メタバースECとは?従来のECとの違いや構築方法について解説

メタバースECに興味はあるものの、何から始めるべきかわからない方もいるのではないでしょうか。参入が遅れることで、競合他社に顧客を奪われ、ビジネスチャンスを逃してしまうかもしれません。

本記事では、メタバースECの特徴やメリットなどを詳しく解説します。記事を読むことで、メタバースECの推進に必要な知識を身につけ、自社に適した戦略の立案に役立ちます。新しいECの形であるメタバースECへの第一歩として、ぜひ参考にしてください。

目次

  1. メタバースとは
  2. メタバースECとは
    1. 特徴
    2. 市場規模
  3. 従来のECとの違い
  4. メタバースECのメリット
    1. 新規顧客の獲得が期待できる
    2. 高いコンバージョン率が見込める
    3. 新しい・リッチな購入体験を提供できる
  5. メタバースECを構築する方法
    1. メタバースECモールに出店する
    2. メタバースECサイト・アプリを開発する
  6. メタバースECの代表例
    1. BEAMS
    2. 三越伊勢丹
    3. フューチャーショップ
  7. 成功例から考えられるメタバースEC推進のポイント
    1. イベント参加による知名度の向上
    2. NFTを活用する
    3. イベントを開催する
  8. まとめ

メタバースとは

メタバースとは、インターネット上に構築された仮想空間のことを指します。メタバースでは、設計や目的に応じて様々な時間の概念が実装されており、現実世界と同期されているケースもあれば、独自の時間の流れを持っている場合もあります。

メタバース内では、ユーザーはアバターを通じて活動でき、ほかのユーザーとコミュニケーションを取ったり、仮想商品やサービスを売買したりすることが可能です。まるで現実の世界にいるかのような没入感を味わえるのが、メタバースの大きな特徴といえるでしょう。

MicrosoftやMeta(旧Facebook)など、大手IT企業が次々とメタバース事業に参入しています。各社は莫大な資金を投じて、新しい市場で世界基準となるサービスの開発を進めている状況です。

以上のように、メタバースは現実世界と同じように活動できる環境として、近年、急速に注目を集めています。

メタバースは今後、ビジネスのあり方に大きな影響を与える可能性を秘めた技術として、その動向から目が離せません。EC事業を展開する企業にとっても、メタバースへの対応は重要な課題となるでしょう。

メタバースECとは

メタバースEC(メタバースEコマース)とは、バーチャルな3D空間で展開される場合が多い電子商取引を指します。従来の2次元的なECサイトとは異なり、没入感のある新しいショッピング体験の提供が可能です。ここからは、特徴と市場規模について解説します。

特徴

メタバースECは、主に3Dグラフィックスを用いた仮想環境で展開されます。ユーザーは自分の分身となるアバターを操作して、商品を「手に取る」「実際に作ってみる」「産地を回ってみる」などの体験が楽しめます。例えば海産物を実際に海底まで見に行くなど、現実では難しい体験も可能です。

VRやAR技術の活用により、従来のECサイトよりも臨場感のあるショッピング体験を提供できるのが、メタバースECの大きな特徴です。ユーザーは、まるで実際の店舗で買い物をしているかのような感覚で、商品を吟味し、サービスによっては購入までワンストップで完了できます。

市場規模

現時点では、メタバースECに特化した市場規模の調査結果はありませんが、メタバース全体の市場規模は急速に拡大しています。

矢野経済研究所の発表によると、2022年度の国内メタバース市場規模(プラットフォーム、コンテンツ・インフラ等、XR機器の合算値)は、前年度比173.6%の1,377億円に達しました。2023年度は、同207.0%の2,851億円まで成長する見込みです。

メタバース市場の拡大に伴い、メタバースECの市場規模も今後、大きく成長していくことが予想されます。EC事業を展開する企業にとって、メタバースECへの対応は、競争力を維持するための重要な課題となるでしょう。

参考:株式会社矢野経済研究所|メタバースの国内市場動向調査を実施(2023年)

従来のECとの違い

メタバースECと従来のECには「次元」「コミュニケーション」「商品の検索方法」の3点で大きな違いがあります。それぞれの内容をまとめたものが下記の表です。

異なる内容 メタバースEC 従来のEC
次元 主に3Dの仮想空間で展開 2Dのウェブサイト
コミュニケーション アバターを介して店員やほかのユーザーとのリアルタイムな双方向的なコミュニケーションが可能 チャットやライブコマースなどの取り組みが進んでいるものの、まだ一方向的なコミュニケーションが主流
商品の検索方法 実際の店舗を歩くように、仮想空間内を移動しながら商品を探せる ハンバーガーメニューや検索窓からの検索が一般的

