イマドキ部下のトリセツ
(画像=ShotPrime Studio/Shutterstock.com)

(本記事は、麻野 進氏の著書『イマドキ部下のトリセツ』ぱる出版の中から一部を抜粋・編集しています)

理想の上司像はウッチャン!親しみやすく面倒見のいい人が求められる

浅野達也が課長になって1年経った営業三課の業績は順調に推移しています。

新人だった山本翔も仕事を覚えて毎日走りまわっていますし、マイペースの渡辺直樹は相変わらず。

中西愛も順調に契約数を伸ばしています。松本健一もよたよたながら最低限の数字はあげていますし、いちばん不安視していた再雇用組の佐藤さんも、将来がヤバイと思ったのか、文句も言わず仕事に取り組んでいます。

契約社員の佐々木さんは数字には表れませんが、事務を一手に引き受けて課の安定に寄与しています。

課の業績は順調、雰囲気もまずまず、でも浅野課長の中にはどことなく不満足なものがわき起こってきます。

――この成績に満足していていいのか

――もっと上を狙えるんじゃないのか

――自分は上司としての指導力が不足しているのではないだろうか

考えはじめると、そればかりを思い詰めるようになってしまいました。

毎年、明治安田生命は、「理想の上司はだれがいいか」というアンケートを取っています。それによると、今年は3年連続でお笑いコンビ、ウッチャンナンチャンの内村光良が1位でした。

ウッチャンが1位になった理由は、いつもにこにこ優しく笑っていること、MCなどを仕切る能力が高いこと、親しみやすく謙虚で、後輩芸人の面倒見もよさそうだということのようです。その他はタモリや明石家さんまが常にベストテンにランクインし、今年は博多大吉、バナナマンの設楽統といったバラエティの顔が選ばれています。

10年前は古田敦也、星野仙一、王貞治などいかにもマネジメントをしていそうなプロ野球監督が上位を占めていました。つまり浅野課長が新人の頃の理想の上司像とはかなり違った結果となっているのです。

一方、女性上司部門では、こちらも日本テレビの看板アナの水卜麻美アナウンサーが3連覇を達成し、ウッチャンとともに絶対王者としての地位を築いています。その他、深田恭子(4位)、石田ゆり子(7位)といったどちらかというと癒し系の女性が選ばれていますが、天海祐希(2位)、吉田沙保里(3位)、北川景子(6位)、米倉涼子(9位)といったリーダーシップのある頼れる姉御的なタイプも支持されており、二極化しています。

特に男性の場合、部下が考える上司像というものが典型的に見えてきます。第1章でのイマドキの若者が上司をどう見ているかともつながってきます。

まず、上司と部下の関係ではなく、素直に話ができる雰囲気を持っていること。すぐ感情的になったりしない大人の対応ができる点も大切です。

また、仕事を楽しくやれるというイメージも大事で、上司がいつも暗い顔をしていたら、時間がなかなか経たないものです。

仕切りがうまいことも大切な要素です。仕事を割り振る場合でも、部下の適性や能力、そして将来性を見極め、いちばん力を発揮できる業務に配置する。番組を回すMCの役割を期待されています。

しかも、それに加えて、仕事の空気を作り上げる力や、部下の仕事がうまくいかなければさりげなくフォローしてやるとか、怠慢していたらきちっと叱ってやるといった総合的な能力と同時に、リーダーとしてみんなを引っ張っていく統率力が求められます。なにより求められるのは、部下を守る気概でしょう。

その上司にもさらに上の上司がいるわけで、課長の上には部長、部長の上には役員がいて、上の上司が無理難題を吹きかけることがままあるわけです(下の立場からすると)。こうしたことは、組織の一員としていくらでもあることです。

その上司は無理難題とは思っていないでしょうが、押しつけられる現場は絶対に無理とわかっています。

そのとき、責任は俺が取る、とばかり敢然と上司に逆らうか、それとも唯々諾々と承知して、どこかに責任を転嫁するか、上司の対応を部下は逐一見ているわけです。

自分たちを守ってくれる上司なのか、切り捨ててしまう上司なのか、それが部下の信頼を大きく左右するのです。

ちなみに、20年前、1999年の理想の上司1位はプロ野球の野村克也監督。2位は北野武、3位が長嶋茂雄でした。

2010年は1位イチロー、2位が島田紳助、3位が原辰徳でした。

世代の違いが明らかに現れていますね。

バブル世代は勢いがあって自分たちを引っ張ってくれる人を望んでいました。統率力があって仕事熱心、自分たちは上司の背中を追っていけばいい、というリーダーが望まれていたのです。

バブル崩壊後のロスジェネ世代は能力があってしかもマイペースで自分の仕事に集中して結果を出すイチローがトップ。不安定な状況に置かれた彼等は、高い個の能力に憬れる傾向があるようです。

ゆとり・さとり世代の、ウッチャン、明石家さんまという顔ぶれは、どうせ同じ仕事をするなら、もっと楽しくやりたい、心地良い環境で仕事をしたい、という彼らの意識がうかがえます。

熱血で厳しい松岡修造も安定的にベストテンに入っています。この世代が「君はもっとできる」「できないことはない」などと多少強引でも、松岡語録で背中を押してくれることを期待しているところもあるようです。

――と、これはあくまでも部下が考える理想の上司像。

求める条件をすべて備えた完璧な上司なんてそうそういるわけがありません。

それに近づける努力は必要でしょうが、無理して理想像に近づける必要はありません。無理をすれば、自分が壊れてしまいかねない。要は長所を伸ばし、短所を縮めるようにすればいいのです。

30年前、いや20年、10年前までなら、管理職は自分のマネジメントスタイルを確立して、部下を統率・指導することで組織運営をしてきました。そして我々部下はそういう上司のスタイルに合わせながら自身の仕事力を磨き、いま人の上に立つ立場になっています。

しかし、これまで私たちが部下として経験してきた上司の言動は、どちらかというと参考にならない場合が多いのです。業務のマネジメント、人のマネジメントだけでなく、コンプライアンス、ハラスメント、多様化する雇用形態、メンタルヘルス、働き方改革と年々役割が増えていって大変です。

そして、自身のマネジメントスタイルの確立よりも、部下の状況・事情に合わせた柔軟なマネジメントが求められているのです。

イマドキ部下のトリセツ
麻野 進
組織・人事戦略コンサルタント。1963年大阪府生まれ。株式会社パルトネール代表取締役。あさの社会保険労務士事務所代表。大企業から中小・零細企業など企業規模、業種を問わず、組織・人材マネジメントに関するコンサルティングに従事。人事制度構築の実績は100社を超え、年間1000人を超える管理職に対し、組織マネジメント、セルフマネジメントの方法論を指導。「出世」「リストラ」「管理職」「中高年」「労働時間マネジメント」「働き方改革」を主なテーマとした執筆・講演活動を行っている。

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