ベイシア社長 相木孝仁,カンブリア宮殿
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この記事は2025年8月28日に「テレ東BIZ」で公開された「仲間に託し、力を結集する! 巨大スーパーの“巻き込み”戦略」を一部編集し、転載したものです。

北関東発!人気の巨大スーパー~約2000種類のPBが人気

群馬・前橋市にある大型ショッピングセンター「パワーモール前橋みなみ」。テナントに群馬発の企業として、今やカジュアルウェアでも大人気の「ワークマン」、ホームセンターで売り上げナンバーワンの「カインズ」、そして群馬県民にはおなじみの食品スーパー、ベイシアが入っている。

▼「パワーモール前橋みなみ」群馬県民にはおなじみの食品スーパー、ベイシアが入っている

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ベイシアは北関東を中心に136店舗を構え、売り上げは3,418億円(2025年2月期)。特徴は広い売り場で、テニスコート20面分に5万点以上の商品が並ぶ圧倒的な品ぞろえを誇る。

ベイシアは店を「フーズパーク」と名付け、「食のテーマパーク化」を進めている。

例えば「ラーメン横丁」というコーナーには即席麺が400種類以上。「岐阜タンメン」や「長崎ちゃんぽん」といった全国のご当地麺や、韓国、タイなどアジア各国の麺類まで取りそろえている。

▼「ラーメン横丁」というコーナーには即席麺が400種類以上取りそろえている

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惣菜・弁当コーナーもバラエティ豊富で200種類以上。その多くが店内調理だ。

弁当で売り上げナンバーワンの「三元豚のロースカツ丼」(322円。商品の取り扱い・価格は店舗によって異なる/以下同様)はしょうゆの効いた濃い目の味付けが人気。おにぎりにおかずをのせた「お魚屋さんの鮭ハラスのっけご飯」(322円)、「お魚屋さんのうなたまのっけご飯」(430円)も具材がボリューム満点で人気の商品だ。

多くの客に支持されているのが約2,000種類のプライベートブランド。3食入りの焼きそばが106円。600ミリリットルの緑茶が54円。「大粒肉々焼売」は6個、「野菜も肉もうまい!餃子」は12個入ってともに193円とリーズナブルだ。

物価高の折、安くて質のいいPB商品が客をひきつけている。

ベイシア社長・相木孝仁(53)は家族を東京に残し、群馬で1人暮らし中。ベイシアのPB商品で晩酌するのが楽しみだという。

「今はリモート等で東京から仕事をできなくもないんです。でもそれだと、群馬で育った社員の人たちの気持ちは動かないと思ったんです」(相木)

1959年、伊勢崎市にベイシアの前身「いせや」がオープン。「ワークマン」「カインズ」などとともに「ベイシアグループ」という売り上げ1兆円を超える巨大企業集団を成す。

衣料品店から始まり一代でここまで築き上げたのが創業者の土屋嘉雄氏。カリスマ創業家からバトンを託された相木は、それまでの土屋イズムとは違うやり方で会社のかじを取る。

「自分の力だけではお店の運営はできないと思っています。私が1から全部把握するのは不可能なので、基本は『仲間を信じて、託す』」(相木)

相木の真骨頂は周りをどんどん巻き込んでいくことだ。

店長、生産者、他社のブランド力…~相木流巻き込み戦略とは

ベイシア社長 相木孝仁,カンブリア宮殿
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相木流巻き込み戦略1~「店舗運営は社長の分身に託す」

この日、前橋市のベイシアの本社では全店舗の店長が集まる会議が開かれていた。そのほとんどが現場からのたたき上げ。相木は彼らをこう呼んでいる。

「店長は社長の分身だと言っているんです。社長の分身が店舗の数だけいると」(相木)

通常、スーパーでは店舗の運営などは本部がマニュアル化していることが多い。だが相木は、自分の分身である店長に大きな裁量を与えて運営を委ねている。

例えば群馬・大泉町は製造業が盛んで、工場で働くブラジル人が多い地域。そこで大泉店店長・関口和成が自ら考えて始めたのが、サンバイベントだ。

「大泉町はどんどん外国人は増えているので、『いいな』と言っていただける店にしたいです」(関口)

他にも関口は、ブラジル人客が来やすいよう、自らの裁量で店を変えている。案内の全てにポルトガル語を併記。以前は棚に少しだけだったブラジル食材のコーナーを大幅にリニューアル、扱う商品も約200アイテムに増やした。ブラジル人のソウルフードの豆類や温めるだけで食べられる缶詰類を多く取りそろえている。

▼関口さんはブラジル人客が来やすいようブラジル食材のコーナーを大幅にリニューアルした

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こうした関口の取り組みはブラジル人客に喜ばれ、客数を増やしている。

「店長が社長の分身として『経営者視点に立っても有益だ』と考えた結果、『これが必要だ』という形で認識してやっています」(関口)