メタバースECは、3D空間ならではの没入感や双方向のコミュニケーション、直感的な商品検索など、従来のECにはない新しい価値を提供できます。ユーザーに対して、今までにない楽しく満足度の高いショッピング体験を届けられる施策といえるでしょう。

メタバースECのメリット

メタバースECには、企業にとって魅力的なメリットがあります。ここでは、具体的な3つのメリットについて解説します。

新規顧客の獲得が期待できる

モールのように店舗が立ち並ぶようなメタバース空間では、ほかの店舗のついでに立ち寄れる環境があるため、新規顧客の獲得が期待できます。

また、メタバースそのものの新規性やメタバース空間のデザイン性に惹かれて、新しく来訪する新規顧客も見込めるため、実店舗に近い形での集客が狙えます。

たとえば、セレクトショップのBEAMSは、メタバースECで40名を超える店舗スタッフがアバターを用いて接客した結果、メタバースEC上の売上が想定を超えただけでなく、実店舗への送客にも成功しました。(出典:世界最大のVRイベント『バーチャルマーケット2023 Winter』に 7度目となるBEAMSメタバース店が出現!|BEAMS

高いコンバージョン率が見込める

メタバースECは、アバターを使った接客により実店舗に近い形で商品説明ができるため、購入率が高まる傾向にあります。また、「実際の作業行程をバーチャルで体験する」「産地を回ってみる」などの体験で商品に愛着がわくことも、高いコンバージョン率につながっていると考えられます。

一般的なECのコンバージョン率は1〜3%程度です。しかし、明太子で有名な「ふくや」など4社がコラボレーションしたメタバースECでは、コンバージョン率30%と約10倍もの成果を生み出しました。(出典:メタバースを活用した「体験型オンライン店舗」共同開催トライアル実施報告 – ギグワークスアドバリュー株式会社

新しい・リッチな購入体験を提供できる

メタバースECでは、バーチャル空間で商品を「体験」しながら購入を決定することが可能です。ユーザーは自分のアバターを通じて商品を試着したり、実際に使用したような感覚を体験できたりするため、その商品が自分の生活にどのようにフィットするかを具体的にイメージできます。

また、商品のテーマに合わせた背景音楽やサウンドエフェクトなど、バーチャル空間ならではの演出により、商品の特性やブランドの世界観を引き立てることが可能となります。従来のECでは難しかった体験価値の提供といえるでしょう。

メタバースECを構築する方法

メタバースECを構築する主な方法には、既存のメタバースECモールに出店する方法と、独自のメタバースECサイト・アプリを開発する方法の2つがあります。それぞれのメリットとデメリットを比較し、自社にとってどちらが適しているか検討してみてください。

メタバースECモールに出店する

既存のメタバースECモールにテナントとして出店する方法は、初期費用を抑えられる点が大きなメリットです。出店費用はモールにより異なりますが、数十万円から数百万円程度と開発するよりは安価と言えます。また、プラットフォームの既存ユーザーにアプローチできるのも魅力の一つです。

一方、デメリットとしては、カスタマイズ性に制限がある点が挙げられます。プラットフォーム側の規約に縛られるため、メタバースならではの自社ブランドイメージに合わせた、自由な設計ができない可能性があります。出店を検討する際は、自由度についての確認が必要です。

メタバースECサイト・アプリを開発する

独自のメタバースECシステムを1から開発する方法は、自由度の高いカスタマイズが可能である点が大きなメリットです。ブランドの世界観を存分に表現できるほか、独自の機能を実装することもできます。

デメリットとしては、高額な初期費用がかかる点が挙げられます。開発費用は数千万円規模になることもあり、予算確保を含めた準備が欠かせません。また、従来の自社ECサイトを構築する場合と同様、集客に努力が必要となるため、マーケティング面での負担も大きくなります。

これからメタバースECを構築する際は、自社の目的や予算、タイムフレームなどを総合的に考慮し、適切な方法を選択しましょう。

メタバースECの代表例

メタバースECの先進事例を知ることで、可能性や価値の理解に役立ちます。ここでは、代表例として3社の取り組みを紹介します。

BEAMS

BEAMSは、株式会社HIKKYが主催するVRイベント「バーチャルマーケット」に5度出店しています。2022年の出店時には、BEAMS HARAJUKU店内にバーチャル接客拠点を設け、約40名の社員が交代でメタバース店を接客しました。

実際の商品をアバター用3D衣装としてメタバースショップ内に置き、陳列された商品をクリックするとアバターが簡単に試着できる仕組みも導入した事例です。

また、2023年には「バーチャル・ファッション・コレクション・ボヤージュ 2023ウィンター」に協賛し、バーチャルネイティブブランドとの共作で2衣装を初披露するなど、先進的な取り組みがなされています。

