
生成AIの普及にともない、EC業界でもマーケティングやページ制作など、さまざまな場面でAIが使われるようになりました。futureshopをご利用中の店舗さまがAIを活用し、業務効率化や売上アップにつなげた成功事例も増えています。
本稿では、 EC売上高が年率40%以上のペースで急成長しているアウトドアブランド「MILLET(ミレー)」の、AIを活用したチャット接客術 を紹介します。
自社ECサイト「MILLET」の問い合わせ窓口としてAIチャットを導入し、商品情報やサービスガイドなどをAIに学習させて運用した結果、 スタッフが個別に対応していた “よくある問い合わせ”の件数を約30%削減 することに成功しました。
さらに、AIが対応しきれない問い合わせは人間のオペレーターにつなぎ、チャットでお客さまの疑問や不安を解消するなど、 AIと人間のハイブリッドな接客で顧客満足度を高めています。
「AIチャットに興味はあるけれど、ECへの具体的な活用法が分からない」「AIの効果について実際のところを知りたい」という方は、「MILLET」の成功事例をぜひご一読ください。
本稿は、2025年5月21日に開催したオンラインセミナー『AIチャットの活用で課題解決率80%超え!アウトドアブランド「ミレー」が大切にするファンづくりのための接客とは?』のレポート記事です。ミレー・マウンテン・グループ・ジャパン株式会社のEC事業を担当している奥村武さんと、同社が導入しているAIチャットツール「チャネルトーク」のベンダーであるチャネルコーポレーションの長田一輝さんにスピーカーを務めていただきました。掲載内容はセミナー開催時点の情報です。 |

ミレー・マウンテン・グループ・ジャパン株式会社
営業部 イーコマース・マネージャー
奥村 武(おくむら たけし)氏

Channel corporation Sales Manager
長田 一輝(おさだ かずき)氏
目次
EC成長率40%のアウトドアブランド「MILLET」
「MILLET」は100年以上の歴史を持つ、フランス発祥のアウトドアブランドです。登山用のリュックやウェア、アクセサリなどをグローバルで販売しています。
日本法人であるミレー・マウンテン・グループ・ジャパン株式会社は1992年に設立されました。日本の気候や日本人の体型に合わせて作られた日本規格の商品も数多く取りそろえており、プロの登山家から趣味でアウトドアを楽しむ人まで、幅広いユーザー層から支持されています。販売チャネルは直営店8店舗、専門店やスポーツ量販店などへの卸売り、自社ECサイト、ECモールがあります。
同社がEC事業を開始したのは2017年11月。自社ECサイト「MILLET」を立ち上げたことを皮切りに、楽天市場とYahoo!ショッピングに出店して販路を広げました。 自社ECサイトと実店舗のポイント共通化、顧客データの統合など、オムニチャネルも推進 しています。自社ECサイトを中心にEC売上高を急速に伸ばしており、 過去7年間におけるEC売上高の年平均成長率は約40% でした。

EC業界で加速するAI活用
オンラインセミナーの冒頭、チャネルコーポレーションの長田さんは、近年のAIのトレンドを踏まえてECサイトにおけるAI活用の事例を解説してくださいました。
2022年以降、画像や文章、動画、音声などを作り出す生成AIが次々と登場してきたことを時系列で紹介した上で、現在はAIが人間の仕事をサポートする場面が増えていることにも触れ、 「これまで人間が行ってきた業務をAIが担うようになっている」 (長田さん)と説明しました。
製造業やサービス業、小売業など、さまざまな分野において、AIが人間をサポートしたり人間の業務を代替したりする場面が増えています。近い将来、交通・医療・エネルギーといったインフラ領域を含めて、あらゆる産業でAIが使われるようになるでしょう(長田さん)

