デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を重要な経営課題とする企業では、ビジネスとデジタルをつないで成果を出せる人材の確保や成果を出すための組織づくりを進めている。DXの推進を支援している専門家に人材・組織の課題や取り組み状況などを聞いた。(編集:日本人材ニュース編集部)

目次
- マネジメントサービスセンター小方真 執行役員 企画開発本部長
- みらいワークス岡本祥治 代表取締役社長
- KPMGコンサルティング大池一弥 執行役員 ピープル&チェンジ パートナー
- パーソルキャリア鏑木陽二朗 執行役員 HiPro編集長 兼 HiPro事業責任者兼 エージェントサービス事業部 事業部長
- ウィンスリー黒瀬雄一郎 代表取締役 ヘッドハンター
- レイヤーズ・コンサルティング小宮泰一 HR事業部 ディレクター
- manebi呉珍喆 Chief Digital Officer 兼 Vice President of Engineering
- テクノブレーン碣石浩二 執行役員 人財紹介部 本部長
- TechBowl小澤政生 代表取締役
- オデッセイ秋葉尊 代表取締役社長
- スキルアップNeXt田原眞一 代表取締役
- 富士通ラーニングメディア渡邉潤 デジタル人材育成ソリューション事業本部 シニアディレクター
- SHIFT AI木内翔大 代表取締役
- LAPRAS染谷健太郎 代表取締役 CEO
- INDUSTRIAL-X柿本拓朗 事業開発マネジャー
- エクサウィザーズ伊藤裕司 部門執行役員 AIプロダクト事業本部 HR Techユニット ユニット長
マネジメントサービスセンター
小方真 執行役員 企画開発本部長

個人・組織の特性や取り組みの現在地を診断して試行錯誤
DX推進とは、単なる業務のデジタル化にとどまらず、制度や組織文化の変革を目指すものです。例えば、これまで人事部門主導で行われてきた人材の任用・配置は、職務内容の開示や個人のキャリア意識の高まりを契機に双方向性が増してきました。現在では、組織と個人の双方が求めるタイミングで、必要な人材が適切に任用・配置される形態へと進化を遂げています。
こうした変革を進めるには、デジタル技術を最大限に活用して情報の鮮度と双方向性を保つこと、「これは役に立つ」という共通認識を育むことが重要です。そのためにも、当事者(個人や組織)の特性や取り組みの現在地を診断(アセスメント)や結果に基づく試行錯誤は必要不可欠であり、この過程そのものが制度や文化の変容に向けた第一歩となります。
みらいワークス
岡本祥治 代表取締役社長

伴走支援できる経験豊富な外部人材を活用し、ノウハウを吸収
DXを推進していくために、社内の人材育成や内製領域と外部人材を活用する領域の使い分けが主流になってきましたが、それだけでは不十分です。現状、当社にくる相談の内容として、 AIの導入や活用が増加傾向にありますが、AIを取り巻く環境の変化は目まぐるしく、企業はスピード感をもって推進していかなくては、あっという間に取り残されてしまうでしょう。
そこで、伴走支援することができる経験豊富な外部人材を活用することが必要です。ノウハウを蓄積し、スピーディにDXを推進していくことが、課題解決への近道となり得るでしょう。また、外部人材からどのようなノウハウを吸収するのか、限られた社員で内製化していくための具体的な目標を明確にすることで、企業は持続的な成長をしていくことができるでしょう。
KPMGコンサルティング
大池一弥 執行役員 ピープル&チェンジ パートナー

デジタルリテラシーを育む環境を有機的に会社全体で醸成
SaaSやPaaSに代表されるサービスのクラウド化、生成AIやAIエージェントの導入など先進的技術の進歩により、デジタルに関するキーワードも身近な存在となりました。この変化によって、専門知識を持つ「つくれる人材」から、実際の業務で成果を出せる「つかえる人材」へと育成の方向が変わってきていると考えます。
特に具体的な活用環境の提供が人材の育成スピードに大きく影響を与えることから、直近ではOJT環境の整備も含めた実践的な伴走支援の依頼も増えています。デジタル人材に関わらず、デジタルリテラシーは現代人の必須ビジネススキルであるといえます。デジタルリテラシーを育む環境を人事部や個々の事業部単位ではなく、有機的に会社全体で醸成することが次のステージの課題といえるでしょう。
パーソルキャリア
鏑木陽二朗 執行役員 HiPro編集長 兼 HiPro事業責任者兼 エージェントサービス事業部 事業部長

