誰かが亡くなった時、始まるのは相続であり、相続税の計算です。
相続税が高くなるかもしれないので、事前に自宅を売ってしまおうという人もいます。
しかし、相続人・被相続人がご夫婦であるという場合については、配偶者の税額軽減(相続税の配偶者控除)を利用できる可能性があります。
この記事では、相続税の配偶者控除についてくわしく解説します。
配偶者の税額軽減とは
配偶者の税額軽減(相続税の配偶者控除)の概要
配偶者の税額軽減とは、被相続人(お亡くなりになった人)の配偶者について、税額を軽減しようという税制上の特例措置のことをいいます。
相続税の配偶者控除とも呼ばれています。
なぜ税額を軽減する措置があるのかというと、残された家族が生活して行くうえで相続税の負担を減らすためです。
また、一般的には残された配偶者についても、さほど時間が空かずに相続が発生することが多いです。
相続が発生するたびに相続税がかかるというのが本来のルールなので、もし間を空けずに相続が発生してしまうと、相続税の負担も大きくなってしまいます。
そこで、配偶者が相続をする場合について税額を軽減するというルールを適用し、相続税の負担を減らす仕組みになっています。
申告が必要
配偶者の税額軽減措置を受けたい場合、たとえ計算結果の税額が0円になったとしても、申告期限(相続があったことを知ってから10ヵ月)内に相続税を申告しなければなりません。
明らかに資産の価値が低く、相続税がかからないだろうと思い、申告をせずに過ごしていたところ、実は相続税がかかる資産だったという場合、もし申告期限を過ぎていたなら配偶者の税額軽減措置を適用できません。
また、遺産の分割方法でもめてしまい、申告期限までに協議がととのわない場合も、軽減措置はなくなり、本来どおりに課税されることになります。
相続税の申告書を作ることは確かに手間ではありますが、配偶者の税額軽減措置を受けたい場合は必ず期限内に申告書を提出してください。
財産額が1億6,000万円または法定相続分を超えるまでは税金がかからない
それでは、配偶者の税額軽減措置はどのようなものなのか詳しく説明していきます。
まず、配偶者の税額軽減措置を適用すると、配偶者が相続する資産の額が1億6,000万円までか、法定相続分までは相続税がかかりません。
配偶者が相続する資産の額が1億6,000万円までは相続税がかからないので、もし全財産を合計して1億6,000万円に収まるのであれば、残された配偶者がすべて相続すれば、相続税はかからないということになります。
1億6,000万円を超えても法定相続分までなら相続税がかからないのですから、法定相続分までの取り分になるように遺産を分割すれば、やはり配偶者については相続税がかからないことになります。
また、配偶者と被相続人との間にどれくらいの結婚生活の長さがあったのかも問いません。
つまり、結婚したばかりでも、配偶者間で相続が起これば、相続税の軽減措置が適用されるという仕組みです。
数値でシミュレーション
次に、仮の事例をつかってご説明します。
夫と妻がいるとしましょう。
2人の間には子供が2人、いるとします。
夫が亡くなって、妻と子供だけが残されてしまいました。
遺産は、預金、土地と建物を合わせて1億4,800万円の評価額とします。
配偶者控除を適用する際の相続税の軽減額を調べる式は、以下のとおりです。
相続税×(①と②を比較して小さい方/課税価格の合計)=相続税の配偶者控除の金額
① 課税価格の合計額のうち配偶者の法定相続分か1億6,000万円のどちらか大きい方
② 配偶者の課税価格
まずは法定相続分どおりに分けたとします。
妻2分の1、子供Aが4分の1、子供Bが4分の1という割合です。
基礎控除額(3,000万円+600万円×3人=4,800万円)を相続財産の評価額1億4,800万円から差引いた、1億円が課税価格の合計額になります。
ここでひとまず、法定相続分通りに分割したと仮定して、相続税の総額を計算します。
妻が財産の2分の1、子供Aが4分の1、子供Bが4分の1を得たとします。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 0.1 | - |