続けて長田さんは、 「EC担当者の工数削減につながる活用法も広がっている」 と述べ、ECサイトのマーケティングやページ制作、翻訳、顧客対応などにAIが使われていることを紹介しました。AIを活用する際の注意点として、AIに向いている業務と不向きな業務があることを指摘し、 「人間の役割とAIに任せる業務を整理し、役割分担を明確にすることが重要」 であることも強調しました。
ECサイトの商品ページやFAQの作成など「お客さまへの情報提供」は生成AIで効率化することができます。一方、接客やクレーム対応など「お客さまとのコミュニケーション」は人間が行った方が良いでしょう。人間とAIの役割を整理し、AIをうまく活用することで、業務効率化と顧客満足向上を両立できると考えています(長田さん)

自社ECサイト「MILLET」にチャットを導入した理由
EC業界でAIの活用が広がるなか、ミレー・マウンテン・グループ・ジャパン株式会社が自社ECサイト「MILLET」にAIチャットを導入した背景には、どのような理由があったのでしょうか。
奥村さんは、AIチャットツール「チャネルトーク」を2024年に導入した理由について「お客さまが気軽に問い合わせを行えるようにしたかった」と説明し、その目的として 「新規のお客さまの買い物のハードルを下げること」 と 「既存のお客さまとの接点を増やすこと」 の2点を挙げました。
実物を手に取ることができないECサイトにおいて、新規のお客さまの購入ハードルを下げるには、購入前のコミュニケーションを強化する必要があると感じていました。ECサイトのコンテンツを拡充し、オンラインフィッティングサービスを導入するなど、さまざまな取り組みを進めていくなかで、購入につなげる“もう一押し”の手段としてチャットに着目しました(奥村さん)
問い合わせフォームや電話といった従来の問い合わせ方法と比べて、チャットはお客さまにとって気軽に質問できるツールだと思います。チャットを導入すれば、既存のお客さまとのコミュニケーションの機会も増え、ファン化につながる接客を行いやすくなると考えました(奥村さん)

「ミレー」が取り組んでいるチャット接客4つの事例
自社ECサイト「MILLET」では、チャットBot・AIチャット・オペレーターによる有人対応の3種類を組み合わせて、さまざまなチャット接客を実現しています。奥村さんは「チャネルトーク」を使って実際に行っているチャット接客の取り組みを解説してくださいました。
【チャット接客の主な取り組み】
- AIチャットが24時間接客
- チャットBotで自己解決を促進
- オペレーターによる売上につなげる接客
- 顧客への声がけ(ポップアップ)
1.AIチャットが24時間接客
自社ECサイト「MILLET」の画面右下にチャット相談のアイコンが設置されており、アイコンを開くとチャットが起動します。
AIチャット機能「millet AIサポート」は、 お客さまからの質問や相談に24時間対応。 商品情報やサービスガイド、過去に寄せられた問い合わせなどをAIが学習済みであり、 学習結果にもとづいてお客さまと会話 を交わします。AIは質問に答えるだけではなく、必要に応じて質問を返したり、お客さまのニーズや意図を深掘りしたりすることもあるそうです。

2.チャットBotで自己解決を促進
商品やサービスに関するよくある質問など、問い合わせの件数が多く、かつ定型文で回答できるものについては、あらかじめ設定した選択肢を提示し、 お客さまが選んだ選択肢に対してチャットBotが即座に回答 します。

3.人間による接客
AIチャットやチャットBotでは対応しきれない問い合わせは、人間のオペレーターにつなぎます。AIが会話の途中で「私が対応できない場合はお気軽にオペレーターにご相談くださいませ。」などと伝え、有人対応に誘導しています。
オペレーターがチャットで対応する際は、お客さまの感情の機微を汲み取ったり、その場で撮影した商品写真を添付して詳しく回答したりするなど、 人間ならではの接客 を心がけています。