高度なスキルを持つ副業やフリーランスなどの外部人材を活用
時代に即したDX推進は業界を問わず大きな課題であり、高度な知見や経験を持った人材のアサインが不可欠です。特に最近では、自社のITシステムをゼロから構築するのではなく、すでに世の中にあるプロダクトを選択・調整して活用する動きも出ています。そのため、自社の成長戦略や業務内容にマッチしたシステムの構築や、外部との連携・コントロールができる人材ニーズが高まっています。
そうした高度なスキルを持つ人材の確保において、採用に加えて、副業やフリーランスなどの外部人材活用を視野に入れる企業が増えています。迅速な課題解決が求められる中で、適した人材を適した期間に活用できる、有効な手段のひとつと言えるでしょう。
ウィンスリー
黒瀬雄一郎 代表取締役 ヘッドハンター

優秀な人材の採用・定着・活躍を支援できるエージェントと連携
DXが進まない背景には、社内に推進を担う人材が不足し、外部のコンサルタントやSIerに頼らざるを得ない状況があります。その結果、現場にノウハウや意思決定の主体が根づかず、継続的な変革につながらないという構造的な課題が生じています。これを解決するには、自社内に中核を担う優秀な人材を迎えることが不可欠ですが、そうした人材は市場で争奪戦となっており、採用できたとしても、入社前との情報ギャップやカルチャーの違いから早期離職につながるケースも少なくありません。
こうした課題を乗り越えるには、本人が力を発揮できる社内体制の整備とともに、企業と候補者の双方を深く理解し、採用初期から定着・活躍まで伴走支援できるブティック型エージェントとの連携は、有効な選択肢の一つでしょう。
レイヤーズ・コンサルティング
小宮泰一 HR事業部 ディレクター

「我が社のDX」「DX人財」を言語化し、取り組みの軸を作る
DX人財の獲得・育成は多くの企業で注力テーマですが、流行りのリスキリングなどに飛びつく前に、しっかりと「我が社のDX」「DX人財」とは何かについて、①「我が社のDX」の定義を議論 ②我が社のDXビジョン(中長期/短期)を策定 ③ビジョン実現のキーポジションたる「DX人財」の人材像・要件を明確化―のステップで言語化し、取り組みの軸を作っておくべきと考えます。
D=デジタル人財も、X=変革推進人財も希少であり、争奪戦です。だからこそ、①②③のステップを経営陣、テクノロジー部門を含む事業部、人事部の三位一体で取り組み、DX人財に関する散漫な人的資本投資を行うことを避け、戦略的に我が社らしくDX人財のターゲットや獲得・育成施策の優先順位を定める「DX人財戦略」を練ることを推奨します。
manebi
呉珍喆 Chief Digital Officer 兼 Vice President of Engineering

人事がリスキリングと組織のリデザインを視野に全社DXを牽引
企業がDXを推進するにあたり、直面する課題はたくさんありますが、人材・組織の観点ですと、「視座を高め、視野を広げること」、「目標を一つにし、組織の垣根を超えること」が先決です。組織が大きくなり、分業が進むに連れ、部門ごと、担当ごとになすべき役割や責任範囲が分かれていきます。このようにサイロ化された状態でDXを考えても全体最適は困難です。
自部門の担当業務を超え、高い視座と広い視野を持ち、全体の業務フローを可視化するためには、組織を超えた目標設定と柔軟な組織体・会議体の設計、そして強いリーダーシップが不可欠です。人事部門は、個人のリスキリングに加え、組織のリデザインも視野に、全社的にDXを強力に牽引する立場と言うべきでしょう。
テクノブレーン
碣石浩二 執行役員 人財紹介部 本部長

