相続税の評価方法では、まったく同じようなタイプの不動産があったとしても、その不動産の事情に合致した相続税評価方法を採ることになっています。
不動産を人に貸しているケースが最たる例。
自分で自分の不動産を利用しているケースと、自分の不動産を他人に貸して他人が利用しているケースでは、不動産の事情が大きく異なっています。
この「貸している」という事情を相続税の評価でも検討する必要があるのです。
借地権や貸宅地、貸家建付地などはどのように相続税評価が行われるのでしょうか。
相続税の基礎知識を解説します。
借地権・貸宅地・貸家建付地とは?相続税評価の方法
まず、自分の土地で自分が使っている土地を「自用地」と言います。
特に使っていない土地や、使用に制限のない土地も自用地です。
自分の所有している土地の中で空き地として放置している土地なども自用地に含まれます。
自用地の相続税評価は、路線価方式や倍率方式で算出した金額がそのまま相続税評価額になるのが特徴です。
自用地であれば、相続税評価額の算出は単純です。
しかし、自分の土地であっても、事情を持っている土地の場合、自用地と同じように計算すると不平等ではないでしょうか。
代表例が今回の記事で取り上げる、「人に貸している不動産」です。
人に不動産を貸している場合、自分でその不動産を使うことができません。
また、他人に貸している不動産をいきなり取り上げるわけにはいかないため、不動産の処分も制限されます。
これが相続税評価方法における、他人に貸している不動産の評価の基本的な考え方になります。
相続税評価では、「他人に貸している」という事情を考慮することになります。
貸している土地などは自用地とは違った扱いがなされているという点が1つのポイントになります。
ただ、一口に「他人に貸している」と言っても、貸し方や貸してもらう側の事情や利用方法はさまざまです。
相続税評価でも事情の違いを鑑みて、事情に合わせた相続税評価を行うのです。
借地権・貸宅地・貸家建付地の3つの意味や事情に合わせた相続税評価について見ていきましょう。
借地権とは?意味と相続税の評価方法
借地権とは、「土地を借りた人がその土地を使う権利」のことです。
土地を貸してもらう側からすれば土地を使う権利ですが、土地を貸している側からすれば土地を使わせる義務のようなものになります。
借地権の設定されている土地を相続した場合、土地に借地権(貸し借りの権利がついている)という事情を考慮して相続税の評価を行うことが基本的なルールです。
なお、土地を無料で借りている場合や駐車場として借りている場合は、借地権は発生しないと解釈されます。
◼︎借地権の相続税評価の計算方法
借地権の相続税評価の計算式は以下のようになります。
自用地としての評価額×借地権割合=借地権の相続税評価額
自用地として自由に使用や処分ができないという事情を考慮して、借地権割合で調整する流れです。
◼︎借地権割合はどのように確認するのか
計算式に登場した借地権割合はどこでチェックすればいいのでしょうか。
借地権割合は、路線価方式の場合はアルファベットで表記し、倍率方式の場合は倍率表に数字で表記されるというルールがあります。
借地権割合は地域によって変わってきます。
一般的に、地価が高い地域ほど借地権割合が高くなるのが特徴です。
借地権割合(%) | 借地権割合(記号) |
90 | A |
80 | B |
70 | C |
60 | D |
50 | E |
40 | F |
30 | G |
貸宅地とは?意味と相続税の評価方法
貸宅地とは、借地権の目的になっている土地のことをいいます。
一言で説明すると 「他人が家などを建てるために借りている、自分が貸した土地」のことです。
貸宅地は自分の土地でありながら、他人が借りて他人の家を建てており、他人が住んでいるという特徴があります。
自分の土地でありながら自分では使えず、他人の住んでいる他人の家があるせいで処分にも大きな制限が生じているわけです。
そのため、貸宅地は「自分の土地だが、好きに使えず処分もできない」という事情を相続税評価で考慮することになります。
◼︎貸宅地の相続税評価の計算方法
貸宅地の相続税評価を算出するときは、以下の計算式を用います。
自用地としての評価額×(1-借地権割合)=貸宅地の相続税評価額
計算に入る前に、まずは自用地の相続税の評価額を確認しておきます。
自用地の相続税の評価を求めるときに使うのは、路線価方式や倍率方式。
算出される自用地としての相続税の評価額は、「この土地が貸されておらず自分で使える土地だった」場合の評価になります。
借地権割合などを計算式に登場させて、貸しているという事情を考慮して調整するわけです。
貸宅地は自分が使えず処分も制限されているという点で、同じ土地が自用地だったケースよりも相続税評価額が低くなる傾向にあります。
貸家建付地とは?意味と相続税の評価方法
貸家建付地とは、「自分の土地に自分の建物が建っており、建物を人に貸している土地」を意味します。
要するに、自分の土地に自分名義の賃貸物件を建てて人に貸しているケースです。
貸宅地と貸家建付地は非常に似ていますが、細かなポイントが異なっています。
貸宅地は、自分の土地を他人に貸して、その土地上に他人が家を建てたケースの話でした。
貸家建付地の場合は、自分の土地に自分で建物を建てて、その建物を人に貸しているケースの話になります。
土地上の建物が誰のものかという点に大きな違いがあるのです。
◼︎貸家建付地の相続税評価の計算方法
貸家建付地の相続税評価の計算は以下の計算式によります。
自用地としての評価額×(1-借地権割合×借家権割合)=貸家建付地の相続税評価額
貸家建付地に建っているのがアパートやマンションの場合は、計算式にさらに賃貸割合を使います。
賃貸割合とは、「人に有償で貸している割合」のことです。
アパートやマンションの場合は空室が出ている可能性があるため、賃貸割合を使って調整するという流れになります。
自用地としての評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃借割合)=貸家建付地の相続税評価額
まとめ
同じタイプの不動産でも、それぞれの不動産は独自の事情を持っています。
持ち主がそのまま使っている不動産もあれば、貸している不動産もあるはずです。
仮に貸している不動産でも、その不動産の賃料が発生しているかどうか等、事情は多岐に渡ります。
相続税の評価では不動産の事情も考慮するため、計算が難しいという特徴があるのです。
不動産を貸している場合も計算も同じです。
難しいと感じたら、税理士や税務署の窓口を頼りましょう。
自分で計算したい場合も、計算の流れや結果をチェックしてもらうだけで、かなりミスは防げるはずです。
(提供:相続サポートセンター)