【CVCインタビュー】スタートアップと共に未来を創る:アイキューブドベンチャーズ山形氏の挑戦

地方発のスタートアップ支援に取り組むCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)、株式会社アイキューブドベンチャーズ。今回のCVCインタビューでは、同社の代表取締役パートナー 山形 修功さんにお越しいただきました!
このインタビューでは、山形さんのこれまでのキャリアや経験、そしてアイキューブドベンチャーズ設立の背景についてお話を伺いました。CVCとしての独自の投資戦略や、地方企業の成長をどのように支援しているのか、その歩みを追います。

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目次

  1. 山形修功さんのバックグラウンド
  2. アイキューブドベンチャーズの設立背景と事業概要
  3. アイキューブドベンチャーズの運営体制と投資戦略
  4. 投資判断・活躍する起業家について
  5. スタートアップとの協業・日本のCVC市場について
  6. アイキューブドベンチャーズのビジョン
  7. 起業家・スタートアップへのメッセージ

山形修功さんのバックグラウンド

ーまずは山形さんのご経歴を教えてください。

山形氏:大学卒業後、新卒で現在のジャフコグループに入社しました。初任地は大阪で約5年間勤務し、その後は東京に異動。シリコンバレーの子会社と連携し、アメリカのスタートアップの日本市場開拓や事業開発を担当しました。また、ロンドン拠点のリエゾンとして、欧州のMBO案件の稟議起案等にも関わりました。

その後、イスラエル企業への投資案件の検討等を経て、フィリピンへ異動。現地企業への投資や、アジア通貨危機下での投資回収にも携わりました。2年後にはシンガポールに赴任し、インターネット企業を中心に投資を行いました。帰国後は、ITやエレクトロニクス分野の投資チームに所属しました。

その後、投資審査部門に移り、投資候補先企業のデューデリジェンスを担当。2004年~2006年にかけて新興市場が盛り上がっていた時代で、全国各地の投資案件に関与しました。2007年からは九州支社長として、九州・山口・沖縄エリアの投資と管理に従事。実際に地方企業への投資に注力する中で、「地方でも成長できる企業はある」と実感し、相応の企業のEXITにも関与してきました。

2021年にジャフコを退職し、投資先で、一時社外取締役も務めていた株式会社アイキューブドシステムズに転職しました。同社の子会社として同年11月にCVCを設立し、翌年1月にはファンドを組成。現在は、ベンチャー企業への投資を通じて、新たな成長機会を追求しています。

ー当時、ベンチャーキャピタリストという選択肢がまだ少ない中で、山形さんがファーストキャリアとして選ばれた理由を教えてください。

山形氏:大学を卒業したのは1992年。当時、バブルは崩壊していたものの、就職市場はまだ活況で、多くの企業が積極的に採用を行っていました。翌年から採用抑制が一気に進んだのですが、前職も50年の歴史の中で一番大量採用した年であり、運良く門をくぐることができました。

ベンチャーキャピタルを志した背景には、親が事業を営んでいたことが影響しています。子どもの頃から経営に関心があり、将来的には自分自身で何か新しい事業を起こしたいと考えていました。ただ、親の後を継ぐつもりはなく、自分の力で挑戦したいという気持ちが強かったです。当初はコンサルティング系の企業に興味があり、数社から内定もいただきました。ただ、就職活動中に企業パンフレットなどを通じて「ベンチャーキャピタル」という業界を初めて知り、大きな魅力を感じました。

当時は新卒を受け入れるVCが少なかったものの、いくつかの企業に応募し、無事に内定を得ることができました。進路を迷っていたとき、父に相談したところ、「コンサルタントはお金をもらって助言する仕事だが、投資家はお金を出すからこそ、経営者は真剣に耳を傾ける」と言われ、その言葉に背中を押されました。経営により深く関われるのはVCだと感じ、この道を選びました。
もともとは起業を目指していましたが、VCとして多くの起業家と接するうちに、自分は起業家というより、支援する側の方が向いていると気づきました。挑戦する人を支えることにやりがいを感じ、最終的にこの仕事を続ける決意を固めました。

ー山形さんが「自分は起業家タイプではない」と気づいた大きな理由やエピソードはありますか?

