この記事は2024年8月8日に「テレ東BIZ」で公開された「常識破りの街づくり! 東京を激変させる森ビル:読んで分かる「カンブリア宮殿」」を一部編集し、転載したものです。
「麻布台」一度は行きたい絶品店~古い住宅街が最新タウンに
2023年、東京・港区の地下鉄日比谷線の神谷町駅にできた「麻布台ヒルズ」。地上64階のタワー棟は東京タワーとほぼ同じ高さの約330メートルで日本一となった。
最も高額な住宅は200億円とも報じられたが、神谷町駅直結の地下街「麻布台ヒルズガーデンプラザ」には、日常使いできるさまざまな店がある。
人だかりができているのはコーヒショップ「アラビカ東京」。世界で195店舗を展開する店だが、東京には初出店。1,000種類以上から厳選した豆を店内で焙煎し、一杯ずつ丁寧に入れてくれる。
緑豊かなレストラン「Sta. 麻布台」は健康的な手作りの味にこだわる創作家庭料理の店。管理栄養士が常駐し、マヨネーズやドレッシングまで手作りで提供している。
「ラベイユ麻布台ヒルズ」は世界から集めた80種類以上の味を取り揃える蜂蜜専門店。客が見つけたのは、スーパーフードとして話題のカカオニブを漬け込んだ蜂蜜。店内にはプレミアム蜂蜜セラーもあり、レアな蜂蜜を試食することもできる。
以前、ここは古い住宅が密集していたエリアだった。森ビルが住民と地道な交渉を続け、約35年をかけて巨大な再開発を実現した。
森ビルが都心で行う巨大開発の大半は港区に集中している。「六本木ヒルズ」「麻布台ヒルズ」、さらに「虎ノ門ヒルズ」。賃料収入をメインとした年商は3,600億円を超えた。
森ビルの勝ち残る街づくり1~自前で作り、こだわり抜く
「麻布台ヒルズマーケット」には日本屈指の名店が集結している。
▽「麻布台ヒルズマーケット」には日本屈指の名店が集結している
例えば日本一のマグロの仲卸として知られる「やま幸」の「麻布台やま幸鮮魚店」。 一般客向けには初めての出店だという。寿司の名店でしか味わえないマグロを買うことができる。
兵庫・芦屋市から東京に初出店したのはハムやベーコンなど食肉加工品の人気店「クスダ シャルキュトリ メートル アルティザン」だ。
茨城からは地元で親しまれる絶品のぬか漬け店「菜香や」。使うのは精米したての生の米ぬか。食材本来の甘みを引き出せるため、アボカドからリンゴまでさまざまな味わいのぬか漬けが楽しめる。
こうした日本中の名店が34も集まったオンリーワンのマーケット。全て森ビルが一軒一軒誘致したという。
「世界に誇れるマーケットに育て上げていきたいという思いがあり、どこかにお願いするよりも森ビルがチャレンジしたほうがいいと考えました」(麻布台ヒルズマーケット運営室室長・大柿隆)
麻布台ヒルズマーケット運営室の塚本雅則は日本中の名店を口説いて回った。
「『この味を家庭で食べられたら最高。山口社長しかいない』と」(塚本)
寿司の名店なら誰もが知る豊洲の「やま幸グループ」代表・山口幸隆さん。今まで控えてきた他への出店を決めた理由は、日本の最高の食文化を発信し、さまざまな食育の場を作りたいという森ビルの提案だった。
「昔は魚のことは魚屋でプロと会話して食育ができていたのが、ここ何十年かを振り返るとその環境がなくなってきている。森ビルさんの食に対する取り組みはすばらしく、森ビルさんとの出会いがなければやらなかったと思います」(山口さん)
芦屋市のシャルキュトリ「メツゲライクスダ」代表・楠田裕彦さんも、手作りにこだわり、他県への出店を断ってきた。出店を決めた理由は、森ビルから見せられたある施設だったという。
「巨大なジオラマが出てきたんです。圧倒感があるプレゼンテーションに『すごいな』と」(楠田さん)
それは「森ビルアーバンラボ」にある精密に作られた東京の巨大模型。小さな建物の一つ一つまで作り込まれている。
▽「森ビルアーバンラボ」にある精密に作られた東京の巨大模型
「東京の1,000分の1のスケールで作った模型です」と言うのは森ビル社長・辻慎吾だ。
「東京をちゃんと説明したうえで、『虎ノ門ヒルズ』はどうだ、『麻布台ヒルズ』はどうだとプレゼンテーションしたいと思って、この部屋を作りました。最初は港区のエリアの模型を作って『ここはやはり再開発したほうがいいよね』と見ていた」(辻)
東京の巨大模型の最大の狙いは、隣にあるマンハッタンの模型にあった。
「『東京』と同じスケールです。これを見ると、東京とは大きさが全然違う」(辻)
ここは東京を世界の都市と比較するために作った施設なのだ。他にもあらゆるデータを揃え、東京の強みと弱みを研究してきた。
