相続税の税率は最低10%~最高55%まで様々です。ただ、遺産の金額にこの税率を直接乗じるわけではありません。この記事では、相続税の税率表を使った相続税の計算の仕方と、税率をできるだけ抑えて相続税を節税できるポイントについて、税理士が詳しく解説します。
1. 相続税の税率シュミレーション
相続財産額、法定相続人を入力するだけで、あなたの相続の税率が何%になるかがわかると同時に、相続税の総額の計算をすることができます。
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2. 相続税の税率と計算方法
相続税の税率は、遺産の金額に直接乗じるわけではありません。たとえば1億円の財産がある場合、税率表だけを見ると30%ですが、3,000万円もの相続税はかかりません。正しい計算手順を見ていきましょう。
2-1. 相続税の税率表
相続税の税率は遺産額が多ければ多いほど相続税負担が高くなる超過累進税率となっています。
◼︎(令和二年2月25日現在)
平成27年1月1日以降から変更はありません。
平成30年11月現在の相続税率はこちらです。
いつの税率表を使うかは「相続の開始の日」つまり「お亡くなりになった日」の時点で当てはめてください。
平成27年1月1日以後の相続税の税率表(速算表) |
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | – |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
◼︎平成26年以前の税率
平成26年12月31日以前にお亡くなりになられた方に適用される相続税率はこちらです。
平成26年12月31日以前の相続税の税率表(速算表) |
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | – |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
3億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円超 | 50% | 4,700万円 |
2-2. 税率表の使い方
相続税の税率は、遺産の金額に直接乗じるわけではありません。正しい計算手順を見ていきましょう。
相続税特有の税額計算の仕組み
【1】課税遺産総額の計算
※基礎控除額=3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
【2】法定相続分に応ずる取得金額の計算
【3】相続税額の計算
税率を当てはめる前に、基礎控除を計算し、法定相続人の取り分を計算する必要があることが分かります。
その金額を当てはめて、該当する税率を使用するのです。
また税率を乗じた後に「控除額」を使用することになります。
2-3. 相続税の計算事例
計算方法を見るだけで理解するのは難しいので、事例にあてはめて相続人全員の税額を一度計算してみましょう。
◼︎相続財産の確認と遺産の総額を計算する
相続税の計算をするためには、まず相続の対象となる財産とその評価額を確定しなければいけません。
相続の対象となる主な財産として、土地や建物などの不動産・株式・預貯金・現金があります。
このうち不動産・株式は取得時から価値が変動する財産であるため、評価額を確定することは簡単ではありません。
不動産については、土地は路線価方式または倍率方式という方法により、建物は固定資産評価税評価額により、それぞれ計算することとされています。
さきほどの事例に書いたとおり、以下の財産があったものとします。
現金 | 1,000万円 |
預貯金 | 2,000万円 |
株式 | 2,000万円 |
不動産 | 3,000万円 |
遺産の総額 | 8,000万円 |
不動産以外は、亡くなった日時点の残高で集計します。
◼︎法定相続人の確定
家族構成はさきほどの事例のとおり、
亡くなった男性、妻、子2人。
亡くなった男性の両親は2人ともご健在で、妹が1人。
この場合は妻が健在ですので「配偶者がいる場合、配偶者は常に法定相続人になる」というルールに従って、妻がまず1人目の法定相続人となります。
次に、第一順位の法定相続人を見るわけですが、子2人が健在ですので、この子2人が法定相続人となります。法定相続人は妻と子2人の合計3人で確定します。
第二順位の父母、第三順位の妹は法定相続人とはなりません。
◼︎基礎控除額の計算
法定相続人が3人と確定したので、計算式に当てはめて基礎控除額を計算します。
基礎控除の額=3000万円+法定相続人の人数×600万円
3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円 |
遺産の総額は8000万円でしたので、今回の基礎控除の額4800万円を超えるため相続税がかかってきます。
遺産の金額>基礎控除⇒相続税がかかる
※基礎控除を超えても相続税の特例の適用を受けることで相続税がかからない場合もあります。
もし、遺産の総額が基礎控除の額を下回っていれば相続税はかからないということになります。
遺産の金額>基礎控除⇒相続税がかからない
◼︎課税遺産総額を計算する
相続税は、基礎控除額を超えた部分だけにかかるものですので、その対象となる金額(課税遺産総額)を計算します。
8,000万円-4,800万円=3,200万円 |
◼︎法定相続分に応ずる取得金額を計算する
この課税遺産総額を、まずは相続人がそれぞれ法定相続分で取得したものとみなして相続税を計算し、それを足し合わせて総額を出します。その後、この相続税の総額を実際の相続取得分と同じ割合で配分すると、各相続人の相続税額が確定します。
それでは、法定相続分に応ずる取得金額を計算していきましょう。
ここで、本件家族構成を確認しますと、法定相続人は第一順位の配偶者と子ども2人(長男、次男)で、上記「法定相続の表」を見ると、「法定相続分」がそれぞれ1/2であることが分かります。
また、同じ法定相続順位の者が複数いる場合は、法定相続分をその人数分で割ることになります。
これらを元に各相続人の相続分を計算します。
◼︎それぞれにかかる税率
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | – |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
妻は15% 子2人は10% |
これが、それぞれにかかる相続税の税率です。
◼︎相続税の合計額
次に相続税の合計額を計算しましょう。
つまり、ここから相続税の合計は、350万円(=190万円+80万円+80万円)ということになります。
この350万円を使って、実際にそれぞれが納める相続税を計算します。
◼︎それぞれが納める相続税額
最後に、妻と長男、次男が実際に納める相続税額の計算をします。
先程計算しました相続税の合計額は、法定相続分を元に計算しましたが、実際の相続は法定相続分の通りに相続されるとは限りません。
相続の財産の分配は、遺言書や遺産分割協議書などにより自由に分けることが出来るようになっています。
そうすると、正確な相続税を確定するためには、実際に相続した相続割合を確認する必要があります。
例えば、配偶者・長男・次男がそれぞれ遺産分割により、3/5、1/5、1/5の割合で相続することになったとします。
この場合、この実際の相続分割合を相続税の合計額にかけて、正確な相続税を計算していきます。
この方法だと、法定相続分よりも実際の相続税額を算出することが出来る訳ですから、公平的ですね。
このページではこれ以上の説明は省きますが、この事例では、妻の210万円は配偶者控除により0円となり、子が70万円ずつ、合計140万円を実際に納付することになります。
3. 相続税の税率を抑える方法
相続税の税率をできるだけ低く抑える方法はあるのでしょうか?