山形氏:特定の出来事というより、性格的な要因が大きいです。20代前半でVCとして働き始め、多くの起業家と接してきましたが、彼らはリスクを恐れず、大胆に勝負に出る人たちでした。資金を集めてスピード感を持って事業を進める姿を見ながら、自分にはそのスタイルは合わないと感じるようになりました。
また、成功例だけでなく、失敗した経営者の姿も数多く見てきました。身近なところでは、父も事業で多大な借金を抱え、返済に苦労していた時期がありました。当時の金融環境が、「個人保証による借入」→「失敗=自己破産」という時代だったという背景も大きいのですが、そうした現実を目の当たりにし、起業家として大きなリスクを取る生き方は自分には向いていないと実感しました。
とはいえ、起業そのものへの憧れや、挑戦する人への尊敬の気持ちは変わりませんでした。むしろ、そういったリスクテイカーたちを支え、時には背中を押し、時には冷静にブレーキをかけることにこそ、自分の役割とやりがいを感じるようになったんです。結果として、起業家ではなく、投資家として彼らの挑戦を後押しする道を選びました。

【CVCインタビュー】スタートアップと共に未来を創る:アイキューブドベンチャーズ山形氏の挑戦

アイキューブドベンチャーズの設立背景と事業概要

ー貴社の事業の概要と、注力されている領域について教えてください。

山形氏:アイキューブドベンチャーズの親会社であるアイキューブドシステムズは、法人向けにモバイルデバイスマネジメント(MDM)ツールを提供しています。主な顧客は企業や自治体、医療機関、学校などで、従業員や生徒、医師や看護師が使うスマートフォンやタブレットを遠隔で管理できる仕組みです。例えば、紛失時のロックやデータの消去、業務用アプリの一斉配布といった機能が備わっています。

現在は7,500社超の法人に導入されており、「CLOMO」というブランドでの展開を中心に、2022年からはNTTドコモさんのMDMサービス「あんしんマネージャーNEXT」へも当社がOEM提供しています。自社ブランドのMDMとしては、10年以上にわたり国内トップシェアを維持してきましたが、将来の成長を見据え、新たな事業創出にも力を入れており、その一環として立ち上げたのが、当社のCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)です。BtoB SaaS、モバイル、セキュリティ、働き方改革といった自社と親和性の高い分野を中心にしつつ、投資領域は特定のテーマに限定していません。優れた企業や経営者に出会えれば、領域にとらわれず柔軟に投資を検討しています。 ファンドの規模を踏まえ、マイノリティ出資が基本であり、特定の事業シナジーを前提とするスタイルではありません。純投資のスタンスを取りながらも、将来的に新たな事業へとつながる出会いを大切にしています。

ーCVCを設置した背景として、特に親会社アイキューブドシステムズの事業を広げる目的が大きかったのでしょうか?

山形氏: CVCを設置したからといって、すぐに事業が拡大するとは考えていません。私は本体の執行役員としてビジネスデベロップメント(事業開発)本部も兼任しており、そちらではM&Aによる事業拡大を進めています。これまでに2件のM&Aを実施しており、本体へのインパクトという点ではこちらの方が大きいです。
一方、CVCはより長期的な視点での取り組みです。市場の動向を把握し、新しい技術やビジネスモデルをいち早くキャッチするための“アンテナ”の役割を果たします。また、CVCを運営することで、M&Aの案件が持ち込まれる機会も増えるという副次的な効果もあります。当然ながら、CVCとしてしっかりとリターンを狙う投資活動も行っています。

ーCVCを通じて生み出したい価値について、どのようにお考えですか?

山形氏:CVCには、社内向けと社外向けの両方に価値があると考えています。まず社内的な意義についてですが、当社はもともと受託開発を行う会社でした。2006年に創業者の佐々木がシリコンバレーを訪れたことをきっかけに、自社プロダクトの開発に舵を切り、2007年からの3年間に10個ほどのソフトウェアサービスを開発し、2010年に「CLOMO」が誕生しました。これが第二創業期です。CLOMOは順調に成長し、安定した収益基盤となりましたが、一方で、第二創業期の様な挑戦する文化が次第に薄れてきたという課題も感じていました。