「世界は都市間で競争している。勝つためにはグローバルで活躍している人たちが東京を選ばないといけない。選んでもらうためにはどうすればいいのか」(辻)
森ビルの勝ち残る街づくり2~コンセプトを決め、街を磨く
森ビルの開発には、それぞれ東京に足りない要素を補うためのコンセプトが決められている。例えば、最上階に美術館を持つ『六本木ヒルズ』は文化や芸術を生み出す街。『麻布台ヒルズ』は豊かな緑と食で健康的に暮らせる街、といった具合だ。
豊かな緑と食で健康的に暮らせる街を実現すべく、『麻布台ヒルズマーケットラボ』では、健康的でおいしい弁当を作ろうと、店の料理人などが集まっていた。試した食材はマーケットの名店から持ち寄った絶品ばかり。名店が集まっている『麻布台ヒルズ』だからこそできるコラボだ。
「それぞれ自分の得意技を披露しているのですが、それを持ち寄って一つの形にするのはなかなか出会えないです」(『鳥藤』社長・鈴木昌樹さん)
「麻布台ヒルズ」の豊かな緑の中には畑まである。育っていたのはみずみずしいナスやキュウリだ。「ぬか漬けにぴったり」と語るのは「麻布台ヒルズ」に出店している「菜香や」代表・遠藤記生さん。収穫した野菜でぬか漬けを体験するワークショップを準備している。
「まさか街のど真ん中に畑があるなんて、びっくりしました。森ビルさんとコラボできるのはこの畑があるからこそです」(遠藤さん)
「麻布台ヒルズ」の最初の夏野菜が東京の新たな風を受け、育っている。
夕暮れ時には周辺でナイキと組んだランニングイベントも行われていた。
森ビル独自の東京の価値を上げるための街づくりでは、驚くようなことも実現している。
「国際的なビジネスの拠点」がコンセプトの『虎ノ門ヒルズ』。
▽「国際的なビジネスの拠点」がコンセプトの『虎ノ門ヒルズ』
上から覗くとビルの下へ車が走っていく。新たに作られた環状2号線の道路の上を利用してビルの開発を行ったのだ。さらに日比谷線では56年ぶりとなる新たな駅を作った。
「虎ノ門ヒルズ駅の改札を出るとすぐ地下の駅前広場につながっています」(都市開発本部・加藤昌樹)
こうして地下鉄と道路が交わるビジネスマンには最高の拠点が完成した。
単にビルを作るだけではない。東京を世界に勝てる都市にするのが森ビルの戦いだ。
なぜ開業20年で最高集客?~最強の街を作る執念
麻布台ヒルズから西へ800メートル。「六本木ヒルズ」は2023年開業20周年を迎えたが、その集客力に衰えはない。街を訪れる来場者数は年間4,000万人。しかも2023年、商業施設の売り上げが過去最高を記録した。
▽「六本木ヒルズ」は2023年開業20周年を迎えた
開業時から営業する「エストネーション」六本木ヒルズ店店長・吉谷大道さんは「六本木ヒルズも『エストネーション』も2023年が一番成績が良かった。開業の20年後がピークとは想像していなかったです」と言う。
街の魅力を保ち続ける秘密がある。朝8時、館内のカフェを使って開かれるのは、今や定番となっている「ヒルズブレックファスト」。ワンドリンク500円で「我こそは」という人のショートプレゼンを聞くことができる。ヒルズの住民に親しまれる毎月のトークイベントだ。
初夏に開かれる恒例のイベントが、ビルの屋上に作られた水田で行われる田植えだ。都会の真ん中で自然に触れられると、近隣から人が詰めかける。
▽初夏に開かれる恒例のイベントがビルの屋上に作られた水田で行われる田植え
ヒルズの街では人を惹きつけるさまざまなイベントが開かれる。それを仕掛けているのが森ビル・タウンマネジメント事業部だ。街づくりに協力するのはコラボレーションパートナー企業。ヒルズ内に広告を出してもらい、その収益をイベント費用などにあてている。
森ビル独自のタウンマネジメントを作り上げたのは、2011年、創業家の森稔から社長を引き継いだ辻だった。就任当時、「一つの街としてどう育てていけば良いのかと考え、タウンマネジメントという新しい分野を立ち上げました」と語っている。
1995年、森ビルの前身となる「森不動産」は新橋で設立された。森稔は、住宅が密集した東京にビルを建て、空間を高度利用することで、安全で緑多い街へ作り変えることを決意する。
森は長年住む住民ら一軒一軒と、自ら厳しい交渉を続け巨大な再開発を形にしていった。
そんな森ビルで若き辻が担当したのが、住民と地道な交渉を続け開発した「六本木ヒルズ」だった。街の完成間近、辻は森から「開業後の提案をまとめてほしい」と命じられる。
▽若き辻さんが担当したのが住民と地道な交渉を続け開発した「六本木ヒルズ」だった
「せっかく一つの大きな街をいろいろな人と一緒につくったのに、出来上がった後はオフィスはオフィス、住宅は住宅とバラバラにやっていくのはもったいない。一つの街として運営したほうがいいと」(辻)