相木流巻き込み戦略2~「生産者に1から10までおまかせ」

多くのスーパーで地元野菜のコーナーを見かける。ベイシアではこのコーナーを、地域の生産者に1から10までまかせている。

その生産者のひとつ、群馬・渋川市の大谷農園ではミニトマトやトウモロコシの収穫時期。代表の大谷新太郎さんは「鮮度にとにかくこだわっています。それが強みだと思っています」と言う。

ベイシアのコーナーでは、野菜の搬入を農家にしてもらっている。またコーナーの野菜の価格はすべて生産者に自由に決めてもらっている。さらには、持ってきた商品を陳列するのも生産者におまかせだ。

生産者の手間は増えるが、丹精込めた野菜を納得できる価格で売れるのは大きな喜びだという。一方、ベイシアにとっても、鮮度抜群の野菜がすぐに店頭に並ぶことは大きなメリットだ。

相木流巻き込み戦略3~「PBも他社のブランド力に乗っかる」

「ベイシアプレミアム」はワンランク上のPB商品だ。

「それぞれのプロが集まって、お客様にとって一番魅力的なお店をつくろうじゃないかと」(相木)

相木イチ推しの「ベイシアプレミアム」が冷凍の「本生ハンバーグ」(430円)。コラボした「格之進(かくのしん)」は、六本木や東京駅構内などでこだわりの熟成和牛を提供する話題の店。その「格之進」のロゴはベイシアより目立っている。

「素晴らしいところを持っている会社さんと一緒に良いもの作りたいということです。だから『ダブルブランド』です」(相木)

ベイシアのPBを他社のブランド力を借りて売り出しているのだ。

一方、「ブリヒラ」という魚はブリとヒラマサを掛け合わせたもの。

▼ブリとヒラマサを掛け合わせた「ブリヒラ」この魚を開発したのは近畿大学水産研究所だ

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この魚を開発したのは近畿大学水産研究所だ。近大は2002年に世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功するなど、養殖の世界をリードしてきた。「その知名度を」と、近大と販売の契約を結んだ。

この日、高知・大月町の「ブリヒラ」の養殖場を訪ねたのはベイシアの鮮魚部バイヤー・数原辰樹。ベイシア側は何度も足を運び、近大側と二人三脚で販売にこぎつけたという。

「小売店は単に価格の話や話題性だけで魚を買うかどうかの判断をすることが多いが、ベイシアさんの場合は熱意、丁寧さが全然違うんです」(近畿大学教授で「食縁」社長の有路昌彦さん)

こうしたやり方で、ベイシアの魅力を生み出している。

明大テニス部の元主将~周囲を巻き込む結束力

相木の出社前の日課がテニスの練習。実は明治大学の体育会硬式テニス部で主将を務めたほどの選手だった。今でも週4日、出社前にみっちり鍛えている。

▼相木さんの出社前の日課がテニスの練習、週4日みっちり鍛えている

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相木はこれまで数々の企業で事業を立て直してきた、いわゆる「プロ経営者」だ。

1972年、北海道旭川市で3人兄弟の次男として生まれた。小学生からテニスを始め、中学では北海道大会で優勝。大学は強豪の明治大学へ。体育会硬式テニス部に入部した。しかし・・・

「とんでもない世界で、全員基本はスポーツ推薦。25人ぐらいいたメンバーの中で一番弱い立場で入ってきた。『なんでここに来たの?』と先輩に言われました」(相木)

明治は当時から日本有数の強豪校。部員のほとんどがインターハイ出場など、自分より上の選手ばかり。いつかはレギュラーにと必死に練習に取り組む姿が先輩やコーチの目に留まり、最上級生になると主将に任命された。

主将になったとはいえ、部員のほとんどは自分以上の実力と実績を持っている。そんな猛者たちをどうやってまとめて強いチームにしていけばいいのか――そこで相木が考えたのが、選手一人一人の力を借りてチーム力を上げる、いわば「巻き込み戦略」だった。

例えばサーブが得意なある選手には「サーブに特化した練習メニューを考えてみてくれないか」、寮生活がきちんとしている選手には「みんなのパフォーマンスが上がる寮生活のスケジュールとルールをつくってくれないか」と、部員それぞれが得意な分野でチーム力のアップに関われるよう、全員を巻き込んだのだ。

「他の大学にはインターハイとか全日本ジュニアの優勝者ばかりがいる世界です。そういうスター選手の中で明治が勝ち切るには、チームの結束力、一体感がすごく大事。当事者意識を持って、『これは自分のチームなんだ』と思ってもらうことが大事です」(相木)