そうした背景から、2022年にはブランドスローガン「挑戦を、楽しもう。」を掲げ、チャレンジ精神の再醸成に取り組んでいます。個人的に、CVCやM&Aは、その象徴的な施策のひとつであり、「新しいことに挑戦しなければ変われない、変わらなければ生き残れない」というメッセージを社内に発信し、イノベーションの機運を高めたいと考えています。
一方で、社外的な価値もあります。私は長く九州で投資をしてきましたが、福岡のスタートアップシーンはここ数年で大きく盛り上がっています。ただ、東京と比べるとまだ成功事例が少なく、成長の余地があると感じています。CVCを通じて、九州の起業家に知見や機会を提供し、地域のスタートアップエコシステムの発展にも貢献していきたいと考えています。

一方で、社外的な価値もあります。私は長く九州で投資をしてきましたが、福岡のスタートアップシーンはここ数年で大きく盛り上がっています。ただ、東京と比べるとまだ成功事例が少なく、成長の余地があると感じています。CVCを通じて、九州の起業家に知見や機会を提供し、地域のスタートアップエコシステムの発展にも貢献していきたいと考えています。

アイキューブドベンチャーズの運営体制と投資戦略

ー貴社の運営体制について教えてください。

山形氏:当社は、2021年11月にアイキューブドシステムズの100%子会社として設立されました。翌2022年1月には、10億円規模の1号ファンドである「アイキューブド1号投資事業有限責任組合」を立ち上げています。
特徴的なのは、私を含むパートナー陣がLLP(有限責任事業組合)を通じて、共同GPとして出資している点です。これにより、投資判断は親会社から独立した形で行われ、ファンドの成果がパートナーにも還元されるインセンティブ設計になっています。大企業の一部門としてではなく、独立系VCに近いスタンスで、長期的に責任を持って運営する体制を整えました。

ーその運営形態を選ばれた背景について教えてください。

山形氏:当初は、親会社のバランスシートから直接投資する案もありました。ただ、私自身の経験から、親会社が意思決定に深く関与すると、投資の自由度がどうしても制限されると感じていました。
また、CVCであっても、投資する人間が自ら資金を投じ長期的に関与する構造でなければ本気で取り組めないと考えました。そこで、パートナー陣にも投資リターンがインセンティブとして還元される設計にしました。この方針には、当時の経営陣も賛同してくれました。社内調整は簡単ではありませんでしたが、長期的な成功のために必要な決断だったと思っています。

ー 親会社の事業との関係について、どのようにお考えですか?

山形氏:親会社と直接関係のない分野にも柔軟に投資できるような仕組みを採用しています。「良い企業だが本体との関係が薄い」といった理由で判断が左右されるようでは、CVCの本質的な役割が果たせません。
実際、一般的なCVCではシナジーの有無が投資可否に大きく影響しますが、当社はリターンも重視する純投資型です。そのため、社内調整が必要な提案についても冷静に対処し、独立性を維持する体制を整えています。

ー投資領域をこだわりすぎないとのことですが、その理由を教えてください。

山形氏:事業シナジーにこだわりすぎると、有望な企業や起業家との出会いを逃してしまう恐れがあります。もちろん、シナジーは一つの判断材料になりますが、それだけでは柔軟な投資判断ができません。
設立当初はシナジーを重視した投資戦略も検討していましたが、そもそもアイキューブドシステムズ自身が、現在はソフトウェア企業であっても、将来的にはその枠を超えていく可能性すらあります。だからこそ、投資を通じて多様なビジネスや市場に触れ、新たな事業機会を模索していくことを大切にしています。

ー投資のスタイルやM&Aの戦略についてはいかがでしょうか?

山形氏:当社の投資スタイルは、基本的にフォロー投資が中心です。近年、日本のスタートアップの資金調達規模が拡大している中で、10億円規模のファンドがリード投資を行うには、シード特化の戦略が必要です。ただ、私はシード投資を得意としておらず、その戦略は採用していません。前職ではリード投資を数多く経験しましたが、その際は組織的なサポート体制がありました。現在はそうした体制が整っていないため、信頼できるVCがリードする案件にフォローで入るのが基本方針です。

