2015年(平成27年)1月から相続税法が改正されました。
改正点の大きな特徴は「基礎控除額」の引き下げです。
この改正といわゆる「終活ブーム」で、相続に大きな関心が集まるようになりました。
ここでは、相続税法の改正前と後を比較してご説明いたします。
1. 相続税法の改正点とは?
2015年(平成27年)1月に改正された相続税法の特徴は、次の4点です。
1-1. 基礎控除額の引き下げ
まず、遺産に係る「基礎控除額」の引き下げです。
改正前は、「5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)」だったのが、改正後は、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」となりました。
なお、この「基礎控除額」については、次の項目から詳しくご説明いたします。
1-2. 税率構造の変更
2つ目は、「税率構造」の変更です。
改正前の税率は、以下のとおりです。
なお、左の金額は、各法定相続人の取得金額、右が税率です。
【改正前】
・1,000万円以下 … 10%
・1,000万円超~3,000万円 … 15%
・3,000万円超~5,000万円 … 20%
・5,000万円超~1憶円 … 30%
・1憶円超 ~3億円 … 40%
・3憶円超 … 50%
改正後の税率は、以下のとおりです。
なお、左の金額は、各法定相続人の取得金額、右が税率です。
【改正後】
・1,000万円以下 … 10%
・1,000万円超~3,000万円 … 15%
・3,000万円超~5,000万円 … 20%
・5,000万円超~1憶円 … 30%
・1憶円超 ~2億円 … 40%
・2憶円超 ~3億円 … 45%
・3憶円超 ~6憶円 … 50%
・6憶円超 … 55%
1-3. 税額控除の改正
3つ目は、「税額控除」の改正です。
未成年者控除の控除額が、20歳の1年につき「6万円」が、同じく20歳の1年につき「10万円」に引き上げられました。
また、障害者控除の控除額は、85歳までの1年につき「6万円(特別障害者12万円)」が、同じく85歳までの1年につき「10万円(特別障害者20万円)」に引き上げられました。
1-4. 小規模住宅等の特例の改正
4つ目は、「小規模住宅等の特例」の改正です。
「小規模住宅等の特例」とは、被相続人または被相続人と生計を同じにしていた被相続人の親族の事業の用または居住の用に供された住宅等がある場合、一定の要件の下に遺産である宅地等のうち限度面積までの部分について、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額する制度です。
居住用の宅地等(特別居住用宅地等)の限度額が、改正前は「限度面積」が240㎡(減額割合80%)だったのが、改正後は「限度面積」が330㎡(減額割合80%)に拡大されました。
また、居住用と事業用の宅地等を選択する場合の適用面積が、改正前は「特定居住用宅地等240㎡」、「特定事業用等宅地等400㎡」で「合計400㎡」だったのが、改正後は「特定居住用宅地等330㎡」、「特定事業用等宅地等400㎡」で「合計730㎡」に拡大されました。
2. 改正前の基礎控除額とは?
2015年(平成27年)に相続税法が改正される前の「基礎控除額」は、「5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)」でした。
例えば、夫が家や土地などの不動産(地価4,000万円)、預貯金3,000万円を遺して亡くなったとします。
法定相続人は、妻と子ども2人(長男、次男)の3人だとします。
この場合、改正前の「基礎控除額」は、「5,000+1,000×3=8,000(万円)」となります。
つまり、8,000万円までは相続税がかからないことになりますから、この家族には、相続税が課税されません。
このような点から、改正前の「相続税」と言えば、一般庶民には無縁で、お金持ちだけにかかる税金だというイメージだったのです。
3. 改正後の基礎控除額とは?
2015年(平成27年)に相続税法が改正されて、「基礎控除額」は、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」になりました。
例えば、夫が家や土地などの不動産(地価4,000万円)、預貯金3,000万円を残して亡くなったとします。
法定相続人は、妻と子ども2人(長男、次男)の3人です。
この場合、改正後の「基礎控除額」は、「3,000+600×3=4,800(万円)」となります。
つまり、4,800万円までは相続税がかからないことになりますが、先程の家族の相続財産は7,000円ですから、この家族には「7,000-4,800=2,200(万円)」に相続税が課税されることになります。
このように、「基礎控除額」が改正される前には「相続税」とは無縁だった家族でも、改正後には相続税を納めることになるのです。
4. 改正の目的は?