DX推進人材に裁量と発想の自由度を与え、周囲の理解を促す
企業のDX推進においては二つの側面があると感じています。主に社内の業務改善や省人化を目的とした側面と、新たなビジネスや製品モデルを創出していくという側面です。いずれもデジタルデータを有効活用するという意味合いでは共通していますが、求められる経験や知識には違いがあると考えます。
DX推進に取り組む企業はその目的と課題を明確にするとともに、必要な要件を把握したうえで人選をされていると感じます。同時に、大きな障壁となる社内の意識改革にも力を注いでいます。AIやDXの専門知識が豊富なメンバーが在籍するだけではDXは進まず、DX推進を担うメンバーに一定の裁量と発想の自由度を与え、さらには周囲の理解を促すことが最良の道と考えます。
TechBowl
小澤政生 代表取締役

採用・育成の両面から「技術の翻訳」ができる人材を増やす
DX推進には、実践的なデジタル人材育成と組織変革が不可欠です。「2025年の崖」問題等も含め、人材育成は喫緊の課題であり、全従業員のデジタル理解が重要で、多くの企業がDXの必要性を認識しつつも、具体的な進め方や実効性あるスキル習得に課題を感じている声をよくいただきます。
そこで、エンジニアと非エンジニアをつなぐことができる、つまり「技術の翻訳」ができる人材の育成が重要と考えています。当社は「TechTrain採用支援」「TechTrain企業研修」を通して、採用・育成の両面から「技術の翻訳」ができる人材を増やし、DX推進を多角的に支援していますが、実践的な学びは即戦力育成につながり、DX推進の成功~組織全体の変革を後押ししていくと考えます。
オデッセイ
秋葉尊 代表取締役社長

現状を可視化し、人材・スキル情報と連携したPDCAサイクル構築
昨年当社が実施した人的資本調査では、「どの人的資本情報を管理・開示すべきか決められない」と回答した上場企業が3割にのぼり、注力すべき情報の選定に課題を抱える企業が多いことが明らかになりました。人的資本経営やスキルベース組織への関心が高まる一方、人的資本情報を適時可視化できている企業は3割未満にとどまっています。 人事DXで人的資本経営を進めるには、現状を可視化したうえで、人材・スキル情報と連携したPDCAサイクルを構築し、施策の精度とスピードを高めることが不可欠です。当社はタレントマネジメントを通じた人材・スキル情報の活用に加え、ISO30414に基づく人的資本情報の可視化や経営成果の検証等、人事DXによる人的資本経営の実現を一貫して支援しています。
スキルアップNeXt
田原眞一 代表取締役

学びと実践の意欲を高めるサイクルがDXを組織文化とする鍵
多くの企業がDX人材育成に注力する一方、「取り組みが限定的」「成果が一時的」といった課題に直面し、組織変革への確かな手応えを感じられていません。これは、リテラシー教育に留まり、ビジネスインパクトに繋がる実践的な課題解決力を十分に育成できていないことに起因します。これを解決するには、現場課題に根ざした実践型研修を通じ、デジタルでビジネス成果を生む力を徹底的に磨く必要があります。
そして、成功事例を社内発信し共感を広げ、学びと実践の意欲を高めるサイクルこそ、DXを組織文化とする鍵です。その中心となるのが「社内コミュニティ」の形成。部門を超えた知見共有を促し、組織全体のDX推進力を高めます。最近、 DX先進企業から組織変革の相談が増えているのは、この課題意識の高まりを示すものです。
富士通ラーニングメディア
渡邉潤 デジタル人材育成ソリューション事業本部 シニアディレクター

小さな成功体験が社員のマインドセットとカルチャーを変える
DX推進における最大の課題は人材です。経営層のコミットだけでなく、現場でDXを推進できる人材の育成と、全社のリテラシー向上が不可欠です。ツールを導入して操作研修を受けても、実業務が変わらないと全社には浸透しません。クイックウィンと呼ばれる小さな成功体験が、社員のマインドセットとカルチャーを変える大きな鍵です。また、業務変革の視点でOJTに伴走し、実務でDXの価値を実感できるようサポートすることが重要です。
当社もこのプロセスを支援する伴走型プログラムを提供し、顧客と共に「一過性のコンサルティングに頼らない自走人材の育成」「カルチャー変革」に挑戦しています。取り組みが企業のアジリティを高め、不確実な環境下でも柔軟に挑戦を継続できる組織の実現につながると考えています。
SHIFT AI
木内翔大 代表取締役