とはいえ、我々にしか提供できない価値があると判断した場合は、積極的に関与しています。パートナーの中には上場経験を持つ起業家もおり、私自身も30年以上にわたり投資に携わってきました。さらに、親会社が持つ販路や経営基盤を活用できるケースでは、資金以上の支援を行うことが可能です。そうした強みを活かし、企業の成長を後押ししていきたいと考えています。
M&Aについては、大企業ではないため対象領域を絞って取り組んでいます。現在の主力事業である「CLOMO」やMDM領域を補完する分野が中心です。ビジネスデベロップメント本部が中心となり、新たな成長領域を見極めながら案件を検討しています。CVCとM&Aは手法こそ異なりますが、どちらも新規事業の創出を目的としており、互いに補完しながら戦略的に活用しています。

【CVCインタビュー】スタートアップと共に未来を創る:アイキューブドベンチャーズ山形氏の挑戦

投資判断・活躍する起業家について

ー投資の判断をされる際に重視しているポイントは何でしょうか?

山形氏: 市場の成長性や競争優位性は非常に重要です。投資判断では、
①市場規模や成長性、②プロダクトやサービスの独自性、③経営者の資質の3要素を重視しています。
市場が大きければ良いというわけではなく、その市場でプロダクトがどのような競争優位性を持つのかが鍵になります。また、タイミングも重要で、いくら優れた技術でも市場が未成熟であれば成功は難しくなります。例えば、「いずれ空飛ぶクルマが普及する」と言われても、それが実現する時期が適切でなければ投資判断は難しくなります。 最終的には、運の要素もありますが、市場の動向とプロダクトのフィット感を慎重に見極めることが成功の鍵だと考えています。

ー③の経営者の資質と重複しますが、優れた経営者とはどのような資質を持つ方だと考えていますか?

山形氏: 各キャピタリストによって見方が異なると思います。ただ、私の経験上、成功する経営者に共通する要素はいくつかあります。
まず、金銭感覚や数字のセンスが優れていること。瞬時に適切な数字を出して説明できる経営者は、ビジネスの全体像をしっかり把握していることが多いです。また、誠実さや野望の大きさも重要な要素です。
ただし、野望を持っているだけでなく、人の意見に耳を傾ける柔軟性も求められます。投資家の意見に耳を傾けつつ、必要なものを取り入れるバランス感覚を持つ経営者は、成長しやすい傾向があります。一方で、過去の事例を分析すると、失敗する経営者にも一定のパターンが見られます。たとえば、理念だけで経営を進めようとするタイプは、成功する確率が低い傾向にあります。社会課題の解決を目指すこと自体は素晴らしいですが、経済的な視点を欠いた経営では持続性がありません。

近年は、慎重で堅実な経営者が増えた一方で、「危険だけど突き抜ける可能性を秘めた起業家」が少なくなったと感じています。以前は、「この人はちょっと危ういけれど、成功すればとてつもないものを生み出すかもしれない」というタイプの経営者が一定数いました。今はそうした人物が減っており、少し物足りなさを感じることもあります。 「本当にこの人は危ないな」と思うような場面でも、レッドゾーンぎりぎりを走るような人が、結果的に大きな成功を収めることがあるんです。そういう人には強く惹かれますし、投資したくなります。

スタートアップとの協業・日本のCVC市場について

ースタートアップとの協業を進める上で、どのような課題や難しさを感じていますか?

山形氏:当社としては、スタートアップのSaaSプロダクトを活用し、既存の販路を通じた成長支援に関心があります。ただし、当社の製品はセキュリティ関連が中心で、導入先も大企業が多いため、スタートアップの製品がフィットしにくいケースが少なくありません。その結果、「導入実績の多い外資系ベンダーの製品の方が適している」という判断に至ることも多くあります。こうした経験から、当初想定していた「シナジーを前提とした投資」は、実際にはそれほど簡単ではないと気づきました。スタートアップの技術やプロダクトに魅力を感じても、当社の営業体制で広げるのは容易ではなく、結果的に純投資にシフトする一因となりました。

逆に大企業の場合は、既存事業がすでに数百億円規模の売上を持っていることが多く、年商1億円程度のスタートアップ製品を導入してもインパクトが小さいのが現実です。加えて、経営層の意向に左右されやすく、トップが変わるとCVCの方針も変わるといったケースも少なくありません。そうした背景もあり、短期間で分かりやすい成果が求められがちで、投資リターンも重視する傾向があると感じています。

ー投資リターンとシナジーを両立させることは可能だとお考えですか?

