富士通は2026年度から「新卒一括採用」を廃止し、通年採用を導入することを発表した。新卒や中途採用の枠組みを設けず、採用計画数も定めないことで、職務内容に応じて必要な人材を必要な時に獲得するジョブ型人事制度の定着を目指す。

星野リゾートも大学1・2年生からでもエントリーが可能な通年採用を開始するなど大手企業を中心とした採用変革が加速している。本記事では、通年採用の意味からメリット・デメリット、通年採用を導入している大手企業など紹介する。(文:日本人材ニュース編集部

富士通が新卒一括採用を廃止し、通年採用へ移行。通年採用のメリット・デメリットと導入している大手企業を紹介

目次

  1. 通年採用とは
    1. 通年採用と一括採用の違い
    2. 近年の通年採用に対する企業の動き
  2. 採用側からみる通年採用の3つのメリット
    1. 多様な学生を漏らさず採用できる
    2. 学生と自社の相性をじっくり見極められる
    3. 人材の補填ができる
  3. 採用側からみる通年採用の3つのデメリット
    1. 一括採用を希望する学生を逃してしまう可能性がある
    2. 早期内定者は入社までに辞退する危険性がある
    3. 採用に割く時間やコストが増える可能性がある
  4. 通年採用を導入している主な大手企業
    1. 富士通株式会社
    2. 株式会社星野リゾート
    3. 株式会社ファーストリテイリング(ユニクロ)
    4. ソフトバンク株式会社
    5. ソニー株式会社
    6. Zホールディングス株式会社
    7. 楽天グループ株式会社
    8. パナソニック株式会社
    9. 株式会社良品計画
  5. 通年採用で優秀な人材を獲得する

通年採用とは

通年採用とは年間を通して採用活動を行うことを指す。

採用時期や期間が限定されておらず、留学生や第二新卒などを積極的に採用できることから、通年採用を導入する企業は年々増加傾向にある。採用対象者の幅が広いことも特徴で、新卒から第二新卒、既卒など多岐に渡っている。

また、日本企業の中には、通年採用が一般的な外資系企業と同時期に採用活動に取り組むことで、優秀な人材を取られないようにする意図もみられる。

通年採用と一括採用の違い

富士通が新卒一括採用を廃止し、通年採用へ移行。通年採用のメリット・デメリットと導入している大手企業を紹介
通年採用 採用期間を設けず、通年で採用する手法
一括採用 経団連が定めた就活ルールに沿って、まとめて採用する手法

日本企業の大半は、新卒採用において一括採用の手法を取っている。一括採用は、一般社団法人 日本経済団体連合会(経団連)が決めたスケジュールに沿って一斉にエントリーを募集したり、選考スケジュールを組み、3月〜10月にかけて選考が行われる。

日本の若年層の失業率が諸外国と比較して低いことは、新卒一括採用という日本独自の取り組みが要因であるとも言われている。

<15~24歳層の失業率(2022年)>

日本 アメリカ イギリス フランス ドイツ 韓国
4.2% 8.1% 10.4% 17.3% 6.0% 7.1%

(出所:労働政策研究・研修機構『データブック国際労働比較2024』)

近年の通年採用に対する企業の動き

通年採用への関心は年々高まっており、リクルートワークス研究所が2022年に発表した「新卒・中途採用横断レポート」によると、2023年卒において通年採用を実施している企業は26.7%となった。

通年採用の形態としては、「年間を通して受付・選考」が最も多く68.9%、次いで「新卒・既卒の区分にこだわらない若年採用」が58.7%となっている。

また、企業規模によって通年採用の目的は異なり、従業員規模300人未満の中小企業では「必要な人員数を確保するため」(90.3%)が目立つ一方で、5000人以上の大企業は、「必要な人員数を確保するため」(77.8%)に加え、「多様な人材を確保するため」(68.1%)、「優秀な人材を確保するため」(54.2%)の目的で通年採用も重視している。

通年採用を実施していない企業の主な理由としては「採用担当者の負担が増すため」(53.1%)が最も多かった。

通年採用への関心の高まりと合わせて、採用活動の早期化傾向も強まっている。企業の採用課題の解決を支援するYouth Planet堀田誠人代表は、24年卒採用の総括として採用活動の早期化を挙げており、こうした傾向はますます加速していくことを指摘した。