今回の相続税法の改正には、3つの目的があります。
まず1つは、相続税による税収を増やすためです。
財務省の統計によると、1年間に死亡した人のうち相続税を納めた人の割合のピークは1987年(昭和62年)で、7.9%でした。
亡くなった人の約13人に人が相続税を納めたことになります。
しかし、その後は徐々にその数字が減少していき、2011年(平成23年)には4.1%となり、亡くなった人の約25人に1人しか、相続税を納めなかったことになります。
また、相続税の総額についても、1993年(平成5年)の2兆9,377億円をピークに年々減少して、2014年(平成26年)には1兆5,450億円となり、ピーク時のおよそ半分になりました。
つまり、この20~30年で、相続税を納める人、納める額がおよそ半分になったのです。
少子高齢化社会ですから、税収の減少は国民の生活にも多く影響することになります。
そこで、「基礎控除額」を引き下げるために、相続税法を改正したのです。
2つ目は、地価の下落に対応するためです。
日本の地価、つまり土地の値段は、1991年(平成3年)のバブル経済時をピークに、急速に下落しています。
その後10年間で、およそ地価が半分以下となりました。
地価が下落するということは、それだけ相続税を納める世帯も税額も減少することを表します。
そこで、相続税の安定した税収を確保するために、相続税法を改正する必要が出てきたのです。
3つ目は、社会保障費の確保のためです。
現在日本は、世界有数の超高齢化社会へと突入しています。
また、労働人口が減少していることで、所得税などの税収も頭打ちの状態です。
そこで、今後死亡する人が増えてくることを見込んで、相続税法を改正し、相続税を確保する必要があるのです。
5. 相続税の対象とは?
相続税の対象となる人は、民法で「相続人」になると規定されている人です。
このような人を「法定相続人」と言います。
例えば、亡くなった人(被相続人)の夫や妻(配偶者)や子どもは法定相続人になります。
また、子どもが亡くなっていても、その子ども、つまり亡くなった人の孫がいれば、その人の「法定相続人」になります。
このような相続を代襲相続と言います。
このように、被相続人の家族関係をたどっていけば、自ずと法定相続人が決まってきます。
そこで、相続を始めるに当たり、被相続人の出生から亡くなるまでの「連続した戸籍謄本」を取り寄せる必要があります。
また、相続税の対象となる財産には、現金、預貯金、有価証券(株式など)、家や土地などの不動産、骨とう品や車などの動産があります。
一言で、相続財産と言っても、それぞれに評価方法があり、その評価によっては、相続財産の総額が変わってきますから、それぞれに正しく価格を算出する必要があります。
一般的に、不動産の相続の方が、現金、預貯金の相続よりも、評価額次第で、相続税の負担が減少します。
通常、不動産の評価額は、売却価格ではなく、固定資産税評価額や路線価で行うため、相続対策の際には、十分注意しましょう。
6. 相続税納税の手続きとは?
ここでは、実際の相続税の計算について、改正前と改正後に分けてご紹介します。
夫が、預貯金4,000万円、土地5,000万円、建物3,000万円、合計1億2,000万円を残して亡くなり、法定相続人は、妻(配偶者)子ども2人(長男、長女)の3人だとします。
最初に、改正前の「基礎控除額」で相続税を計算します。
まず、相続税の基礎控除額は、「5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)」ですから、「「5,000+(1,000×3)=8,000(万円)」となります。
基礎控除後の課税価格は、「12,000-8,000=4,000(万円)」です。
次に、相続人の取得分を「法定相続分」に従って、算定します。
・妻…4,000万円×1/2=2,000万円
・長男…4,000万円×1/4=1,000万円
・長女…4,000万円×1/4=1,000万円
次に、法定相続人のそれぞれの相続税を計算し、合計します。
・妻…2,000万円×15%=300万円
・長男…1,000万円×10%=100万円
・長女…1,000万円×10%=100万円
・300+100+100=500(万円)
それぞれの相続人の納付額は、次のようになります。
・妻…500万円×1/2=250万円
・長男…500万円×1/4=125万円
・長女…500万円×1/4=125万円
この家族が納めるべき相続税ですが、配偶者控除により、妻の相続税は0円になりますから、「125×2=250(万円)」になります。
次に、改正後の「基礎控除額」で相続税を計算します。
まず、相続税の基礎控除額は、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」ですから、「3,000+(600×3)=4,800(万円)」となります。
基礎控除後の課税価格は、「12,000-4,800=7,200(万円)」です。
次に、相続人の取得分を「法定相続分」に従い算定します。
・妻…7,200万円×1/2=3,600万円
・長男…7,200万円×1/4=1,800万円
・長女…7,200万円×1/4=1,800万円
次に、法定相続人のそれぞれの相続税を計算し、合計します。
・妻…3,600万円×20%=720万円
・長男…1,800万円×15%=270万円
・長女…1,800万円×15%=270万円
・720+270+270=1,260(万円)
それぞれの相続人の納付額は、次のようになります。
・妻…1,260万円×1/2=630万円
・長男…1,260万円×1/4=315万円
・長女…1,260万円×1/4=315万円
この家族が納めるべき相続税ですが、配偶者控除により、妻の相続税は0円になりますから、「315×2=630(万円)」になります。
先程計算した改正前の相続税が250(万円)でしたから、相続税法の改正によって、この家族は2倍以上の相続税を納めるようになります。
7. 有効な節税対策とは?
