
2025年3月
執行役員 マーケティング本部長 大仲均
拡大する研修市場
筆者は、これまで講師として公的機関や大学、民間企業などから多くの研修業務を受託してきた。
受講者は次代を担う経営後継者、中小企業診断士等のコンサルタント、金融機関を含む民間企業の社員等様々である。
研修後に独立して事業を立ち上げた受講者もいれば、長期の研修期間中に自社の経営が立ち行かなくなった受講者もいた。
様々な立場の受講者がおり、教える側も多くの刺激を受けてきた。
矢野経済研究所に籍を置いていると、上記のような既成の研修メニューの講師を依頼されるだけではなく、企業からの、カスタマイズ型の研修に関する引き合いも多い。
弊社発刊「2024 企業向け研修サービス市場の実態と展望」によれば、企業向け研修サービス市場規模※は拡大を続けている。
新型コロナウイルス感染症法上の位置づけが5類へ移行し、回復基調にあったクラスルーム形式での集合研修の需要取り込みが加速。加えて、コロナ禍において集合研修の代替サービスとなってきたオンライン研修も、これまで研修サービスの導入経験の無い企業の潜在需要を顕在化させた。
また、新人研修をはじめ、若手・中堅社員や次世代リーダー層、中間管理職、経営幹部候補者を対象とした階層別研修も概ね好調に推移している。
2023年3月期決算より開示が義務化された人的資本経営に対応した社員育成の機運も高まり、この傾向に呼応する形で、重要ポジションの後継者育成を目的とするサクセッション・プランの市場も拡大している。
企業向け研修サービス市場規模推移・予測

注1:事業者売上高ベース
注2:2024年度予測値
矢野経済研究所調べ
※(株)矢野経済研究所「企業向け研修サービス市場に関する調査を実施(2024年)」
2024年8月7日発表
強く求められるカスタマイズ化
市場全体では上記の状況ではあるが、コロナ禍を契機として事業の再構築を目指す企業が増加して以降、弊社に来る研修関連の引き合いの傾向に変化が生じている。
これまでは「マーケティング研修を行って欲しい」というような、業種や規模を問わずどの企業にも汎用的に活用できるような研修が多かった。
しかし最近では、「自社の経営戦略やマーケティング戦略を自力で構築できるような具体的なスキルを身に付けたい」「研修の成果として自社の事業戦略構築までを形にして欲しい」という相談が増えている。
つまり、単にレクチャーや事例演習で知識を身に付けさせるのではなく、研修を施す側が、顧客企業の属する業界の知識や、顧客の内部環境をしっかり把握したうえで、クライアントの実際の事業に即した具体的な成果が求められているのである。
研修を実施する際、カスタマイズ化が重要であることは既知のことではあるが、弊社への問合せを見る限り、明らかにこの傾向は強くなっている。
ちなみに弊社は、マーケティング資料の発刊や、調査・コンサルティング業務をコア事業としており、研修専門の事業者ではない。
よって、この変化は業界全体の動向を捉えた傾向とは言い切れないものの、興味深い。
どの業界とも競合しない研修の形とは?
ビジネス系に限ってみると、研修内容は階層別、業務分野別、経営課題別等のセグメントに分類することができる。
そのいずれもメリット、デメリットはあるものの、学んだ内容が抽象的過ぎる、スキルを実務で活かすことができない、というのは問題点としてよく聞かれる声である。
そこで、先述の傾向も鑑み弊社が注力しているのが、「研修の成果を具体的な経営課題の解決に繋げるものとする」ではなく、発想を切り替え「経営課題の解決を、一方通行の調査・コンサルティングではなく研修形式で行う」という取組みである。
こうなると、そもそも取り組んでいる内容が「研修」という枠を超えるものとなっている。
この取り組みを「研修」を土台として捉えた場合、事業者側としては内容の「再現性」「パッケージ化」という観点から効率化を妨げることに繋がる。
ただし、これを「ハンズオン型の企業支援の取組み」の一つとみなし内容を詰めて行けば、弊社の強みを活かした付加価値型のコンサルティング業務となる。
この発想をもとに、研修業界とも他の調査・コンサルティング業界のとも異なる、クライアントの戦略課題解決手法を構築中である。