4.顧客への声がけ(ポップアップ)
自社ECサイト「MILLET」を訪れたお客さまに対して、新商品や季節ごとのオススメ商品など、お客さまにとって有益な情報をポップアップでタイムリーに表示し、チャット相談へと誘導しています。
「チャネルトーク」はCRM機能が備わっており、 お客さまの購入履歴や行動履歴などにもとづいてセグメントを構築 することができます。セグメント配信のシナリオを組み、実店舗で店舗スタッフがお客さまに声をかけるように、 さまざまな商品やコンテンツを最適なタイミングで表示することで、オンラインの接客強化 につなげました。
なお、ポップアップの内容に応じてオペレーターによるチャット接客とAIチャットを使い分けています。

チャット接客の導入効果
自社ECサイト「MILLET」に「チャネルトーク」を導入した効果について奥村さんは「問い合わせ対応の効率化」「売上につながる接客の実現」「販売促進への手応え」「顧客視点の向上」「コンテンツの二次利用」などを上げました。
よくある質問は約30%削減
「チャネルトーク」を導入した2024年3月から1年間における問い合わせ件数を集計したところ、商品やサービス、配送などに関する “よくある質問”に分類される問い合わせの件数は前年比31.39%減少 しました。
チャットBotやAIチャットを活用し、よくある質問への対応を自動化した結果、問い合わせ対応の効率化に成功しました(奥村さん)

売上につながる接客を実現
チャットを導入した効果について奥村さんは「売上につながる接客を行えるようになった」ことも挙げました。
現在、チャット接客の件数の約3割は購入を検討しているお客さまからの相談であり、チャット接客を通じて 「ブランドとしての考え方や商品の特徴を、購入前のお客さまにしっかり伝えられるようになった」 と説明。チャット接客を通じて得られた小さな気づきをサービスの改善に活かすなど、 「お客さまの気持ちに寄り添う意識が、これまで以上に強くなった」 ことも強調しました。
よくある質問への対応はAIに任せ、スタッフは接客に注力するという役割分担によって、業務効率化と顧客満足向上の両立を目指しています(奥村さん)
ECサイトのコンテンツに二次利用
AIチャットとお客さまのやり取りや、オペレーターによるチャット接客を通じて得られたお客さまの声を、 ECサイトのコンテンツとして二次利用 しています。
例えは、よくある質問への回答をECサイトのQ&Aに反映させているほか、オペレーターがチャットで回答した内容を「スタッフレビュー」といったコンテンツにして商品ページに掲載することもあるそうです。
チャット接客を通じて得られた、お客さまの声を活用することで、ECサイトのコンテンツを拡充することができました(奥村さん)

8割以上のお客さまがAIの回答に満足
「チャネルトーク」には、チャットに対する満足度をユーザーに質問する機能も備わっています。
長田さんは 「MILLET」における直近の満足度は80〜90%で推移 していることを紹介し、 「問い合わせ対応の効率化と顧客満足度を両立している」 と称賛しました。
そして、高い満足度を実現している要因の1つとして、「チャネルトーク」のAIは学習した範囲内に限定して回答するなど、生成AIにおける共通の課題であるハルシネーション(誤った情報をもっともらしく回答すること)を防ぐ仕組みを備えていることも説明しました。
AIの精度について奥村さんは「完璧ではないものの、大きな問題が起きたことはない」と述べた上で、AIを活用する際の考え方として 「100点満点のアウトプットを目指すのではなく、60〜70点のアウトプットを前提に、適材適所で使っていくべきだと考えている」 と説明しました。
AIにできることと、できないことの線引きを見極めながら、AIチャットの最適な運用方法を模索しています(奥村さん)
チャネルトークの管理画面
今回のオンラインセミナーでは「チャネルトーク」の管理画面(デモ画面)を使い、AIチャットのシナリオ設定やAIの学習方法など、実際の操作方法も解説していただきました。

「AIの学習」と言うと難しく感じる方もいるかもしれませんが、「チャネルトーク」は学習させたいファイルをアップロードしたり、対象ページのURLを指定したりするなど、 「直感的かつ簡単にAI学習を行える」 (長田さん)ことも特徴です。