今後は通年採用に加えて、早期選考の導入と対策も必須となってくる。堀田氏には全3回の連載で早期化する新卒採用の必勝法を解説してもらっている。

【第1回】「早期に優秀な学生が集まった」と思いきや大きな落とし穴、前倒しが加速する新卒採用を成功に導くポイントとは【新卒採用必勝法】
【第2回】中期選考で学生の本音探しに疲れている人事担当者が激増、リアルを探る3つの施策とは【新卒採用必勝法】
【第3回】採用活動終盤で心掛けたい3つのポイントとは 年間を通して常に採用に臨める体制に【新卒採用必勝法】

採用側からみる通年採用の3つのメリット

富士通が新卒一括採用を廃止し、通年採用へ移行。通年採用のメリット・デメリットと導入している大手企業を紹介
・多様な学生を漏らさず採用できる
・学生と自社の相性をじっくり見極められる
・人材の補填ができる

(参考:厚生労働省「多様な人材の確保のために通年採用や秋季採用の導入も検討してみませんか?」)

企業にとって通年採用のメリットは大きく3つある。新卒をはじめとする若年層の採用活動が難しくなっている中で、通年採用を取り入れるとよい理由を踏まえて紹介していく。

多様な学生を漏らさず採用できる

通年採用の場合、採用時期を問わないため、秋期に卒業予定の日本人留学生なども採用できる。

日本人留学生の選考について、海外留学生のための就職イベント「キャリアフォーラム」などを運営する株式会社キャリタスの松本あゆみ キャリタスリサーチは「国内学生と同じルートで選考を進めるのは、時差や学業との両立など大きな負荷がかかります。留学生が就職活動をしやすい時期に専用の応募ルートを設けることは、企業にとっても優秀な人材を確保するために重要と言えるでしょう。」と指摘する。

[学生タイプ別]就職活動状況と採用を成功させるポイント【内定辞退続出の新卒採用】

学生と自社の相性をじっくり見極められる

通年採用では、採用期間を限定しないため、スケジュールにゆとりを持たせることができ、学生のスキルや適性をじっくりと判断する時間を確保できるため、マッチング率の高い採用活動が可能になる。

一括採用の場合、4月1日入社といった期限があるため、終盤の採用スケジュールに無理が生じ、ミスマッチのある学生の採用も発生するケースがある。

人材の補填ができる

通年採用であれば常に応募を集め続けることができ、採用数をコントロールしやすく、一括採用よりも人材を補填しやすい傾向にある。また、内定辞退が発生した場合も、リカバリーを素早く行える点もメリットだと言える。

一括採用の場合、エントリー段階で十分な応募がなければ、その後の採用目標をクリアするのが難しくなっていくだろう。

採用側からみる通年採用の3つのデメリット

富士通が新卒一括採用を廃止し、通年採用へ移行。通年採用のメリット・デメリットと導入している大手企業を紹介
・一括採用希望の学生を逃す可能性がある
・早期内定者は入社までに辞退する危険性がある
・採用に割く時間やコストが増える可能性がある

企業にとって通年採用を行う際のデメリットは大きく3つある。通年採用を導入することで起こりうるデメリットとあわせて、対策方法も紹介していく。

一括採用を希望する学生を逃してしまう可能性がある

通年採用はいつでも応募できる半面、ダメな時の滑り止めにされる可能性があるため、一括採用を実施する企業と比べて優先度が下げられてしまうリスクがある。

対策としては、あくまでも一括採用のスケジュールをメインに据え、他の時期の採用枠は少なく用意しておくなど両軸のバランスを取るとよい。

早期内定者は入社までに辞退する危険性がある

通年採用の場合、内定から入社までの期間に、他企業からの内定を受けて内定辞退をするケースも多く見られている。

対策として、定期的なやりとり行うなどのこまめなフォローが挙げられるが、内定者フォローシステム「エアリーフレッシャーズクラウド」を提供するEDGEの佐原資寛代表は、「内定辞退が増加し、内定承諾者数を充足ができない企業が増えています。そのため採用担当者はさらに内定を出すための活動に注力せざるを得ず、内定者フォローが不十分になってしまいます。その結果、内定辞退がまた出てしまうという悪循環に陥ります」と、採用現場の実情を説明する。

「エアリーフレッシャーズクラウド」は内定承諾前のフォローに特化した機能を備えているため、入社意欲が低い学生は面倒だと感じて登録しないため辞退の可能性が高いと判断できる。また辞退者に引っ張られて入社意欲の高い内定者を不安にさせないため、承諾前は他の内定者とは交流できないようにしている。