生成AI活用スキルを持つ社員を育成し、DX人材不足を解決
生成AIの急速な進歩により、人間のように考え、行動を支援する「AIエージェント」が現実のものとなり、「AIエージェント元年」を迎えています。AI活用がビジネスのスタンダードとなる変革期において、企業のDX推進には、この新たな潮流への対応が不可欠です。DX推進に取り組む企業がDX人材不足に直面する中、この課題解決には、新規採用に頼るだけでなく、既存社員のリスキリング、特に生成AI活用スキルに関する戦略的な育成が有効的だと考えます。
生成AIは、特定の技術職だけでなく、事務、営業、企画、開発など、幅広い職種で創造性向上や業務効率化に貢献します。生成AIスキルは、人材不足を補うだけでなく、経営の様々な局面で活用可能にすることで企業の競争力と持続的成長の原動力となるでしょう。
LAPRAS
染谷健太郎 代表取締役 CEO

経営陣や影響力あるリーダーが積極的・継続的にDXを支援
DX推進には、ITへの理解はもちろんのこと、事業や組織への理解も兼ね備えた経験豊富なIT人材の採用・抜擢が不可欠です。こうした人材を集めてチームを組成した上で、そのチームによるDX推進活動が孤立しないように、経営陣や社内の影響力あるリーダーが積極的かつ継続的に支援していくことが非常に重要です。具体的には、採用やチーム構築・強化、推進メッセージの発信、阻害要因の排除、継続的な強化が重要です。 先進企業では、既存の人事制度とは別のデジタル人材向けの人事・給与制度の策定およびその制度に基づく積極的な採用活動の実施や専用オフィスの整備などを通じ、優秀なIT人材の受け皿を作ることやその歩みを全社的な支援を行うことでDXを進めています。
INDUSTRIAL-X
柿本拓朗 事業開発マネジャー

全社の事業活動のバリューチェーンをデジタルでつなぎ変革
当社の調査では、企業の新たな課題として「DX推進人材の確保・育成」が34.1%で最多となっており、私たちはDX人材が不足することによるプロジェクトの停滞や中止を複数見てきました。多くの人事部は、DX人材の育成を急ぐあまりデジタルスキル習得に偏重した研修を重ねる傾向にありました。
しかしデジタルスキルを習得しただけでは事業の変革者になることができず、DXが進まない現状があります。企業のDX推進は個別のデジタルスキルの理解だけでなく、全社の事業活動の流れ(バリューチェーン)をデジタルでつなぎ変革する「デジタルバリューチェーン」の考え方が必要です。その上で、業務での実践を通じてデジタルを活用した事業変革を推進する人材を育成することがDX人材を育成する鍵となります。
エクサウィザーズ
伊藤裕司 部門執行役員 AIプロダクト事業本部 HR Techユニット ユニット長

人材・組織のアセスメント結果と人事情報を分析・見える化
ここ最近の顧客における課題は、生成AI活用などを推進するデジタル人材の育成において、どのような尺度で人材状況を把握すべきかわからないというものです。この課題に対し、生成AIで個々や全社の人材定義を迅速に実施し、最短30分でアセスメントできるサービスを提供しています。8000人など全従業員を対象に利用いただくケースが増えています。これを定期的に行うことで把握と改善をアジャイル的に実施可能です。
直近では、アセスメント結果と人事情報の分析をしたいという要望に対し、組織も対象とした分析・見える化のサービスを開発しました。一部の顧客で活用を始めていただいており、デジタル人材育成でDXとHRの両部門の連携が一層進んでいくと考えられます。
【関連記事】
・「能力の越境」を促す新制度でDXビジネス人材育成を強化【三井不動産】
・「全社員DX人財化」でビジネスプロセスを変革【サッポロホールディングス】
・生成AI・DXの実務活用で成果を出せる社員を増やす【DXを推進できる組織・人事の条件】