「チャネルトーク」の管理画面には、お客さまのごとの問い合わせ履歴(AIチャットとのやり取りなど)が保存されるほか、お客さまの情報や閲覧履歴などを確認できるCRM機能も備わっているため、 「オペレーターは、お客さまの過去の行動を把握して最適な接客を行うことが可能となり、ファン作りにつながる」 (長田さん)と強調しました。

長田さんは「チャネルトーク」が日々進化していることにも言及し、一例として 「AIに目的を伝えると、その目的に沿ってAIが自己学習を行い、目的達成に向けて行動する機能の リリースを予定している 」 と説明。さらに「チャネルトーク」の管理画面にオペレーターの補助役を担うAIを搭載したことも紹介しました。
「チャネルトーク」の機能をさらに充実させ、エンドユーザーさんの買い物体験の向上に貢献していきたいと考えています(長田さん)
Q&A
オンラインセミナーの最後に、参加者の方々から寄せられた質問にスピーカーが答えるQ&Aを行いました。「チャット導入のハードルは高かったですか?」「ツールを導入する際の選定基準を教えてください」など、現場のEC担当者が気になる質問に奥村さんと長田さんが回答しました。
Q:自社ECサイト「MILLET」に「チャネルトーク」を導入するハードルは高くありませんでしたか?
決して低くはなかったですが、それ以上のメリットがあった、というのが回答になります。
ツールの導入そのものは、チャネルコーポレーションさんにご支援いただいたこともあり、それほど大変だったという意識はありません。
一方、社内においてクリアすべき課題は少なくありませんでした。例えば、「チャットの問い合わせに誰が対応するのか」「予算申請を通すために、導入効果をどのように試算し、社内の理解を得るか」など、さまざまなハードルがありました。
社内の理解を得るために、チャットの導入メリットについて数字を交えて、できるだけ具体的に説明しました。
そして、実際に導入した今、問い合わせに対応するコストを削減できたことや、問い合わせへの回答のスピードが上がって顧客満足度の向上につながっていることなど、さまざまな効果を実感しています(奥村さん)
Q:奥村さんが自社ECサイト「MILLET」にツールを採用する際の判断基準を教えてください。
費用対効果や売上アップ効果、業務削減効果などを、できる限り定量的に検証した上で、採用の可否を判断しています。
「お客さまの満足度が上がる」といった定性的な効果については、他社の導入事例など、さまざまな情報を踏まえて総合的に判断します。
なお、ツール単体の効果を評価するのではなく、ECサイト全体のバランスや全体最適を考えながら採用の可否を決めています(奥村さん)
Q:「チャネルトーク」にLINEやInstagramを連携すると、具体的にどのようなことができるのでしょうか。
LINEのトークやInstagramのDMを「チャネルトーク」の管理画面で一元管理することができます。
エンドユーザーがLINEやInstagramなどで送信したメッセージに対して、導入企業側は「チャネルトーク」の管理画面で返信することができます。(長田さん)

まとめ
今回のオンラインセミナーでは「MILLET」さまが実際に取り組んでいるチャット接客の事例を交え、AIチャットの実践的な活用法をお伝えしました。AIと人間の役割を整理した上で、AIチャットをうまく活用すると、 業務効率化と顧客満足向上を両立できる ことを実感していただけたのではないでしょうか。
参加者アンケートでも 「WEB接客ツールについては、業務効率化だけではなく、接客ツールとしてどれくらいの効果があるのか気になっていたので、導入事例や成果についてのお話があり、参考になりました」 といった感想をいただきました。
自社ECサイトの売上を伸ばすために、EC運営の効率化とファンづくりを推進したい事業者さまは、チャット接客を検討してみてください。
futureshopはチャネルトークと連携済み
ECサイト構築プラットフォームfutureshopは「チャネルトーク」と連携しており、 futureshopをご利用中の店舗さまは個別開発を行うことなく「チャネルトーク」を導入することが可能 です。「チャネルトーク」のオプション機能に関する詳細は以下のページをご覧ください。

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