山形氏:私は両立は可能だと考えていますし、そこにこそCVCの面白さがあると思っています。前職ではリターンの最大化を追求していましたが、今はそれに加えて「将来的に自社と融合できるかもしれない」といった視点で社内で議論するプロセス自体に価値を感じています。そうした対話から、新たな気づきや視野の広がりが生まれることも少なくありません。

ー日本のCVC市場についてはどのようにお考えでしょうか?

山形氏:私がVC業界に入った30年以上前は、大企業とベンチャーの協業は非常に珍しく、CVCもほとんど存在していませんでした。ですが今は、オープンイノベーションの流れが続いており、CVCの数も着実に増えています。過去には何度かブームと停滞を繰り返してきましたが、今回は継続的に広がっているのが特徴です。
特に海外では、CVCの重要性が年々高まっています。日本でもこの文化を根付かせていくことが重要だと考えています。かつての日本企業は「自前主義」が主流でしたが、長引く経済停滞を経て、それだけでは成長できないことが明らかになりました。
「失われた30年」を経て、多くの企業がアメリカのスタートアップとの連携モデルに注目し、協業の必要性を強く意識するようになっています。新しい技術や事業を生み出すには、スタートアップとの協力が不可欠だという認識が広がってきました。過去には、幾度もの「ベンチャーブーム」と呼ばれる時期が訪れ、盛り上がりを見せましたが、オイルショックや円高不況、ネットバブルの崩壊、ライブドア・ショックやリーマン・ショックといった要因と共に終焉を迎える、ということを繰り返してきました。そのような中、CVCが注目されても成果が出る前に撤退するケースが多かったのではないかと思います。

ただ、2012年のアベノミクス以降は、スタートアップ投資の環境が大きく改善され、10年以上にわたり安定した状況が続いています。近年「スタートアップ冬の時代」といった声が上がることもありますが、以前のような急激な冷え込みには至っておらず、CVCを取り巻く環境も持続的に成熟してきていると感じます。
この変化の背景には、大企業の意識改革や、スタートアップ自身の成長レベルの向上があります。私がこの業界に入った頃と比べて、企業もスタートアップも明らかに意識が変わってきました。オープンイノベーションが、ようやく現実的な選択肢として根づいてきたと実感しています。

ーそれにはテクノロジーの進化による影響もありますよね。

山形氏:もちろんあります。昔は優秀な人材は大企業や官僚組織に集中し、スタートアップに挑戦する人はごく一部でした。しかし、今では東大卒の人材が官僚ではなく、起業家の道を選ぶケースが増えています。この流れ自体が、時代の大きな変化を示していると思います。
技術の進化が速くなるにつれ、企業単独でのイノベーションが難しくなり、スタートアップと協力することが競争力の維持に不可欠になっています。その結果、CVCが一過性のブームではなく、企業の成長戦略の一環として定着しつつあるのではないかと考えます。

ーそのような環境下で投資戦略に変化はありましたか?

山形氏:CVC立ち上げ当初は、シリーズA〜Cの比較的基盤が整った企業に投資し、当社のリソースと組み合わせて事業を育てるイメージでした。ただ、2022年半ばから市場が悪化し、親会社の株価も下落。グロース市場全体に逆風が吹く中で、一時的に投資を抑制し、様子を見ていました。その後も市場は大きく回復せず、バリュエーションは下がりきらない一方で、上場時の時価総額が未上場時の評価額を下回る例が増え、シリーズB以降ではリターンが見込みにくいケースも増えています。
そうした背景から、現在はプレシリーズAやシード段階の案件にも目を向けています。これまで得意としてきた領域ではないため慎重に判断していますが、早期に入らなければリターンを狙いにくい市況である以上、柔軟な戦略転換が必要だと考えています。

アイキューブドベンチャーズのビジョン

ー貴社としては今後、どのような戦略を描いていますか?