辻は試行錯誤の中で、街を一つにするタウンマネジメントを形にしていった。
「(けやき坂の)クリスマスイルミネーションも初年度にタウンマネジメントチームが企画して立ち上げました」(辻)
そんな格闘から20年、「六本木ヒルズ」に関わる人々には他にない繋がりができている。
週末の朝、集まっていたのは「六本木ヒルズ自治会」のメンバーたち。
▽週末の朝、集まっていたのは「六本木ヒルズ自治会」のメンバーたち
長年六本木に住む男性は「『六本木ヒルズ自治会』は日本一」と言う。また前出「エストネーション」の吉谷店長も「皆さんと友達というか町内会みたいな感じで参加している」と言う。毎月自治会で集まり、「六本木ヒルズ」周辺をきれいにするゴミ拾い活動を行っているのだ。
そこには古くからの住人、「六本木ヒルズ自治会」特別顧問・谷澤敏充さんの姿も。森ビルとの交渉の末、「六本木ヒルズ」に移った。
「一生懸命やっていますよ。ちょっとやってやめるなら、やらないほうがいいんだけど、森ビルはその点、始めたらやめない。そこが偉いところ」(谷澤さん)
開発の歴史を胸に、森ビルは、今も街を磨き続けている。
300の新ビジネス進行中~虎ノ門ヒルズの秘密
2023年、4棟全てが完成した「虎ノ門ヒルズ」。おしゃれなカフェの隣に森ビルが作った施設は、さまざまな企業が業種を超えて集い、最新技術のコラボを生み出す「TOKYO NODE LAB」だ。
奥にあるスタジオでは、タブレットをかざすと、小さな箱の上にダンスをする人物が合成された。「スタジオで撮影したダンサーのコンテンツをオブジェの上に出した」という。
▽タブレットをかざすと小さな箱の上にダンスをする人物が合成された
森ビルやキヤノン、日本IBMなどが開設したバーチャルスタジオ「ボリュメトリックビデオスタジオ」。57台のカメラで人間の動きを記録すると、その3D映像をリアルタイムで生成できる。このスタジオから今までにない映像コンテンツを生み出そうと 先端企業が集まっている。
「森ビルさんや『ノードラボ』に参画している他の企業と一緒になれば、普通はできない体験を作っていけると期待しています」(「KDDI」事業創造本部・山崎あかりさん)
新たなビジネスを生み出す施設は他にもある。大企業が殺到している「ARCH」という会員制のワークスペース。集まっているのは100社以上の大企業の新規事業部門だけだ。入居する企業の森下真行さんは「どのように新規事業を進めていくのか、共通した悩みがあるから『ARCH』に入居しました」と言う。
ここではさまざまな形で事業立ち上げをサポートしてくれる。例えば、相談に乗ってくれるメンターは「ゼクシィ」を立ち上げた渡瀬ひろみさんだ。
さらにさまざまな企業と出会えるランチミーティング。森ビルの担当者も積極的にコラボを仕掛けてくれるという。
▽さまざまな企業と出会えるランチミーティング
「『ちょっと話を聞いてみますか』みたいに(他の会社と)つなげてくれます。めちゃくちゃありがたい」(「NTT東日本」ビジネスイノベーション本部・尾形哲平さん)
今や企業の新規事業立ち上げなら「ARCH」とまで言われる存在だ。
森ビルは「麻布台ヒルズ」と「六本木ヒルズ」の間のエリアに新たな巨大開発を行うという。これについて辻はスタジオで、「六本木五丁目の再開発で、2024年3月に大枠が決まり、今、動いています。『六本木ヒルズ』『麻布台ヒルズ』より一回り大きくなる」と語っている。
※価格は放送時の金額です。
~村上龍の編集後記~
「その先の提案が欲しい」2001年春、故・森稔氏からそんな指令を受けた。完成したその先のにぎわい作りを任された。「タウンマネジメント」だ。日本では「建物を造ったら終わり」「勝手なことをするな」という各事業部門の雰囲気。けやき坂のイルミネーション、白と青の発光ダイオードで輝く通りが話題となった。
辻氏は、父親の仕事の関係で、佐世保市など基地のある街で幼少期を。方言で何を話しているのかわからなかったが溶け込むことができた。「こぢんまりとした同族会社」で、美しい建物を愛する。
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<出演者略歴>
辻慎吾(つじ・しんご)
1960年、広島県生まれ。1985年、横浜国立大学大学院卒業後、森ビル入社。2005年、六本木ヒルズ運営室長就任。2011年、代表取締役社長就任。
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