(出典:世界最大のVRイベント『バーチャルマーケット2023 Winter』に 7度目となるBEAMSメタバース店が出現!|BEAMS

三越伊勢丹

三越伊勢丹は、スマートフォン向け仮想都市空間サービス「REV WORLDS」を開発し、仮想伊勢丹新宿本店を運営しています。メタバースの世界で新宿駅東口の街並みを再現し、デパート内のフロア構成も実際の店舗と同様の設計でショッピングが可能です。

商品に近づくと情報がポップアップで表示され、タップすると伊勢丹オンラインショップに遷移する仕組みを導入しています。メタバースECと従来のECを連携させ、シームレスな購買体験を提供している事例です。

(出典:メタバースアプリ 「REV WORLDS」仮想伊勢丹新宿店が出店 | 三越伊勢丹オンラインストア・通販【公式】

フューチャーショップ

2023年にサービスリリース20周年を迎えたフューチャーショップは、その記念としてVRChat上にメタバースワールド「FUTURE 20th SQUARE」をオープンしました。その名のとおり、未来の買い物の姿として「メタバース上で買い物できる未来」を表現しています。

メインは未来のショッピングの姿を体験できる「体験型バーチャルポップアップ」です。全部で6店舗が並び、それぞれ異なるギミックを用意しています。たとえば、伊藤久右衛門のブースでは、人気メニューのパフェバー作り体験、北釧水産ではかにしゃぶを食べるなどの体験ができます。

具体的にどのような世界なのかは、以下のYouTubeと専用ページより閲覧が可能です。

YouTubeリンク:https://www.youtube.com/watch?v=MpWL3S_byNU&t=77s

専用ページリンク:https://www.future-shop.jp/anniversary/future20thsquare/

成功例から考えられるメタバースEC推進のポイント

メタバースECの成功事例を分析すると、いくつか共通するポイントが浮かび上がってきます。ここでは、メタバースECを推進する3点について解説します。

イベント参加による知名度の向上

大規模メタバースイベントへの参加は、自社のメタバースECの知名度向上と新規顧客獲得に効果的です。多様な業種の企業が出展するイベントでは、普段は接点の少ない企業とのコラボレーションが可能になります。

また、幅広い顧客層との交流を通じて、自社メタバースECの認知度を高め、新たなマーケットを開拓できるでしょう。

たとえば、BEAMSが参加した「バーチャルマーケット」は、2018年から開催されている世界最大のVRイベントです。2022年12月の「バーチャルマーケット2022 Winter」では、過去最高の100万人以上が来場し、ギネス世界記録™にも認定されました。本イベントには、企業や省庁など100社以上の企業が出展しています。

このような大規模メタバースイベントへの出展は、自社メタバースECのプロモーション効果を高め、新規顧客の獲得につなげられます。さらに、イベントを通じた企業間のネットワーキングにより、今後のメタバースビジネスの展開にも好影響を与えるでしょう。

NFTを活用する

NFTを活用した独自の商品・サービスの提供により、メタバースECにおける差別化と収益機会の創出が可能です。NFTとは、デジタルアイテムに希少性や所有権などの特性を付与する技術のことです。この特性を活かし、高い価値をもつ商品を提供することで、ユーザーの購買意欲を喚起し、新たな収益機会を生み出せます。

たとえば、NIKEが販売したNFTアイテム「Skin Vials」は、ユーザーが好きなデザインにカスタマイズできるのが特徴です。発売から5か月後には約14億円もの取引額を記録し、大きな経済的価値を生み出しました。NFTの特性を活かした革新的な商品が、ユーザーに高く評価され、大きな需要を生んだ好例といえます。

イベントを開催する

メタバースECを推進するうえで、イベントの開催は重要な戦略の1つです。ただし、メタバースありきではなく、従来の方法ではリーチできない新規顧客層への接点や、新しいビジネスモデル構築の可能性を探ることが考え方の基本です。

たとえば、futureshopのメタバースワールド「FUTURE 20th SQUARE」では、オープン記念配信やフォトコンテストを実施し、継続的にメタバース空間に通っていただけるよう取り組んでいます。また、テレビ通販のQVCは「メタバースQVCお買い物PLAZA」というショッピングモールを作り、ラグビー選手のファンイベントや先行販売イベントを開催しました。

こうしたイベントを通じて、ブランドの認知度向上や、新規顧客の獲得、既存顧客とのエンゲージメント強化を図れます。

まとめ

メタバースECは、独自の世界観演出や双方向のコミュニケーション、直感的な商品検索など、従来のECにはない新しい価値を提供できる事業です。

以下のようなメリットがあり、企業にとって大きな可能性を秘めています。

・新規顧客の獲得
・高いコンバージョン率
・リッチな購入体験の提供

メタバースECへの関心が高まるなか、まずは気軽に参加できるメタバースECモール出店の検討から始めてみてはいかがでしょうか。