山形氏: 戦略というほど高尚なものではありませんが、CVCの役割は単なる財務リターンの追求だけではなく、企業文化の形成や新しい価値の創造にもあると考えています。対外的にも社内的にも、CVCの存在意義を示しつつ、しっかりとリターンを出して持続可能なモデルを確立することが重要です。

現在の目標の一つは、CVCを一時的な取り組みではなく、アイキューブドシステムズグループ内で永続的に発展させていくことです。将来的には新たなファンドを設立し、さらなる投資を展開していきたいと考えています。また、可能であれば、地域の金融機関など社外LPを募り、我々の投資方針に賛同するパートナーと共にVCを発展させていくことも視野に入れています。特に九州をはじめとする地方の起業家に対して、我々の知見を提供できる存在になりたいという思いがあります。

ーまずは九州を盛り上げ他の地方へ、最終的には日本を盛り上げていきたいというお考えですね。

山形氏:その意識は強くあります。以前の職場では九州の企業に特化して投資を行っており、「九州でも成長できる」「優れた企業がある」ということを証明したいという思いで取り組んでいました。現在は全国規模で投資を行っており、成長の機会は地域を問わず広がっていると感じています。そのため、投資対象を九州に限定する方針ではありません。
とはいえ、私たち自身もまだ成長フェーズにあるスタートアップです。上場企業とはいえ、CVCやM&Aといった手段を活用しながら事業拡大に挑戦しています。だからこそ、地方の企業がどのように成長できるかを自ら実践し、示していきたいと考えています。地方でも十分に成長できるというモデルケースを作ることが、地域のスタートアップエコシステムの発展にもつながると信じています。

ーまさに地方のスタートアップエコシステムのモデルケースを目指されているんですね。

山形氏:その通りです。日本のスタートアップ環境はこの10年で大きく変わりました。以前は一部の限られた人だけが起業していた時代でしたが、今では東大卒のような優秀な人材も起業に挑戦するようになっています。また、かつては「上場して成功して金持ちになる」といった価値観で起業する人が多かったのが、最近は社会課題の解決を目指す起業家も増えてきました。
とはいえ、スタートアップに挑戦する人材はまだ十分とは言えません。今も多くの優秀な人が大企業に進む傾向が強く、新たなアイデアや事業が生まれにくい土壌があります。特に、日本にはリスクや失敗を許容する文化が根づいておらず、「挑戦すること」自体へのハードルがまだ高いと感じます。
「挑戦しなければ何も始まらない」という空気や、「失敗を前向きに受け入れる文化」「挑戦を応援する風土」がもっと必要です。
地方に目を向けると、課題はさらに顕著です。優秀な起業家はいても、それを支えるリソースや人材が不足しており、結果として東京とのエコシステム格差が広がっています。そうした地域間のギャップを埋め、日本全体でスタートアップが生まれやすく、成長しやすい環境を整えていくことが今後ますます重要になってくると感じています。

起業家・スタートアップへのメッセージ

ー最後に、これから起業を考えている方やすでに起業されている方に向けて、メッセージをお願いします。

山形氏:起業家の目指すものによって必要な資質やメッセージは異なりますが、総じて言えるのは、「新しい価値を生み出すことに挑戦し続けてほしい」です。
かつては「アメリカに負けるな」と言えた時代もありましたが、現実的には大きな差が開いてしまいました。ユニコーン企業数の差などが引き合いに出されることが多いですが、私としては、必ずしもユニコーンを目指す必要はなく、新しいサービスやプロダクトを創出し、世の中に価値を提供すること自体に大きな意味があると思っています。 また、「この事業しかない」と思い切れるような、熱量の高い起業家がもっと増えてほしいとも思っています。多少危うさを感じるほどの情熱を持ち、リスクを恐れずに突き進む起業家こそが、新しい市場を切り拓いていくと感じます。そうした挑戦をする方々を、私は心から応援しています。

―山形さん、本日は貴重なお時間をありがとうございました!CVCの新たな可能性や、地方からスタートアップを支援するモデルの重要性について、大変興味深いお話を伺うことができました。
山形さんが描く「地方発の成長戦略」と、挑戦する起業家への熱い思いが、これからも多くのスタートアップにとって大きな指針となると感じました!

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【CVCインタビュー】スタートアップと共に未来を創る:アイキューブドベンチャーズ山形氏の挑戦
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【本記事で紹介させていただいた株式会社アイキューブドベンチャーズ様】
[会社名]株式会社アイキューブドベンチャーズ
[所在地]〒810-0001 福岡県福岡市中央区天神4-1-37 第1明星ビル4階
[URL] https://www.i3-ventures.com/
[CONTACT] https://www.i3-ventures.com/contact/
[PORTFOLIO] https://www.i3-ventures.com/#portfolio