相木の「巻き込み戦略」が功を奏し、部員たちは結束。強豪ぞろいの関東学生大会のダブルスで見事準優勝を果たした。

大学卒業後はNTTに入社。電話回線の法人営業を担当していたが、次第に経営者になりたいという思いが強くなっていく。26歳でNTTを辞め、アメリカのコーネル大学ジョンソンスクールに留学、MBAを取得した。

帰国後は、経営コンサルティング会社で数々の企業の立て直しを担当。そんな中で出会ったのが、楽天グループを率いる三木谷浩史会長兼社長だった。

相木のNTT時代のキャリアに目をつけた三木谷氏は、相木に通信事業の立て直しを依頼。楽天が買収したフュージョン・コミュニケーションズが当時、業績が悪く、赤字が続いていたという。引き受けた相木はその経営再建に関わる。これを機に、楽天グループ内のさまざまな事業を任されることになった。

「楽天の中で僕はどちらかというと“イケイケ事業担当”ではなくて“困った事業担当”でした。調子の悪い会社をどう元気にするかを10年間ずっとやっていました」(相木)

その後も葬儀関連の会社やパイオニアの子会社などにプロの経営者として携わってきた。

そんな相木に目をつけたのが、ベイシアグループの実質的なトップ、土屋裕雅会長。カリスマ創業者の息子で、自身もさまざまな取り組みで事業を拡大させたスゴ腕経営者だ。

「ベイシアは次の一歩が出ない時期があったように思います。その方向、風向きを変えるのには、中からのトップではなくて、外からリーダーに来てもらった方が、会社が変わる」(土屋会長)

土屋氏に請われる形で相木は2022年、ベイシアの社長に就任したのだ。

絆を深めるワンオンワン~必ず聞く「3つの質問」

相木が自ら率先してやっていることがある。それは1対1でコミュニケーションを図ることだ。

店舗の視察は大抵自ら運転して1人で向かう。店に着くとまずは店長の元へ行き「元気?」などと声をかける。店内を見終わると今度はスタッフに。社員、パートといった立場に関係なく声をかけ、一体感を作ろうとしている。

▼社員、パートといった立場に関係なく声をかけ一体感を作ろうとしている

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1対1のコミュニケーションのとき、相木には必ずすることがある

「僕なりに聞く質問がありまして。3つの質問をすることにしています。全員に聞きますね。そうするとだいたい分かるんです」(相木)

スタジオで相木が「3つの質問」を明かした。

「会社はどうすべきだと思いますか」 「あなたはどうしたいですか。どういう貢献ができますか」 「この会社で、会社を本当に良くしたいと思っているのは誰だと思いますか」

都心に近いベッドタウンに都市型店舗を初出店

東京のベットタウン、千葉・船橋市に2023年、ベイシアは実験的な店舗、「ベイシア Foods Park津田沼ビート店」をオープンさせた。

広い店内が特徴のベイシアだが、この店の売り場面積は郊外型のベイシアの6分の1しかない。土地柄、単身者や共働きが多く、そうした客向けの店づくりにしているのだ。

例えばカット野菜や、小さめのパックの惣菜、1人分にカットしたピザなど、小分け商品のラインナップを増やしている。

さらに、この店では特にネットスーパーに力を入れている。多くの注文をさばけるよう、商品のピッキングスタッフは11人。スマホやPCから注文が入ると商品をピッキングする。

「配送先にいらっしゃるお客様がどんな人か想像したりはしますので。売り場の中で一番鮮度のいい商品、おいしそうな商品を選んでお届けしています」(スタッフ)

自分が買う時のように、よりいいものを選んでくれる。さらに手書きのメッセージを添えた。

▼「読んでいただいてどんなふうに思っていただけるのかを想像します」と語るスタッフさん

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「読んでいただいて、どんなふうに思っていただけるのかを想像します。『心がほっこりします』というお声をいただきました」(スタッフ)

ベイシアでは今後、こうした都市型の店舗を広げていきたいという。

※価格は放送時の金額です。

~村上龍の編集後記~

ベイシア社長 相木孝仁,カンブリア宮殿
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東京にいるとわかりづらいが、巨大なスーパーだ。相木さんのキャリアも独特だ。現NTTからスタートし、ツタヤオンライン、楽天の常務執行役員を経て、葬儀関係の大手出版社である鎌倉新書、カーナビの雄パイオニアの役員を経由して、2022年に取締役としてベイシアに入社、売上高3,000億円をはるかに超える大企業を率いる。

現場視点がいちばん大事だと、店舗にも行くし、客とも話す。まるで長い間スーパーの経営をやっているかのようだ。誰にでもできることではない。双方の相性がぴったりと合ったとしか言いようがない。

<出演者略歴>
相木孝仁(あいき・たかひと)
1972年、北海道生まれ。1994年、明治大学卒業後、NTT入社。2007年、楽天入社。2010年、楽天コミュニケーションズ社長就任。2017年、鎌倉新書、社長就任。2022年、ベイシア社長就任。

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