今回はPR事業やSaaS事業などを展開するrayout株式会社の代表取締役 吉田 壮汰さんにインタビューさせていただきました。
ー本日はよろしくお願いします!まず、はじめに吉田さんのご経歴について教えてください
名古屋で大学を卒業後、東京の出版社に入社し、広告営業やインタビューのライティングなどを経験しました。仕事柄、ベンチャー企業を取材する機会が多く、そのつながりで動画制作のクラウドソーシングを行う会社に転職しました。
事業自体が立ち上げのタイミングで、その事業の役員として2年ほど働かせていただきました。
その後、26歳の時にrayoutを起業し、今に至ります。
元々自身の父親が起業していたこともあり、ずっと会社員であるイメージはなく起業には迷いがなかったです。
ー前職での経験や出会いが起業のきっかけに繋がっていたのですね。改めて、事業内容やサービスの特徴を教えてください。
事業内容としては、企業のブランド課題をPR領域で解決するコミュニケーションデザイン事業と、制作のワークフローを最適化するツール「MiLKBOX」の開発、運営を行っています。
「MiLKBOX」は、広告代理店や制作会社などをはじめ制作におけるフローの生産性を向上させることを目的としたコミュニケーションツールです。
現在でも、制作のワークフローは、旧態依然としていると思います。例えば、動画制作時にプロデューサーやディレクター、クリエイター間の連携はツールを活用することで効率化できますが、お客さんが介在する場合、ニュアンスの共有が難しくなります。その結果、クリエイターエコノミーが育たないという課題感があったのですよね。
この課題を解決するために、さまざまなコラボレーションツールやニュアンス共有ツールが存在しますが、どれもクリエイターサイドにマッチした仕様になっていて、ビジネスサイドが使いやすく、製品主導型成長(PLG)を強化するツールは少ないのが現状でした。
この問題を解決するため、ビジネスサイドのデジタルトランスフォーメーション(DX)を意識したツール、「MiLKBOX」を開発しました。
ビジネスサイドでも難しい操作なくコミュニケーションを効率化できることが特徴です。
例えば、これまで修正指示を行う場合、スクリーンショットを並べて資料にしたり、テキストベースで説明したりするアナログな方法が主流でしたが、「MiLKBOX」では動画に直接修正点を書き込むだけで指示ができ、修正前後の見比べ機能もあるので、従来と比べてかなりスムーズに進行を進めることが出来ます。
元々、プロデューサーやディレクターが社内にいる状態だったので、社員の生産性を向上させることができるツールであれば、ある程度戦えるのではという前提で始めました。現状の課題をすべて盛り込むのは多機能すぎるので、機能を削ぎ落とす作業が必要で、そこが大変でしたね。また、顧客のインサイトを見出すことや、新しいワークフローを世の中に啓蒙していく作業にも時間を要し、概念実証に2年ほどかかりました。
ー我々も取材~記事執筆にいたるまで実際にそういったやり取りは難しいと感じていた部分だったので、すぐにでも導入してみたいです(笑) 元々自社でプロダクトを作ろうと思っての起業だったのでしょうか?
生成AIなどのテクノロジーがものすごい勢いで付加価値を代替しているように、やはり仕事=労働という概念が終わっていくと予想する中で、これからお金を貰うだけでなく社会に参画して付加価値を表現する機会を作らなければいけないなと思っていたので、個性にまつわる付加価値を循環させることをミッションとして創業しました。
その人がやるべき仕事という面に付加価値をかけるべきだ、と起業当初からぼんやり考えていたので、まずはクリエイターさんが世の中でお金をもらっているところのワークフローを整えていくところから動いていますが、今後は付加価値と認められていない個性をしっかりと付加価値にしていきたいです。
色々なアプローチで今後もやっていこうと考えている中、一つ目の手段としてSaaSプロダクトを開発しました。
ー「MiLKBOX」は、そういったミッション達成に向けての一つの手段なのですね。動画制作などクリエイティブの制作は市場として伸びている印象を受けているのですが、市場規模の拡大を実際に感じられるところはありますでしょうか?