答えは、あります。
税率を低く抑えるというよりは、相続財産を目減りさせる・相続財産の評価を下げる・税額控除を活用するなどたくさんの工夫をして、合法的に相続税を減らす方法はたくさんあります。
相続税対策には、大きく2つのタイミングがあり、生前にできる節税対策と死後でも間に合う節税対策があります。この記事では、「税率を抑える」という表現に沿って、死後の節税に絞ってお伝えしていきます。
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3-1. 税額控除を活用する
相続税の計算においては、税額控除といって特定の条件に当てはまる場合に相続税を減額できる制度が用意されています。注意しなければならないのは、「税額控除を使って相続税を減らし忘れたからといって、税務署はそれをわざわざ教えてくれない」ということです。つまり、自分に有利な制度は、自分で調べてきっちり使わなければなりません。
相続税の税額控除には次のものがあります。
・配偶者の税額軽減
・未成年者控除
・障害者控除
・贈与税額控除
・相次相続控除
・外国税額控除
簡単に言うと、相続人のうちに亡くなった人の配偶者や、未成年者、障害者がいた場合は相続税を大幅に減らせる可能性がありますので、しっかり検討しましょう。
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3-2. 不動産を上手に評価する
相続税を計算する上で「土地をいくらの金額にするか」という作業のことを「土地の評価」と言います。
相続税の土地の評価は考え方が非常に複雑で、相続税申告を自力で作成しようとお考えの方が諦める理由で一番多いのがこの「土地の評価がわからない」というものです。
土地の金銭的価値は簡単に計算できるものではありません。税法的に正しい金額がいくつもあるので、「有利な規定を使って節税しているか」という視点が重要です。
間口が狭い土地やいびつな形の土地、傾斜のある土地などは、評価を下げられる代表的なケースです。しっかりと節税目線で評価するべきです。
また、小規模宅地の特例といって土地の評価を最大80%も下げることができる最重要な制度についても深く調べておくべきです。
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3-3. 遺産の分割方法を工夫する
相続が発生すると、遺族の間でどの資産を引き継ぎかを決める遺産分割協議を行わなければいけません。この遺産分割協議の結果が記載された「遺産分割協議書」は税務署も必ず確認しますし、銀行通帳の名義変更をする場合などにも使用します。
同じ金額の財産であっても、「誰がどの遺産を引き継ぐか」「どのような状態で引き継ぐか」「次の相続を想定しているか」などで相続税の金額は大きく変わってきます。
その節税目線で重要な考え方は次の3つです。
・配偶者に財産をいくらまで渡すか? (配偶者の税額軽減を最大活用すること)
・同居親族に自宅を渡すかどうか? (小規模宅地の特例を最大活用すること)
・二次相続を考慮しているか? (相続税を夫婦2人のトータル金額で考えること)
これらについてじっくり検討できていない場合は専門家の活用もぜひ考慮にいれるべきでしょう。
4. まとめ
税率を知るだけなら、国税庁のホームページにすぐに記載されているのですが、ここで説明したように、相続税は、税率を当てはめるまで・当てはめた後の計算も非常に複雑です。
安易に税率だけを見てしまうと、相続税を間違って計算してしまう可能性がありますので、前後の計算もくわしく説明させて頂きました。
相続税の改正が行われて、今後は多くの方が相続対策を余儀なくされることになります。
そのためには、相続税に関する知識をつけて相続に対する関心を持つことが大切です。
ご自身で考えて難しければ、相続の専門家に依頼することも有効です。
このページで説明を割愛した税額控除制度や、財産評価の減額の方法など、経験豊富だからこそから使える節税などの有利な提案がもらえるでしょう。
(提供:相続サポートセンター)