ここでは、有効な節税対策をご紹介します。
7-1. 生命保険の非課税枠
まず、生命保険の「非課税枠」を利用する方法です。
被相続人の死亡時に、保険金を受け取ると、それが「みなし相続財産」とみなされ、相続税が課税されることになります。
しかし、このときの生命保険には、次の式に表される「非課税枠」があるのです。
「非課税枠」=500万円×法定相続人の数
例えば、相続人が妻と子ども2人の合計3人の場合で、夫の死亡保険金を子どものどちらかが受け取るとき、「500×3=1,500(万円)」までは、相続税は課税されないことになります。
また、生命保険は、手続きをすれば、1週間程度で受け取ることができますから、葬儀の費用、相続税の納付などに充てることができます。
また、残された家族の生活費にも充てることができます。
7-2. 生前贈与
次に、有効な節税対策は、「生前贈与」です。
例えば、子どもや孫の合計5人に、毎年110万円ずつ3年間贈与すれば、「110×5×3=1,650(万円)」を相続財産から減らすことができます。
年間110万円を超えた金額を贈与税が課税されますので、1人1年間110万円までを贈与することになります。
ただ、この贈与で気を付けるべきことがいくつかあります。
まず、親から子ども、祖父母から孫への贈与であっても、「贈与契約書」を作成しておくことです。
税務署が贈与であると判断する基準は、贈与者と受贈者が、明確に「贈与した」、「贈与を受けた」という意識を持っていたかどうかです。
このことを証明するためには、お互いに意思を示す「契約書」が必要になります。
もちろん、贈与契約は口頭でも成立しますが、ただ税務署に指摘された際に、「契約書」があった方が、容易に説明することができます。
贈与の方法も、銀行から銀行への口座振り込みによって行い、「贈与契約書」に基づいて、お金の移動がわかるようにしておきます。
また、贈与を受ける人は、自分で通帳や印鑑を所有、管理して、贈与者とは違う印鑑を使用し、もし贈与税を納める場合には、受贈者が自分で行っておく必要があります。
つまり、受贈者が、贈与者からお金が贈与されているといった外形的なことが必要です。
7-3. 配偶者控除
3つ目は、「配偶者控除」を上手に利用する方法です。
「おしどり贈与」とも呼ばれる方法ですが、これは、結婚して20年以上経った夫婦間で、自宅やその購入資金の贈与があったときに、最高2,000万円まで、「配偶者控除」が認められる制度です。
贈与税の基礎控除額が110万円ですから、合計して2,110万円までは贈与税がかからないことになります。
贈与は、夫から妻、妻から夫のどちらでも構いません。
居住用不動産そのものでも、居住用不動産を購入するための資金でも、構いません。
ただ、この「おしどり贈与」は、結婚20年以上の夫婦なら誰でも認められるわけではありません。
要件は、次のとおりです。
・婚姻期間が20年以上あること。
・夫婦の居住用不動産の贈与、または居住用不動産を取得するための金銭を贈与すること。
・贈与の年の3月15日までに夫婦が住居し、さらに引き続き居住する見込みであること。
・土地または借地権のみの贈与の場合、家屋の所有者が配偶者、または同居している親族であること。
・無税でも贈与税の申告を行うこと。
・同一の配偶者から一生に一度だけ受けること。
7-4. 小規模住宅等の特例
4つ目は、「小規模住宅等の特例」を利用することです。
被相続人の自宅、店舗・事務所など事業用に使っていた宅地は、残された家族の生活基盤となる財産です。
この宅地の価額について、一定の面積までを80%引き、または50%引きで評価するというのが、この「小規模住宅等の特例」です。
この特例を利用することで、課税価格がかなり低くなりますから、大きな節税効果が期待できます。
特例の対象となるのは、居住用宅地と事業用宅地です。
どちらも、被相続人、あるいは被相続人と生計が同じだった親族が、居住用または事業用として、使用していたものが対象となります。
また、この特例を受けられる人は、宅地を相続や遺贈によって取得した人になります。
まとめ
相続税法の改正により、相続税の対象となる家族が増えました。
ただ、有効な節税対策も多くありますから、自分たちに合った方法を検討する必要があります。
(提供:相続サポートセンター)