。『私はもっと仕事ができる人間なのに、なんだこのつらい作業は』と思った。子育ては人間を育てることで、その人間が将来労働者や消費者になる。今僕たちが商売できているのは、子育てをする人がたくさんいるからで、子育てをしない社会になったら、商売の基盤がなくなってしまう。商売人は商売よりもまず子育て。逃げてはいけないと思ったんです」

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テレワークで結束&営業~新時代の企業戦略とは

テレワークに柔軟な姿勢で取り組んでいるマヨネーズのキユーピー。元々4年前からテレワークは導入していたが、今回、新型コロナの影響から、工場や物流を除いて在宅勤務を徹底した。

昼休みに始めたのはオンラインのエクササイズ。これなら在宅勤務をしている人だけでなく、工場で働いている人も参加できる。発案したのは体育大学出身の山口ルリ子さんだ。

「在宅が増えて、『気分が落ち込んでしまう』など、心の不調を訴える声が聞こえてきまして、何か『一人じゃない、みんなつながっている、大丈夫だよ』と、届けたいなと思いました」(山口さん)

望んで始めた訳ではないテレワークだが、こんなやり方で結束が強まっている。

一方、オンライン飲み会を営業に生かしているのが、山口・岩国市の「獺祭」で有名な旭酒造だ。会社主催の大掛かりなオンライン飲み会。「獺祭」を買うと参加でき、蔵元と酒談義で盛り上がれる。

旭酒造は飲食店の営業自粛や輸出販売が止まったことで、売り上げは一時60%減まで落ち込んだ。そこで流行りのオンライン飲み会を開き、新しい客を開拓しようと考えたのだ。

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~村上龍の編集後記~

青野さんは、グループウエアを作り続けている。小さなマンションで起業したときから、従業員の離職率が28%のときも、M&Aで失敗して死にたくなったときも、100人いたら100通りの働き方をモットーにして「働きがいのある会社」にランキングされたときも、作り続けた。

グループウエアは情報を共有する。ところで情報の共有は手段だろうか、それとも目的だろうか。わたしは目的だと思う。大げさに言うと誰かと情報を共有するために、わたしたちは生きているのかも知れない。サイボウズは、人を幸福にしている。

<出演者略歴>
青野慶久(あおの・よしひさ) 1971年、愛媛県生まれ。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現パナソニック)を経て、1997年、サイボウズ設立。2005年、代表取締役社長就任。

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