伸びていると思います。具体的には、2016年に動画制作を営業していた際、最初に費用対効果の話になっていたんですよ。どのくらい儲かるの?だったり、何人採れるんですか?など。その頃と比較すると、今は動画ってインフラ寄りになっていると思うんですよね。マーケティング以外にバックオフィスや経営企画であったり、経営に関わるようなブランド全体をどうステークホルダーとコミュニケーションをとっていくか、その手段としてあらゆる部分に動画というリッチな表現が活用されていると強く思いますね。
また生成AIの台頭で、クリエイターの定義も変わりつつあります。以前は、編集ツールを使いこなせる人がクリエイターとされていましたが、現在では顧客のニュアンスを汲み取り、うまく演出するビジネスプロデューサー的な役割を兼ねる人が増えてきたので、今後は、プロダクトマネージャーのような人がクリエイターとしての役割を果たしていくイメージを持っています。
ーAI分野が伸びている中で、クリエイターとしての付加価値が徐々にビジネスプロデューサーよりになって行く気がしました。
そうですね。ビジネスサイドにおける機能的な要件や技術を理解してツールや人を上手く使いこなすことが肝になってくると思います。昔は広告的目的で使われるものってなんとなくセンスのいいもの、かっこいいものを作れば良かったところが、現在はビジネス課題を解決できるようなコミュニケーションの設計が重要であり、バックオフィスの課題に近ければ近いほどクリエイティブ側が答えをもっていない課題が多くなっているので、ビジネス側から付加価値を発揮していくことがかなり増えてきたと思います。
ーAIが台頭しているからこそ、各自の付加価値をどれだけ提供することができるかというところが差別化になってくるのだと感じました。続きまして、吉田さんが思う自社の強みや企業文化を教えてください。
うちの会社は、”骨太感”があるかなと思っています。
創業時は、クリエイティブ方面でかっこよく見せることを目指していましたが、いきなりコロナ禍となりそれどころでもなくなったんですよね。そんなときに、色々なお客さんに会いに行ったり、電話をして「とにかく何でもできます!」といって仕事をいただいた経験から必然的に見えた私たちの強みが、ハンズオン支援みたいなところです。
今でこそよかったなと思うのが、広告やマーケティングの分野は既存の代理店が多く関与している一方、その頃から私たちはインナーブランディングやパーパス経営、MVVの浸透などのコーポレート課題に対して、設計からクリエイティブなどの形にするところまでをワンストップで提供していたことです。それが私たちのサービスとしてのユニークさを作り出していったと思います。困難な状況でもプロダクトを作り続けた経験からは、野心や誇りを持ってみんなで走って進んでいく企業文化が育ちました。
結構、業界的にはキラキラ系のようにみられることがあったりするのですが(笑) 、弊社はどちらかというと、泥臭さもあったりして!業界的に長時間労働のイメージもあるようなのですが、実は働き方に関しても、土日に出勤する社員はほとんどいないんですよ。
例外的に出勤する場合がありますが、基本的には効率的に働き、時間内にバリューを出すメリハリのある働き方を重視しています。
ー創業程なくしてコロナ禍となり転換したというところが、今となってはよく働いているとも言えるのかもしれませんね!現在も、事業拡大される中で採用などにも注力されていますか?
採用には非常に力を入れており、未経験者が短期間で成長できるエコシステムが整っています。専門的な領域知識を必要としないサービスモデルを採用し、広告の知識よりもファシリテーション力に長けた人材を重視しています。業界の経験がなくても、人材やウェディングなどの分野で顧客対応が得意な方を採用し、短期間で定着させることができる仕組みを構築しています。
採用活動には私自身も多くの時間を割いており、求職者に積極的にメッセージを送るほか、面談も設定しています。また、キラキラしているというようにイメージが強い業界なので、ミスマッチを防ぐような意識はしていますね。
ー泥臭く取り組む姿勢でありながら、決められた時間の中でいかにバリューをだすか、という効率性も重視する風土が根付いている環境は、rayoutさんの魅力であると感じました。続いて、5月に実施された資金調達について、お伺いします。使用用途やそれらの現在の進捗があれば教えてください。
「MiLKBOX」の成長に資金を投入したいと考えています。これまでは利益の中からプロダクトを作る形を取っていましたが、今回の資金調達における背景には、「MiLKBOX」が2年の運用を経て、多くのお客さんから求められている実感を得たことがあります。そこで、開発のスピードを早めるために資金を投入しようと決めました。プロダクト・マーケット・フィット(PMF)を達成するために、サービスを改良し、販促費にも多くの資金を割く予定です。また、採用を行い、優秀な人材の確保も考えています。
ー利益を担保する方針から、資金調達をやろうと思った理由はどのようなものでしょうか?
資金調達をした上でプロダクトが思っていたものと違うといった、蓋然性が低い状態で身動きが取れなくなってしまうのは怖いと考えていました。元々自社で稼げる事業部があって、しっかり30人ほど組織を作ることができていて且つ世の中に求められるようなプロダクトができたら、資金調達をしたいという計画がありましたので、そのタイミングまでは自力で歩ける組織を作ってきたというスタンスです。
ーそれこそが先ほどおしゃっていた戦略分野でミッションが最大化されるよう意識した経営スタンスですね。最後になりますが、「MiLKBOX」を含め今後の展望を教えてください。
生成AI時代に人間が求められるのは、手を動かすことよりプロジェクトマネジメントや合意形成やミーティングを組むなどコラボレーションの領域が多くなると思っています。これからは、総合職の8割くらいがプロジェクトマネージャーになると予想しています。
そういった中で複数のプロジェクトを回す体制が一般的になると思うので、多くのプロジェクトを回しても心身ともにライトな状態を作ることが「MiLKBOX」の役割であると思っています。「MiLKBOX」の利用によって制作会社や代理店などは資料の確認を迅速に行うことができ、大企業では複数の関係者が同時にコミュニケーションをとりながら、合意形成や微妙なニュアンスの伝達を効果的にできるようなサービスにしていきたいです。そして、個性が多く循環できるような社会にしていきたいと考えています。
ー取材を通して、創業時のコロナ禍の苦労やそこから生まれた企業文化を知ることができました。また、「MiLKBOX」を通じ複雑な制作フローが効率化されていくことで、個々の付加価値に注目する時代が近づいていることを感じました。本日はありがとうございました!
[会社概要]
【会社名】rayout株式会社
【URL】https://rayout-inc.com/company/
【設立年月】2019年4月16日
【代表者】代表取締役 吉田 壮汰
【所在地】〒151-0053 東京都渋谷区代々木4丁目29-3 西参道梅村ビル3F