3,000万円以下 | 0.15 | 50万円 |
5,000万円以下 | 0.2 | 200万円 |
1億円以下 | 0.3 | 700万円 |
2億円以下 | 0.4 | 1,700万円 |
3億円以下 | 0.45 | 2,700万円 |
6億円以下 | 0.5 | 4,200万円 |
6億円超 | 0.55 | 7,200万円 |
参考:国税庁ホームページ「相続税の速算表」
相続税の速算表を用いて計算すると、
妻:5,000万円×20%-控除額200万円=800万円
子供A:2,500万円×15%-控除額50万円=325万円
子供B:2,500万円×15%-控除額50万円=325万円
になります。
相続税額の総額は、1,450万円です。
遺産のうち半分を妻が相続するので、相続税の合計額の1,450万円のうち、半分が妻の納税額となります。
実際の納税額を計算すると、配偶者控除の金額は725万円となり、配偶者が納める相続税は0円となります。
他方、子供はそれぞれ、1,450万円×25%=362万円になります。
次に、全ての遺産を妻が相続した場合についてです。
全ての遺産を妻が相続するのですから、 相続税1,450万円×(③と④を比較して小さい方=1億円/課税価格の合計1億円)=相続税の配偶者控除の金額1,450万円
③ 課税価格の合計額のうち配偶者の法定相続分(7,400万円)か1億6,000万円のどちらか大きい方→1億6,000万円
④ 配偶者の課税価格→1億円
相続税は、1,450万円でしたが、ここから1,450万円を引くと0になってしまうので、結果的に相続税額は0円となります。
何も相続しない子供二人にはもちろん相続税はかかりません。
相続税の計算は、計算式とそれぞれの金額がわかれば簡単にできますので、どれくらいの相続税がかかるのか気になった場合は、計算してみるといいでしょう。
配偶者控除における注意点
内縁・事実婚の場合
ところで、昨今結婚にもいろいろな形が出てきました。
例えば、法律婚をしないで事実婚をする夫婦もいます。
法律上の婚姻をせずに、夫婦として暮らしてきたという場合はどうなるのでしょうか。
相続税の軽減措置については、法律上の婚姻をしていることが必要です。
つまり、夫婦としての暮らしがあったとしても、法律上の婚姻をしていないのであれば、相続税の税額軽減措置は使えません。
そもそも、法律婚をしていないので、相続人にはなれません。
ただし、父親から認知を受けていれば、事実婚・内縁の妻の子は相続人になれます。
相続放棄をしても相続税の軽減措置を適用できる
法律婚をしていることが相続税の税額軽減措置を適用するための要件ですが、実は相続人であることは要件とされていません。
したがって、相続放棄をしてはじめから相続人ではなくなったときでも、相続税の軽減措置を適用させることは可能です。
どういった場合が考えられるのかと言うと、相続放棄をしたが、遺贈を受けた場合が当てはまります。
遺贈は、「自分が死んだらこの財産を誰々にあげる」といった約束のことを言います。
遺贈と相続は、民法上別のものですが、税法上の取り扱いとしてはどちらも相続税が課税されます。
配偶者の相続税軽減措置を適用させると、遺贈にも対応することができます。
財産隠しには気をつけて
故人の財産のうち、配偶者名義の預金ではあるが実質的に故人が所有していた金融資産などがないか注意しましょう。
例えば、妻が夫名義で貯金をしており、妻が亡くなって夫がそのまま自分の預金としてもらうといった場合です。
この場合、確かに預金の名義は夫ですが、実際は妻の資産だと指摘されることがあります。
財産を隠していたのではと税務署から疑われ、その部分の財産には税額軽減措置が制限され重加算税がプラスされてしまいます。
十分に気をつけてください。
まとめ
今回は、相続税の配偶者の軽減措置についてご紹介しました。
法律婚をしていないと適用できない制度ですが、期限内に協議がまとまり相続税申告ができる場合であれば、使える方法です。
節税の手段として覚えておきましょう。
(提供:相続サポートセンター)