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採用に割く時間やコストが増える可能性がある

通年採用は、長期間の採用活動となるため一括採用に比べて採用コストがかかる上、人事担当の他にも面接を依頼する上司や役員の時間も割く必要がある。

そのため、あらかじめ一括採用よりも綿密な計画立てを行い、募集にかかる求人広告費用や人件費などを洗い出しておくのが良いだろう。

通年採用を導入している主な大手企業

通年採用を導入している企業は年々増加している。ここでは、実際に通年採用を導入している企業を紹介する。

富士通株式会社

富士通株式会社は、IT関連製品・サービスを提供するグローバルテクノロジー企業。「ジョブ型人材マネジメント」を基盤とした通年採用を強化し、計画数を定めず必要なスキルを持つ人材をフレキシブルに採用している。新卒では学歴別の一律初任給を廃止し、ジョブレベルに応じた年収550万円から700万円程度、高度な専門性を持つ人材には最大1,000万円程度の待遇も。1〜6カ月の有償インターンシップを通じて学生と企業の相互理解を深める取り組みも行っている。

株式会社星野リゾート

株式会社星野リゾートは、国内外72施設を運営するリゾート運営企業。観光業界初となる「学生主体の通年採用」を2024年10月から開始。学年を問わず大学1・2年生でも選考参加が可能で、学生自身が選考スケジュールやオファー回答期限を決められる画期的な制度を導入している。入社月も4月、6月、10月、2月から自由に選択可能で、卒業後の時間を自分の希望に合わせて活用できる仕組みも特徴的だ。

株式会社ファーストリテイリング(ユニクロ)

株式会社ファーストリテイリングは、ユニクロやGUなどのグローバルアパレルブランドを展開している。同社の通年採用は、大学1年生から応募可能な「FRパスポート」を発行し、取得から3年間いつでも最終面接を受けられる仕組みを提供している。また、不採用でも年度が変われば再チャレンジができ、グローバル人材の早期発掘と長期的育成を見据えた間口の広い採用活動を実施している。

ソフトバンク株式会社

ソフトバンク株式会社は、移動通信サービスや携帯端末の販売、固定通信サービス、インターネット接続サービスなどを提供している。2015年から「ユニバーサル採用」という通年採用を導入しており、いつでも必要なときに、必要な人材を採用するという普遍的(ユニバーサル)な採用を目指す。新卒採用は4月と10月、キャリア採用は随時入社時期を設けて、2軸で多くの採用につなげている。

ソニー株式会社

ソニー株式会社は、ゲームやネットワークサービス・音楽やエンタテインメント、金融など幅広い事業を展開している。通年で複数職種の求人を募集しており、既卒3年までであれば「新卒」として採用枠を用意している。キャリア採用も随時募集しており、ジョブマッチングを開催するなど新卒・中途問わず企業の魅力をアピールする仕立てに長けている。

Zホールディングス株式会社

Zホールディングス株式会社は、「Yahoo!JAPAN」を運営しているソフトバンクグループの連結子会社。2016年10月から新卒一括採用を廃止しており、留学生や博士号取得者といった貴重な経験を積んだ学生を逃さないよう30歳以下であれば経歴問わず応募可能な「ポテンシャル採用」で通年採用を行っている。

楽天グループ株式会社

楽天グループ株式会社は、インターネットサービス・金融・モバイルなど生活のインフラサービスを中心に展開している。2015年から開発職において通年採用を開始しており、新卒・中途問わず随時募集を行っている。特に、インターネットサービスを支えるエンジニア募集を強化しており、海外からも優秀な人材を集めるために時期を限定しない採用活動を行っている。

パナソニック株式会社

パナソニック株式会社は、日本が誇る世界的な電機メーカーの1つ。2021年から通年採用を本格化させており、6月・7月以降であっても応募・選考を受け付けている。研究で多忙な理系学生は、就職活動に十分な時間を割けないケースがあり、そうした優秀な学生からの応募を集めるためにも、通年採用の取り組みを続けている。

株式会社良品計画

株式会社良品計画は「無印良品」を展開している製造小売業の企業。2021年から通年採用を導入しており、常時エントリー・選考受付を行っている。学生向けの定時入社コースと、既卒者随時入社コースの2つが設定されていて、入社時期を縛らない採用活動として注目されている。エントリーから最短で1カ月後に入社することもでき、スピード感のある採用フローが特徴。

通年採用で優秀な人材を獲得する

通年採用を取り入れている企業は、まだまだ大手企業・外資系企業が多い状態である。しかし、優秀な人材を獲得する手法として通年採用は積極的に取り入れていきたい採用手法といえる。採用担当者の負担増加などの課題はあるものの、優秀な人材の確保と定着に向けて、通年採用は今後さらに広がりを見せると予想される。

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